第276話 説明っぽい上にネタバレ
ローングローングタイムアゴー。
あいし合う、2人のわかい虎ぞくがおりました。
男の名はシャルトリュー。きしの家に生まれた上品なイケ虎。
女の名はソマリ。まずしい、きぞくの娘でした。
2人はひそかに、けっこんの約束をしておりましたが、お互いの家族に反対され、ひきさかれてしまいました。りょう家は、蛇とマングースのなかだったのです。
ある夜、いじ悪なまま母と、まま姉たちがお城のパーティーに出かけている時、ソマリのおやしきに、老イタチがたずねてきました。
老イタチは、ふしぎな色のリンゴをさし出すと、ソマリにこう言いました。
「このリンゴは、とてもおいしいリンゴです。いまなら1つ買えばもう1つおまけにつけましょう。さらに、高い枝になったリンゴもかんたんに切りおとせるハサミもおつけしますよ」
ソマリは言いました。
「あらとてもおとくね。これだけついて、ぎんか1まい、いかないのね」
そうして、ソマリはリンゴを2つと、高い枝を切るハサミを買いました。
ですが、じつは、その老イタチは、わるいまほう使いぞくだったのです。ハサミのしいれねは、たったの、どうか5まいでした。
そして、ふしぎな色のリンゴは、ドリアードの木に、みのったリンゴだったので、じっしつ、老イタチは大どうか9まいの、まるもうけでした。
そんなことを知らないソマリは、赤いずきんをかぶって、家をぬけ出します。
「リンゴが2つもあるのだから、1つはシャルトリューにあげましょう」
ソマリが、くらい森の中をあるいていると、おなかをすかせたハイエナぞくが出てきて言いました。
「虎ぞくの、おじょうさん。そのリンゴを1つわけてくれないかい?」
ソマリは言いました。
「ハイエナぞくさん。このリンゴはシャルトリューにあげるのだから、あなたにはあげられないわ」
それをきいて、おこったハイエナぞくは、森をはしり、先まわりします。
そうとも知らないソマリは、まちあわせの、小さなこやに、やってきました。
中にはいると、ベッドでシャルトリューがねていました。
ソマリはたずねました。
「シャルトリュー。おいしいリンゴがあるのだけれど、どうしてねているの?」
シャルトリューはこたえました。
「それはね、おなかがいっぱいだからだよ」
ソマリはたずねました。
「どうして、そんなに、おなかが大きいの?」
シャルトリューはこたえました。
「それはね、おなかがいっぱいだからだよ」
ソマリはたずねました。
「どうして、そんなに、お口が大きいの?」
「それはね」シャルトリューはこたえました。
「きみをあいしているからさ!」
「ああシャルトリュー!」「ソマリ!」
2人はしっかりだきしめあいました。
何を聞かされてるんだろう。
「すんません、その話、何すか?ハイエナ族はどこ行ったんすか?そもそも、何で急に始まったんですかね」
あと、虎族のくせに、何で名前が猫っぽいんだ。ってのは飲み込んだ。
昼飯に、ペタが撃ち落とした鳥の丸焼きを食べ終わったリカータさんが、いきなり昔話を始めた。
「ハルキ様とペタちゃんが、ドリアードのお話を知らないって言うから、私の好きなお話を教えてあげようと思ったんです」
流石は女性、ラブロマンス好きなんだな。意味不明だけど。いや、途中で若干、詐欺っぽい商売の香りがした。リカータさんの事だから、そこが好きなのかもしれない。
ペタがフンフンと鼻を鳴らしながら、亀さんの背中の上から身を乗り出してくる。食後の休憩に亀さんの上って失礼だな。でもいいな。俺はそこまで図々しくなれない。
「それで!それから2人はどうなったんだ!」
なぜ、こんな子供向けの童話で興奮できるんだ。あ、子供だからか。当たり前だった。
うーん、と少し考え込んだリカータさんが、口を開いた。
「ここから重い話になるんですよね。15歳以下だとちょっと……」
まさかのR15指定。じゃあ、なぜ話したんですかアナタは。まだドリア……ええとドリアードは名前しか出てないじゃないか。え、ドリアンってのは果物の名前ですよ?俺はずっとドリアードって言ってました。
亀さんがノンビリとした口調で話に入ってきた。
「本当は残酷な話、の方をなさるからです。一般に語られている物ならば問題ありませんよ」
「そうは言っても、私が知っているのは、このお話ですよ?」
不思議そうに首をかしげるリカータさん。うんうん。地球でも童話ってのには表と裏があった。
浦島さん家の息子は、亀を助けたお礼を色々してもらったけど、最後は一気にじいさんにされた。ってのが表。
裏だと、一気に骨になった。ってのもある。これはまだカワイイ方だ。
「では、私がかいつまんで」
亀さんがゆっくりと、良い声で、かいつまみだした。
「まず、ハイエナ族は忘れてください。ここは残酷なので」
うわ気になります。後でコッソリ聞き出そう。ペタがニヒルな顔で「くったな」とか言ってるけど聞き流そう。
「この後2人は駆け落ちをいたします。その先で、不思議なリンゴの木を見つけ、そこに住みます。もちろんその木がドリアードの木である訳です」
わあ、亀さんったらロマンスの欠片もないな。すげえ説明っぽい上にネタバレも含んでる。だがそれも紳士らしくて良い。いやもう男らしい。
「リンゴを主食にしていた2人ですが、やがて男性の方が倒れます。栄養が偏ったのだと思っておりましたが、実際は麻薬の成分に蝕まれたのでしょう。今回の事件は、私にも勉強になりました」
そう言って、少しリカータさんの方を見る亀さん。リカータさんは目を逸らしてモジモジしている。
この人は、村からリンゴをいくつか持ち出そうとしていた。
本人は「騎士団に提出するためです!」と言い張っていたけど、だったら1個でいいはずだ。
俺が、夜中に木とイモイモを潰しまくってる間に、こっそりと取ってきたみたいだ。
でも、あの家の近くにはリンゴは残ってなかったし、木はほとんど残骸になっていた。上空から見る事ができれば、村はスッポリと木のなくなった巨大なミステリーサークルに見えると思う。宇宙人製じゃなくて、ちゃんとした人工物だ。製作者は俺。
じゃあ、どこからリンゴを取って来たんでしょうか。
答えは、林の中に捨てたカゴからだ。リカータさんが収穫して、バニー兄ちゃんが盗んだリンゴだ。
兄ちゃんとしては、リンゴを俺達に食わせたくなかったから盗んだのかもしれない。愛するレポリ7才の、体の一部みたいなもんだろう。
まあ、そんなリカータさんの怪しい行動は、亀さんにはバレバレだった。
どおりで朝、眠そうだと思った。この人もあんまり寝てなかった訳だ。やっぱりあのリンゴの中毒性はかなり強い。ちゃーんと処分してきた。
ただし、今も1個だけ俺の背負い袋に入れてある。当然、リカータさんやペタに食わせるためでも、どこかで栽培して売りさばくためでもない。
リカータさんが主張している通り、騎士団かその辺に渡すためだ。
普通、リンゴだけじゃなく果物には種が入ってる。
でもこのマジヤバイブルーリンゴには種がない。コレは正しくは果物じゃない。イモイモが木に作らせた偽の果物だ。言ってしまえば葉っぱみたいなもんだ。
葉っぱは、それだけじゃ増えない。このリンゴも1つじゃ増やせない。
そして、あの村にもう木は残っていない。イモイモもだ。夜中にほとんど潰して回った。これで、新しいマジヤバイブルーリンゴはもうできない。
最後のイモイモ……つまり、俺達が寝泊まりしていた家の下にいたヤツとも、朝、ちゃんとお別れした。
それと同時に、家の中心にあった木も崩れ落ちた。家ごとだ。
「ペタのなまえがー!」とか叫んでいる子供もいたが、ペタとやらの名前は半分しか刻まれていない。日本語で言ったら、ペ、だ。ペ。
しっかり刻まれていたのは、レポリ7才、だけだ。
あの人形を殴った時より、すこーしだけ、拳が痛かった気がする。
もし、レポリ7才のタマシイみたいなのがいたとしたなら、あの木に宿ってたんじゃないだろうか。あ、ヤバイ。呪われる?
「つづきは!つづきはまだか!らいしゅうなのか!」
ペタが尻尾をパタパタさせながら、自分の真下にいる亀さんに話の続きをせがんでいる。コイツ童話でこんなに喜ぶのか。日本に伝わるやつ、話してやろうかな。
でもなあ、おとぎ話って寝る前に話すべきなんだろうけど……この食欲と睡眠欲の化身は、横になったらすぐ寝るからなあ。
それに俺が知ってる話って、怖いのが多い。ペタが爆睡してる隣で、自分が寝られなくなる恐れがある。よし、やめよう。
亀さんがゆっくり、そして簡潔にリクエストに答える。
「亡くなった男性を、女性の方は涙ながらに、リンゴの木の根元に埋めます。すると、男性の魂が妖精ドリアードとなり、リンゴの木にその姿を現しました。女性は、彼に見守られながら、いつまでも木の傍で暮らしました」
木の人形は死んだ人のタマシイですか。そういう認識だったんだな。
だけど、いつまでも暮らすのは無理だろうなあ。すぐに後を追う事になっただろう。まあそこは童話だ。実話じゃない。
リカータさんがブツブツと呟いている。
「実際は、妖精なんかじゃなく、芋虫でしたけどね……しかもあんなに大きい。私の子供の頃の憧れを返してほしいです」
プクッと膨れたミーアキャット。お腹じゃなくて頬がプクッ。ペタみたい。
本家のペタは、手をパチパチ叩きながら「ブラボー!かんどうたいさくだ!」とか騒いでいる。こいつのツボが未だに分からない。
ギン。ギン。
風に乗ってどこかから、金属を打ち合わせるような音が聞こえる……気がする。
まあ、気のせいだろうな。この辺には人なんか来ないらしいし、あの林からは、もうかなり離れてる。周りは岩と土だけの荒野だ。住んでるのはモグラのモンスターぐらいだ。
リカータさんがスクッと立ち上がる。
「では行きましょう!レフトちゃんが待っています!」
リンゴへの未練を振り切ったらしい。ぐっと握った拳を高く突き上げて叫ぶリカータさん。
ペタがスルっと亀さんから降りてきて、火の始末を始める。エライエライ。こいつは料理はアレだけど、お手伝いはちゃんとやる。良い子だからな。
そういや、ウチの部屋から持ってきた塩が、だいぶ減ってる。思ったより使うもんだなあ。それともリカータさんが想像以上に使ったかだ。
部屋に帰れば、いくらでも補充できるんだけど……まあ町で買うしかないか。最近、お金が減ってなかったのに、出費かあ。嫌だな。何が嫌かって、もうシュッピっていう言葉の響きが嫌。
リカータさんを乗せた亀さんが動き出す。俺とペタは歩きだ。これもトレーニング。この星はどこも無料のスポーツジムだ。ムリョウっていい響きだなあ。
それに、朝に出発できたから、ゆっくり行っても夕方までに町には入れる。急ぐ必要は無い。
「ハルキ、なんかきこえるぞ。とうぞくかもしれないぞ」
少し進んだ所で、ペタが小さめの声で教えてくれた。こいつの耳は俺なんかよりずっといい。
「どっちからだ?どんな音か分かるか」
「あっちだ。けっこうとおいけど、キンキンいってる」
そう言って後ろの方を指さす。もう見えないけど、そっちにはあの林と、村がある。
「遠いなら大丈夫だろ。ほっとこう」
そうか、気のせいじゃなかったか。何度も後ろを振り返るペタの手を握って、亀さんの背を追う。
バニー兄ちゃん、少なくとも自殺はしてないな。それどころか元気に復讐を始めたみたいだ。
あの村のイモイモは全部潰した。でも、1つだけ、サナギが残ってる。
耳を澄ましても俺には聞こえない。だけど、ペタが聞いてる音は斧の音で間違いない。サナギを殴ってるんだろう。相当、硬いから無理かもしれないけどなあ。
俺は、復讐ってのをするヤツの気持ちは分からない。分からないけど、まあ、他の人に迷惑をかけないなら、否定はしない。
そもそも、そんな復讐なんか聞いた事が無い。今回が初めてだ。イモイモには迷惑かもしれないけど、そこは割り切った。残念ながらドリアン芋虫は人族にとっちゃ害虫だ。
問題は、アレが終わった後だな。バニーがちゃんと普通の世界に戻ってこれるのか、それはアイツ次第だろう。どうなるかなんて知らない。責任もとらないぞ。
「ハルキ、ごはんがたりなかったなら、くうか?」
ペタがオヤツを分けてくれるだと!?この食欲怪獣が……。
こいつが優しくしてくれるのは俺が難しい顔をしてる時だ。良い子に育ってくれてお兄ちゃんは嬉しいよ。
だけど、ドングリはいらん。
「ってか、お前、もっと集めてたよな。食ったのか?」
ペタのポケットはかなり小さくなっている。もっと、ポロポロ落ちるぐらい拾ってたよなあ。
ポリポリかじりながら答えるペタ。
「おお!くったポリ!でもはんぶんぐらいは森にかえしてきたポリ!」
森じゃない、林だ。何が違うのかはよく分からないけど、日本語なら字が違う。ペタにとっちゃ、木が多い所は全部、森なんだろうな。あと語尾にポリとか、良く分からないキャラを作るな。
「返した、って。落としたの間違いだろうが」
頭をツンと突いてやると、ピョンピョン跳ねながら文句を言い出した。
「ポリポリポリ!ブフッ!」あ、ポリポリ族がむせた。
「ちがう!けほっ!木のみは、大きくなったら木になるんだぞ!ハルキがぜんぶころしたから、ペタがかわりに、うえてきたんだ!」
あ。ペタは森林保護の方の人だったか。森の住人だもんなあ。
でもまあ。
「そうか、すごいなペタ。俺はそこまで考えてなかったわ」
頭をワシャワシャ撫でてやる。ほら、さっきまで怒っていた子供がもうニマーっと笑った。簡単だし、耳が触れた。俺も心の中でニマっとしている。
「ハルキはしかたないな!ペタがいないとだめだな!」
ニヤニヤしながら、残った木の実を、荒れ地にもポンポン投げ始めるポンポン族。うーん、ここには、木は生えないんじゃないかな。
まあ、楽しそうだからいいか。
さあ。あの遠くに見えてる皇女さんの町で何が起こるかな。俺は嫌々だけど、このちびっ子は楽しい事を見つけるんだろうな。羨ましい性格だ。
ああ、1つだけ思いついた。まともなベッドで寝られるぞ。楽しみ。
この時の俺は忘れていました。
これが一部の業界では、前フリ、もしくはフラグと呼ばれている事を。
読んでくださってありがとうございます。
フラグ回収班、出動。




