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惑星の魔法使い  作者: モQ
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第163話 サディストなのか

 とうとう念願のお隣の領地に入った。これで、アホバカ騎士団長は追って来れない。少なくとも騎士団を引き連れてってのは無理だ。


 そもそも、ご本人まで出てきたのがその証拠だ。あそこを逃すと俺を捕まえるのが難しい状況だったんだろう。いや殺すのがかな、分からないが。どんな理由をでっちあげて襲って来るつもりだったのかね。


 そういう訳で、俺は結構もう楽観視している。別の領地の騎士に急に捕まったりってのも、ないんじゃないかな。後、気を付けるべきはせいぜい微妙な暗殺者ぐらいだろう。




 しかし、領地の境目さかいめは意外にスンナリだったな。もっと、関所せきしょっていうのか?ああいう建物とかあるかと思ったけど。あったのは、お地蔵様みたいな大きな岩だけだった。ただの目印なんだな。


 まあ建物を建てた所で、人の通行を完全に把握する事なんか出来ないだろう。道なんか通らなくたっていくらでも出入り出来る。人を調べたかったら町とかの入り口で調べるって事なんだろうな。


 ああ、そういえば、その岩の所で盗賊っぽいのに襲われたが、1人アタマ3秒ぐらいで悶絶もんぜつさせてきた。ちょっとイライラしてたので荒っぽくなったが殺してはいない。今は上半身裸でひたいに「盗賊」と書かれてお地蔵様のお供え物になっている。リカータさんにサインペンで書いてもらった。


「このペンを金貨50枚で売って頂けませんか!」


 そう騒ぐミーアキャットの手からサインペンを奪い返して亀さんと交代した。




「体力全快です。これなら夕方までに駅に入れますよ」


 亀さんが軽快けいかいに飛ばしながら言う。ああ、やっぱり本職は違うなあ。俺は荷台でゴロゴロさせてもらっている。疲れた。回復しながらとはいえ、常に限界ギリギリの体力で走り続けるってのは地獄だ。マラソンのラストスパートが延々と続く感じだ。相当、良いトレーニングになったのは間違いない。心が折れそうだったが俺はやりきった。もう嫌だ。


 だが俺も荷台を引っ張れる事が分かったので、リカータさんの旅行計画に組み込まれそうな気配がする。既に、大きめの地図を引っ張り出してきてブツブツ言ってる。


「出来るだけ引っ張りませんよ」


「ええ、大丈夫です。万が一の時の事を考えてるだけですから」


 俺の宣言にニコニコと答えるリカータさん。万が一でも引っ張らない方向で頼みたい。


 ペタも俺の横でゴロゴロしている。というか寝ている。手にカエルの肉の入った麻袋を握って幸せそうな寝顔だ。もう夢の中では肉を食ってるんだろうか。だとしたら、起きてからもう1回食えるからお得だな。


 大体どこの店でも、持ち込んだ材料の調理はしてくれるそうだ。次の駅でカエルが食える。そのまま1泊だ。ようやくまともなベッドだ。


 追っ手に関しては、相当急いだから気にしなくても大丈夫だろうってのがリカータさんの考えだ。うん、急いだよ。亀さんと俺でな。


 絶対、また引っ張らされる。追っ手が来てるかもしれませんのでー、とか言われたら断りにくい。だって、一応俺にも追っ手がかかってると思う。馬や、他の亀さんでも追いつけないぐらい引き離すのが一番良いのは分かる。そうすりゃ、村や町で少しはノンビリできる。


 特に、町だ。せっかくだから、2、3泊ぐらいして観光したい。旅行なんだから。美味い物も食いたいし、ニャの人族も探したい。あ、熊族も探したいなあ。テディさんを抱っこしたいなあ。他にもまだ会った事のない種族に会ってみたい。特に毛有りはペット的に癒される動物である期待値が高い。あと風呂に入りたい。





「お風呂ですか?良いですねえ。じゃあ、ハルキ様にも、ちょっと頑張ってもらって温泉に行きましょうか」


 駅にある中ぐらいの宿屋で、カエル肉を食っていた時にそんな話になった。リカータさんは上機嫌でお酒を飲んでらっしゃる。どっかでめないとな。


「オフヘンッヘハンハ」


 ペタがカエルを頬張りながらいつものヤツだ。温泉って何だ、か。知らないんだな。まあウチの部屋で初めてお湯に入ったらしいし。


「温泉っていうのはね、温かいお湯がいっぱいあって気持ちいい所よ」


 おお、リカータさんがペタの謎言語を理解できるようになってしまった。


「ングング!おおお!ハルキのいえのフロみたいなやつか!いきたいぞ!」


 肉を飲み込みながらペタが大騒ぎする。食いながら喋るのも食事中に騒ぐのもマナー違反だが、ここにそれを注意するお母さんは居ない。そもそも、ここも酒場だ。酒場で騒いでないグループ自体そんなにいない。


 っていうか温泉あるんだ。へえ、良いな。あんまり行った事ないけど、今入れたら天国だろうなあ。


 あれ。俺に、ちょっと頑張れとか言いましたかね?


 ああヤバイ、墓穴を掘ったか。気のせいか息苦しく感じる。体が拒否反応を起こしている。だがペタまでノリノリだ。掘ったな。もう取り消せない。


 あと、リカータさんが少しずつこっちに近付いて来ている気がする。もう酒が回ったんだろうか。もし抱き着いて来たら、食事終了の合図だな。


「ハルキ様、地図を!地図を出してください!」


 鼻息荒く言われた。あ、スマホの地図か。そっちに引き寄せられてたのか。アンタは俺に引き寄せられてるっぽいレフトちゃんか。


 そのレフトちゃんは、しっかりとリカータさんの腰に皮袋に入ったままぶら下がってる。今も俺を指差してるだろう。何がしたいんだろうな、この左手ヤロウは。


 スマホを取り出してリカータさんに見せる。すげえ興奮してらっしゃる。地図を指で操作する度にフスーフスーと鼻息が聞こえる。ちょっとアルコールくさい。


 まあ、どうしても顔が近くなるのは仕方がない。スマホは小さいし、こんな酒場のテーブルの上にあの大きな地図は広げられない。


 そしてペタが無理やり俺の膝の上に乗ってきた。何だ、この状態。狭い。




 大雑把に理解はした。このまま街道沿いに行けば駅を1つ挟んでこの領地を治める騎士団の町がある。亀さんならあと1日だ。結構、近かった。


 だが少しれると、山岳地帯に入るそうだ。そしてそこには火山がある。そう、火山があれば当然お湯も出る。いや、当然かどうかは知らないけど。


 その火山のふもとにも小さな町があるらしい。騎士団は関係ないが、鉱山と鍛冶で盛り上がってるおかげで村と言うより町みたいなもんなんだとか。


「ただ、鉱石関係は重量がありますし、あまりそのまま運ぶのは現実的じゃないんですよね。出来上がった製品を運べば高く売れるんですけど」


 リカータさんが、俺をチラッチラッと見ながらそんな事を言う。やだよ。運ばないよ。大体、これは旅行であって仕入れじゃないんだ。この人は隙があれば商売をしようとする。アンタも休めよ。


 まあ、その町には温泉がいてるって訳だ。


 ただし、そこまでが山道だ。登らなきゃいけない。流石の亀さんのペースも落ちる。1日で到着ってのは普通は難しい。


 で、俺の出番なんですね。交代しながらけと。


 って、平地であれだけキツかったのに山道だと!?なんだ、このミーアキャットはサディストなのか!


「おんねん!おんねん!」


 もう行く気マンマンのペタを前に文句は言えない。ペタがいなくても言えない。俺は女性に弱い。相手が毛有りでもそこはブレない。あとペタ。お前、壮絶に間違ってるからな。怨念おんねんだったら怖すぎるわ。誰が行くか。


 俺を指さしてるであろうレフトちゃんの袋を見ないように、スマホを仕舞う。


「ねえ、ハルキ様あ。温泉行きましょう~!毛艶けづやが良くなるんですよお!」


 あ、抱き着きミーアキャットが来た。今でも十分気持ちいいですよ。


「ハルキにくっつくなーーー!」


 騒がしい酒場でも、一番うるさいテーブルになってしまった。すみません。すぐ、2階に連れて行きますんで。確かに毛有り女性と少女に抱き着かれている俺は、ちょっと変態に見えるかもしれませんが、そんな目で見ないでください皆さん。俺も不本意なんです。でもモフモフ気持ちいい。






 2部屋とった宿の1室でペタがスヤスヤ寝ている。最近、ちゃんとしたベッドで寝てなかったからな。部屋に入った途端に寝やがった、体も拭いてないのに。明日の朝、徹底的に磨いてやる。


 そして酔っ払いも隣の部屋に投げ込んだ。ああ、山登りか。温泉は入りたいけど山かああ。


 正直、温泉の効能とかどうでもいいんだよ。温かい風呂にさえ入れれば。そうだ、旅から帰ったら狐族の村に風呂を作ってやろう。川の水を沸かしてお湯にすれば良いだけだ。なんとなく出来そうだ。まきになりそうな木だって邪魔になる程あるじゃないか。ヤバイ。俺のおかげであの村に観光客とか来ちゃうかもしれない。いや、やっぱり効能とかな無いとだめなのかなあ。温泉の元とかないかな。


 ピピピピ。


 小さな電子音が部屋に響いた。


 は?電子音?こんな中世な感じの星の宿屋で目覚まし時計?


 いや、ある訳ない。大体、目覚ましも何も夜だ。今から寝る時間なのにわざわざ起きたいのは泥棒か幽霊ぐらいだろうが。ペタだって全然起きる気配がない。お前は物音に鈍感すぎだ。まあ、子供なんてこんなもんか。


 音の出所でどころを探る。この部屋の中なのは間違いない。だが小さい。


 ピピピピ。


 何度か聞いた事がある音だ。買った時に聞いたのと、美咲からかかってきた時に聞いた。初期設定のままだから何の愛想もない音だ。普通は着メロとかにするんだろうか。でも、あんまり音楽分からないんだよな。特に日本の曲は。


 スマホが鳴ってる。しかも目覚ましじゃない。電話だ。


 部屋に入ってすぐ、ベルトごと外してテーブルに置いといたポーチの中だ。だから音が小さいんだ。しかもペタにゲームを触らせた時に、音量は最小にしてある。


 って、誰からだよ。こっちの星に電話なんかないぞ。電波もない。


 まさか、怨念なのか。ペタが連呼したから幽霊が寄ってきちゃったのか。電話に出ると後ろに来ちゃうタイプのやつか。


 とにかく音を止めないと。いや、確認しないといけない。


 恐る恐るポーチを開く。うう、なんか音だけじゃなくブルブル震えてる。


 いや、落ち着け。これはバイブレーション機能だった。スマホに普通に付いてるヤツだ。あまりに現代文明から離れすぎてボケがピークに達していた。


 スマホの画面を見る。やっぱり電話がかかってきてる。非通知……じゃない。電話番号が出てる。


 444ー4444ー4444


 死死死ー死死死死ー死死死死。


 一瞬、気が遠くなりかけた。完全にあの世からのご連絡じゃないか。


 どうにか気を持ち直して、画面に指を当てる。


 スマホの電子音が消えた。バイブレーションも止まった。だが、俺の震えは止まらない。そのままスマホを耳に……


 近づけたりはせず、ポーチに仕舞った。


 うん、出る訳ない。怖すぎるわ。切ってやった。切り方が分からずに一瞬焦ったが、勘で触った所が切るボタンで良かったみたいだ。じっくり観察すれば簡単に分かったんだろうが、正直プチパニックですよこっちは。


 ピピピピ。


 スマホがまた鳴り出した。そりゃそうだ、一回切られたぐらいで諦めるような幽霊はいない。だが、出てやるような俺もいない。


 よし、電源を切ってやろう。それでも鳴るならもう駄目だ。すげえ残念だがスマホとはここでお別れしないとしけない。できれば幽霊に諦めて頂きたい。


 スマホを手に取って固まった。電源どれだっけ。


 やべえ。アメリカから帰って初めてスマホを買ったから、操作が分からない。電源なんか入れた事も切った事もない。誰かに聞こうにも聞ける相手がいない。逆に誰かに電話して聞きたいわ、くそう。壊してやろうか。


 ああ、ダメだ。壊れない成分のスマホだった。最強のプラスチック製品だ。これに勝てる物は俺の持ち物には無い。いや待て、レーザーでぶっ叩けばどうだ。あれは流石に金属だろう。まさか発砲スチロールじゃないはずだ。確かめた事は無いけど。だって、間違えて壊して爆発でもしたらシャレにならない。あ、そういう意味ではスマホを叩くのも危険だ。スマホ本体は壊せても中には金属の部品が入ってるだろう。それでレーザーに傷がついたらどうなるか分からないぞ。かといってペタの果物ナイフなんか100円のお品物だ。プラスチックにも負けそうだ。




 よし。出てやる。俺の人生で最大の賭けだ。来るなら来い。いや、ウソ。来ないでくれ、頼む。


 様々な葛藤かっとうを経て、俺は電話に出てやる事に決めた。もし相手が幽霊で、こっちに近寄って来てるとか言い出したらソッコーで地面に穴を掘って埋める。


 震える指で、通話ボタンをタッチする。さっき切れた方と逆のボタンだから多分こっちだ。


 無言でスマホを耳にあてる。


 音がしない。諦めて切ったのか?だったらありがた……と思った所で、声が聞こえた。甲高かんだかい若い男の声だ。


『おお。繋がったよお。オレオレ。分かる?オレだよお』


 そっと通話を切った。


 なんだ。詐欺か。




読んでくださってありがとうございます。


詐欺か。んなわけない。


活動報告にも書く予定ですが、今年はここまでにします。あと、年明けも少し長めにお休みさせていただきますー。よろしくどうぞ。

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