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惑星の魔法使い  作者: モQ
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第30話 モデルに憧れられる体質

「おいおい、お客さん。そんなににらまないでくれねえかな」


 エプロン姿の大柄の虎族が大袈裟に両手を広げてそう言う。目の下に大きなキズが1つある。この雰囲気、間違いなく戦士だ。


 しかもメチャクチャ強い。勝てるか?


 だが、よく考えてみれば虎族、イコール騎士の関係者ってのは短絡的すぎたか。だいたいそんな人がこんなとこで宿屋の親父をやってる訳がない。これじゃ俺の方が不審者丸出しだ。




「すんません、ちょっとした勘違いです」


 少し頭を下げて椅子に座り直す。


「それにしても今の殺気はタダゴトじゃなかったぜ。虎族の誰かに嫌な事でもされたのかい」


 虎族の親父さんは、床で目を回しているハイエナをつまみ上げながらそんな事を聞いて来る。嫌な事ね。されたな。こっちもしたけどカワイイもんだ。


「ふはっほおほってへはおひひっへはーは!」


 ペタが口いっぱいに飯をつめこんだままフォークを振り回す。


「ペター」軽くにらむと、しまった。みたいな顔になって黙ってモグモグし始めた。


「ん?お嬢ちゃん、いま何だって?」


 虎族の親父さんが不思議そうだ。まあ今のは分からないだろう。


 ただ俺は分かったぞ。


『村をおそってエジャをいじめたんだ』だ多分。なんとなく分かるようになってしまった。そしてペタにはもうちょっと強く言っとかないとな。


「いや、ちょっと虎族の騎士様が、荒れてるという話を聞いたんで。まあ」


 なんとなくボカしとこう。これで納得してくれ。


「ああ、アレか。それでこんな村の端っこにある宿まで来たってわけか」


 虎族の親父さんはウンウンと頷いている。誤魔化せたか?


「お前さんら毛無しには、そりゃ俺らの見分けなんかつかんわなあ。まあ騎士連中も、ここには何もしてこねえから安心してゆっくりしてってくれや」


 まだノビているハイエナを引きずりながら奥に消えて行った。危ない危ない。ペタも俺も迂闊うかつすぎたな。


 ペタの方を見るとシュッっと目をらす。首まで横を向いている。耳まで入れるともう後ろ向きだ。それすごく不自然だ。まずいことがあるとわざとらしく目を逸らすのはペタの家系、伝統の癖なのか?


「ペタ、今のは俺も失敗した。二人とも気を付けような」


 俺がそう言うと、ペタはクルンと顔を戻してきて、


「おお、ハルキもしっぱいしてたのか。じゃあさしひきゼロだな」


 ちがうぞー。失敗は2つあったらマイナス2だ。やっぱり分かってないな。


 先に飯を食い終わったペタが、こっちの肉をじーっと見ていたので固いパンを口につっこんでやった。






 建物の裏手に、尻尾の焦げた馬が3頭(つな)がれた厩舎きゅうしゃが見える。そのうち1頭には角が生えている。鎧は外されて身軽だ。良かった、無事に森を出られたんだな。と、犯人である俺が思うのもどうかとは思う。


 騎士が泊まっている宿は、村の大通り沿いにあった。確かにあの虎族の親父さんの宿より全然でかい。そして馬が3頭いるって事は、少なくともあの3騎士はまだ宿にいるって事だ。それ以外に仲間がいたかまでは分からない。


 この村は広さの割に人が多い。小さい町って感じだ。まあこっちの実際の町の規模は分からないが。狐族の村と比べるとどうしてもそんな感じがしてしまう。


 ここに来るまでに村の中では色んなタイプの人族を見た。でも、一番多かったのは最初に村の外で会った、タヌキのおっちゃんと同じタイプの人だ。


 ここは元々、狸族の村って事なのかもしれない。町が近いから人も多いし、宿屋なんかもあるんだろう。狐族の村に宿屋を作っても泊まる人がいない。


 さっき宿屋で虎族の親父さんが俺の事を「毛無し」と言っていた。多分、虎族やハイエナ族みたいな、まんま獣の顔してるのが「毛有り」的な感じで、狐族や狸族みたいな人間ぽい顔が「毛無し」なんだろう。


 あと狸族って勝手に呼んでいるが違ったらゴメン。


 まあ別にそれで差別とかはないみたいだ。村の様子を見た感じ同じように生活している。黒人と白人みたいなもんか。


 でも地球では今でも黒人を差別する連中はいる。俺なんかは逆に黒人に生まれたかったけどな。あの天性のバネは格闘技向きだ。


「ハルキ、2こももらっていいのか!」


 リンゴみたいな果物を両手に持ったペタが尻尾をフリフリしながら聞いて来る。


「おう、全部食べられるんだったら食ってよし」


 ペタがリンゴにかじり付いた。なぜ左右交互にかじる。漫画に出て来る食いしん坊キャラかお前は。


 俺もリンゴ1つを片手に八百屋みたいな店の狸族のおばちゃんと話をしている。情報収集が目的だ。


 ちなみにリンゴは1つ銅貨1枚の所を、3つで銅貨2枚にまけてもらいました。さて、いくら得したでしょうか?後でペタに聞いてみよう。


 1ついくらになったでしょう?だとちょっとペタには早いな。俺も一瞬、え?ってなる。そういや銅貨より価値の低いコインってないよな。1円とか10円とか。


「昨日の夜、怪我した騎士様が帰って来た時なんかすごかったのよお。怒鳴り声が村中に響き渡ってねえ」


 やっぱりどこの世界でも、おばちゃんはおしゃべり好きなんだろうか。結構広い村だから村中は言いすぎじゃないかと思う。


「何があったんですかねえ?」


 サラっと聞いただけで、おばちゃんは、


「それが良く分からないのよねえ。多分、森の方で最近、異変があったとか盗賊が出るとか聞いたからその関係だとは思うんだけどねえ。森の狐族も何人か避難してきてたしね。私たちも仲間内で色々話してたのよ。でも、騎士様を怪我させるんだから何かすごいモンスターが近くに出たんだわきっと。怖いわあ」


 ほほに手を当てながら、だんだんと自分の推理を披露し始める。そしてやはり横の繋がりが広い。こういう所も地球と似ている。


「騎士様は、何で来たんでしょうね?」


「やっぱりモンスター討伐よきっと。騎士様が3人がかりでも手に負えないって事はとんでもないモンスターなんだわ。お兄さんも、旅をしてるなら気をつけた方が良いわよ」


 ふんふん。なるほど。一般庶民には、今回の騎士団の動きは全く広まっていないって事が分かった。このおばちゃん含め、何人か当たってみたが、大体同じような事を言っていた。


 他のお客さんが来たタイミングで、軽くお礼を言って店を離れる。両手のリンゴを無心でかじるハムスターの背中を軽く押しながら場所を変える。


 丁度、宿の入り口が見える位置にベンチみたいなのがあったので、そこに座って俺もリンゴをかじる。おお、全くリンゴだ。これは輸入しないとな。キックやってたころに減量でリンゴしか食ってなかった時期があったな。懐かしい。


 それに、塩以外の調味料もあったな。ただお値段がびっくりするほど高い。胡椒こしょうっぽいヤツなんか銀貨1枚だそうだ。ファミレスのテーブルにある小さい入れ物サイズでだ。俺換算1万円だ。あれは金持ちの道楽だ。グリードベアの毛皮が金貨になってもそこまでは出せない。残念。


 出来れば、あの騎士を捕まえて話を聞きたいが、流石に村の中は人目が多い。宿に突入する訳にもいかないしなあ。夜にこっそり忍び込むとかが出来ればいいんだけど、残念ながら俺はエセ忍者だからそんなスキルは持っていない。


 仕方ないから、こうやって出て来ないか見てる訳だけど、これって向こうにも発見されやすいよな。はて、こんな時どうすればいいものやら。


 あと、虎族じゃないと思うんだが、さっきからそこの路地に人がいる。ここからは見えないが。こいつちょっと前から付いて来てる奴だな多分。かすかに聞こえる足音のリズムが同じなんだよな。忍者の先輩かな。


 俺は尾行するのは苦手だけど、尾行されるのは得意だぞ。とか言うとマヌケなだけに聞こえるが、まあどういう事かちょっとやってみれば分かる。


「ペタ、一度宿に戻ろう」


「モム」リンゴの芯をくわえてモグモグしているペタがおかしな返事をする。


 こいつは出された物を残さず食うから偉い。ただの食いしん坊じゃない。ちゃんとエコってものが分かってる。ほらこうやってリンゴの芯まで全部食う。レモンの皮も食ってたし。骨ごと出た肉でも何も残らない。うん。ただの食いしん坊だわ。


 俺もリンゴを芯まで口に放り込んで、ペタと手を繋いでブーラブーラと路地を通って宿に向かう。手を繋いでいるのは恋人気分とかじゃなく、かといって保護者的なのともちょっと違う。放っといたらどこ行くか分からないからだ。この村に入ってからは基本的に手を繋いでいる。犬の散歩してるみたいだ。ちょっと楽しい。




「いない……?」キョロキョロしてる。くくく。


 いくつかの路地を曲がって、行き止まりに尾行者を誘い込んだ。俺は街とかの地理は1度通れば大体記憶している。そうしなければ生き残れない時期があった。


「お探しの人物は俺かい?」


 ちょっとカッコつけて出てみた。きっと後々思い出したら恥ずかしくなるだろうが、こんなの現場のノリだから仕方ない。後悔はしない。


 問題は、俺を尾行してたのが知り合いだった事だ。この恥ずかしい姿を広められたくない。もうすでに後悔している。


「なんで、あんたが俺をつけ回してんだよ」


 目の前にいたのは、狐族の狩人の1人だった。もちろん名前は知らない。






 俺の泊まってる部屋に場所を変えた。外だと話がしづらい。


 狩人のおっちゃんと一緒に宿に戻ると、カウンターで店番をしていたハイエナその1か2のどっちかが、胡散臭うさんくさそうな目で見て来たので、ニッコリ笑ってやると、笑顔を返して来た。口元がヒクついてたのなんかどうでもいい。


「騎士達の様子を監視してたんですよ」


 狩人のおっちゃんが言う。そういや監視つけてるってエジャが言ってたな。


「まさか魔法使い様が来るとは思いませんでした。しかもあんなに堂々と」


 はい。隠密スキル皆無なんで許してください。できれば教えて頂きたい。


「一人で監視してたのか?」


「いえ、今も仲間が見張っています。私は、魔法使い様を見かけたのでどうしたものかと後をつけてた訳で」


 どうやらお仕事の邪魔をしてしまったようだ。そしてペタは寝ている。こいつは飯を食った後は、すきさえあれば寝る。良く育つぞ。


 狩人の皆さんは相当良い仕事をしていた。


「まず、あの騎士達は完全に3人で動いているようです。仲間も伝令も確認していません」


 ふむふむ。ということは俺が魔法使い族ってのも、魔法使い族に鱗を取られたって情報も、まだあいつらで止まってるって事だな。


「我々が、怪我をした騎士をこの村まで送って来た夜ですが、隊長格の騎士が相当怒ってまして、こんな情報、騎士団に持って帰れるか!と」


 じゃあ、しばらくは騎士団に情報は届かない、と。町に入りやすいな。


「ですので、今、騎士達の口を塞いでしまえば、かなりの時間稼ぎになるのでは、と考えております」


 ……ん?それは殺すって事かな?たしかに狩人さん達の忍者スキルを使えばそれはできるかもしれないけど殺すのはちょっとなあ。それに、


「俺が……魔法使い族がドラゴンの鱗を奪ったって情報は、いずれ持ち帰らせなきゃいけないんじゃないか?そうしないと、また別の奴が派遣されて来るだろ」


「……なるほど、確かにそうですね。すみません少し頭に血が上っていました。さすが魔法使い様」


 褒められた。まあ確かに自分の村が滅ぼされかかったんだから怒るのは分かるけど焦っちゃイカンよ、うん。


「では、我々のすべきことは、できるだけ連中をこの村にとどめさせる事ですね」


「んだな。あと、あの3バカがまた村に乗り込む可能性もあるな」


 もうあれは3バカでいいや。俺が率直に心配を口にすると、狩人のおっちゃんはニヤッと笑って、


「大丈夫です、連中がそんな動きを見せたら、少し道に細工をして森で迷わせますから」


 とか言う。なに、そんなことできんの?すごいな森の民。それ、俺の時は解除しといてくれよ。


 とりあえず、これで俺は堂々と町に入ることが出来そうだ。あとは町に入ってからどうやって騎士団のふところに潜り込むかだけど……


「すみません、町の事までは我々ではどうにも」


 という事らしい。行ってみるしかないか。ペタのお父さんもいるしな。


 狩人のおっちゃんは仲間の所に戻って行った。いやホント助かった。俺だけじゃここまでは分からなかった。よし明日、朝イチで町に向かおう。堂々と!


「ハルキ、おなかすいた」


 ペタ、お前の寝起きの挨拶はそれなのか?いや、昼飯結構食ったよな。リンゴも食ったし運動もしてないし。どんだけ燃費悪いんだ。胃下垂いかすいか?モデルに憧れられる体質なのか?


「ペタ、おはよう」


「おなかすいた」


 俺は食欲モンスターを連れて1階へ降りた。そういえばお母さんもかなり食ってたけどスタイル良かったもんな。遺伝かもしれないな。


 カウンターにハイエナ1と2が揃ってたので晩飯を頼む。二人で大銅貨1枚だ。銅貨関係が減って来てたので、銀貨を出してお釣りをもらう。チップ代わりに1と2に大銅貨を1枚ずつ渡したらすげえ喜ばれた。元々お前らのなんだけどな。


 窓から、夕焼けに染まる空を見ながら、ペタと二人で虎族の親父さんの美味い飯を食っていたら、突然遠くから悲鳴が聞こえて来て、村が騒がしくなった。




 何か事件なら明日以降にして欲しかった……




読んでくださってありがとうございます。


次回、平和な村に食欲モンスターの魔の手が伸びる?

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