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惑星の魔法使い  作者: モQ
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第173話 ドワーフ饅頭

 長い。女の買い物は長い。特に服だ。


 美咲の荷物持ちで、大きいショッピングモールに行った事が何度かある。正直どの店にも似たような服が並んでいた。値段も似たり寄ったりだ。だが、アイツの買い物は全ての店を見る所から始まる。そして、気に入った商品をキープしつつ別の店で同じようなのを見る。何度も同じ店に行く。そうして出来上がったのが今の美咲です。平日は制服着てるくせに、土日しか着ない服に変に気合い入れるよなあ。と、言った事もあるが、トレーニングウェアばっかり着てる俺には言われたくないそうだ。ごもっともです。




 リカータさんと、服屋のドワーフおばちゃんにコーディネートされたペタが更衣室から出て来た。


 駄目だ。笑うぞ「ぶはっ」


「むう!ハルキ!かわいいだろう!わらうなー!」


 ペチペチ叩かれるが、お前も気に入ってないだろうが。珍しく恥ずかしそうじゃないか。顔が真っ赤だぞ。


 最初ペタがスカートだけ持って更衣室に入ったが、出て来たペタはテルテル坊主になっていた。やっぱり上から被りやがった。


 その後は、リカータさんとドワーフおばちゃんのおもちゃに成り下がった。今、着せられているのはドレスって程じゃないがピンクのフリフリが大量に付いた服だ。似合ってないとは言わない、うん。っていうか可愛いと思う。だが、普段のお前を知ってるヤツは絶対笑う。


 ほらリカータさんもクスクス笑っている。もう真面目にやってない。


 俺がさっきから持たされてる、この無難な感じのショートパンツとシャツで決まりなんだろう。


 とりあえず、今はもう遊んでるだけだ。スマホで記念写真を撮っておいてやる。後で何度も見直して、何度も恥ずかしくなるがいい。ペタ7歳の黒歴史だ。


 スマホを出すと、ペタとリカータさんが少し離れるようになってしまった。爆発すると思ってるもんなあ。図太ずぶといと思ったけど、やっぱり怖かったんだな。でも、これでもう売ってくれとは言われないかも。


「じゃあ、お会計をしましょうか。ここは勿論、任せてください。ハルキ様達は外で待っててくださいね」


 リカータさんのターンってやつだ。頑張れ、ドワーフおばちゃん。




「ふくは、もういらない。スカートは早かった」


 疲れ果てたペタの手を引いて外に出た。これもまた珍しい。ペタがフラフラしている。おもちゃにされたのがかなりこたえたんだろう。


「もう少し大きくなったら、また欲しくなるから。そん時に買ってやるよ」


 俺がいればな。ペタの頭をワシャワシャでながら空を見る。いい天気だ。朝は、雲みたいに人面鳥が飛んでたけど。


 なんだっけ、コロニーが出来てるかもしれないんだっけ。要はでっかい巣だ。毎日襲われたんじゃ、住んでられないよなあ。こんなににぎわってる町なのに、それはかわいそうだ。


 かといって、俺がどうこうする気はない。これがギルドの依頼とかならまだしも、自分から危険に足を突っ込みたくは無い。この町には十分な戦力もある。コロニーとやらの場所が特定できれば、こっちから攻め込んだりも出来るだろう。そもそも依頼でも受けない。今はバカンス中なんだぞ。


 に、しては既に色々あった気もするが。


「お待たせしました。良いお買い物が出来ました」


 リカータさんがニコニコと笑いながら出てきた。思ったより時間かかったなあ。と、思ったら何だか服が多い。


「ハルキ様、すみませんが一緒に背負い袋に入れてもらっても良いですか?」


 あ、この人、自分の服も買ったな。


 受け取った布切れを背負い袋に入れていく。げ。


 し、下着ですか。ええっと、ペタのじゃないよな。うわあ、毛有りの人が身に着けるとはいえ、女性物の下着を触った事は無かった。なんだろう、すごく悪い事をしている気になる。サササっと背負い袋に突っ込む。駄目だ、この動きも怪しい。盗んだんじゃないぞ。こっち見るな通行人。


「あ、奇声の人」そっちか、ならいい。嫌だけど。


 店員のドワーフおばちゃんが店の外まで出てきて挨拶してくる。


「また、お越しくださいね。奇声さん」


 いえ、もう来ないっすよ。この町にな。




「ハルキ。おなかすいた」


 ペタがいつものように空腹を訴える。太陽は、ほぼ真上だ。こいつの腹は時計代わりになるな。スマホの表示も12時01分。すげえな。


「そろそろお昼にしましょう。ところでハルキ様……」


 リカータさんが変に勿体ぶる。何でしょうか。これ以上、俺を何かこきつかったりはずかしめるんでしょうか。






 屋台が並んだ通りの裏手に、広場があった。特に何に使われてる訳でもないみたいだ。いこいの広場だろうか。火を起こしても誰も文句を言いには来ない。


 そこに広がるラーメンの香り。そうでした、もう3日過ぎてたよ。昨日はノンストップで山を登ってたから食えなかったんだ。まきは亀さん車の荷台から、水は買って来た。火は当然ライターからいくらでも出る。そしてその火を見つめるリカータさんの目も燃えている。


「今日こそは、味の謎を解きます!」


 うん。無理だと思うよ。ペタが手を合わせてウズウズしている。伸びるし、さっさと食おう。




 まあでも、せっかく町にいるのに、こんなキャンプみたいなのは勿体ない気もする。名物みたいなのでもあれば食いたかった。ドワーフ饅頭まんじゅうとか、ドワーフ焼きとか。う、なんか人を蒸したり焼いたりしてるみたいなネーミングだ。やっぱいいや。


「ウマヒ!ウマヒ!」


 今日はラーメンのお供に、屋台で買って来た肉の串焼きもある。ペタの口の中はもうグチャグチャだろう。何故、一緒に口に入れる。飛び散りまくりだ、屋外で良かった。


「お代わりをお願いします!」


 リカータさんが3回目のお代わりだ。本気で調味料を解明する気なんだろう。えっと、女性にこんな事を言うのは気が引けるんだが太りますよ。言わないけど。


 あと、いつの間にやらギャラリーが凄いんだ。


 下手に屋台の近くで食ってるせいで、昼飯を食いに来たらしい髭もじゃドワーフが匂いに釣られて広場に集まって来ている。


 そして当然のように、奇声奇声という声も聞こえる。これだけ言われりゃ流石に慣れる。もうどうでもいいや。何か叫んでやろうか。


「うーん、分かりません。今日はもう無理です」


 リカータさんがギブアップした。残ったスープをペタにあげている。まあそうだろう。アナタ1人で5人前いきましたからね。ペタももう「これいじょうは、レディーじゃなくなる」と言って3人前と少しで止めた。十分食ってるし、その発言だとリカータさんはレディーじゃない事になるぞ。


「こんな美味しい物が、いくらでも作り出せる魔法なんて凄いですねえ」


 心なしかお腹がぽっこりしたリカータさんがケプッと可愛いゲップをする。可愛くてもゲップはマナー違反らしいぞ。地球ではな。


 微妙にまだ残ってるんだけどな。俺も、もういらない。だが、捨てるのは俺の勿体ない精神が許さない。それに麺は消費しないと復活してくれない。レフトちゃんあたりが、普通の食事に目覚めないかな。ちなみに亀さんは食えないし、ここには居ない。今頃、デザートの果物を食べてるはずだ。


 そういや、今日の夜までに食料と水を補給しなきゃいけない。明日からまた山道だ。食料は良いとしても、水にお金を払うのは嫌だなあ。




 少し、薄汚れた格好をしたドワーフの男の子が2人、こっちを見ている。さっきから気になってはいた。だいぶ早い段階からじっと見てたからだ。


 これはやっぱりそういう事をしろって、誰かが言ってんのかな。でもなあ、それも良くないと思うんだよ。野良犬や野良猫に餌をやるなら、最後まで面倒を見るべきなんだ。いや、人族を犬猫扱いするのは良くないとは思うよ。でもまあ、それに近いだろう。俺達は明日、この町を出る。あの子達がどんな境遇かは知らないが、連れていく事は出来ない。ああ地球に置いてきた公園の猫たち、誰か餌やってくれてるかな。


「たべていいの?」


「おお!ハルキのほそいスープはぜっぴんだぞ!」


 おい。ペタ、勝手に呼ぶんじゃない。


 男の子が2人、すぐそばまで来ている。俺の葛藤かっとうの意味が全くなくなった。今、追い返したら俺が鬼みたいだ。


 思わずため息をつきながらラーメンを器によそった。






「並んでください!順番を抜かした人は最後尾に回ってもらいますからね!」


 リカータさんの声が広場に響く。その手に持った革袋の中にはチャリンチャリンと音を立てて銅貨が投げ込まれていく。


 そして、俺は器を持って並んでいる髭もじゃ達の為に次々とラーメンをでる。


「奇声さん。次は濃いめで頼む」


 ほいほい。粉末スープを2袋分ぶちこむ。このおっちゃんは2杯目なんだろうな。もう分からない。分かる訳がない。この町の髭もじゃドワーフの半分ぐらいは来てるんじゃないのか。顔が違うってのは分かるが、みんな髭もじゃだ。見分けなんかつかない。それが2回、3回と並び直す。エンドレスだよ。ラーメンも何回転、復活したかもう分からない。


「ハルキ!こっちのおゆ、わいたぞ!」


 バイトリーダーのペタちゃんも大忙しだ。お湯の管理は任せた。近くの屋台から借りた鍋がズラッと並んでいる。


 水を買って来ては鍋に入れているのは、最初にラーメンを食わせてやった男の子ドワーフ2人だ。結構、力持ちだし頑張ってくれてる。バイト君達の時給をはずんでやらないといけないなあ。


 ああ、でもコレを商売にはしたくなかったのに……


「実はそろそろ、グレートボアの売却益が尽きるんですよね。1杯、銅貨3枚なら良いでしょう?」


 リカータさんに痛い所を突かれた。俺の財布からは出来るだけ金を出したくはない。だが、収入のアテもない。本当は大銅貨5枚は取れますよと笑う守銭奴しゅせんどミーアキャット。ラーメンに1万円とは無茶を言う。ええい、楽しそうだなこの商売人め。


 当然、昼飯時に屋台の近くでこんな事をすれば迷惑がかかる。だが、リカータさんに抜かりはない。


「はい、そこ!ちゃんと屋台で1品買ってきてください!」


 ビシっと髭もじゃの1人を指さして叫んでいる。よく見てるなあ。こういうの抱き合わせ商法とか言って、あんまり良くないんじゃなかったかな。まあ、屋台さんにも利益がちゃんと出るし良いか。それに今日1日だけの営業だ。そこは譲らない。


 銅貨の代わりに、革袋から追い出されたレフトちゃんが俺の上着のポケットでモゾモゾしている。俺から生命力でも吸ってんじゃないだろうな。かなり疲れてきたんだけど。いや、これが労働ってやつか。はあ、働くって大変だ。


「バリかたで頼むよ、奇声さん」


 ほいほい。もう注文に慣れてきた奴までいる。こいつらめっちゃ食うな。どっかで止めないと、仕事に戻らないぞ。まあ、その辺はオーナーのミーアキャットが上手くやってくれるだろう。


 俺は、ただただ麺を茹でて器に入れていくだけだ。雇われ店長なんてこんなもんだ。




「こんなにいいの!?」


「すごい!ありがとうおやぶん!」


 頑張ってくれた男の子ドワーフ2人は大銅貨3枚ずつを握って、嬉しそうに走って帰って行った。6000円だもんな、子供のバイト代じゃない。まあ、オーナーが良いって言ってんだから良いだろう。そして、ペタ軍団が広がりをみせつつある。


 そのバイトリーダーのペタには大銅貨1枚だが、また矢を追加で買ってやる事になってるからこれも良いだろう。ほら、大銅貨の舞いを踊っている。問題ない。


「やっぱり、売り出せば凄いと思ったんですよね。これで旅費もしばらく安泰あんたいです」


「もう絶対、売らないっすよ。それと、もう町や村では出さないっすからね」


「それはお約束します。これ以上知れ渡ったら、私が売り出す時に困りますから」


 昼時を過ぎた広場で、売り上げを数えながらニコニコしているリカータさん。まだ、調味料を解明する気マンマンだな。あと、この人には商売がストレス発散なんだろうな。なぜ、仕事を休んでまで俺達に付いて来た。


 ペタと俺は、改めて屋台で肉や野菜の炒め物を買ってきて休憩している。働くと腹が減る。


「はたらくと、はらがへるな!」


 う、ペタと思考が被った。なんだか複雑な気持ちだ。




「奇声の人、もうやってねえのかい?」


 髭もじゃドワーフが1人近づいて来た。残念、もう閉店ですよ。誰かに聞いて来たんだろうな。屋台の肉も美味いからそれで我慢してくれ。


「ないならいいや。ところで、ちょっとツラ貸してくれや」


 おっと?


 まさか、この場所で商売したんならナントカカントカ言うタイプのヤカラか?この町にもやっぱりそういう裏の人がいたか。


 だが、お前に払う金は一切ないぞ。いや、俺は払っても良いよ。モメ事は嫌だし、だいぶ儲かったみたいだし。でも多分、この人がそれを許さない。


 うちのオーナーが笑顔で対応する。


「土地の権利者の方ですか?こちらは、公共の場と聞きましたが間違いだったんでしょうか。どのような理由で私達を拘束なさろうとするんでしょうか。あ、それとも兵士の方ですか。容疑は何でしょう。税金であればリカータ商会から正式にお支払いしますので問題は無いはずですが」


 オーナー、笑顔が怖い。




読んでくださってありがとうございます。


作中は夏前ですが、作者は大雪の中、てくてく歩きながら更新です。ながらスマホ駄目。

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