表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
惑星の魔法使い  作者: モQ
6/323

第7話 お前がライオンなのか

 木陰から現れた人型のソレを見て思わず叫んだ。


「犬だ!」


「誰がイヌだこの野郎!俺はハイエナだ!」


 おお、犬が……いや、ハイエナ?がしゃべった。確かにハイエナは犬に似ているが、実は猫に近い動物だ。犬呼ばわりは失礼だったかもしれない。


 しかしこれは……現れたハイエナ男とペタを見比べる。


 ペタは普通の人間に耳が生えて尻尾がくっついた、そんな感じなのに対し、ハイエナ男は、まんまハイエナが立ち上がったような姿をしている。口元は飛び出し、鋭そうな牙が並んでいる。そこまではいい。そういう種族なんだろう。


 こいつは服をちゃんと着ている。ズボンもブーツも履いているし、上は何かの動物の毛皮で出来た服だ。毛がたっぷり生えている肌の上から、真っ赤な毛皮のベストを羽織はおっている。


 だめだ、意味が分からない。笑いそうだ。


「テメェ、何ニヤニヤしてやがる!」


 あ、ハイエナが怒った。謝っとこう。


「いや、悪い悪い。この暑いのに……暑そうだなと……プフ」


「すごいな!ペタはあついのに、おまえはあつくないんだな!」


 ペタが乗っかってきた。腹が痛い。ああ……ハイエナ男が牙むき出しだ、スッゲー怒ってる。あ、腰にぶら下げてた剣を抜きやがった。


「この毛無しどもがァ、大人しく食いモンと金を置いてきゃ、命だけは見逃してやろうと思ったが……ぶっ殺す!」


 まあ見た目そうだと思ってたけど、やっぱりそう来るのか。盗賊ってやつだな。剣かぁ、当たったら痛そうだなあれは。


 なんて考えてたらペタがいきなり矢を放った。


 だがハイエナ男は剣を一閃、矢を弾き飛ばした。すごいな。雑魚っぽい台詞セリフの割にいい目をしているようだ。剣の振りも速かった。というかペタお前……


「いきなり撃つよなあ、お前。俺の時もそうだったけど」


 ペタは次の矢で狙いを定めたまま答える。


「やられるまえにやる!せんてひっしょう!いちげきひっさつ!」


 今のところ一撃で仕留めたのは緑ウサギだけだと思うが……まあいい。少し声を小さくしてペタに指示を出す。


「よし、もう一発同じ様に撃て。その後はしゃがんで待機」


「たいきってなんだ?」


「待て、だよ。待て。あとはよく見とけってことだ」


 ハイエナ男は律儀に作戦会議を待っててくれたようだが、さすがにしびれを切らしたらしく剣を振りかぶって飛びかかって来た。


「何ゴチャゴチャ言ってんだコラァ!」


「ほれ、撃て」


 ペタの矢が再びハイエナ男に襲い掛かる。だが剣を振り下ろしこれも叩き落す。


「ガキのヘナチョコ矢なんぞ当たるかよぉぉほぇっ!?」


 俺の掌底しょうていが左からハイエナ男の顎先あごさきかすめるように打ち抜く。ハイエナ男は白目をむいて膝から崩れ落ちた。やっぱり人体と似た作りなんだな。脳を揺らせば意識を刈り取れる。……脳が頭にあって良かった。


「ペター。いいかー避けられる攻撃は基本、避けるんだ。いちいち受け止めてるとコイツみたいに隙だらけになるぞー」


 右手にある草むらから、矢が俺の頭めがけて飛んでくる。それを頭を下げてかわし、そのまま足元に落ちていた握り拳ぐらいの石をすくうように投げつける。


「フゴッ」


 もう一人のハイエナ男の頭が見えた所に、右ミドルキックをぶち込む。かがんでいたから頭ドンピシャだ。


「あとなー。速い相手には、こいつみたいに頭を狙うんじゃなくて足とか胴体を狙って撃つんだ。動きさえ止まれば、どうとでもできるからな」


 泡を吹いた二人目のハイエナ男の腕を掴んで、草むらから引きずり出しながら振り向くと、ペタがものすごい勢いで目を開いてこっちを見ている。いや、確かによく見とけとは言ったけど、怖い、目が怖い。


「おおおおおおおおおおおおお」


 おかしな鳴き声を出している。どうした?野生に目覚めたか?


「ハルキつよいな!おおおおお!」







 ペタの興奮がある程度おさまった所で、木に巻き付いていたつたを使ってハイエナ達を後ろ手に縛った。あと足首も縛っておく。パワーがありそうだったので念のため多めにグルグル巻きだ。


 二人目のハイエナも真っ赤な毛皮のベストを着ていた。仲良く気を失っているペアルックのハイエナ男……ああ、また面白くなってきた。これは残しておくべきだ。


 スマホを取り出し写真を1枚撮っておいた。ペタがすぐに嗅ぎつけてのぞき込んで来る。もうコイツが次に何て言うか読める。


「まほうだ!」当たった。


「これは触ったら駄目だからな。これは魔法使い以外が触ると、命を吸いとる魔法の道具だ」


 ぐいぐい腕を引っ張ってくるペタにそう言うと「ひいいいい」とか言いながら後ずさっていった。悪いけどスマホは壊されたくない。……おい、木の後ろに隠れるなよ。


「ところで、こういう盗賊?ってのは、この辺じゃどうするんだ?」


 聞くとペタはススススと近づいて来て、


「ころすか、町につれていっておかねとこうかんするんだ」と言う。


「殺すのはちょっとなぁ……ちなみに、ここから町までどれぐらいかかるんだ?」


「はしったら、ふつかでつくぞ!」


 ピース!みたいに指を2本立てて教えてくれた。走って2日……ないな。ない。歩いたら倍以上かかるだろそれ。しかもこんなペアハイエナまで連れて行ったらどれだけかかる事か。


 かと言って、このまま放置していったらまあ死ぬよな……暑いし。暑いのにこんな服装してるし……ププ、アホだわこいつら。


「よし、じゃあ逃がすか」


「ころされそうだったのに、ころさないのか?」


「俺は、出来るだけ人殺しはしたくないんだよ」人、だよな?


 ペタは「ふーん」とだけ言うとハイエナ達が持っていた道具類をあさり始める。日本人だった俺には分からないけど、そういうのが当たり前なんだろうな。ちょっと気持ちを切り替えて行かないと……やられる前にやる、か。


 それはそれとして、俺もこいつらの持ち物で欲しいものがある。弓矢だ。もらってもいいよな?正当防衛だし。盗られる前に取るだけだ。


「ペタ、弓と矢だけもらっていいか?あとは好きにしていいから」


「おおお!ハルキふとっぱらだな!オダイジン!」だからその言い回し……


 ペタは剣と、弓を使っていた方が持っていたナイフをがしっと握ってホクホク顔だ。さて、じゃあ起こすか。と思ったらペタが小さな袋を差し出してきた。


「ハルキ!これはこどもがもってたらダメなやつだ!」


 袋を受け取って中をのぞくとジャラっとコインのような物が入っている。日本の硬貨みたいに真ん丸じゃなくて、いびつだが……お金か。


 銀色のコインが2枚と……あとは茶色、銅貨か。まあ現金はあった方がいいよな。でも、盗賊のだとはいえお金ってのは盗んだみたいで気がとがめるな。今更だけども。


「うし、じゃあこの銀色のやつを1枚やろう」


「なんだってー!こどもにぎんかは、はやいぞ!」


「いいから、取っとけ。村の人には内緒だぞ。町に行ったら何か食え」


「おおおおおお!じゃあもらう!」


 ペタは銀貨を陽に当ててキラキラさせている。目もキラキラしている。悪いなペタ……これで共犯だ。俺の心の安定のために犠牲になってくれ。


「じゃあ、こいつら起こしてやってくれるか」


 お金の入った袋をバックパックにしまいながら言うと、


「わかった!」銀貨をポケットに突っ込むとタッタッタと離れて行くペタ。


「うおおおおお!とうっ!」助走をつけてからのジャンプだ。


 ペタの小さな足は、剣を持っていた方のハイエナの鳩尾みぞおちに見事に突き刺さった。


「ぐぼほっ!」おお、起きた起きた。死ななくて良かったな……


 目を覚ました方に声をかける。


「よう、おはよう。大丈夫か?」


「グフッ……ぅぅ、大丈夫じゃねえ……この野郎」


 そのダメージを与えたのは俺じゃないから、そんな目で見ないで欲しい。隣から「とうっ」という声と「げふぅ」という声が聞こえた。ほら犯人はそっちです。


「てめぇ、俺たちが赤獅子盗賊団あかじしとうぞくだんだと知って、こんな事してやがるんだろうな」


 なんか、ちょっと恥ずかしい名前が出てきた。


 アレか?赤獅子あかじしだから赤い毛皮着てるのか?じゃあその毛皮はライオンか?それともお前がライオンなのか?ハイエナだよな?……まあツッコミどころは色々あるが、もういい加減、時間を取られすぎだ。さっさと終わらせよう。


 頭の中で組み立てておいたストーリーを語りだす。


「お前らこそ相手が悪かったな」


「なん……だと、何者だ?」


 うむ、良い顔で食いついた。スマホの画面をハイエナに見せる。もちろん見せるのはこいつらを撮った写真だ。


「こっ……これは、俺らか!?なんだあこりゃ、どうなってやがる!」


 良いリアクションだなあ。できるだけ悪そうな顔をしながら、続ける。


「俺は最近、この森に引っ越してきた、魔法使いだ」


 うん、これしか思いつかなかった。ハイエナは口をポカーンと開けている。ダメか……?ペタが散々言ってたから、そういうのがいると思ってたんだが……駄目なら別の手を考えるしかない。今はそのまま続けよう。


「この板の中に、お前らの魂を、えーと、閉じ込めた」


「なっ、なんだとぉ!?」


 効いてる。手応えを感じたので胸を張る。もう一人の方にもスマホを見せる。おおビビってるビビってる……ペタがいない。あいつまた木の陰に……


「……で、だな。お前らはこのまま逃がしてやる。でも、そうだな……朝だな。朝までにこの森を出ろ。そうすれば魂を返してやる」


「ま、間に合わなかったら?」


「死ぬ」


 ハイエナ達の顔が真っ青になった。まあ実際は毛で覆われてて分からないが、イメージ的にそんな感じだ。


「というわけで、足だけ自由にしてやるから、急いで森から出ろよ?」


 二人とも首を縦にブンブン振っている。どうやら成功したようだ。


「ああ、それとお前らが持ってた武器と、お金、没収な」


 縦にブンブン。ちょっと罪悪感が薄れた。


「よし、じゃあほどいてやる。ペター、ちょっとナイフ貸してく……れ?」


 ペタは木の陰でプルプル震えている。耳もペッタリだ。仕方ない……ペタのそばに寄って小声で話しかける。体ごと引くなよ。


「嘘だよ嘘。あいつらを森から追い出すだけだ」


「うそなのか?ほんとうにうそなのか?」


「そうそう。嘘だ、ホントに嘘だ」ややこしいな。


「しんじる!」


 ペタは素直でいい子だなー。そのうち悪い奴にだまされそうだ。俺は悪い奴には入ってはいない。


 ペタからナイフを受け取るとハイエナ達の足の蔦を切ってやる。


「ほれ、急げ急げー、時間がないぞー」


 パンパンと手を叩くとハイエナ2人組は必死で逃げて行った。手は後ろにくくったままだから走りにくそうだな。あ、木にぶつかった。あ、こけた。


「なあペタ。この森って今から急いだら、明日の朝までに出られるか?」


「ぎりぎりだな!」


「そうか。ギリギリか」


 悪い事した気になってきた。




読んでくださってありがとうございます。


戦闘能力が垣間見えました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ