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惑星の魔法使い  作者: モQ
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第175話 俺の果物ナイフ

「ハルキ!いうときはいう、おとこだな!」


 ふ。そうだ。ペタの言う通り、俺は言う時は言うんだ。逆に言えば、言わない事も結構ある。だが今回は言ったぞ。




「嫌っす。町の事は町に任せましょう」


 ハルピュン鳥の巣を潰しに行こうと提案してきたリカータさんに、ハッキリと断った。女王討伐だったかな。まあ、同じだ。


 そもそも、リカータさんの魂胆こんたんは見えてる。この町に恩を売って、代わりに木炭もくたんの製造方法を聞き出そうって事だ。


 ただ、あの人は残念な勘違いをしている。ペタも多分同じ勘違いをしている。


 恐らく、俺の戦闘能力を見込んだ提案なんだろう。だが、ハッキリ言って俺と鳥モンスターの相性は最悪だ。投げナイフや投石しか遠距離攻撃手段のない俺には、空を飛ぶ相手は面倒でしかない。実際に群れに囲まれてみてよく分かった。


 逃げるなら良い。だが投擲とうてきで戦うとなると、投げる前と後に、どうしたって隙ができるのは自覚している。単純に経験不足だ。それに巣ともなれば数も質も上がるだろう。嫌だ。いや、多分無理だ。


 そして、更に重大な理由がある。わざわざ危険な所に行きたくないです。


「でも、おねえちゃんガッカリしてたな」


 う、ソウダネ。心が痛い。




 リカータさんは、しょんぼりしながら部屋から出て行った。レフトちゃんまで置いて行った。とはいえ、ショックを受けて家出したとかじゃない。食料品と水の調達だ。そもそも家出だったらもうしている。


 俺が思っていたのと違って、宿に食料品なんかの手配を頼んでいたそうだ。もう荷台に積まれているはずなので、確認してくるらしい。便利だな。


 すぐ戻るらしいから、俺とペタは部屋で留守番だ。


「お姉ちゃん、やっぱり残念だったと思うか」


「おお!すごくおちこんでたもんな!つみなおとこだな!」


「だよな。でも、甘やかしちゃいけないと思うんだ」


「あまい、さとうがたべたい!」


 心の痛みをペタに癒してもらおうと思ったが、やっぱりどうも違うな。それと、砂糖はお前の誕生日にほとんど使ったからもうやらないぞ。残りはイザという時の収入源だ。


 まあ、リカータさんは、


「今朝の襲撃で、荷物の見張りを放棄したという事で、宿の方に手数料を負けさせてきます」


 って言ってたし、戻って来る頃には元気になっているだろう。あの人は駆け引きをすれば生き生きする。


 それに木炭なら、俺のかすかな記憶を総動員すればヒントぐらいにはなるかもしれない。それで勘弁してもらおう。


「ハルキ!おふろにいきたいぞ!」


 ペタが今にも服を脱ぎそうな勢いで、尻尾をバタバタさせている。スカートを買わなくて良かった、脱げるところだった。泳ぎたいんだろうな。まだ明るいけど、温泉だったら良いよな。どうも風呂は夜に入るイメージがある。


 俺は行かないけどな。明るい所で他の女性客と遭遇したら屋根を越えてでも逃げる。それに、あの風呂にはハルピュン鳥のフンが……


「お姉ちゃんが帰って来てから、一緒に入って来い。俺はいいから」


「えー!ハルキにみてもらいたかったのに!ペタのあたらしいおよぎを!」


 ベッドの上でバタバタするペタ。う、その動きはまさかのクロールじゃないのか。お前、自分で編み出したのか。この天才児め。


 そしてピタっと止まった。寝やがった。






 辺りが薄暗くなってきた。そんな町の中を1人で歩く。流石、鉱山と鍛冶の町だ。武器の店や、金物かなもの屋はいくらでもある。


 宝石の店みたいなのは無いな。鉱山って言っても、何でもかんでも出る訳じゃないんだろう。当たり前だな。鉄と、銅の製品が多いみたいだ。あとは銀細工なんかもあるな。溶かして銀貨にできないかな。捕まるか。


 ペタとリカータさんは、一緒に風呂に行った。一応、部屋の鍵もリカータさんに預けておいた。お金の入った袋と一緒に首にぶら下げてたから、なくさないだろう。万が一酔いつぶれてもな。


 ちゃんとペタには新しい服を着せて送り出した。風呂に入る前に着替えるのは、おかしい気がしなくもない。でも、そうでもしないとアイツは着替えない。


 リカータさんには一言「飲み過ぎ注意」とだけ言っておいた。




 ああ、1人じゃなかった。上着のポケットがモゾモゾしている。左手ヤロウがまた潜り込んで来た。まあ、ちょっと膨らんでるだけだから気にはならない。どっかで落っこちても気にはならない。ただ残念ながらしっかり掴まってるらしく、落ちる気配は無い。


 たまに聞こえてくる「奇声」という声にも笑顔で軽く手を振る余裕が出てきた。っていうか、呼ばれすぎて慣れた。こうやって色々、大事な何かを失っていくんだろうなあ。


 失ったといえば、投げナイフだ。今、俺の投げナイフホルダーには2本しか刺さっていない。4本ないと、すごく不安な気持ちになる。いつの間にかこの重みが当たり前になっていたみたいだ。


 という訳で、1人と左手で果物ナイフ探しの旅だ。金物屋や武器屋をのぞいて回っている。


 ……うーん。良いのがないな。


 っていうか武器も少ないし、生活雑貨なんかほとんどない。おいどうした、鉱山と鍛冶の町。


「ハルピュイアのせいで、鉱山が使えないのよ。それに、鉄製品はかなり町に買い上げられちゃってね。たぶん、矢の材料になってると思うわ」


 そう教えてくれたのは、金物屋のドワーフおばちゃんだ。リカータさんが熱く語っていた内容は当たっていたみたいだ。ってか、別に隠してなかったのね。聞けばすぐ分かった。リカータさんのオトボケ部分がまた1つ見えた。


 各、武具工房で手分けして、鉄を溶かして矢にしているらしい。本格的な反撃の準備だな。鉱山を取り返すんだ。ほら、俺が手を出すまでもない。




 そして、あった。使えそうな果物ナイフ。重心も大丈夫だ。ああ、俺の果物ナイフ。


 階段や坂道を登ったり下りたり、町の外れまで来てようやく納得いく投げナイフに出会えた。ただ、高い。おい、果物ナイフ1本に大銅貨2枚は無いだろう。4000円相当のお品物じゃないか。普通はリンゴをいて「あーん」とかする為だけの道具だろうが。


「今、鉄製品は値段が上がってるんでね。嫌なら買わなくていいよ」


 果物ナイフに頬ずりをしている俺を見ながら、そんな事言わないでくれよドワーフの旦那。あるだけ全部いただきます。あ、2本はすぐ使うので、そのままでいいです。残りは背負い袋に入れますんで布で巻いて欲しいです。


「すぐ使う?変な人だね。あ、奇声の人かアンタ。ならいいや」


 く、こんな町外れまで俺の異名はとどろいていたか。いや、奇声がとどろいたのか。山って声が響くよな、ヤッホー。変人認定されてるぞ、ヤッホー。


 ウキウキと店を出る。うん、この微妙な重み。これが俺の戦闘スタイルだ。予備も5本買ったし、しばらくは大丈夫だ。お金は減ったけど。


 あ、ちょっとテンション下がった。あと、上着のポケットのお前。お前の重みはいらない。




 そのポケットがウゾウゾと動き出した。


 あ、こら外に顔……じゃない、手を出すな。人に見られたらどうする。




 レフトちゃんが人差し指を伸ばしている。お、久しぶりだなその手の形。俺に掴まったまま指を差すとか器用だなお前。


 ってかどこ差してるんだ。上か。俺じゃないのか。ああ、そういやこいつ何で俺を指差してたんだろうか。聞くの忘れてたな。イチイチ、スマホを通さないと話が出来ないなんて不便すぎる。


 とはいえ、コイツがペラペラ喋りだすと面倒事が確実に増える。丁度良かったかもなあ。で、何があるんだ。空にあるのは星と月ぐらいだろう。


 空を見上げる。月と星がまたたいている。もうこんな時間か。2人ともそろそろ風呂から上がっただろうか。早く帰ってやらないとペタに怒られるな。主に飯の事で。




 待て、何で月までまたたいてる。


 星がチカチカするのは空気のせいだ。光がゆがむんだ。宇宙飛行士になりたいと思った事が、人生で合計2週間ぐらいあるから知ってる。


 だけど月は近い。空気の影響なんか受けないぐらいハッキリしてるのが普通だ。それが、所々、欠けたり現れたりしている。


 何かが、かなり上空にいる。しかも大量にだ。


 冗談じゃない、1日に2回だと。しかも夜に来やがった。


「ハルピュンだ!家に入れ!」


 名前が微妙に分からないが、それどころじゃない。奇声とか言われても良い。声を振り絞って叫ぶ。と、同時に走り出す。


 もう風呂から上がってくれてれば良い。だが、あれだけ上空からじゃ、気付く前に一瞬で連れ去られる。何で露天風呂なんだ。ペタ、リカータさん空を見ろ。背泳も編み出せ。




 叫びながら町を走る。やっぱりまだ誰も気付いてなかった。俺だって気付かなかったんだ。レフトちゃん、すげえセンサーだな。今回は助かった。やればできるのが、ここにもいたか。


 夜の町は人がウロウロしている。そりゃそうだ、1日の労働を終えて飲みに出る時間だ。ドワーフは絶対に酒を飲む。ってかもうフラフラしてる奴らも大勢いる。


 反撃できるのか、これ。まさか、ここまでタイミングを読んで襲ってきたのか。


 俺の叫びで、慌てて空を見上げる人族達。間違った名前でも、伝わったみたいだ。家や店に飛び込んでいく。戦える奴は弓を持って来るだろう。酔っ払いがどこまで戦えるのかは知らない。


 こいつらもそうだが、俺も完全に油断した。まさか1日に2回戦あるとは思わなかった。それに今は夜だ。普通は、鳥だってオネムの時間だ。


 そりゃ、夜に狩りをする鳥もいる。フクロウが有名だ。だが、鳥が狩りをしやすいのはどう考えても太陽の光の下だ。視界が違いすぎる。視力を頼りに狩りをする鳥は、日が沈めば大体はお休みだ。


 よく鳥目とりめって言葉を使う。俺も使ってた。鳥は夜になると目が見えなくなるって意味の迷信だ。そう、迷信なんだ。見えてないんじゃない、寝てるだけだ。渡り鳥なんか、夜中だってお構いなしに飛んでる。


 ちゃんと見えてはいるんだ。少なくとも人間なんかより遥かに。しかも、ここは町だ。この時間になると、あちこちに松明たいまつが掲げられてる。上空から見れば餌場だ。俺とした事が、思い込みと迷信にとらわれていた。




 全力で走りたいが、通りに人が多い。それに段差も多い。こういう場所じゃ忍者でもなきゃスピードは出せない。細目長さんやエジャならスルスル行くだろうな。俺はまだまだ忍者としては半人前だ。


 ギャア!


 悲鳴のような声が聞こえた。いや、鳴き声だ。来た。


 ドワーフが1人上空に連れ去られたのが見えた。くそ、俺の声じゃ町全体には届かなかった。あの時の奇声ぐらいの音量が出てれば。だが、もう遅い。


 次々と悲鳴が上がる。人面鳥の鳴き声と、人の悲鳴が入り混じる。


 矢も飛び始めた。流石に反撃も早い。仕事は終わってるんだ、ドワーフ達もすぐ動ける。


 が、酒が入ってるんだよアイツら。正確な射撃なんて出来る訳がない。だから、俺は酒は飲まなかったんだ。まあ年齢的にもダメだったんだけど、勧められることはしょっちゅうあった。こっちに来る前に酒を覚えてたら、ベガスで死んでたな。そしたらこっちにも来てないか。


 宿が見えた。周囲はやっぱり戦場になってる。俺にも飛びかかって来る人面鳥を、置き去りにしながら宿に飛び込む。


「キャア!」「早く閉めて!」


 女性客達の悲鳴が上がる。言われなくたって閉めるよ、黙ってろ。ってか酒飲んでる場合か。外で住人が必死で戦ってるんだぞ。


「お客様!お連れ様が!」


 ネズミ族の女性従業員が、慌てた様子で近づいて来た。俺からチップをむしり取る人だ。だが、セリフがおかしい。チッププリーズじゃないのか。


「何かあったのか!ペタは無事か!」


 思わずネズミ耳の肩を掴んで揺する。ガクガク揺れるネズミ耳。あ、これじゃ喋れない。ごめん。


「ハルキ!」


 ペタが飛びついてきた。いつもの服じゃなくて、買ってやった着替えの方だ。なんだ、無事じゃないか。良かった。


「ハルキ!おねえちゃんがつれていかれた!」


 ペタが泣きそうな顔で叫んだ。




読んでくださってありがとうございます。


巻き込まれ系ミーアキャット。


ちょっとだけいじりました。内容に変化はありません。

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