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惑星の魔法使い  作者: モQ
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第84話 料理のライバル

 久しぶりに戻ってきた部屋は、以前と何も変わっていないように見える。


 当然誰も入った様子はないし、困った虫達が繁殖している事もないようだ。2週間、閉めきっていたのに何の臭いもしない。いや、リフォーム後のままだ。空気自体も自動的に入れ替えられているのか?


 相変わらずアレだな。異空間だなここは。


 部屋の電気を点けてカーテンを開く。俺の本来いるべき星が見える。手を伸ばせば届きそうだ。実際に伸ばすとガラス戸で手首がグキッとなる。




 ここまで、狩人の皆さんが本来の仕事をほっぽって作ってくれた道を通って戻って来た。ただ、邪魔な木を切って石をどかしただけって感じの道だが、それだけでめちゃくちゃ歩きやすかった。いや、走りやすかった。


 確か、最初にペタに連れられて村に向かった時は結構スピードを出しても4時間近くかかった覚えがあるが、道を軽く走ったら30分もかからなかった。こんなに近かったんだな。森ってのはやっぱり特殊だ。


 全力だったら15分で着くんじゃないか?とも思うが、まあその場合何本か木に体当たりするだろう。道も広くないし真っ直ぐって訳でもない。大きな木や通りにくい地形の場所は迂回するように道が曲がっている。


それでも、狩人の皆さんは歩いて1時間と言っていたから、帰りはのんびり帰ろう。晩飯には余裕だな。


 という訳でシャワーをしてやった。本当にすごいぞコレは。今までの全ての汚れが洗い流されると共に、心までキレイになっていく気がする。現代人が忘れた神々への信仰の気持ちまで湧いてきそうだ。日本人は古来から、滝に打たれる事で神々と対話をしてきたんだ。トイレにだって神様を感じる国民性だ、シャワーの神様がいてもおかしくない。ありがとうシャワーの神様。あと、常にかゆいのが当たり前になっていた頭がかゆくなくなった。汚くてごめん。


 シャワーの後はちょっと荷物の整理だ。まずはレーザー、こいつをダンボールに投げ込む。普通に望遠鏡としてなら持って歩きたいが、たまに誰かに穴が空いてしまったりしたら、やっぱり困る。


 着っぱなしだった服類も全部、総入れ替えだ。しばらくは毎日着替えられるぞ。ほぼ毎日、川とか井戸とかで洗っていたし、謎の抗菌成分のおかげで匂いもしないのは良いんだが、泥やなんかの汚れは普通に残っているし、何より気持ち悪い。


 また遠出をする時は今度も着っぱなしになるわけだが、まあ仕方ない。この部屋からは着替えを持っては行けない。ウチの物は身に着けておかないと気が休まらない。今まで着ていた分は、洗濯乾燥機に投げ込む。楽でいいなあ、電気のある生活最高。


 という訳でバックパックもここでサヨナラ。今までありがとう。これからは革の背負い袋と仲良くやっていくわ。ラーメンは持って行くけど。


 野菜や果物も冷蔵庫へ適当に投げ込む。またすぐ戻るからこれでいいな。だって急げば村まで15分だぞ。もう村の一部みたいなもんだ。今夜からはここで寝るぞ。フカフカベッド万歳だ。なんか前にペタが同じようなこと言ってたな。まあいいや。


 よし、色々準備出来た。サッパリもしたし、さあ戻るか。






 のんびりと森の中の小道を歩く。まだ夕方にもなっていない。楽勝だなあ。


 小さい虫や動物さん達に挨拶をしながら散歩だ。フフフ。なんかいいなあ、田舎も悪くない。花を見る余裕もある。何の花かはさっぱりだ。ヒマワリとチューリップぐらいしか自信をもってコレと言えない。そもそも地球にあるかどうかも分からない謎の花達だ。


 そういやこの辺には石ヤドカリはいないな。水場が近くにないからだろうな。


 時々、フォレストウルフもいるが軽くにらむと逃げていく。そうそう、あいつらだって無闇に襲ってくる訳じゃないんだ。みんな友達になれるんだ。




「ハルキ様、砂糖は用意出来ましたか?」


 村の広場でリカータさんにそう聞かれた。


 すみません忘れてました。30分で取ってきます。


 森の小道を全力で駆け抜けた。木が2、3本折れた。名も知らない花も踏んだと思う。ごめん。






「ハルキ、おなかすいたぞ!」


 夕焼けの村を走り抜け、村長さんの家に飛び込んだ俺はペタに怒られた。ペタペタと叩かれる。いや、見ろよこの汗。せっかくシャワーしたのに台無しになるぐらい頑張って走ったんですよ。


 村長家にはペタの家族勢揃いだ。ああ、懐かしいなあ。村長のじいさん、ペタ、エジャ、それにペタのお母さんだ。お母さん相変わらずお綺麗です。例え心の中がブラックホールだったとしても、その微笑みは狐族のマリア様です。


「すんません、ちょっと商人さんとお金の話をしてたもんで」


 見れば結構いい時間なのに、まだ食事は用意されていない。俺を待っていてくれたのか、悪い事をした。いや、ペタだけ果物を食べた形跡がある。こいつまた俺の服で手を拭きやがった。ちょっとベタっとした汁が付いている。


「ハルキ殿、色々聞きたい事はあるのじゃが、まずは食事にしようかのう」


 じいさんが言う。えっと今から作るんだよな、なんか出来あいの物でもあるのかな?この家の料理担当はお母さんのはずだが、ニコニコと微笑みながら座っている。


 そして、ペタとエジャがウズウズしている。尻尾で分かる。ペタはともかくエジャまで?


 お母さんが口を開いた。のんびりした感じは変わらないなあ。


「変わったスープが頂けるのよねえ。ペタとエジャが美味しいって言うから楽しみに待ってたのよお」


「ホッホウ、細くて長いスープと聞くがどんな物なのかのう」


 じいさんまで。そういう事かい、待ってたのは俺じゃなくてラーメンかい。


 ペタをちょっとにらむ。グルンと首と耳が後ろを向いた。空気を読めるようになってきたなコイツ。




「お代わりいる人、手挙げて」


 全員の手がズバッと挙がった。そう来ると思って全員がラーメンを食いきる前にお湯は沸かし始めてある。


「じゃあ、今から台所をのぞかない事」


 どっかの昔話のつるみたいな事を言いながら台所に入る。別に体の一部や羽なんかを使ったりはしない。ただ、今まさに始まったラーメンの復活を見られたくないだけだ。空になった袋がモコモコと膨らんでいく。何度見ても気持ち悪う。


 ペタがエジャに止められた気配がする。ペタは見た事あるから良いんだが、エジャは真面目だなあ。覗いても逃げはしませんよー。


「ちょっとあの味は出せないわ~」


 お母さんの声が聞こえる。すんません。俺も自分でこの味は出せません。


 台所には具材になりそうな肉や野菜が既に用意されていたので、適当に茹でたり切ったりして放り込んだが、2杯目は少し味を変えたいよな。胡椒こしょうも欲しい人には出してやろう。


 お、これは使って良いのかな?


「お母さん、ここにある玉子も使って良いですか?」


 少し顔を出して聞く。


「好きに使ってくれて良いわよ~」


 許可が出た。あるのは分かってたが食うのは初めてだ。鶏の玉子より少し大きいが、まあ玉子の味なんてそんなに変わらないだろう。じいさんだけ酒っぽいの飲んでたけど、この後、真面目な話ができるんだろうか。


 ま、エジャだけいればいいか。この村を実質的に回してるのはエジャだ。リカータさんも取引の相手は村長じゃなくて狩猟頭の人だと言っていた。エジャだ。


 じいさんお飾りだな。次期村長はエジャで決まりだろうな。


 玉子は基本的に生では食っちゃいけない。日本では大丈夫だが、海外では食中毒になるぞ。多分こっちでもそうだろう。程よく火を通して半熟にしてからラーメンにトッピングだ。個人的にはほとんど生みたいなのが良いけど仕方ない。


 台所の隅にいくつも積んである大きなヤドカリは見ないようにする。




「おおおおおお!このたまごのとろみが、あらたなあじわいをひきだしている!あきることがない!ふかいな、ほそいスープ!」


 ペタがラーメンに対して久しぶりに食レポをしている。そう、ラーメンは深い。トッピングだけでも大きく変わるぞ。


 と、偉そうに言うが他には特に思い付かない。あ、チャーシューか。でもアレって醤油使うんだよな確か。こっちでは似たような調味料は見た事がない。だからこその醤油味ラーメンの価値って事もあるしな。


 他にも味噌汁と米が食いたい。魔法使い族の遺産より、食を探したい。


 そして、何故かお母さんから殺気に似たような物を感じる。いや笑顔は崩してないんだけど。まさかとは思うが、料理のライバルだと思われたか?


「ハルキさん、負けないわよお」


 胡椒を少し足しながら宣言してきた。思われてた。






 じいさんは酔いつぶれて寝た。なーんにも報告出来なかった。


 ペタも「よはまんぞくだ」と言って3秒ぐらいで寝た。もういいやエジャだけいれば。


 エジャには全てを話す。レーザーがまだウチにあるって事以外は全てだ。知っておく必要がある。過ぎ去った危機と、これから来る危機についてだ。


 と思っていたが、お母さんも普通に座っている。どうなんだろう、この人にも詳しい内容を伝えて良いんだろうか。


「ハルキ殿、姉さんの事は気にせず話して欲しい」


 エジャはそう言うし、お母さんはいつもの顔で静かに座っている。立ち上がる気配は無い。じゃあ、良いんだろう。長くなるぞ。


「まず最初に……」


 俺が話し始めるとエジャが真剣な顔になる。まあこの人はいっつも真剣だ。


「長くなるから先にトイレ行ってきて良い?」


 お母さんが表情そのままに殺気を放った。この人ホントに正体不明だ、めっちゃ怖いんですけど。でも行きたいものは仕方ない。さくっと川に行ってきた。そりゃもうダッシュだ。






「ドラゴンの鱗はもう狙われないと思う」


 俺の言葉にエジャがうなずく。


「それについては信用していた。本当に感謝する」


「騎士団を叩き潰したのねえ」


 お母さん、言い方が怖いよ。まあ命令を出していた奴を捕まえたから似たようなもんだけども。


「だが1人で砦を破るとは……そこまでとは思わなかった」


「騎士総長と副総長をひきずり下ろしたなら、やっぱり叩き潰したってことじゃない~」


 エジャは難しい顔をしている。お母さんは機嫌が良い。


「ペタの旦那様は凄いわ~」


 それ、勘弁してねマジで。正直10年もこっちにいる気もないぞ。


「魔法使い族の遺産というのは、ハルキ殿の家にあるような物を言うのか?」


 エジャは察しが良いな。テレビとかを思い出してるんだろう。かなり真相に近づいている。だが、どう説明しても完全には理解できないだろうし、教えられない。


 この星は、どっかの宇宙人の道楽で作られた動物園です、なんてな。


「危ないのも、そうじゃないのも色々あるけどな。多分世界中にあると思う」


 無限に湧き出す大トカゲも言ってしまえばそうだ。ドラゴンの【巣】からあの卵の殻を運び出してどこかの町に置けば、生物兵器の完成だ。ある意味レーザーより危ないかもしれない。あのバカ副総長の手に渡らなくて良かった。


「その魔法使い族の遺産を探すお仕事を受けたのよねえ?」


 お母さんも気になるのか。実はあなたが負けたと思っているラーメンも、その1種なのです。言わないけどね。


「でもギルド章がないみたいだけど~?」


 そんな、ちゃんと胸に……ないね。あれ?いつからないんだ?


 記憶を辿る。村に着くまではあったぞ。で、兄ちゃんと挨拶して皆と挨拶して荷物運んで木札もらってプティさん達と会って道を走って家でシャワーして花をでながら戻ってきて砂糖取りにまた戻って花も木もなぎ倒して砂糖をリカータさんに渡してライター返してもらって目の前で契約書を焼いてやってリカータさんにまたライター売ってくれって迫られてどうにかかわして村長家でラーメンを作って今に至る。


 あ、シャワーだ。


 着替えた後、服全部、洗濯乾燥機に投げ込んだ。やべえ、銀製品って洗っても大丈夫なのか?乾燥機の熱で溶けたりしないか?また再発行手数料か?


「あの、えと、ウチに置いてきたので」


「あら、あるならいいのよお」


「銀章の再発行には金貨を取られるからな」


 エジャが恐ろしい事を言う。うずうずしてきた。早く帰って確認しないと落ち着かない。もう手遅れかもしれないけど。


 細目長さんの手紙をエジャに押し付ける。


「後はこれに書いてあるから!俺、ちょっと用事が出来たので帰ります!」


 エジャはポカーンとしている。村長家を飛び出した俺の背後から、


 「なくしたのね~」と間延びした声が聞こえた。


 あるやい。ちょっと形が変わってるかもしれないだけだい。




読んでくださってありがとうございます。


お金とかポケットに入れたまま洗濯した事がないとは言わせない。

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