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惑星の魔法使い  作者: モQ
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第5話 煮干しとか、牛乳とか ~地球~

美咲みさきっちー、部活あんの?今からカラオケ行かない?」


 中学校からの友達のユマちゃんが声をかけてきた。


「ゴメン!今日はちょっと用事があるんだー」


 私がカバンに荷物を詰めながら謝ったら、ユマちゃんはニヒヒって音がしそうな笑顔で、


「おー、そっかそっか。美咲っちはオニーサンとデートかー」


 って言ってきた。違うから!大体、お兄さんとかじゃないし!従兄いとこだし!


「もー!急ぐから行くね!また後で連絡するから!」


 ニヤニヤしているユマちゃんを置いて教室から飛び出す。帰る人や部活に行く人で廊下は結構、混雑してる。もう急いでるのに。


 と、思いながらも早歩きで人込みをすり抜けて行く。


「美咲ちゃん帰るの?バイバーイ」「うん、またねバイバイ」


嘉納かのうさん、今日から部活……」「あ!すいません先輩!今日は休みます!」


「美咲ちゃん!良かったらボクと……」「間に合ってます」


 自転車置き場に急ぐ私に結構、声がかかる。ほらそこそこ人気者じゃん。


 ハル君はあんまり信じてくれないけど……そう、ハル君!ハル君のせいだ!


 私がカラオケも断って部活まで休んでこんなに急いでるのはゼーンブ従兄のハル君のせいだ!まあ、カラオケ行ってたら部活はサボる事になってた訳だけど!


 今日はハル君がこの学校に1年生として入学してくる……はずだった。


 だったのに、なんとハル君、入学式からサボった!正直びっくりですけど!?朝、校門で待ち合わせって行ってたのに来ないし電話にも出ないし!


 私は昨日から2年生になったから今日は通常授業だった。新1年生は今日が入学式。


 お昼休みに見に行ったら、もう1年生はみんな帰ってた。先生に聞きに言ったら逆に「日向ひむかい君来なかったんだけど」って言われた。


 昨日の夕方、引っ越しの手伝いに行ってあげた時にちゃんと念押ししといたのに……しっかりしてそうで結構、ボーっとしたとこあるから少し不安はあったけど、まさか昨日の今日で入学式忘れたとか!?ありえないけどハル君ならありえる!


 いいよ、歯ブラシもシャンプーも、洗剤もトイレットペーパーも、全部買うの忘れてたみたいだけど、それは百歩ゆずるよ。でも入学式忘れちゃダメでしょ!


 っとと、自転車置き場に着いてた。キーを差し込んで自転車を引っ張り出す。誰のか分かんないけど他の自転車が引っ掛かっててモタついた。




 校門を飛び出して、いつもと逆方向にペダルをこぐ。こっちには普段あんまり来ないけど大きな川があって、そこを渡ればハル君のマンションに着く。川のあっちとこっちでは、だいぶ家賃が違うんだって。ハル君はそんな事を言ってた。


 お父さんも、お母さんも、もちろん私もこのままウチにいればいいのにって言ったんだけど、ケジメとかいって高校に入学するタイミングでウチを出た。


 確かに……ハァ……そりゃ、ハル君は……ハァ、中学校卒業してからハァ……すぐにアメリカに行って……ハァハァ、自分でお金をかせいで……ハァハァゼェゼェ。ああっ無理だ!自転車押そう。


 もう、なんでこんなに土手まで登る坂長いの?ああ電動自転車で登っていくお母さん達がうらやましい。




 ハル君は私が小学校に上がった時ぐらいにウチに来た。ハル君のとこのおじさんは警察官だったらしいけど、何かあって亡くなったって聞いた。あんまり詳しい事は聞いてないし、聞けなかった。おばさんの方は本当に何も聞いてない。


 私は1つ上のお兄ちゃんが出来たみたいですごく嬉しかった。小さい時はずっと後ろを付いてまわってた。ハル君はすごかった。おじさんの影響でやってたらしいけど、小学校の時に空手で全国優勝した。私の自慢だった。


 ふぅ、やっと土手まで登れたー!やっぱり広い川だ。河原も広い。ランニングコースもあるし、野球とかサッカーができるグラウンドもいっぱいある。


 ここからは自転車に乗って橋を渡る。風が気持ちいい。


 あ、川で思い出した。そういえば中学校に入ってハル君は空手をやめて、キックボクシングを始めた。プロになるんだって言ってた。


 そのころ私は、ハル君が毎朝、私が起きる前にこの川まで走りに来てる事を知った。ウチに来た頃からずっと続けてたらしい。


 すごいよね、普通毎日なんて出来ないよ。そんなこと出来たら、私だったら今頃モデルさんになれてると思うよ。もうちょとだけ身長があれば……


 橋を渡り切った。ここからは下り坂だ。一気にぐわーーっと……下りたくなる。でも!私はまた自転車を降りて押す。ふっふ、知ってるんだ。途中でカーブしてるから、反対側から人が来たらすごく危ない!うん。昨日と同じ過ちは犯さない……


 よし下りきった。ここからはまた乗ってくぞー!待ってろハル君!




 ハル君伝説は、アメリカに行ってからがすごかった。ラスベガスで、ナントカってゆうソウゴウカクトウギ?の団体の史上最年少チャンピオンになっちゃった。


 日本でもちょっと話題になったし、私は通販でハル君グッズを買ってユマちゃんとかにいっぱい自慢した。そういえば、その時のステッカーを昨日マンションのドアに貼っといたけど気づいたかな?ぷぷ。


 電車の高架をくぐる。もうちょっとでマンションのはずだけど……このあたり、ごちゃごちゃしててわかりにくいよね……この路地をこっち。あれ?違った。




 ハル君が急に日本に帰ってきたのは去年の秋。飛行場まで迎えに行ったら、出てきたハル君は松葉杖をついてた。ケガで、もう引退だって笑ってた。私は泣いた。


 その後、最近まではウチにいた。中卒でケガまでしてると仕事がないからって、ウチの高校に入る事になった。ハル君は1つ年上だけど学校では後輩になる。


 と、思ってちょっと、いや、めっちゃ楽しみだったのに……入学式さぼった!あーまたイライラしてきたぞ!マンションに着いたらお説教だ!あとパフェおごらせる!マンションどこだ!




 ハル君は高校卒業までに歩けるようになるって言って、昔と同じように毎朝トレーニングウェアを着てどこかに行ってた。多分あの河原にいってたんだろうな。


 いつもちょっとだけ煮干しとか、牛乳とか持って行ってた。バレてないつもりだったんだろうけど、みんな気付いてたんだからね。あれは多分、野良猫にあげてたんだと思う。どこの公園に行っても猫に囲まれてたもんね。アレーナンデカナーとか言ってたけど、目が泳いでいたのは誤魔化ごまかせない。


 あった!マンション発見!こんなに時間がかかるとは……。


 見た感じ古いマンションだけど、部屋はリフォームでキレイなんだよね。あとキッチンがすごい!カナダかどこかの設計なんだっけ。カウンターキッチンがオシャレなのが気に入ったって言ってたし、わたしも気に入った。


 たまに来てやろうと思って、合いカギちょうだいって言ったら、すんなりくれた。決して無理矢理じゃない。


「あ、どうも今日こんにちはー」ニコッ。


 お隣さんだ。ちゃんと挨拶しとかなきゃね。笑顔にはちょっと自信があるんだ。そういえば、ハル君はご近所さんに挨拶で渡す物も用意してなかったなぁ。まあ私のスマイルで許してもらったけどね。……今のお隣さんパグに似てたな。


 おっよしよし、ステッカーはがしてないね。ハル君は毎朝運動に行くはずだから気づいてないってことはないハズ。さてお説教タイムの始まりですよ!


 ピンポーン ……ピンポンピンポーン


 でない……居留守いるすですか?お説教2倍カクテイ。あとケーキも追加ね。だいたいカギあるんだから居留守の意味ないよね。


 カチャッ


「おーい。サボリのハルキ君やーい。どこですかー」


 返事がない……何?カーテンも開いてないし電気も点いてない。出かけてる?


 でも、私が去年のクリスマス……じゃなくて、誕生日にあげたスニーカーも置いてあるし、松葉杖もある。いる……よね?トイレかな?上がっちゃうよ~?


 いない。トイレにもお風呂場にもいない。マジどこ?松葉杖無しで外に出たりしないよね?あ、わかった!ベランダだ!


 カーテンを勢いよく開けて、見えたのは遠くに建っている背の高い電波塔だけ。


 ハル君は行方不明になった。




読んでくださってありがとうございます。


従妹ちゃんでした。色々教えてくれました。

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