第61話 効果は抜群だ
急いでんのに止められた。
連れて行かれたのは、近くにある貴族の屋敷だ。有事ってことで騎士団に接収されたのか?門に近かったばっかりに可愛そうに。
「このガキが魔法使い族なら、殿下の反乱にも加担してるんじゃないのか?」
偉そうな、おデブ騎士団長が応接室のソファーにもたれながら言う。俺のイメージしてた第1騎士団長は正義の人だったのに、だいぶ違った。全てを委ねられるスマートかつパワフルなイケメン騎士のイメージが崩れた。いや、スマートという時点で虎族には難しい。イケメンかどうかなんて更に分からない。どうやら俺の要求水準が高かったようだ。理想の相手と出会えないんですよと嘆く方々の様だ。
正直無視しても良かったが、アニさんの立場上マズいから仕方なく付いて来た。なんか尋問されてるみたいで気分が悪い。しかもこっちは立たされている。
「団長、ハルキ君は、俺も傭兵ギルドも認めているこっちの味方です。ほら、銀章ですよ。ほら」
アニさんがアタフタしている。どう見ても強そうには見えない団長は、俺の銀バッジをチラ見してから言う。
「ふん、まあいい。おいガキ、あの魔法使い族の遺産について何か知っている事はないか?」
レーザーの事だな。熱いって事ぐらいしか知らねえよ。なんかこいつと喋んの嫌だな。こんな事してる暇があったら門開けて来いよ。そしたら俺が突っ込むのに。とは言えない。アニさんに迷惑がかかる。
「あれは、熱を出す武器です。石も鉄も貫通します。かなり遠くまで届きます」
説明書みたいに言った。まあ、思った通り団長はお気に召さなかったようだ。鼻を鳴らしながら、
「それぐらいは分かっておるわ。何か防ぐ手立てはないかと聞いておるんだ」
とか言うが、そりゃまあ、ない事はない。ウチの部屋の物なら防げる。服とか、バックパックとかだ。だから俺はこう言う。
「俺には効きません」熱いけどな。
この返事には流石の団長もアニさんまでびっくりだ。相当こっぴどくやられたみたいだしな。二人とも動きが止まった。団長の手からお茶が零れる。あーあ。借り物の家の絨毯に染みが付いた。ってか、部下がヒーヒー言ってんのに、優雅にお茶を嗜んでるってどうなの。
「門が開けば俺が全部片付けます」
ついでに言ってやった。それぐらい頑張れ。俺も急いでるんだ。
「ハルキ君、本当にあれに対抗できるのか?俺も見たが、全く手が出なかったぞ」
熱いお茶を零してヒーヒー言ってる団長に代わってアニさんが聞いて来る。
「マスターさん……えーと、元ギルドマスターなら知ってますよ。俺があの武器を防ぐのを目の前で見てたんで」
そう言うと、団長が部下の騎士に声を掛ける。
「傭兵ギルドに行って確認して来い」
遅えよ、それじゃ。行って帰って何分だ?1時間か?ペタがその間にどうなるか分かんないんだよ。
こうやって戦局が固まってるって事は、向こうも人質を使う余裕が出来るって事だ。なんでもいいからかき回せないのか。
「あの扉開けられないんですか、なんか考えあるんすか?」
段々、口調が荒くなって来てるのは自覚している。でもイライラが表に出てきた。そもそもアニさんがいなけりゃ敬語も使いたくない。
「あの扉は内側からしか開かん。今、破城槌を運ばせている所だ」
団長が服を部下に拭かせながら言う。はじょう何?知らねえよ。門をこじ開ける工具か?でっかいバールか?
「それで開くんすか」
「分からん!」
ああ、もういい。こいつには期待しない。1人でやる。
俺はアニさんに声を掛ける。
「すんませんアニさん。ちょっと時間なさそうなんで、俺だけ好きにさせてもらいます。何か問題あったらマスターさんに回してください」
ちゃっかりと責任は他所にやる俺。ライオン姉さんの悪い所が伝染ったか。
「待て!おい、そのガキを止めろ!」
部屋を出ようとした俺にアニさんが立ち塞がる。流石にアニさんを無下にはできない。真剣な目で俺を見ないでくれ。
「なんでそんなに焦ってるんだ、何があった」
その答えはあなたの娘です、なんて言えない。
……言えないって何でだ?
もちろん、言ったらアニさんが特攻してしまうと思ったからだ。レーザーの餌食になってしまう。
いや違う。俺が真実を伝えられないのは違う理由だ。アニさんの顔が見れないのがその証拠だ。
もし立場が逆だったら俺なら知りたいし、俺の届かない所でペタに何かが起きてたら、もう無茶苦茶になるかもしれない。俺はガキだから気に入らない事にはすぐ反発してしまう。暴れるかもしれない。やつ当たりだ。
でもアニさんは大人だ。ちょっと親馬鹿が過ぎるだけで尊敬出来る人だ。その人に娘の危機を伝えない?なんでそんな事考えた?
俺がガキだからだ。この団長にガキって言われてイライラするのは本当にガキだからだ。
アニさんにこれを言わなかったのは、レーザーがどうこうじゃない。幻滅されるのが怖かったからだ。卑怯者だ俺。
正直に言おう。言って謝って協力してもらおう。
緊張する。今から戦うぞって時より緊張する。こんなに緊張するのはこっちに来てから初めてかもしれない。冷や汗が出る。手汗が凄い。
「ペタが砦に捕まってる可能性が高いです。俺のせいです。すみません」
「な……」
頭を深く下げる。アニさんはどんな顔をしてるだろう。団長が「誰だそれは」とか言ってるが、そんなんどうでもいい。殴ってくれ。もういっそ殴ってくれ。
アニさんは何も言わない。相手の目を見ながら言えない時点でやっぱりガキだが、ちょっとだけ許してほしい。俺は頭を下げたまま言う。
「俺が、相手に見られたせいだと思います。助けに行きたいんです」
しばらく無言の時間が続く。1分か、2分か、いやもっと短いかもしれないが長く感じる。団長の声は聞こえるが何言ってるのか分からない。
「ハルキ君」アニさんが喋った。
「ハルキ君ならあの武器を防いでペタちゃんを助けられるんだな?」
「助けます」
両肩に手が置かれた。大きな手だ。
顔を上げた。アニさんは穏やかな表情をしている。仏さま?
「じゃあ、頼む。ペタちゃんを助けてくれ」
殴られなかった。殴られなかったが肩が痛い。すげえ力だ。これマスターさんよりパワーあるんじゃないか?だけど、少し心は軽くなった。やっぱり正直に言うのが良いんだ。日本の昔話では正直者は大体、ハッピーエンドだ。なんか海外のはよく分からないのが多いけど。
団長がまた騒ぎ始めた。
「こら!誰がそんな許可を出した!駄目だ、行くな!」
「うるせええええ!ウチのペタちゃんに何かあったらぶっ殺すぞてめえええ!」
アニさんキレた。うわ、すげえ。仏さまが浅草の門の所とかに立ってる怖い方の仏さまになった。声が屋敷中に響いた……と思う。
団長がソファーの後ろに引っくり返った。ガラスの窓がビリビリと震える。ああ、こっちのガラスってあんまりキレイじゃないよな。なんかちょっと曇ってるかんじ。わざとかな?いやでも馬車もこんな感じだったな。技術の問題かあ。
「ハルキ君、行け。こっちは任せとけ」
アニさんの声で我に返った。ちょっと、破壊力ありすぎだ。精神までキた。この人の親馬鹿は想像以上だったかもしれない。あぶねえ、正直に言ったけどハッピーエンドになるかギリギリだったかも。
「ペタは絶対助けます」
俺はもう一度頭を下げて部屋を出る。後ろでアニさんが、
「ペタちゃんを無事に助けてくれたら、結婚を……許しても……ぐぅぅ、いいぞお」
うん、それはいらん。
屋敷を飛び出して門に向かって走る。余計な時間を取られた。ペタ、頼むから無事でいてくれよ。
あと結婚は、もし10年後に俺がまだここにいて、しかも独身だったら一応、一応な、考えるって事で勘弁してくれ。
命令がないと動けないんだろう。怪我のない騎士や兵士達が隊列を組んだまま門の前に並んでいる。適当に騎士を1人捕まえて銀バッジを見せながら聞く。
「門を開ける道具はまだですか?」
一瞬怪しい人を見る目をした騎士だが、銀バッジの効果は抜群だ。ビシっと背筋を伸ばして、
「はっ、恐らく後30分ほどかと」
と教えてくれた。簡潔丁寧にありがとう、お前が団長になると良いよ。だがそれじゃ遅い。秒単位でペタの危険度は増えている。
隊列の間を抜けて門の前に立つ。後ろがザワザワしているが無視だ。
しかしデカい門だな。木で出来てるように見えるが枠組みが金属で補強されている。これは殴ってどうにかなるレベルには見えない。俺も自分の身体能力はある程度把握しているが、無理だな。無理な事はスパッと頭から消す。
見上げれば、門の更に上に見張りが数人立っている。皇子さん側の騎士だろう。ただ見下ろしているだけだ。今、弓矢でも射掛ければ結構効果的だと思うんだが、なんで攻撃してこないんだ?こっちは無駄に並んで待ってるだけだぞ。
元々、仲間だからやりにくいとかかもしれない。でも忠誠を誓った相手に付いて行く感じか。騎士の美学か?だが、今は邪魔なだけだ。
「なあ、あの上の奴らとか、あと中にいるのって全部皇子さん側なの?」
また適当に近くの騎士に聞く。もちろん、銀バッジも見せる。ちょっと頼り過ぎかもしれないが手段は選んでられない。そして抜群の威力だ、すぐ答えてくれる。
「はい、一度は内部の手引きで門の内側まで入れましたが、謎の武器で撃退されました!内部に残っている騎士は全て反乱者です!」
なんかハキハキと教えてくれたが、お前、それは誇る部分じゃないぞ。団長にはなれないな。まあいい。んじゃ、あの上のも含めて、中で騎士を見かけたら全部殴って良いって事だな。
問題はどうやって入るかだ。他にも入り口があるかもしれないが、この騎士達がここでボーッとしてるって事は、他は全部押さえられてるか潰されてるんだろう。でも門は通れない。
砦を囲む壁は低い部分でも10メートル以上はありそうだ。5メートルならどうにかジャンプで手が届くのは確認済みなんだが、10オーバーは無理だな。梯子か階段でも無いと……
というか見回せば長い梯子も転がっている。ああ、あれで登ろうとしてもひっくり返されるのか。あの上の奴らが邪魔なんだな。
よし、上のを倒す。
となると投擲だ。ナイフだとこの距離は狙えない。石だな。石、石……ない。無駄に綺麗だなここ。ふと地面から目を上げれば丁度良さそうなのが並んでいる。
「あんたら、ちょっとその兜貸して」
「は?」
さっき話をした騎士がキョトンとしている。こいつからでいいわ。両手で兜を掴む。これどうやってくっ付いてんだ?ちょっと引っ張ってみたが取れない。
「なっ何をっ、痛てっ痛い痛いです!」
スッポリ被ってるだけだと思うんだが、虎の顔だから引っ掛かるのか?面倒になってブンブン振り回す。お、脱げた。
被っていた騎士は壁まで転がって行ってぶつかって止まった。首もげなくて良かった。俺もこんなしょうもない事で人殺しはしたくない。死んでないよな?虎族丈夫だしな。
脱げた兜を持ってチラッと他の騎士達を見ると皆、急いで自分で兜を脱ぎ始めた。他の皆は協力的で良かった。俺も乱暴したい訳じゃないんだ。
ポンポンと何度か投げ上げて感触を確かめる。よし、行ける。
見上げれば、見張りの騎士達がこっちを覗き込んでいる。ちょっと大騒ぎしたもんな。さっきの騎士が。さて的は……4つか。
俺は球技が苦手だ。野球をやればバットはボールに掠りもしないし、バレーボールはどっか遠くに飛んでいく。テニスもだ。バスケはドリブルがだんだん小さくなって最終的には床に押し付けて止まる。ちょっと方向は違うが、ボウリングは真後ろに投げた事だってある。あと、隣のレーンに投げ込んだりもしたな。
サッカーだけはなんとなく出来た。あれは蹴りの練習のおかげだろう。何が苦手かというと投げるのが苦手なんじゃなく、道具を使ったりボールに対して特殊な扱いをするのが苦手だっただけだ。ハッキリ言って投げるのは得意だ。ドッジボールなら無敵だ。野球だってピッチャーだけなら出来た。
ブンッ
俺の投げた兜が上から覗いていた騎士のすぐ真下の壁にめりこんだ。爆発するように飛び散る壁の破片。あれ?外した、おかしい。
真ん丸じゃないからだな。しかもちょっとデカい。ドッジボールぐらいだったら絶対当たってたんだけど。
無言で右手を差し出すと、誰かが2球目を乗せてくれた。次は当てる。
逃げ回り始めた壁の上の騎士の1人に狙いを定めた。
読んでくださってありがとうございます。
ボーリングかボウリングかで意見の分かれる所。




