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惑星の魔法使い  作者: モQ
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第9話 子供って急に寝る

「いやいや、ズズ……ハルキ殿は本当に魔法使い族なのですなあ」


 村長……ペタのじいさんがスープを口に運びながら言う。


「ハルキは、ハルキのいえのなかだったら、ングング、水とかもいっぱいだせるんだぞ!」


 ペタがまるで自分の事のように、スープを口に運びながら自慢する。


「いや、ホント、外じゃ大した事できないんっすよ。怖くて1人じゃ家から出られなかったぐらいで」


 俺は固いパンをみちぎって、飲み込んでから言う。


「ホッホウ、フグフグ、ご謙遜けんそんを。ンゴンゴ」


 じいさんが固いパンをみちぎって、飲み込みながら言う。


「そうだ!モガモガ!あんなおそろしい、まほうのいた、ハグハグ、もってるじゃないか!ングッ」


 ペタが固いパンをみちぎって、飲み込みながら言う。お前らマナーがひどいな。聞き取りづらいわ。俺もマナーなんてよく知らないが、流石に食いながらしゃべろうとは思わないぞ。常識人っぽいエジャだけは無言で食べているが、ただ無口なだけかもしれない。


 じいさんが水を一口飲んでから話し出した。


「それに、ペタにこんな良い服をいただいてしまって。すみませんなあ」


「あー、それこそ問題ないっすよ。安物なんで」Tシャツはな。


 ペタが見せびらかすようにTシャツのすそをビーっと引っ張って、じいさんとエジャに見せている。ああ伸びる伸び……あ、戻った。思ったより丈夫だな。安いのに。


 俺からも要件を切り出す事にしよう。


「あのー、村長さん、なんか大変そうな時期に申し訳ないんっすけど、野菜とか果物とかあったら、分けてほしいんすよ」


「ふむ……」


 少し困った顔をされた。うーん。やっぱり異常気象のせいで、あまり村の状態が良くないんだろうか。出されたスープをすくいながら考える。流石さすが、狩りをして生活しているというだけあって肉はたっぷり入っている。だが野菜が少ない。人参とキャベツが少し溶け込んでいるぐらいか。


 味が薄い塩味なのは仕方ないだろう。さっきペタが作っているのを見ていたが、塩をちょっと入れただけで他の調味料は何もなかった。調味料も仕入れたかったが、ない物は仕方ない。


「今、野菜のたぐいは、仕入れが難しくてですな」


 じいさんが言う。やっぱりか。


「それは、この異常気象の……暑さのせいってことっすかね」


「それもありますな、まあ、他にも少し問題がありましてな……ペタの恩人じゃ、都合つごうしてさしあげたいのだが、無いそではふれませんでなあ」


 ああ、じいさんが申し訳なさそうだ。あわてて答える。


「あの、無理ならいいんで。なんかすんません。町があるんすよね、そっちに行ってみますわ。あの村の外の道を行けば着くんすかね」


「そうですな、道沿いに森を抜けたらもう一つ村がありましてな、そこを越えて更にしばらく行けば大きな町がありますな。野菜も果物も手に入るはずですじゃ」


「了解っす。じゃ今夜だけ泊めてもらっていいっすか?明日向かうんで」


「では、移動の間の食料ぐらいは用意させてもらえますかな。このまま放りだしたのでは、ご先祖に顔向け出来ませんでな」


 じいさんがエジャの方を見るとエジャは無言でうなづいた。


「じゃあ、それは有り難く頂きます。そういや、こいつ……ペタはなんで1人で……」


 なんで1人で森の中、4時間近くかかるような所まで来ていたのか、を聞こうとして隣の席を見ると、ペタは目を閉じてゆらゆら揺れていた。やっぱり子供だ。飯を食ったら眠気が襲って来たんだろう。どおりでさっきから静かだと思った。ポケットに入れておいたスマホをチラッと見ると夜8時を過ぎている。


 今日は熱中症で倒れた上に、目が覚めてから森の中を高速移動だ。いくら野生児ペタでも体力の限界が来たか。


「ごちそうさんでした。じゃ、ペタも眠そうなんで、俺は今日はこれで。えーっと、どっか寝れるとこだけお願いしていいですか?」


 と言うと、ペタの耳がピクピクッと動いて、うっすら目を開けて俺の服のすそつかんできた。


「ハルキ、どっかいくのか?」


 なんだか不安そうに見上げてくる。おおうなんだこの保護欲をそそる生き物は……


「ホッホウ。なつかれましたな。色男ですな!ホッホッホウ」


 おいジジイ、お前の孫だろう。あ、ペタのまぶたがまた閉じた。


「私が、案内しよう」


 エジャがしゃべった!いや、そりゃまあ喋るか。あまりにも黙ってるから存在を忘れそうだった。エジャは立ち上がると、先にペタを抱き上げ奥の部屋に連れて行った。ペタは既に口を開けて爆睡ばくすいしている。子供って急に寝るよな。


 すぐにエジャが戻って来たので、バックパックを持ち上げる。俺の荷物はこれだけだ。じいさんに挨拶だけしておく。


「じゃあ、また明日っす。おやすみなさい」


「ほい、ゆっくり休んでくだされ」


 エジャに連れられて村長宅を出る。太陽は完全に沈んでいる。少しは涼しくなっても良さそうなのに、あんまり気温が下がっていない気がする。湿度があまり高くないのか嫌なジットリ感は少ないが……熱帯夜だな。寝れるかな。


 しかし、外は真っ暗だろう……と思っていたが、いつの間にか、かがり火っていうのか?でっかい松明たいまつみたいなのが所々に立てられていて光を放っている。それでも火のすぐそば以外は暗がりになっていて、なんとか視界を確保できるといった程度だが。


 こんなに人気ひとけのない村なのに、なんで夜道をこれだけ照らす必要があるんだ。


 実は村人はどこかに隠れていて、旅人が来ると夜中に襲ってきて食い殺されるようなホラー村だったりしないだろうな。その場合ゾンビ系だろうか、それとも村の風習系だろうか。地球の常識じゃ計れないからな、ありうるぞ。


 そう考えると前を歩くエジャが急に不気味に思えてきた。あんまりしゃべらないのは実はもう……


「お客人、すまないが先に、仲間の所に寄らせてくれ」


「ひゃいっ!」


 思わず変な声が出た。いきなりしゃべるなよ、ただでさえちょっと怖いなーって思ってたんだから。まあ、それはこっちの都合ですよ確かに。


 しかし仲間の所ときたか。……村のイニシエの風習系で、どこかに連れ込まれて大人数で襲ってくるんじゃないだろうな。ちょっと気を張っておく事にするか。でも、そう思わせてからのゾンビとかホラーな展開にシフトチェンジしたら何もできないかもしれない。俺は宇宙人より幽霊が怖い。


 村の広場を抜けて、西、俺の部屋の方向に歩いていく。さあ来るなら来い。でも出来るだけ来ないでくれ。


 少し大き目の家の前で立ち止まった。いや、両開きの扉からして倉庫だろうか。


「入ってくれ」


 エジャが扉を開きながら言う。建物の中から明かりがれる。完全な暗闇じゃなければゾンビぐらいなら、なんとかなる気がする。よし。


 入ってみたらやはり倉庫っぽい。狩りに使うであろう弓や、ナタのような刃物、ロープや革袋。そういった物資が並べられている。


 それだけではなくエジャのように引き締まった体形の狐族きつねぞくの男性がざっと十数人ほどいる。それぞれが思い思いにくつろいだり、食事をしたり、道具の手入れをしたりしている。……襲ってくる訳ではないようだ。良かった。


 俺とエジャが中に入ると全員の目がこちらに向く。今までくつろいでいた者も、俺を測るような目つきになる。俺と同じぐらいの年齢の若者から、その父親世代、さらには初老と言えるぐらいの人までいるが、彼らが狩猟頭しゅりょうがしらエジャの部下達って事で間違いないだろう。みんな戦う人間の空気をまとっている。そしてその意識の全てが俺に向いている。


 うん、エジャ、早く俺を紹介するなりなんなりしてくれ、居心地が悪い。もしくは帰らせて頂きたい。


「皆、こちらは村長のお客人でハルキ殿という」遅いよ、視線が痛かったよ。


「そして、ペタの命の恩人でもある。警戒しなくていい」


 エジャがそこまで言ってくれたおかげで、ようやく視線がやわらいだ。一応自分でも挨拶しといた方がいいかと思い簡潔に、


「どうも、ハルキです。今夜はこの村にお世話になります」


 とだけ言っておいた。名字みょうじは言ってもなぜかみんな呼んでくれないので、これでいいわもう。あと魔法使い族ってのも自分からは言わない。ペタがいると、すぐそこから入るからどうにもならないが。


「では、行こう」


 エジャが建物から出ていく。え、挨拶だけ?なぜ連れてこられたのか分からない。


「あ、じゃあ失礼しまっす」


 一声だけかけて外に出る。エジャはスタスタと歩いていく。付いて行くと川のそばに出た。最初に村に着いた時に俺がすねを打ったあたりだな。エジャは一軒の家を指さすと、


「今夜はここに泊まってくれ」と言った。


 川が近いと少しだが暑い空気に冷気が混じる。気を使ってくれたのか。


「ええと、住んでる人とかはいないのか?」


 俺が聞くとエジャは少し顔を下に向けて言う。


「今は、いない。好きに使ってくれて構わない」


 あんまり触れちゃいけない話題だったか?突っ込まない方が良さそうだな。


「ありがとうエジャさん、じゃあくつろがせてもらうわ」


「エジャでいい。では朝には食料を用意しておく。ゆっくりしてくれ」


 そう言うとエジャは来た道を戻って行った。だが俺にはまだ大事な用事がある。


「エジャ!」俺が呼ぶとエジャが振り返った。


「他に何か?」


「あのー、トイレってどこにあんのかな?」水飲みすぎた。







 暗い河原で寝転がって夜空をながめる。水が少ないとはいえ川の上を吹いた風は冷やされて気持ちいい。このままここで寝たら丁度いいぐらいだ。


 村には所々かがり火がかれ、薄明りを放ってはいるが、それでもラスベガスや日本の夜空とは大違いだ。星が数え切れないほど見える。


 あの中には地球もあるんだろうか…


 美咲や、親父さんにお母さん、キックをやっていた頃のコーチや仲間の顔が思い浮かぶ。俺は行方不明扱いになっているだろうか。何か連絡でも出来たらいいんだけどな。まあ無理だろうな。部屋に戻れば地球のすぐそばらしいが、距離以上の壁がある。


 ちなみに、ベガスにはあまり良い思い出がないので思い出さないようにする。


 いきなり拉致らちされて2日目の夜だ。まだそんなに時間は経っていないのに色々ありすぎた。ドッキリを疑い、ペタに殺されかけ、逆に助けてやり、宇宙人が出て来て足が治った。森の中も走ったし、ウサギを食べ、ハイエナ人間をいじめた。そして、川で用を足した。


 そう。トイレは無かった。ここでは、川でするか家に置いてあるツボにして、川に捨てに来るらしい。トイレは町の、それも金持ちが住むような家にしかないそうだ。なんてこった。俺は村に着いた時、今、目の前にある川でメッチャ水を飲んだ。その数時間後、その場所で用を足すことになるとは……順番が逆だったら俺は立ち直れないところだったかもしれない。いや、あの瞬間、川の上流で誰かが便所ツボの中身をぶちまけていたかもしれない。幸い腹は壊していない。壊していないが心がツライ。俺は、きゅうぅっと体を丸めてもだえた。



 ふと、村の方が騒がしくなった。あれは……さっきエジャに連れて行かれた倉庫のあたりだろうか。何かあったのか?立ち上がって村の方をうかがうが、川の流れは村よりも大分低い位置だ、見える訳がない。


「行ってみるか……」柵をすり抜け走り出した。




 荷物は全て借りた家に置いてある。服装も上はTシャツで、下はジャージ生地のトレーニングウェアだ。昼間着ていたのは川で洗って干した。今着ているのは、まあ色違いだ。3本ラインが赤になっている。要は、身軽だ。


 倉庫の中から何人もの狐族きつねぞくの男達が飛び出して行く。


「何かあったんすか?」


 1人を捕まえて聞く。


「客人か!あんたは家に入ってろ!」


 そう叫んで広場方面……東に向かって走って行く。弓とナタで武装している。ただ事じゃない雰囲気だな。


 何があったか知らないが……倉庫に入ると、もう誰も残っていない。棚に残っていたゴツいナイフを握り倉庫を飛び出す。ほっとける訳ないだろ。


 でも手を出さずに済むならいいな。手に負えなければ逃げる。




読んでくださってありがとうございます。


ホラーではありませんでしたがトイレはホラーです。

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