第24話 うらぎりもの
森を抜けて狐族の村が見えた。大分陽が落ちてきているが、夕日ってほどじゃない。
最初来た時は走って4時間ぐらいかかったのに、ほとんど変わらない時間で着いた。森歩きに慣れてきたのかもしれない。森だと距離が良く分からないが、実はそんなに離れてないのかもしれないな。そのうち道でも作ってみようか。
途中で獲った、俺の初めての獲物である緑ウサギは肉と皮になっている。ペタに教えてもらって俺が捌いた。命をありがとう的な気持ちで頑張ったが「へただなー」と言われた。
そりゃそうですよ。どこの世界に獣を上手に捌ける高校生がいるんだ。ここにはそういう子供はいるけど。いや、地球にも日本にもいる所にはいるか。すみません。
皮は、なんだか処理が難しそうだったのでペタに任せた。獲物によって処理の仕方が変わるとかなんとか、ペタ先生が偉そうに言っていたので今後も任せる。俺は自分の食う肉があればいい。
「ちょっと川の水増えてるなあ」
「きのう、あめふったからな!」
村に入る橋に向かって川沿いを迂回しながらペタと話す。
「雨って、最近ずっと降ってなかったんだよな?」
「きのうふった」
ペタとは時々会話が成立しない。でも、そんなに大変な感じじゃないな。異常気象モドキから2か月、ずっと降ってなかったと思ってたのは俺の思い込みだったかもしれない。そもそも、はっきりとそう言われた記憶はない。暑かっただけか?
橋を渡って村に入ったが人はいない。まだ村の人は帰って来てないのか。てくてくと広場に向かうと、グリードベアの毛皮はなくなっていた。ドラゴンの鱗も戻ったし雨も降ったもんな。
その代わり祭壇の近くに小さくて壁のない小屋……東屋みたいなのが建っていて、置いてある椅子に見覚えのある狐族の青年が座っていた。
「ああ、魔法使い様ようこそおいでくださいました!」
立ち上がりながら嬉しそうに声を掛けてくれるが、この人……何て名前だっけな。全員紹介されたけど覚えきれなかったわ。まあ向こうも魔法使いって呼んでくるから、いいや。
「ども、来ました。こんちわ。何やってるんですか?」
「ええ、今回の件を教訓に祭壇には必ず見張りを付ける事になったんです」
今まで見張ってなかったのか。危機感のない村だったんだな。まあ今後は大丈夫だろう。
「あかないー」
ペタがいつの間にか祭壇の扉を開けようとガチャガチャやっている。鍵もかけたんだな。ゴツイ南京錠が付いている。
「魔法使い様のおかげで、この村は2度も救われました。改めてお礼を言わせてください」
「いや、こっちこそ最後の最後で助けてもらって、すんません」
「あっけっろ!あっけっろ!」
ペタが祭壇にケリを入れている。作り直したのか?随分、頑丈なようだ。
「近くの村に避難していた村人の一部が夕方には戻る事になっています。明日には全員戻って来るでしょう」
ニコニコしながらそんな事を教えてくれるのはいいんだが、あの小さい盗賊がそのうちまたドラゴンの鱗を奪うぞ?いいのか放っといて?
「じゃ、俺達は村長のトコに行きますんで。また」
祭壇の屋根に上ってテコの原理でひっぺがそうとしていたペタを、屋根からひっぺがして村の北に向かう。青年が手を振ってくれたので軽く振り返しておいた。
うん。この村は基本的におおらかなんだろうな。村長もペタもこんなだし。むしろここではエジャみたいに常識的な方が珍しいのかもしれない。
村長の家が見えてきた途端にペタが走って行って扉を開けた。
「ただいま!」
そのまま飛び込んで行く。子供らしいな。やっぱ家族っていいよな。子供は家族の中で育つべきだ。俺は両親をあまり覚えていないけど、美咲んとこの親父さんもお母さんも家族だと思ってる。美咲も妹みたいなもんだ。
あとはペットが飼いたかったけど、居候の身でそこまでは言えなかった。犬か猫かカピバラかペンギンかハムスターか亀かフェレットかモルモットかカメレオンか……今なら狐でもいいな。
「おじゃましまーす」
声を掛けながら扉をくぐる。中では前に見たような光景が繰り広げられていた。
「じっちゃん!それでな!でっかいトカゲのモンスターがいっぱいきてな!」
「フムフム、それは大変じゃのう。お、ハルキ殿、この度は本当にお世話になりましたな。まま、座ってくだされ」
じいさんに勧められるままに近くの椅子を引いて座った。ペタはまだまだ話し足りないようで、じいさんの腕をブンブン振りながら騒いでいる。じいさんの首もカクカク揺れている。
「ホッホウ、そのような事がのう。ところでペタ、ハルキ殿に水を……」
ペタがシュパッと台所に消えると、すぐに水を持って戻って来て俺の前に置いた。そしてまたじいさんの腕に飛びつくと話の続きを始める。今は盗賊団の拠点のあたりだな。まだ時間がかかりそうだ。水をすすりながらその光景を眺める。
ペタも両親がいないみたいだしな。じいさんが唯一の家族なんだろう。今日はじいさんとゆっくり話をすればいい。俺は寂しくなんて、ない、よ?
ギィ
「お父さんただいま~」
あれ?どなたか来ましたよ?
「おかあちゃん!」
ペタが家に入って来た狐族の女性に飛びついた。ペタ以外の女の人は初めて見たなあ。ん?おかあ、なんだって?
「あらあ、ペタ、ちょっと見ない内に大きくなったんじゃないの~?」
「ペタはもうすぐ7さいだからな!おとなまでもうちょっとだ!」
「そうねぇ。あと2倍ぐらいしたら大人ねぇ」
なんだかおっとりした感じのお姉さんだ。少しタレた目が柔らかさを醸し出す。歳はエジャと同じくらいか?ってゆうか、おかあ?
「まあ、こちら噂の魔法使い族の彼かしら。初めまして~、娘と村がお世話になりました。ペタの母です~」
「あっ、は、ハジマメシテ、ハルキっていいます。むっ娘さんにはこちらこそお世話になったりしました」
おもわず噛んだ、くそう。親いないと思ってた。聞いてなかっただけだけど。避難してたのか、騙された気分だ。じいさんの方を見ると、
「ホッホウ、娘じゃ。美人じゃろう?」
とか言ってくる。確かに綺麗だ。スタイルもいいし若いし。ペタも成長したらこんな感じになるのか?いや、こいつはこんなオシトヤカっぽくはならない。絶対。
ペタのお母さんはペタに腕を引っ張られて椅子に座らされた。そして、さっきじいさんがやられていた腕ブンブンをされている。
「でっかいグリードベアにいっぱい矢をうったんだ!」
「あらまあ怖いわねえ」
話が相当前まで戻っている。こりゃしばらく終わらないな。水をすすってるしかない。でも……お母さんの毛は白くないんだな。普通のキツネ色のロングヘアーだ。そこから狐の耳がピョコンと。
それにしてもおキレイです。ちょっと高校生になりそこなった思春期の俺には目に毒だ。セクシー美女はアメリカで嫌というほど見たが、基本キツすぎた。ペタのお母さんはその辺、丁度いい。しかも若い。こんな大きな子供がいるとは思えない。
「んでな!ハルキがすごいはやさでとびこんで!」
俺の腕までペタに掴まれた。ブンブン振ってくる。水をこぼさないようにテーブルに木のコップを置くと、じいさんが少し寂しそうなのが見えた。まあ、母親ってのは子供にとっちゃ一番だろう。俺はあんまり知らないけど。
あれ?母親が避難してただけって事はもしかして父親も?
ギィ
「ハルキ殿、来てくれたか」
なんだエジャか。俺はまたペタの父親とか来たのかと……
いや、ちょっと待てよ?エジャはこの村の狩猟頭としか思ってなかったけど、もしかして実は実は……いや家が違うし、ないな、ない。
「エジャ~。こちらの魔法使い族の子かわいいわねぇ。そんなに強いとは思えないぐらいよお」
「姉さん。ハルキ殿は、一流の戦士だ。紛れもなく村の救い主だ」
「若いのにすごいのねぇ」
ぬおお!エジャがペタのお母さんを姉さんとか言った!え、何。んじゃエジャもじいさんの、村長の息子だったのか。んじゃペタのおじさん?ナンダコレ、ややこしい。いや、ややこしくはない。ややこしくはないんだが、色々納得いかない。
俺、今、家族団欒の中に、ボッチなんじゃないだろうか。ペタにブンブン振られる腕のせいで首がカクカクする。
しばらくして、ペタのお母さんが「ごはん作るわね~」と台所に入って行った。ペタも入って行った。そしてなぜか俺も連れ込まれた。いや、何故なのかは分かっていたが。
「すごいわぁ。こんなに簡単に火がつくなんて~」
「ハルキはすごいんだ!まほうもすごいし、いえがすごいぞ!」
ペタは基本的に俺の話を自分の自慢のように語る。お母さんの目が優しいな。やっぱこうしてみると母親と娘だな。
俺の獲った緑ウサギも調理してもらった。ペタのお母さんは調味料を棚からいくつか取り出して料理していた。塩以外もあったんじゃないか。
おかげで晩飯は、こっちに来てから一番美味かった。エジャも別の家に住んでるくせにちゃっかり食っていた。まあ家族だからいいのか。エジャには嫁さんとかいないのかね?
「俺はまだ、若輩者だ。嫁をもらうには早い」
そんな事を言うエジャに周りはブーイングの嵐だ。
「そんな事を言っとると嫁をもらい損ねるんじゃぞ。わしがお前ぐらいの時は……」
「そうよぉ、エジャったら。アナタ真面目すぎるのよ~」
「エジャ、わるいけど、ペタはよめにはいけなくなった。ハルキがいるから」
なぜ俺を巻き込む。ううっお母さんの目がメッチャ輝いてる。
「ペタ、俺はお前を嫁にもらう気はないぞ」
「あらら~。いいじゃないいいじゃない。種族を越えた愛。素敵だわ~」
「いや、お母さん。あのですね、そもそも年齢が……」
「ホッホウ。エジャよりは歳も近いし、問題ないと思うがのう」
じじいまで参戦してきやがった。問題発言をしたペタは、またクネクネしてる。これは劣勢だ、話題を変えないと。
「そ、そうだあ!エジャに聞きたいことがあったんだあ!」
めっちゃ棒読みになった。自分の演技力のなさにびっくりだわ。
「ふむ、分かる事なら聞いてくれ」
「あーっと、この辺に海ってあるかなーって」
そう、この話をしに来たんだよ。丁度、親御さんもいるしナイス話題転換だ。俺えらい。
「うみ!そうだ!うみだ!」ペタも思い出したみたいだ。
「海か…近くにはないが、町から出ている馬車か亀車を乗り継げば行けない事もないな」
馬車はわかるけど、なんだ?キッシャ?汽車じゃないよな。まあ何か乗り物があるのか。
「ハルキと、うみにいくってやくそくしたんだ!」
「まあ!」
あれ、お母さんの目の輝きが増した。しまった、そうか、二人で旅行はまずかったかもしれない。
「もう婚前旅行の約束までしてたのね~。私、もうお婆ちゃんになるのかしら~」
「わしは、ひいじいさんか。ホッホウ、いいのう~」
「こんぜんりょこう!」
エジャ以外が、みんなクネクネし始めた。尻尾もだ。この一家は……
「あくまで見に行くだけですよ。いや、そんな遠いなら一人で行くんで、ペタは置いて行きますし。あ、エジャも一緒にどう?」
「なんだとー!うらぎりものー!うわ気かー!」
ペタがビシビシ殴って来る。いや、グーはやめて、普通に痛い。それにエジャと浮気とかやめてくれ。そもそもお前は俺のなんなんだ。
「俺は村からは離れられない。それに海は遠いが、俺はペタぐらいの頃に行った事があるぞ」
エジャが裏切った!うらぎりものー!
「わしが連れて行ったのう、懐かしいわい。あの頃のエジャは素直で……」
じいさんがトリップし始めた。今のうちに話題をどうにかしないと。
「はい。じゃあ決定ね~。ハルキさんにはペタを海に連れて行ってもらいま~す。異論は認めませ~ん」
お母さんが手をパンッと叩きながら宣言した。このお母さん、のほほんとしてるようで意外に押しが強い。当初の予定通りではあるんだが、なんか思ってたのと違う感じになってしまった。
その後すぐにペタがウトウトし始めたので、詳しい話は明日という事になった。
俺が前に借りた家に向かってトボトボと夜道を歩いていると、広場で夕方とは違う狐族の男の人に笑顔で手を振られた。俺も笑顔で振り返した。
読んでくださってありがとうございます。
お母さんには作者の趣味が多分に含まれています。




