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惑星の魔法使い  作者: モQ
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第68話 金がないのに女性に奢る

 外には乾いた風が吹いている。舞い上がる砂埃すなぼこり


 店の中には2人の男が向かい合って立っている。眼光は鋭く、これから始まる戦いが激しい物になる事を予感させる。


 少し離れた所に立っている少女。彼女にとってはどちらも大事な男なんだろう。その目には不安が浮かんでいる。


「後悔はないな?」


 年上の男が口を開く。それに対して不敵な笑みを見せる若い男。


「そっちこそ、もう引き下がれないですよ」


 丸いテーブルを挟んで殺気をまき散らす2人。


 黒い影がテーブルの下から姿を見せると声を上げた。


「レディー……」


 肘をテーブルに付け手を握り合う男達。


「ゴッ!」


 ドガアン!


 凄まじい音と共に、年上の男の体が腕と一緒にテーブルに叩きつけられた。




「よっしゃああ!これで半額っすよね!やった!」


 俺は、アニさんの革細工のお店で、ペタと同じようなポーチと革の水筒、あと大きめの背負い袋を買った。


 今まではバックパックを背負っていたが、これ自体がこの星にあってはいけない物だ。水筒だってそうだ。気になってトイレにまで持って入る始末だし。だからウチの部屋から持ち出さない事にした。


 じゃあ、代わりに荷物を運ぶ入れ物が必要になる。どこにでもある革製品だが、ライオン姉さんを信じるなら、アニさんは相当、腕の良い職人だ。値段も良心的だと言っていた。


 もちろん、あの平気で人を騙すライオン姉さんの言葉を丸々信じた訳ではない。ちゃんと何件か店を回って相場や品質を調べた。


 結論。やっぱりアニさんはいい職人だった。まあ、投げナイフホルダーの試作品の時点でそりゃ分かってたが、一応だ。


「ハルキ君……参ったよ。約束通りペタちゃんとの結婚は認めよう」


 おいおっさん違うだろう。お値段半額を賭けた腕相撲だったろうが。


「ふつつかものです!」


 ペタがやっぱり乗っかった。そこで止めると「気が利かない者です」という自己紹介だぞ。


「親方!約束はお支払いの事だったでしょうが!」


 この店唯一の良心、テディさんのジャンピングパンチが、アニさんの頭に炸裂した。スパーン!と良い音が店内に鳴り響く。突っ込みとしては完璧な音だなあ。




 アニさんに作ってもらっていた投げナイフホルダーの、ワイなんとかの革バージョンが完成した。金貨45枚かかった恐るべき高級品だ。


「ハルキ君、ほんとにもう帰っちゃうのかあ?もっといても良いんだぞお」


 なんかアニさんが気持ち悪い。筋肉の塊がうねうね動く。この喋り方をするのはペタ絡みの時だけだ。この筋肉ダルマが帰したくないのは俺じゃなくて、娘のペタだ。


「帰るのは明日ですよ、まだ今日はいるから、いいじゃないすか」


 テディさんに代金を払いながらうねうね筋肉に言う。背負い袋が結構高かった。だが使いやすいし丈夫だ。口の所はキュッと閉まるようになっていて、ストラップみたいな革紐かわひもで肩に掛けられる。斜め掛けもいける。


 合計で金貨2枚を、値切って金貨1枚と銀貨8枚にしてもらった上に、更に半額の銀貨9枚にさせた。あくどいか?


 でも腕相撲を持ち掛けて来たのはアニさんの方だ。俺は悪くない。俺が勝てば代金半額。アニさんが勝てばペタと一緒にあと1週間留まるという、まあ負けても痛くもかゆくもない勝負だ。


 ペタは3日前に俺と一緒に寝てからアニさんと寝ていない。寝るったってホントに寝るだけだぞ。添い寝だ。子守歌を歌う間もなくコイツは爆睡する。そしてその寝相は俺を苦しめる。


 そんなペタと一緒に寝たいなんて、アニさんはやっぱり父親なんだな。この人の変態じみた娘への愛情は残念ながら少し娘を遠ざける結果になってしまったが。


「しかし、腕相撲で負けたのは久しぶりだな。ちょっとナマったかもしれん」


 アニさんがブツブツ言っているが、元々の俺の筋力なら絶対勝てなかったと思う。この人のパワーは、あの虎族トップクラスだろうマスターさんを上回っている。ただ、今の俺は全力を出していない。ドーピングごめんね。


「じゃあ、ちょっと買い物行ってくるんで。ペタ行くぞー」


「デートかあああ!」「いや、買い物だ」


 俺とペタのやり取りを見ながら寂しそうにしていたアニさんは、


「親方、仕事がまってるんですから働いてください」


 と、テディさんに引きずられて店の奥に消えて行った。


 そう、引きずられてだ。テディさんは熊族だが、テディベアそっくりだ。ペタよりも身長が低い。そういう種族だ。なのに、なぜバカでかいアニさんの頭を殴るぐらいのジャンプが出来るのか、そしてなぜ、あの巨体を引きずっていけるのか。結局その謎は解けなかった。だがいい。テディさんがモフモフだからそれでいいんだ。本当はあの人も持って帰りたい。ウチの部屋で料理をしてほしい。ペタなんか塩しか使えない。家庭的要素が何もない。まあ子供だからいいんだけど。




「ハルキ、なに、かいに行くんだ?」


 俺の左手を握ったペタが聞いて来る。そのペタはさっき俺が買ったばかりの革の背負い袋を振り回している。まだ何も入ってないけど、通行人の邪魔になりそうだったら奪い取ろう。


「そうだな、鍋とうつわと、調味料だな。あとお世話になった人に挨拶だ」


 野菜も欲しいが、この町と狐族の村の中間にある狸族の村でも、野菜は結構売られていたはずだ。そもそも、この町の野菜は他の村から仕入れている。どうせ通るなら、そっちで買った方が安いし新鮮だ。


「なべとかおさらは、ハルキのいえにもあったぞ?」


 ペタが不思議そうだが、それもバックパックと同じだ。外に持って出て盗まれたりしたら大変だ。騎士の剣を跳ね返せる鍋や皿なんて世に出せない。俺が買いたいのはあくまで、外で使う用だ。


「なくなったら嫌だから安いのを買っとくんだよ。外でも細いスープ食いたいだろ?」


「ほそいスープのためなら、ペタはすべてをなげうつ!」


 意味の分からん決意表明はいいけど、その振り回してる背負い袋は投げるなよ。


 ペタとお揃いみたいになってしまった腰のポーチには、スマホとライターと普段使い用の財布が入っている。これでバックパックは必要なくなった。


 トレーニングウェアはヘビーローテーションで着っぱなしだし、下着類の替えは、まあ……最悪、なくなっても良いだろう。こっちのでも良いし。


 財布はすぐ取り出せる方には銀貨以下の小銭。俺の貯蓄、金貨5枚は今はバックパックに入っているが……どうしようかな。考えとこう。




 のんびり歩いて大通りまで来た。この辺で調味料でも探すか。


「ペタ、塩とか砂糖とか、あと胡椒こしょうとか売ってる店を探そうか」


 俺が言うと、ペタの頭にハテナが浮かんだ。


「ハルキ、さとうってなんだ」


 あー、野生児は知らないのか。そういや、こっちに来てから食った甘い物って全部、果物関係だったな。ジュースもフルーツジュースだったし。ケーキとかアイスとかの店も見てないな。


「ああ、まあ砂糖はいいから、胡椒だ。胡椒を探せペタ隊員!」


「りょうかいであります!」


 ピッと敬礼して、並んでいる店を片っ端からのぞき込んで行くペタ。子供って便利だわー。ペタが俺の命令をきくって事は、ペタ軍団の構成員の子供達は、みんな俺の思いのままだって事だ。なんか偉くなった気分だ。


 まて、相手は子供だぞ?この歳になってガキ大将気分ってどうなんだ?人の上に立った事がないからこんな事を考えるんだ。なんか役職がほしい。


 中学の時も学校の部活には入っていなかった。キックボクシング部があったら入った、そして部長になれたと思うんだ。まあそんなモンなかったからジムに行ったが、先輩しかいなかった。俺、最年少だったからなあ。タイトルとった後だって、結局年上のパシりをしていた気がする。パシりとな?今俺がペタにさせているのはそれじゃないのか?じゃあ、俺はペタの上司だ。そしてペタ軍団は俺の思いのまま。あれ?俺はアホか?


「ハルキー!おみせあったぞー!」


 部下が……いやペタさんが手を振っていらっしゃる。早く行こう。




 調味料、も、置いている店って感じだ。


 乾燥ハーブや、お茶の葉みたいなものも置いてある。はー、あんまり食料品屋は見てなかったけどおかしな品揃えだな。生じゃない物を色々揃えてる所か。


 俺がジロジロ見ていると、店員らしき毛無しのネズミのおっちゃんが胡散臭うさんくさそうな目になっているのに気付いた。まあ、ちょっと贅沢品の香りがするな、この店の物は。こっちに来てからあんまり馴染みのない物が多い。紅茶も、お客さん用とか貴族御用達みたいな感じだ。


「お客さん、何をお探しで?」


 ネズミ族かな?おっちゃんが声を掛けて来た。これは客だと思われてないな。万引きを警戒してる感じだ。まあ怪しげな服を着た子供2人だもんな。いや、俺は大人だけど。どうも15歳ぐらいに見られる事が多いのは分かっている。


「しおと、こしょうと、さーさー、さとうだ!」


 ペタが思い出し思い出し言うが、塩と砂糖は持ってるから良いんだよ。胡椒が欲しい。ハーブはいいや。料理できないし、なんか森に似たような野草あったし。


 ネズミのおっちゃんが笑い出した。


「塩は良いけど、あんたらが胡椒に砂糖だと?冗談は止めな」


 むっ、なんか失礼だな。俺はこれでも金貨持ってんだぞ。俺換算10万円だぞ。ライオン姉さんの言い分だと、もしかしたらもっと価値高いかもだぞ。


「いや、いいから胡椒くれよ。これ分」


 金貨を1枚取り出して近くのテーブルに投げる。


 うん、やっちまった。つい勢いで金貨を出してしまった。だがもう引っ込められない。ペタの目がキラキラしてるし。うう、取り消したい。金がないのに女性におごる男の気持ちってこんな感じなのかもしれない。行き着く先は借金地獄だ。


「あ、え?ああ!すみませんお客様!胡椒ですね、分かりました!」


 でも、ネズミおやじが素直になった。やっぱ世の中、金か……


「入れ物はいかが致しましょうか、こちらでご用意できるのは、中型のつぼか、小型の木製の物になりますが…」


「ああ、割れたら嫌だから木のやつで」


 そう言うと、ネズおやじは、ささっと重さを計って小さい容器に胡椒を詰めて行った。狸族の村で売ってた奴よりは大きい筒状の入れ物だ。まあそれぐらいが使いやすいか。


 金貨1枚が、小さめ容器の胡椒5本になった。日本だったら1本300円もしないだろコレ。くそう。まあ、使う物だし長持ちするし、ちょっとずつ使おう。


「またのお越しを!」


 ニコニコしたネズおやじに送り出された。いい教訓になった。俺は金を持ってちゃいけない、衝動に流されるタイプだった。ご利用は計画的に。


 言ってしまえば、このベルトも衝動だもんな。金貨45枚の投げナイフホルダーをサスサスする。ナイフが1本抜けている。金物屋でまた買おう。決して100本とか買わないぞ。


「さーさーさとうはいいのか?」


 売る程あるから良いんだよ。はあ、何か現金収入考えないとなあ。なんで他の星まで来て、こんなに世知辛せちがらい気持ちにならなきゃいけないんだ。


「はー、鍋とか行くぞー」「ハルキ!げんきないな!」


「お前は元気でいいな」「つらいときこそ、えがおだ」


「お前、辛いのか?」「ぜんぜん!」


 俺、考えてみりゃ、こっち来てからほとんど誰かに食わせてもらってる。持ってるお金も貰いもんだ。



 帰りに傭兵ギルドに寄るから良い仕事ないか見るだけ見よう……




読んでくださってありがとうございます。


働かずに食うのはダメ人間の夢ですが、作者は支持します。ダメ人間だから。

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