第29話 わるだくみ
村の入り口には猫科の動物っぽい兵士が立っている。でも虎ではないな。
なぜ兵士だと分かるかというと、簡単な革の鎧を着て槍を持ってるからだ。だんだん都会に近づいて来たな。ファンアタジーな感じもしてきた。
こっちの姿も、もうだいぶ前から見えているはずなので、今更慌てたり向きを変えたら逆に怪しい。それに向こうも落ち着いた感じでアクビなんかしている。俺の事はバレていないっぽい。ここは堂々と行った方が良いだろう。万が一あれが演技で襲ってきたら悪いけど眠ってもらおう。
そういや、狐族の村には見張りはいなかった。多分ドラゴンの鱗というモンスター避けアイテムがあるから必要なかったんだろう。普通はこんな風に見張ってるもんなんだろうな。
「おはようございます。お勤めご苦労様です」
ここも営業スマイルでそれっぽい挨拶をする。うーん、この兵士は豹かな?チーターかな?ジャガーかもしれない。あの辺は模様が似てて見分けがつきにくい。
「旅人かニャ?村に何か用かニャ?」
語尾にニャがきたああああ!なんてこった、どう聞いても男性の声なのにニャがきた。できれば初ニャは女であってほしかった。それもペタのお母さんみたいに人間ぽくて綺麗な女性にお願いしたかった。いやカワイイ感じの子でもいい。とにかく人間に耳と尻尾がついた女性。これは譲りたくなかった。だが現実はモロ動物顔でけっこう野太いおっさん声だニャ。いや、待て。こうやってニャを普通に使ってくるニャがいるなら、俺の考える女の子のニャもどっかにいるかもしれない。いやいるはずだ。この村にはいなくても町ニャ。町に行けばきっと会える。
「町に行くんです!」
思わずそれだけを強く言ってしまった。あ、少し引いてる。
「そ、そうかニャ。それなら反対側の出口を出て道なりで1日で着くニャ」
「あっ、ありがとうございます。でも、今日は一泊させてもらいます……」
ニャの兵士さんはうつらうつらしているペタを見て、
「夜中に歩いてきたニャ?子供連れで危ないニャ。最近、盗賊も出るしモンスターも多いから気を付けた方がいいニャ」
心配してくれた。いいニャだった。心の中で暴言を吐いた事を謝っておこう。ごめんニャ。
ニャの兵士さんに軽く頭を下げて村に入った。なんだよ、この村いい人ばっかりじゃないか。狐族の人達もいい人ばかりだったし。態度が悪いのはあの虎族の騎士だけだ。偉いのがそんなに偉いのか。
まあいい、まずは宿だ。少し休んだら情報収集と、お偉い虎族様どもの様子を見たい。
具体的には、俺の情報がどの程度出回っているか、あと、既に町の方まで情報が行っているのかだ。できれば、今回の命令を騎士団のどなた様が出したのかを、あの虎族から聞き出したいが、難しければそれは町で頑張ろう。
しかし、ここまで魔法使い族のマも出て来なかった。ニャの兵士さんも警戒していないようだ。とすれば、騎士団以外の一般人やそこらの兵士なんかには今回の騒動は伝わっていないんだろう。それなら顔を隠したりしなくていいかな。まあ、指名手配されたとしても顔写真とかないしな。
村に入る前にタヌキのおっちゃんに教えてもらった宿の方向に向かう。まだ朝早いからか人はあまり出歩いていない。農作業に行く人ぐらいだな。お店っぽい所もまだ開いていない。
村の傍を流れている川に繋がっているんだろう。用水路があちこちに引いてある。うん。分かるよ。洗濯とかトイレに使うんだろ?使ってやるさ。体も拭こう。だけど飲みたくはないな。飲み水はどこでもらえば良いんだろう。川まで行くのか?買うのかもしれない。日本はそういう意味ではホント恵まれてたわ。ベガスでもホテルの水は飲めたしな。まあ俺はキャップの開いてないペットボトルでしか飲まなかったけど。
そして宿はどれだ?狐族の村より家が多くて分からない。もうペタは完全に寝てしまったので、さっきから片手で抱き上げている。もう片手には大きな背負い袋を持ってるから両手が塞がってしまった。早く宿を見つけて、この二つの荷物を降ろしたい。
少し離れた所で、箒を使って家の前を掃いている人がいる。後姿は犬っぽい。あの人に聞いてみよう。
「すんません、この辺に宿ってありますか?」
「あん?宿ならここで……ぅぇえええぇぇ!?」
なんか犬っぽい人が腰を抜かした。どっかで見たことある動物顔だな。誰だ?
「ええと……大部屋なら1人大銅貨1枚で、個室なら1部屋で大銅貨4枚でさあ」
「個室ってベッド1つか?」
「す、すいやせん。1つの部屋しかないんで……」
「じゃあ個室でいいわ。大銅貨4枚な。えーと、ほい」
4枚の大銅貨を持ち主に返した。ハイエナ族の男はヘコヘコと頭を下げて受け取る。元々お前の金だけどな……まあどうせそれも盗んだ金だろうけど。
「まあ、生きてて良かったよな。真面目に働けよ」
「へ、へい!おい!お客様を部屋にご案内しろい!」
「ヘイ、アニキ。じゃ、あの、こちらですんで……あ、お荷物お持ちしやす」
なぜか、前に俺を襲ったハイエナ族の盗賊2人組が村の宿屋で働いていた。
「お前ら、あのお揃いの毛皮はもう着ないのか?」
「ちょッ、それは黙っててくだせえ……!」
ハイエナ族達がキョロキョロしながら慌てる。誰かいたらこんな話しませんよ。まあやっぱり盗賊やってたのは内緒なんだな。捕まったら殺されるとかいう話だしな。
「もちろん黙っといてやる。あと俺は猿族だから。魔法とか誰にも言うなよ」
「へ?へい。わかりましたでさあ」
「言ったら、魂抜くからな」
「ひぃぃ!」「ひぃぃ!」
二人とも顔が真っ青になった……みたいなリアクションだ。色はよく分からない。でも本当に魔法使い族の話をされるとマズイ。この村にはあの虎族どもがいる。こっちはあくまで先手を取りたい。
しかしこいつら、この短期間で見事なまでに下っ端キャラになったな。
2階にある部屋に入ってペタをベッドに寝かせる。服がちょっと汚れているが、まあそんなに清潔な感じの宿じゃないし良いだろう。良いよな?
どうも、部屋の鍵も信用できないな。ドアの下の隙間に投げナイフを1本、少しだけ挟んでおく。誰かが開けようとしたら音がするはずだ。
俺も水筒から少し水を飲んで横になる。シングルのベッドじゃちょっと狭いが、まあウチの部屋とそんなに変わらないから気にする事もない。少し寝たら行動開始だ。
3時間ほど寝た。まだ時間的にはギリギリ朝だ。ペタはぐっすり寝ている。上下が反対になっているが。特に誰かが部屋に入ろうとしたりはしなかった。木で出来た窓を開いて外を見ても囲まれたりしている気配はない。ちなみに窓にガラスはない。
背負い袋の中身をもう一度確認する事にしよう。特にこのエジャのメッセージは解読する必要がある。こっちの普通の言葉なのに暗号扱いなのは許してほしい。俺にとっちゃ暗号と同じだ。
まずはグリードベアの毛皮。デカいのが無理矢理詰め込まれている。これがいくらで売れるのかは知らないが、じいさんが悪そうな顔で笑ってたし、結構いい金になるんだろう。町で動き回る資金ぐらいにはなってほしい。金貨になると嬉しい。見たい。本物の金貨。
そして銀貨の入った袋。これはエジャの心遣いじゃないだろうか。当面の生活費とかかな。数えたら20枚入っている。俺換算で20万円だ。結構な大金だ。
これはこのままバックパックに入れておこう。大事なものはバックパックだ。ハイエナから貰ったお金とは別にしておく。買い物する時に大金が見えると良からぬヤカラが寄って来るかもしれない。
この宿で1泊、大銅貨4枚だったから、銀貨が20枚あれば単純計算で50泊できる。まあ食事とかも必要になるから実際はそんなに泊まれないが。ちょっと腹が減ったな。ペタが起きたら何か食べに出よう。ついでにトイレにも行きたい。ツボもあるんだろうけど、ちょっとな。でも水路に人目が多かったら諦めてツボだ。
さて暗号解読の番だ。紙を広げてスマホを取り出す。そういえば紙はあんまり出回ってないって言ってたけど、貴重なんじゃないだろうか。まあ質も地球の紙よりだいぶ悪いみたいだし、いいか。
エジャのメッセージは簡潔だった。助かる。
『アニを頼れ。ペタを連れて行けば話を聞いてくれるはずだ。革細工の店を開いている。毛皮もアニに任せると良い。銀貨は好きに使ってくれ。町に入る時にも役立つだろう。無理はしないで欲しい』
まあこんな感じだ。人柄がにじみ出てるね。その下にはアニさんへのメッセージも書いてあって、協力してやって欲しい。とあった。この紙も見せればいい訳だ。しかし、銀貨が町に入るのに役立つとかどういう意味だ?税金でも取られるんだろうか。
「ハルキ、おなかすいた」
ペタが起きた。起きて第一声がお腹すいた、だ。ペタらしい。時間を見ればもう昼だ。暗号解読にかなりかかってしまった。
「よし、じゃあなんか食いに出よう」
「やった!」ピョンッとベッドから降りるペタ。
外に出る前にペタに言っとかないといけない事があるな。
「いいかペタ、ここからは俺の事は魔法使い族じゃなくて、猿族って呼ぶんだ」
「さる……おお!そういえば、さるぞくにもにてるな!」
手をポンッと打つペタ。いや、お前が言い出したんだろうが。あの時結構ショック受けたんだぞ。
「そう、猿族だ。頼むぞ。それから、お前も森から来たんじゃなくて、俺と一緒に旅をしてきた事にするんだ。大丈夫か?」
「ペタのいえは森の村だぞ?」ああコイツよく分かってない。
「それだと悪い奴にばれたら村のみんなが大変になるんだ。だから、遠くから来た事にするんだよ」
「みんながこまるのはいやだ」
「じゃあ村の事は秘密だ、聞かれたら遠くから来ましたって言うんだぞ」
「ひみつか!ふふふ、わるだくみだな」
なんかおかしな顔で笑っているが、大丈夫だろうか。まあ何か余計な事を言いそうになったら口を塞ごう。噛まれそうだが。
妙にニヒルな顔のままのペタを連れて宿の1階に下りる。荷物は全て持って行く。この宿の防犯とか信じられない。大体、木の扉なんて蹴ったら開くだろ。
1階はカウンター以外にもテーブルや椅子があって、食堂っぽくなっている。ひょっとしてここでも何か食べられるんだろうか。客は誰もいないが。
「なあ」
カウンターでぼけーっとしていたハイエナその1に話しかける。2かもしれないがよく分からない。
「はっ、ひゃい!まほ……お客様!何か!」
うん。ギリセーフだな。大丈夫かこいつも。ペタといいこいつらといい、ちょっと不安要素が増えて来た。問題が起きたらソッコーで町に向かおう。
不安要素のひとつ、ペタはニヒル顔の出来が不満なのか、色々な表情を試しているようだ。
「ここって、飯食えるのか?あと……トイレとかはある?」
「ヘイ。もう朝飯の時間は過ぎてますんで、大したものはありやせんが食事はだせまさあ。それと、ツボはそこの扉を出た裏庭にありやすんで」
やっぱツボか。まあ用水路は人目もあるだろうし、そっちの方がいいか。話をしている間にペタが裏庭への扉にタタタと走って行った。トイレ行きたかったんだな。
「じゃあ、適当に二人分、食べ物頼むわ」
「へい!ええと一人で銅貨5枚ですんで……えーっと二人分だと……」
「銅貨10枚か、大銅貨1枚だよな」
俺の財布から銅貨を10枚出してカウンターに置く。計算が苦手な奴も多いんだろうか。学校とかなさそうだもんな。
「じゃ、よろしく」
声を掛けといて、俺も中庭に行く。ペタがすっきりした顔で井戸から水を汲みだしていた。井戸?井戸とかあったのか。井戸の横にタライも置いてある。ここで色々出来るんだ。ヤバイ、洗濯とか体洗うとか、用水路でやろうとしてた。もしかして用水路は下水的な立ち位置なんだろうか。大変な事になる所だった。あ、ペタが水飲んでる。飲めるんだ。ヘー。
とりあえず、衝立の裏に置いてあったツボを使用しました。ペタは水の残りを頭からかぶってブルブルしてました。ハイ。
宿の1階に戻って、適当なテーブルに着き、ペタが自分の頭から落ちた水滴でテーブルに落書きをしているのを眺めていると、
「お待たせしやした!」とハイエナ1か2のどっちかが飯を運んで来た。
思ったより、しっかりした飯だ。ステーキみたいな肉とスープ。ザワークラウトのようなサラダに、いつもの固いパンだ。ペタの目もキラキラしている。
「うまいな!はごたえのなかにうまみがとじこめられている!このすっぱいサラダもしょくよくぞうしんだ!」
すごい勢いで食いながらペタが大喜びだ。いや、確かに美味い。銅貨5枚でこんなにちゃんとした物が食べられるとは思わなかった。栄養バランスも良い。栄養をつい考えてしまうのはアスリートのサガだ。
「うまいでしょう!ウチの親分のメシはこの村一番でさあ!」
ハイエナ1か2のどっちかが、なんか自慢そうに声を掛けて来る。こいつら飯目当てでここで働いてるんだろうか。まあそれもアリか。
「親分じゃねえ、マスターと呼べって言ってるだろうが」
奥から出て来たデカい影にハイエナが拳骨をくらった。軽く小突いただけのようだが、ハイエナの体が床にべチャッと落ちる。
俺は、食う手を止めて椅子から軽く腰を浮かす。
腰にエプロンを巻いて、奥から出て来たのは2メートルを優に越える虎族の男だった。コイツ、強い。
読んでくださってありがとうございます。
ブックマークとか評価を頂いてとても嬉しいです。お名前を狐族の村の住人につけさせて頂きたいほどです。名前が思いつかないのです。




