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惑星の魔法使い  作者: モQ
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第73話 綺麗さっぱり全滅

 後方の馬車の上に見える水の塊は、ゆっくりと形を変えている。


 にごった半透明の不定形生物。これぞスライムだ。間違いない。


 だが、俺が想像していたスライムはもっと小さくてマスコットキャラなイメージだった。だが仮に小さくても、今、後ろに見えているアレはマスコットにはならない。そもそも可愛くない。それにそんな物がモンスターと呼ばれるはずがない。


 デカい。今、乗ってる馬車の後ろにはまだ10台以上の馬車が並んでいる。その更に後ろにいてあの大きさだったら、俺がこの星で見たどの生物よりデカい。地球だったらどうだろう。少なくとも地上にはいない。山だろあれ。


 だがミーアキャットさんは、少しホッとしたような様子だ。大丈夫なのか?


「あの、あれすげえデカいんですけど、そんなノンビリ構えてていいんすか?」


 しかも、武器が効かないって事は殴っても駄目って事だ。ポヨンってなるんだろうか。ペタが尻尾を逆立てて弓を構えているが、それも効かないぞ。


「ええ。流石にあんな大きい水は初めて見ましたが、気付くのが早かったですし、水は大きいほど遅いですから」


 ミーアキャットさんが言う。いや、水って呼び方は確かにシックリくるんだけど、ややこしいな。スライムって呼ぼうよ。でも遅いのか。大きくても見掛け倒しか。逆にあの大きさで素早く動ける訳がない。だって重いだろう。ピョンピョン跳ねたら地震が起こる。


 馬車だって、今はちょっと頑張ってるみたいだけど、それでも走って付いて行けるぐらいのスピードしか出てない。俺だったらブッちぎれる。それより遅いなら余裕だ。なるほど、こっちではスライムが出たら戦うんじゃなくて逃げるのが当たり前なんだな。


 スライムが逃げるっていう俺のイメージは完全に逆だなあ。


「ペタ、逃げられるみたいだから、弓はいいぞ」


「そうかー。おいしくなさそうだもんな」


 ちょっと考え方が違うみたいだが、ペタも弓をおろした。


「広場に入らずに休憩してたのって、あの……水を警戒してたんですか?」


 ようやく、縦列駐車の意味が分かったので、確認も込めて聞くと、ミーアキャットさんはうなずく。


「あそこは川に面してますから、水が出て来る可能性が高かったんです」


 だから、全部の馬車が広場を通り過ぎてから止まってた訳か。スライムが川から上がって来てもすぐ発見出来るし、逃げ出せる隊形だ。馬の事を考えれば休憩なしって訳にもいかない。


 後ろを見れば、ブニョブニョと形を変えるスライムは確かに離れて行っている。良かった。さあ戦え!とか言われてもあのサイズの生物相手じゃ攻略法が思いつかない。


 塩でもかければいいのか?ナメクジみたいに。流石にそんな大量の塩は持ってないぞ。ああ、でも本気で倒すなら塩が良いな。何十トンかぶっかければしぼむぞ。


 ああいうアメーバ系の生物は、どこが弱点とかそういう事はないだろう。中に色々粒状つぶじょうの物やヒダみたいな物も見えるが、アレは脳みたいな物じゃなくて、ただの食道や消化器官なんかだ。


 単細胞生物には脳はない。獲物を見る目もない。刺激に対する反射で動く。まあ、あのデカさで単細胞ってのもちょっと気持ち悪いんだけど。ああ、だから俺みたいに頭の悪い奴の事を単細胞って言うのか。納得だ。納得だがなぜこんなに辛い気持ちになる。


 川から道のそばまでモッサリと生えている草むらを見る。ここにはゴブリンが隠れたり出来るから、全部、刈ってしまえばいいと思っていたが、スライムからすれば他の生き物を感知できない壁なんだな。うん。あって良かった草むら。


 ていうか、町に来る途中、あんなのがいる川に入って魚獲ってたぞ俺。知らないって怖いわあ。これからは大きい川には気を付けよう。




「リカータさん、前から旗です!黒です!」


 御者さんの声に慌てるミーアキャットさん。いやリカータさんだった。


「そんな!こんな時に!」


 馬車がスピードを落とす、前で何かあったのか?後ろからあのデカいのが来てるんですけど。


「ミーア……えと、リカータさん、何ですか」


 ミー……リカータさんはカタカタ震えながら俺を見て言った。


「前方で川が氾濫はんらんしています……進めません」


 すぐに馬車は止まった。どうやら本当に水に囲まれた。






「草原の方には行けないんすか?」


「駄目です。雨で地面がゆるんでいて、馬車では移動できません……」


 絶望の表情を浮かべるリカータさん。いや馬車じゃ無理なのは俺も分かってる。そうじゃないだろ。後ろからは半透明の壁がゆっくりとだが近付いている。


「馬車は捨てて草原側に逃げましょう」


 俺がそう言うも首を縦に振らない。いくら商人でも命の方が大事だろうに。イライラするな。


「ペタ、お前は命と、お金とどっちが大事だ?」


「おかねはたべられない。しんだらだめだ」


 ペタの方が現実が見えている。あまりお金に関係なく生きているからだろう。


「よしペタ、お前はお姉さんと御者さんを連れて草原側に逃げろ。俺は後ろの馬車の人達から避難させる」


「りょうかい!」ピシッと敬礼するペタ。


「そんな!荷物が、馬が……」


「死んだら何にもならねえだろうが!いいから逃げろ!馬食えばあのスライムもどっか行くだろ!」


 カタカタ震えるリカータさんに無理矢理マントを羽織らせる。馬には悪いが犠牲になってもらうしかない。


「ペタ!頼んだぞ!」


 そう声を掛けて、俺もマントと背負い袋を持って馬車を飛び出す。




 何やってんだこいつら。


 誰も逃げようとしていない。今ペタに手を引っ張られて馬車を離れたリカータさんと御者さん以外、誰もだ。


 少し距離は出来ているが、小さい山のようなサイズのスライムは確実に近づいて来ている。馬車の振動とかで捕捉しているんだろうか、そこまで単細胞生物には詳しくない。だって可愛くない。


 後ろに並んでいる馬車の横を走りながら大声を張り上げる。


「何やってんだ!出ろ!逃げろ!」


 だが、既に馬車から出た護衛の傭兵ギルド員以外は反応しない。そのギルド員も、


「荷物を守れ!」


 とか言われて動けない。商人達の中には、俺達に対して、


「護衛だったら水をなんとかしろ!」


 とか叫び返して来る奴までいる。ふざけんなお前ら。自然をめんな。飲み込まれる以前にあの質量がし掛かってきたら地面のシミだぞ。そのシミも大雨で流れて綺麗さっぱり全滅だぞ。




 ベガスに行ってすぐの頃、良くしてくれた先輩がいた。その人も格闘家だったが副業としてSPをやっていた。あまり良くない世界の人の護衛だ。


 その依頼主が、ちょっとした抗争に巻き込まれた時、先輩は逃げる事を主張したらしいが、依頼主に止められたらしい。らしいらしいってのは、その時の生き残りの別の人に聞いたからだ。直接聞いた訳じゃない。


 依頼主も先輩も、フロアごと消えた。




 こいつら商人は良い。命より商品やお金が大事なんだろう。だけど、護衛まで巻き込むんじゃねえ。金で雇われてる以上、命懸けで守るのが仕事だ。だけど、守られる側が逃げないから死ぬなんてのは仕事とは思えない。


「雇われてる奴らだけでもいい!死にたくない奴は逃げろ!」


 叫びながら走る。なんで誰も分からないんだ。いや、あの先輩だって結局は逃げなかった。プロってそういうもんなのか。バカばっかりだ。


 一番後ろの馬車まで来た。つまり最初の犠牲になる馬車だ。


 この集団は、中心に行くほど重要な人物や積み荷になる。前と後ろはイザという時切り捨てられるようにだ。その考えも嫌なもんだけど、旅自体が危険なこの星では仕方ないんだろう。


 その一番後ろの馬車には、俺と同じぐらいか、もう少し若い、毛無し猫系のギルド員が2人乗っている。商人はいない。この2人は……町を出る前に少し話をした奴らの内の2人だ。ペタの事を可愛いって言ったロリコンもいる。


「お前ら!逃げろ!」


 俺が分かるなお前ら。逃げろ、こんなのに付き合うな。


「に、逃げられません!ここで逃げたらもう仕事が貰えなくなります!」


 駄目だ、こいつらも命より仕事が大事って奴らだ。この星の命の軽さは分かっていたけど、これほどとは思わなかった。


「兄ちゃん?兄ちゃんか!」


 御者台から聞き覚えのある声がする。見れば、フードを目深まぶかに被っているが隠しきれないその馬の鼻。


「おっちゃん!」


 馬のおっちゃんだ。ゴブリンのせいで無職になったはずの馬のおっちゃんが御者台に座っている。


「いや、久しぶりだな。名前に聞き覚えがあるなって思ってたけど、やっぱ兄ちゃんだったか。魔法使い族なんだってなあ」


 いや、まあそうなんだけど、今はそんな世間話してる暇は無い。もう小山はそこまで迫っている。


「おっちゃん!あんたも何やってんだ!そんなの後でいいから逃げろよ!」


 馬のおっちゃんはブルルルと首を振る。


「やっと雇ってもらえたんだ。この仕事がなくなったらそれこそ死ぬしかねえよ。それに今、雨が止めばあのデカいのは川に逃げるから、助かるかもしれねえ」


 止むわけがない。台風並みの大雨だ。空だって雲しか見えないぞ。たまたま台風の目に入る、なんて事も起きないぞ。


「太陽神様次第だな」


 何をノンビリとしてんだ。太陽は神様じゃないし、このままだったら100パー天に召される。本物の神様に会えるかもしれない。いや、駄目だろ。




 分かったよ。分かった。この星のルールなんだなこれも。じゃあ、その中であがけば良いんだろう。


 馬車の中にいるギルド員の2人に声を掛ける。


「おい、あのスライム、毒はあるか?」


「え、いえ。毒は無いです。でも飲み込まれたら終わりです」


 ロリコンの方が答える。毒は無いか。ならいい。


「じゃあお前ら、逃げなくてもいい。戦え」


 青くなって首を振る2人。


「そんな、あんな大きさの水相手に無理です」


「弓も剣もきかないんですよ」


 違う、効かないわけじゃない。効いてないように見えるだけだ。


 ファンタジーじゃどうかは知らないが、あれが地球のアメーバを巨大にしたようなもんなら、細かくちぎれば死ぬ。切って切れない訳じゃない。分かりにくいが口だってある筈だ。ちゃんと消化器官が見えてる。全身が全て口なんです、どこからでも飲み込みますなんて事もない。


 水なんて呼ぶから俺まで勘違いしかかった。アレは液体じゃない、固体だ。


 クラゲと一緒だ。いや、ただの動く寒天ゼリーだ。馬鹿みたいにデカいだけだ。ちょっと押しつぶされる危険と、飲み込まれる危険があるだけだ。毒がないなら触っても平気だ。そもそも俺以外にアレを素手で殴ろうなんて奴はいない。




「俺が先に行く。お前らは他の馬車からギルド員全部連れて来い!」


 固まったままの2人に叫ぶ。


「行け!」


 2人が馬車から飛び出した。よし。


「兄ちゃん!無茶だ!」


 馬のおっちゃん、あんたがいたから俺は無茶するんだよ。知り合いを放って逃げれないんだよ。ああ損だ、これで死んだら大損だ。


 おっちゃんの馬車に背負い袋を投げ込む。この中に入ってるレーザーが使えたらなあ。でも使えない物に頼れない。マントも邪魔だ。一緒に放り込んでおく。




 大雨のせいで頂上がかすんで見える巨大なスライム。


 全然レベル1用の相手じゃないな。




読んでくださってありがとうございます。


馬のおっちゃん久々に登場。おっちゃんの為に頑張れ!

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