第53話 鳴き声
めっちゃ怒られてます。
「アンタ、あんな目立つような事したら、警戒されるだろうが」
「ごめんなさい」
「どこに1人であのモンスターを運べる人族がいるんだよ」
「ここに……ごめんなさい」
グラウンドではマントを羽織ったハイエナ族達が、土に残った血なんかをシャベルで削り取っている。そして俺は通路の奥の方でライオン姉さんに怒られている。
「ああ、もう。この後、2倍働いてもらうからね。もし標的が逃げたらアンタ1人で捕まえてもらうよ」
「そんな……はい、分かりました。ごめんなさい」
まあそうだろう。俺の軽率な行動で計画が台無しになる所だった。いや、もう失敗したかもしれない。死んだ人達の事を考えたら、切腹したって割が合わない。
もちろん、死にたくないから、そうなったら騎士団全員でも相手にして責任をとる。まあ、それで死ぬかもしれない。どっちも嫌だ。
「姉御、もうそれぐらいにしてやってくだせえ」
荷車に土を積んで戻って来たハイエナ族の1人が言う。扉も閉められている。
「最後まで戦って死んだんだ。アイツの為にも、あのモンスターも一緒に送ってやっても良いと思いますぜ」
なんか理屈は良く分からんけど、この兄ちゃんは味方してくれるようだ。よし、後で一緒に働こうな。2倍。ハイエナ族の兄ちゃんは上を指さして言う。
「それに、ツグラの野郎は、のんびりと酒飲んでまさあ」
そうか、呼びにくい名前野郎、逃げなかったか。じゃあ俺無罪。
そんな俺の様子がバレた。ライオン姉さんはなんだかムッとした顔で、
「何、満足げな顔してんのさ。たまたま、野郎の目に留まらなかっただけだろうが。金、返してもらおうかねえ」
「無理です。もうないです」
「はぁ?もう使ったのかい?何だよアンタ、家でも買ったのかい」
ライオン姉さんは呆れ顔だ。てゆうか、アレって家買える金額だったのか、俺換算、ちょっと間違ってたかもしれない。そしてワイなんとかの革、超高い。
「姉御、そろそろ休憩も終わりみたいですんで、それぐらいで」
ハイエナ族の1人がタイミング良く声を掛けて来る。なんだか、男達が優しくなった気がする。パワーか、やっぱりパワーを見せたからか。男は大体、筋肉に弱い。いや、マッチョな男性がお好きな男性って意味じゃなく。憧れる感じだ。
ライオン姉さんは不満そうな口調で、
「全く、男共の考える事はアタシには分からないよ。仲間意識芽生えちゃってさ」
ブツブツ言いながら、覗き穴に向かって行った。
そうか、男連中は、ああいう何か衝動的に動く感覚に共感してくれてたのか。強敵と書いて、とも、とか読む感じか。うん、俺もちょっと分からない。でも優しくしてくれるならありがたい。
場内の掃除の間、ショーは休憩になっていた。賭けは終わったからもう観客は帰っても良さそうなもんだが、やっぱり偉いさんが来てるから帰りにくいんだろう。結構ザワザワとしている。見えないが。
無実の罪やら、実際の罪やらで処刑されてしまった15人は、墓場の広い所に寝かされている。後で、きっちり弔うそうだ。太陽神とやらに祈るんだろうか。まあそういう祈りってのは残された人間の為にやるもんだ。神様がいようといまいと関係ないだろう。
1つ言えるのは、真上で偉そうに酒を飲んでるとかいうバカの罪が15人分増えたって事だ。ここの法律では裁けないだろうが、地球だったらそれこそ死刑だ。なんだかライオン姉さんを止める気がなくなってきたな。……いや、駄目だ。それとこれは別だ。どんなにバカらしい法律でもなくなったら無法地帯だ。
『只今より第2騎士団所属、中隊長、グラムの処刑を執り行う』
最初に聞こえた声だ。始まるか。俺も覗き穴から外を見る。今回は最初から全員が覗いている。騎士は嫌いだろうからな。
いつの間にかグラウンドの中央に剣が1本突き立っている。騎士の場合はルールが違うのか。切腹か?
正面に見える扉が開き1人の虎族が出て来た。鎧は着ていない。ん、アイツもしかして……
「アンタを見つければ、助かったらしいよ」
ライオン姉さんの囁きで確信を持った。アイツだ。中隊長虎だ。
『罪状。騎士同士の私闘、殺人。及び軍令違反』
あいつには同情してやれない、悪いが。ちょっとやりすぎたし、俺も捕まる訳にはいかなかった。狐族の村の為にも。
中央まで歩いて来た中隊長虎は、地面に刺さった剣を抜く。そのまま少し顔を上げて俺達の真上を見つめる。自分の所のトップがいるからだろう。俺は顔を見られない様ように少しうつむく。今、ここで見つけたとか騒がれたら面倒だ。
『最期に何か言いたい事はあるか』
バカの声が聞こえた。アルコールの臭いまでしそうだ。だが、中隊長虎は何も言わず背を向けた。納得はしてないのか。
右奥と左奥、両方の扉が開く。やっぱりモンスターか。だが剣があるって事は、戦って死ねって事なんだろうな。騎士も大変だな。
だが、扉から出て来たのはモンスターじゃなかった。思わずライオン姉さんに声を掛ける。
「おい、なんでここで人族が出て来るんだ?あれも罪人とかなのか」
2つの扉から出て来たのは、狼のような、犬のような顔をした人族だ。ハイエナ族に似ているが、体が一回り大きい。もしかして今まで見なかった犬族か?
それが合わせて4人。上着は着ていないが、みんな剣を持っている。処刑人なんだろうか、だが中隊長虎も剣を持ってるぞ。死ぬぞ?
「何、言ってんだい」
ライオン姉さんの答えは、俺を何度目かの混乱に叩き込んだ。
「ありゃ、モンスターだろうが」
4人の犬みたいな人族、いやライオン姉さんに言わせればモンスターか、そいつらはじりじりと中隊長虎を包囲する陣形をとっていく。
俺は混乱の中にいた。狼やサーベルタイガーをモンスターって呼ぶのは分かる。だけどあれは、どう見ても人だ。剣も持っているしズボンも穿いてる。そして連携をとって動いている。
毛有りの人族との違いが分からない。虎族だって、猫族だって、ここにいるハイエナ族だって、あんな感じじゃないか。
中隊長虎の背後に回った犬の人が斬りかかった。だが剣を止められ蹴り飛ばされる。すぐに体勢を立て直し再び包囲を固める犬族……らしき4人。
ライオン姉さんが、何かに気付いたように話しかけて来る。
「ああそうか。ゴブリンも知らなかったんだ。アンタは知らないのか」
少し爪を噛みながら続けるライオン姉さん。
「ありゃ、コボルトっていうモンスターだよ。あいつらのせいで、ハイエナ族は迫害されるのさ。似てるってね」
一緒にいるハイエナ族も憎々しい目で見つめている。
今度は背後と左右3人同時にかかって行く犬族……いや、コボルト?
流石に全ては受けきれなかった中隊長虎の肩から鮮血が飛ぶ。だが力づくで弾き飛ばす。
そのまま正面で構えているコボルトに斬りかかる中隊長虎、それを剣で受け止めると同時に仲間に向かって何か叫ぶ正面の奴。何を言ったかは分からない。が、同時に残りの3人が動く。
中隊長虎は剣を振り回して応戦するが、4方向からの攻撃は捌ききれない、じわじわと服が血に染まっていく。
「ちっ、やっぱりコボルト共は連携が上手いね。あの鳴き声で合図し合ってるんだろうね」
ライオン姉さんが言っている意味が分からない。鳴き声って何だ。明らかに喋ってるじゃないか。言葉が違うだけだ。日本人に、英語が通じないのと一緒だ。
中隊長虎の剣が、コボルトの1人を捉えた。肩を貫かれうずくまる。頭上に振り上げられる中隊長虎の剣。やられそうになったコボルトが叫ぶ。
「助けてくれ」
俺にはそう聞こえた。いや、実際には違う言葉だ。分からない。でも、目がそう言っていた。しかし、剣はコボルトの肩から腹までを切り裂いた。
そして、その隙を突く様に3本の剣が中隊長虎の背に突き刺さる。
血を吐きながら崩れ落ちる中隊長虎。
生き残った3人のコボルトは肩で息をしながら、倒れた仲間を見下ろしている。口が動いている。何か話しかけているのか。祈っているのか。
「さあ、ここからが本番だ。気合入れな」
ライオン姉さんが檄を飛ばす。俺以外の全員が、頷く。
残ったコボルト達は騎士に追いやられて扉の中に戻って行った。俺とライオン姉さん以外は、再び場内を片付けに出た。
「どうしたんだい?今更、怖気づいたとかはナシで頼むよ」
ライオン姉さんが俺の肩を叩く。
「ああ、それはない」
返事をする、今は余計な事を考えてる時じゃない。この星が俺の常識で測れない所だってのは分かってたはずだ。
常識が違うんだ。
俺は、あの時に抱いた違和感の正体にようやく気付いた。
あの時ってのはゴブリンと戦った時だ。最初、俺はあいつらも人族だと思った。武器を使い服を着る。だが襲って来たから返り討ちにした。その事に後悔はない。俺だけじゃなく、一緒にいた皆やペタの命を助けたかったからだ。
だけど最後の1匹、ボスみたいな奴をやる直前、あいつは何かを言おうとした。鳴き声じゃない。何かを喋ろうとした。その目が語っていた。
「助けてくれ」と。
さっきのコボルトを見て思い出した。違和感の正体はこれだ。
あいつらは、コボルトもゴブリンも、人だ。モンスターじゃない。
いや、ここの常識では違うんだろう。なぜなら、ここらで人族ってのは「言葉を喋れる者」だからだ。
同じ言葉さえ話すことが出来れば、それが「人族」なんだ。例えばあの紳士な亀さんみたいな6足歩行でもだ。
地球なら違う。言語が違っても人間はみんな人間だ。人間は種族としては1つしかない。人間という種族か、それ以外かだ。
判断基準が違う。この星では共通語を話せる種族がとにかく多い。宇宙人が、ご先祖様をそうイジったからだ。だからこそ種族ではなく、共通語を話せるかどうかで判断する。
だけど例えば長い世代、他の種族と交わらなかったり、元々の脳の機能が複雑な言語に対応できなかったらどうなる?
元々話せない種族は、当然、動物かモンスターに分類される。そして、話せたが世代交代で少しずつ言葉が変わったりしてしまえば、これも同じだ。
おそらく、コボルトってのはそれだ。独自の言語になってしまっている。だからモンスターとして扱われる。俺からすればあれは「犬族」だ。
ゴブリンもそうだろう「緑の小人族」だ。
一部の猫族の方言だという、語尾にニャがつくのも、あと何百年かすれば別の言葉になるかもしれない。そうなれば、その猫族はモンスター扱いになる。
この星の人族はそれを知らない。元々この星には1つしか言葉がないんだから、知る訳がない。気付けるのは無数の言語がある地球から来たばかりの俺だけだ。
石で出来た通路内に、金属の錠を外す音が響いた。この通路の中で唯一の横道に続く扉が開かれる。
「行くよ」
ライオン姉さんの声で、フードを深く被り直す。
中隊長虎の死体だけを乗せた荷車を、俺とライオン姉さんと、あと2人のハイエナ族で引いて行く。ここからは4人しか入れない。
この先には、簡易的な教会があり、騎士はそこで神に召されるとかなんとか、そういう儀式をする。
その場にはヤツが来る。騎士団のトップ、副総長のアレだ。くそ、名前なんか飛んじまった。
荷車を引く自分の手を見る。この星の仕組みに逆らうつもりはない。襲って来る相手なら俺は排除できる。誰かを守るために戦える。そうしないと死ぬからだ。だけど、
俺の常識の中では、俺は既に100人以上をこの手で殺している。
読んでくださってありがとうございます。
重い。早くモフモフしたい。いや作者次第なんですが。




