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惑星の魔法使い  作者: モQ
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第32話 小さくてコロコロ

 あら!臭くない。何かしらこの爽やかな香りは。いや香りまではしないけど。


 昨日洗って室内干ししていたTシャツやパンツがカビ臭くない。そしてちゃんと乾いている。まあ、破れない伸びないを信じて思いっきり絞ったから、乾くのは分かるが、まさかの除菌、抗菌効果みたいな物も付いてるのか?


 分からん。分からんがこれは助かる。隙をみてトレーニングウェアも洗ってやろう。ジャージ生地は速乾性に優れている。思いっきり絞れば、着ている間にすぐ乾くだろう。生乾きのあの臭いがしないなら気になる事は何もない。パジャマ代わりの服は要らないかもしれない。


 とはいえ、ペタのズボンは何か買わないと。さすがにこれは絞ってもすぐ乾かないだろうし、かと言って幼い女の子にTシャツだけ着せて下は何もなしとか完璧に犯罪だ。


 まあそういうニーズがごくわずかに存在する事は知っている。だが実際にそれをやればどうなる?ここが日本なら明日の朝刊からワイドショーまで俺の顔がデカデカと報道される。いや日本では未成年だから顔は出ないか。だがネットにはさらされる。そもそもメディアには既に別件で顔を出してしまっている。堕ちた格闘家、少年Hの隠された性癖。週刊誌の見出しが電車の吊り広告に踊るぞ。少年HのHは名字だろうか、名前だろうか?日向悠生ひむかいはるきだから分からない。とにかく俺はもう外を歩けない。そのままニートまっしぐらだ。誰が養ってくれるんだろう。国か?国が犯罪者をそこまで守ってくれるだろうか。


「こんな事になるなら尻尾穴の1つや2つ開けてやれば良かった」


「きゅ、急に、何を言ってるんでさあ?」


 目の前には朝飯を運んで来たハイエナ1、2のどっちか。まさか、いつの間にか部屋を出て食事を注文して、その食事が出来上がっているとは。新記録だ。ペタはトイレに行っていた。確か。


「ふ……服の話なら、中央通りに店が何軒かあったと思いやすぜ?」


 思わぬハイエナから店を教えてもらえた。後で寄ろう。そして次にウチの部屋に戻れた暁にはペタにもう1着ズボンを進呈しよう。乾きやすいジャージのハーフパンツでいいだろう。


 朝飯は運ばれてきたがペタはまだだ。先に食っててもいいが何だか怒りそうだ。立場が逆なら俺の分まで食いそうだが。


「ごはんだ!」帰って来た。


 俺の肉と自分の肉をじーっと見比べている。


「ハルキのにくのほうが、ちょっとおおいぞ!」


 待っててやったのに難癖つけてきやがった。俺は黙って皿を入れ替えてやる。満面の笑みのペタ。残念ながら、多分そっちのほうが小さい。見る角度の問題だな。まだまだ青いなペタ。


 俺達が飯を食い始めると、奥からマスターさんが出て来た。あれ?どこか行くんだろうか、いつものエプロンは着けていないし背負い袋を持っている。腰からは剣まで下げている。


「おう、坊主に嬢ちゃん、悪いがしばらく出る事になってな。宿は続けるが、しばらく飯は作ってやれねえ」


 俺達も今日出るからそれはいいんだが、ハイエナが辛そうな顔をしているぞ。


「宿は、そいつらに任せるんですか?」


 俺がハイエナの方をちらっと見ながら聞くと、マスターさんは笑って、


「そんなわけねえだろ。ウチのハニーに任せてあるからよ」


 はにー?


「アナタ、お弁当忘れてるわよ」


 奥からスゴいのが出て来た。身長2メートルの虎族だがピンクのフリル付きのワンピースにエプロンを付けている。声が高目じゃなければ女とは分からない。奥さんなのか?虎族すげえ。俺より力ありそうな女性は初めて見た。


「おお!悪いなハニー、しばらく寂しい思いをさせるが子供たちを頼んだぞ」


 目の前で猛獣達がなんだかイチャイチャし始めた。怖い。縄張り争いしてるみたいに見える。多分あのカワイイ刺繍ししゅうはこの奥さん作なんだろうな。ペタが目をキラキラさせながら見ている。子供には刺激が強い。手を伸ばしてペタの目を塞いだ。だが俺にも別の意味で刺激が強い。サファリパークには車がないと。


 ひとしきりイチャイチャすると、マスターさんは出て行った。


「そういや坊主、お前にデカい方の肉を出してやったんだが、お嬢ちゃんにやったのか。お前いい男だな」


 と、置き土産を置いて。食欲でペタに勝てると思った俺が青かった。






「昨日すごかったわね!見た?アナタ見た?私なんかもう目の前で見ちゃって大変だったわあ!騎士様同士の斬り合い!いーや、あれは斬り合いじゃないわね、あの中隊長さんが一方的にやっちゃったもんねえ!でもその後のマスターさんのパンチもすごかったわねえ!さすがだわ!最初はね、なんだか宿の方が騒がしいってウチの主人が見に行ったんですけどね。なんでも魔法使い族を探しに行くとか行かないとかで揉めてたらしいわよ!魔法使い族よ、魔法使い族!この辺じゃもう伝説よね!そんなのが出て来たのね!騎士様を怪我させたのはきっとその魔法使い族だったんだわ!怖いわー悪い魔法使い族なのかしらねえ!」


 リンゴを買いに来た八百屋でおばちゃんに捕まった。途中でペタが何か言いたそうにしていたので、口にリンゴをねじ込んで黙らせた。


 この村で情報が欲しかったらまずこのおばちゃんだな。ちょっと多めにリンゴを仕入れて背負い袋に入れておいた。他にもパンや干し肉も買ってある。そのまま入れると毛皮が汚れるかもしれないので、スーパーの買い物袋に入れてからだ。役に立ったなスーパーの袋。これも伸びないし破れない。スーパースーパーの袋だ。


 騎士の泊まっていた宿の見えるベンチに座ってリンゴをかじる。俺の横には両手のリンゴを交互にかじるハムスターが座る。宿には昨日の惨状の跡がまだ残っている。扉も壊れたままだ。あの後どうなったんだろう。


 しかし、やっぱり魔法使い族については完全にれたか。ここからは、俺がソレであるという事を徹底して隠さないといけない。死んだ騎士達には悪いが、俺の顔と魔法使い族が繋げられるのは、狐族以外ではあの中隊長虎だけになった。アイツどうなるんだろう。牢屋にでも入ってくれれば助かるんだが。


 俺の隣に忍者が座った。ペタとは反対側だ。


「ハルキ様。先程、騎士が町に護送されて行きました」


「そっか。あ、リンゴ食う?」


 隣に座ったのは昨日の狐族の狩人のおっちゃんだ。リンゴを1つ渡してやる。あの中隊長がもう村にいないからこうやって堂々と俺の隣に来た訳か。呼び方が魔法使い様じゃないあたり、ちゃんと気を使ってるな。でも「様」は付くのか。


「ありがとうございます。頂きます。騎士を護送してシャリ行ったのは、この村のモグモグ衛兵の一人と、他にシャクシャク大柄の虎族の男でしたング」


 狐族はみんな食う時のマナーがひどいな。こんな真面目な顔して真面目な話してるのに聞き取りづらいわ。ペタの方をチラッと見ると、


「なんだムグムグ。これはペタのゴックンぶんだぞ!」


 口に物を入れて喋っちゃいけません、ってお母さん言ってたよな?あれは何だったんだ。一度広場に全員集めて教頭先生のお言葉として話してもらうべきだな。校長先生は本人もやっていたから役に立たない。


「えーっと、その護送していった大柄の虎族の男って目の下に傷がなかった?」


「ゴクン……ええ、確かありましたね。ご存知なのですか?何者でしょう」


 おっちゃんも芯まで飲み込んだ。しかし傷があったか。やっぱマスターさんだな。


「俺達が泊まってた宿のマスターなんだけどな、なんか訳ありっぽかったな。ほら昨日、あのバカ騎士を殴った人、見たよな?」


 それを聞いて、狐族のおっちゃんもなるほどという顔で頷いた。


「虎族ですし、騎士団に何か関係ある人だったのかもしれませんね」


「え、騎士団って虎族ばっかなの?」


「ええ、正式な騎士は全て虎族です。その下には多様な種族の兵士がいますが」


 そうか、虎族自体が特権階級な位置にいるのか。まあ明らかに他の種族に比べて戦闘能力が高いもんな。銃やミサイルでもあれば関係なくなるだろうけど、剣で打ち合う文明じゃ単純に力が強い方が有利だわな。


 と思う俺の頭にはマスターさんの奥さんが浮かんでいる。女性でもその辺の兵士より強い絶対。


「我々はこれで一旦、村に戻ります。お気をつけてハルキ様、ペタ」


 おっちゃんが立ち上がる。


「ああ、アンタも気を付けてな。エジャによろしく」


 ペタが立ち去ろうとするおっちゃんに手を振る。


「またな!プティ!」


「また村で会おう、ペタ」


 おっちゃんがペタの頭を軽く撫でて去って行った。


 プティ。あのおっちゃんがか!?おおう、これはキた。全然似合わない。前に紹介された時は10人以上一気に名前を言われた上に、かなり疲れていたから気にならなかった。


 プティ!小さくてコロコロしたイメージのプティ!この星は俺の精神に色々ダメージを与えてくれる。ああ、俺はアンタを忘れないよプティ。でも次会ったら顔をまともに見れる気がしない。


 情緒がちょっと不安定になって、プルプルしている俺のすそをペタが引っ張ってくる。コイツ今、俺の服で手拭きやがったな。


「なあなあ!つぎどこいくんだ!町か!」尻尾フリフリ。心が落ち着く……


 町に行きたいんだな、そんなに良いトコなのかね。まあ父親もいるしな。


「あ、うん。町は行くけど先に服屋に行こう」


「ふく?ふくならまにあってます」


「お前の寝る時のズボンを買うんだよ。同じ服でずっといたくないだろ?」


「ずっといっしょだぞ」


 うわこいつ汚ねえ。最後にそのズボン洗ったのいつだ。ウチで洗った時だろ。お前はパンツを穿き替えない独身男性か。というかこいつパンツ穿いてないんだよ。直ズボンなんだよ。これがこっちの普通なのか?田舎者だからなのか?とにかく俺は許しませんよ。


「いいから行くぞ」


「なんだ!むりやりか!ようじりゃくしゅか!たーすーけーてー」


 こら物騒な事を叫ぶな。皆さんの目がこっち向いてるだろうが。俺の肩に手がポンと置かれた。ヤバイ。


「おかしな騒ぎを起こさないでほしいニャ」


「すみません……気を付けます」






 ペタに古着の子供用ズボンを買った。ちゃんと尻尾穴も開いているやつだ。


 危うく犯罪者になる所だった。顔見知りの兵士さんで良かった。あのニャの兵士さんは俺とペタが一緒に村に入ったのを覚えていた、じゃないとヤバかったぞ。


「いまのやつのほうが、はきごこちがいいのに」まだ文句言ってる。


「寝る時だけだから。ズボンもたまには洗わないと、かゆくなるぞ」


「川にはいったらきれいになる!」


 その結果が、最初に着ていたボロボロの服につながるわけだ。俺がちゃんと管理しよう。両親は健在だから、俺はこいつのお兄ちゃんだと思って接する。


「外ではそれでいいから。町とか村の宿屋に泊まる時だけ、な」


「むー。わかった」


 渋々ながらも首を縦に振ってくれた。子供って大変だなぁ。この星に洗濯機だけでも広めてやりたい。電気がないから無理か。仕組みもよく分からんし。よく分からん物だらけの中で暮らしてきたんだな。俺。


 俺みたいな格闘技しか取り得のないバカじゃなくて、もっと何か知識や技術に特化した人間がこっちに来た方が良かったんじゃないか?まあそれじゃ文明を壊す事になるか。宇宙人もそういう部分で俺を選んだのかもしれない。バカだから。あ、またイラっとした。宇宙人のバーカ。


 目の前に町に続く出口が見えた。狸族の兵士さんが守っている。


「お勤めご苦労様でーす」


 軽く頭を下げておく。出る時は特に何も聞かれないんだな。まあ楽でいいわ。


「がんばってみはってくれたまえ」


 ペタがピッと手を挙げて偉そうに言う。また余計な事を。ほら兵士さんも苦笑いだ。いや、あれは微笑ましい目か。ペタの存在って結構、俺の怪しさを紛らわせてくれているかもしれない。


 怪しいという自覚はあるんだ。だってここまでで、耳と尻尾がモフってない人族は見ていない。服屋には尻尾穴のないズボンやスカートもあったから、そういう人族も居るんだろうが、多分、少数派だろう。村でもたまに視線を感じたもんな。


 俺の左手を握るペタがちょっと頼もしく思えた。あと、こいつは村でずっと手を繋いでいたからか、もう自然に手を握って来る。


 右手に背負い袋、左手にペタの手を握りながら、平原に伸びる道を歩き始めた。




読んでくださってありがとうございます。


主人公はロリではないです。たぶん。

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