第17話 忍者とかすごい燃える
赤い毛皮のベストを拾い上げる。間違いなくハイエナ男が着ていた物と同じだ。だが引きちぎられたようにボロボロになっている。
骨や、本来ハイエナ族の体に生えていたであろう毛がバラバラと散乱している。何人分あるんだろうか。ただ、昨日今日そうなった訳ではないようだ。肉が残っていない。
っとと、これはなかなかのグロ光景だ。子供に見せるのはマズイか。
「ペタ、目を閉じとけ」
「なんでだ?ちゅうするのか?」
うーっと唇を出して来た。そんなペタの手には既に盗賊の持ち物だったであろう剣が2本も抱え込まれている。コノヤロウ、超平気じゃないか。日本との温度差を感じる。
ペタのホッペタをブニュっと握りつぶしてやった。
「やっぱ目開けてよし。ちょっと調べてから出るぞ」
「もー、おくてだなー」うるせい。ジジイ教育が悪い。
出口の反対方面を見れば、そっちにも通路が続いている。今まで俺達が歩いて来たような細い通路ではなく、3人は並んで歩けそうな幅の通路が真っすぐ奥に伸びている。岩肌も人の手が入っているらしく、派手に飛び出している場所はなく削られた跡がある。
そんな通路が入り口から奥に向かっているが、生きた人間……人族の姿はない。あるのは骨とハイエナの毛と元々服だった布の切れ端、そして赤い毛皮だ。
他にもペタが大事そうに抱えていた剣の他、ナイフなんかの武器の類、あと大きい木箱や食器なんかも転がっているが、全て破壊の跡がある。
モンスターか……
人族の襲撃なら剣やなんかは盗って行くだろう。ペタみたいに。
わらわらとたくさん襲ってくるペタ。なぜかみんな剣を盗っていく。やめてくだされーと縋るハイエナ男を足蹴にしながら、あはははは!と笑うペタ。鬼だな。小さい鬼だ。
っと駄目だ駄目だ。頭を振って妄想を追いやる。
そもそも、この死体は喰われている。そして白骨化の具合から見て1週間以上。まあ、どれぐらいかかるのかなんて詳しくは知らないが、埋めた死体より放置された死体の方が白骨化は早かったはずだ。その上で暑さによる腐敗を考えに入れても1週間より最近とは思えない。まあテレビで見た知識ですけどね。
「ハルキー、いっぱいあつめた!」
俺が脳内で2時間ドラマぽい推理を繰り広げている内に、ペタが盗賊の死体から剥ぎ取って来たらしい武器や道具類を積み上げていた。この星では盗賊は死んでも優しくしてもらえない上に、持ち物まで取り上げられるんだな。生活に困っても犯罪に走るのは絶対にやめよう。
「おう、おつかれさん。ドラゴンの鱗はあったか?」
「ない!」
ないかー。見た感じ全滅っぽいし、ここにないとなると3択だな。
①そもそも鱗泥棒はこいつらじゃなかった。
②こいつらが盗ったけど、もう売ったか何かした。
そして、これは遠慮願いたいんだが……通路の奥の暗くなっている方を見る。
③この奥に、別で保管されている。
あー入りたくない。もう今日は帰りたい。エジャともはぐれたし。だけどなー、この暑さとドラゴンの鱗に関係があるとしたら、③が一番怪しいんだよなー。
別のパターンとしては、ここを襲ったモンスターが持ち去った可能性だが、あいつらにそこまでの知能があるとは思えないので除外。
そもそも、この洞窟に入ってからモンスターに会っていない。これってひょっとして、ドラゴンの鱗の防虫…じゃなくて防モンスター効果なんじゃないのか?そうなったら③確定だな……いいだろう、決定だ。
「よし、一回戻ろう」
「うろこはいいのか?」
ペタの疑問はもっともだ。だが言いくるめてやる。
「いいかペタ。この洞窟が怪しいのは間違いない。だけどな、今日はここまで分かっただけで十分だ。そもそも時間も結構たってる。もう戻らないと夜になるぞ。それにな、洞窟ってのはお前が思ってるより複雑なもんなんだ。だから今度は洞窟用の準備をして、村からもっと人を連れて来て皆でこの洞窟をしらみつぶしに探すんだ。しらみ分かるか?分かるな?よし。まあそういう訳で、外に出てエジャと合流だ」
一気に言ってやった。
「ふむふむ。せんりゃくてきてったいだな」絶対分かってないが良い。
「じゃあ、お前の集めて来た中から適当にナイフあたりだけ取って行くぞ」
ペタは剣を抱きしめたまま首をプルプル振る。なぜそんなに剣が欲しい?
「そんなデカいの持ってたら、外でさっきのモンスターに襲われたら逃げきれないぞ。次に来た時に、村のみんなで回収しよう。な」
そう言うと、渋々、剣を壁に立てかけた。他の物資と一緒に置かないのは、次に来た時、自分の物だと言い張るためだろう。まあその時は味方をしてやろう。
ペタはナイフと弓は失っていなかったので、矢だけ少し回収していた。だが俺はナイフを失くして素手だ。とりあえずナイフは一本もらっておいた。
剣とか槍のような武器ももちろんあるんだが、元々、素手に特化した戦い方が体に染みついている。長い得物は逆に邪魔にしかならない。かといって遠距離からの攻撃手段の重要性は嫌というほど感じている。銃でもありゃいいんだけどな……
弓矢もより取り見取りだが、弓を持ったままの肉弾戦はやっぱり動きにくい。動きの邪魔になるからとアクセサリーすら付けていなかった俺だ。狩りならともかくモンスターや盗賊相手となると、体が思い通りに動かせないってのは致命的な隙に繋がる。
まあ石投げとくしかないか……諦めて立ち上がった時、ペタが少し離れた所にある樽に向けて拾った石を投げつけているのが見えた。タイムリーだな。「あたったー」とかいってキャッキャしている。
「何遊んでんだー、もう行くぞ」
声をかけると「わかった」と言いながら寄って来るペタ。
「じゃあ、外にはさっきの大トカゲがいるかもしれないから十分注意して……」
樽の横を通り過ぎようとした時、何かが刺さっているのが見えた。思わず足を止めて見つめる。
「さっきのとこから、これに石あてたんだ!」
ペタが胸を張って自慢してくる。
「村のこどもではペタがいちばん石なげうまいんだ!」
俺は樽に刺さっている小さいナイフを抜き取った。
「ハルキのほうがうまいけどなー」「これだ!」
投げナイフか!これなら手の延長で使えるし上手く収納できれば邪魔にもならない。昔の忍者だって手裏剣を使ってたじゃないか。侍が刀や槍を使ってたのに対して、身軽に動く必要のある忍者の武器は短めの忍刀や短刀、それに手裏剣だ。他にもあった気はするがメインはこれだろう。見つけた、俺の相棒!
「どれだ?」キョロキョロしているペタを放置して武器の山に戻る。
よく見れば小さいナイフは結構ある。ペタにやった果物ナイフぐらいのナイフだ。というか、まんま果物ナイフだ。だが投げるならこれぐらいの方がいい。
とりあえずペタも呼び寄せて小さめのナイフを集めるように頼んだ。
「いっぱい、くだものむくのか?」ペタが不思議そうだ。
多分、ナイフを投げるという考えがないんだろう。まあ普通はそうだろうな。なんたって勿体ない。石でも投げとけって事だ。
だが俺はあくまで使い捨てで、しかも距離を詰めたりするための目くらまし程度に考えている。だったら石よりナイフの方が効果は高いだろう。急所を捉えれば立派な武器だ。
新しい戦い方を考えながらウキウキとナイフを地面に並べている俺は、超不審者だろう。証拠にペタが俺を見る目がそういう人を見る目になっている気がする。
でもこれは仕方ない。男はいくつになってもこういうのに燃えるんだ。忍者とかすごい燃える。銃とかが当たり前の地球ではただの時代遅れだが、この星なら忍者になれる!そう。俺は侍より戦士より忍者になりたい。魔法使いになんてなりたくなかった。
「ハルキ、たまに、ぼうっとするな」
あ、ペタさんがちょっと不機嫌な感じだ。ごめん急ぐわ。
とりあずだから、そんなに数はいらない。そもそも持って歩けない。並べたナイフの中から同じような型の物を5本選び出した。投げた時に感覚が狂うといけないので重心も出来るだけ同じ物を選ぶ。部屋に戻ったら練習しよう。
その辺に落ちてた布切れでくるんでバックパックに入れる。ホクホクだ。
「ハルキだけするいぞ」
ペタが壁に立てかけた剣を指さしながら言うが、ホントにそれは邪魔だから。
「次来た時に俺も1本か2本、一緒にもらってやるから」
そう言ってやると、ペタはなぜか両手の指を折りながらじっと考えると、
「ならいい!」と言う。
ペタよ、そこに立ててある2本に俺の1本2本を足しても両手は使わなくていいはずだぞ。今度、算数を教えてやろう。
ようやく出口に到着だ。太陽の光が大分低くなっている。もう夕方か。早く帰ってシャワーがしたい。
だが、ここからが気をつけないといけない所だ。忍者とか色々妄想して楽しんだが帰れてこそだ。ウチに帰るまでが探索なのです。あの大トカゲの群れに見つからないようにしな……い……と……?
つぶらな瞳と目が合った。
なんかこんな展開に覚えがある。ペタがカタカタ震えている。トラウマになったかもしれない。という俺も彼らとは会いたくなかった。
大トカゲ達が突進してきた。
「戻れ!」
カタカタしているペタの手を引っ張って洞窟内に逆戻りする。
転がる骨や木箱の破片を飛び越えながら奥に逃げる。途中で振り返ると洞窟の入口にトカゲの渋滞が出来ている。体が大きいのに一気に突入したせいで詰まり気味のようだ。だが先頭の数匹はトップスピードで追いかけて来る。
「鱗パワー効いてねえじゃねえか!」
思わず怒鳴りながら、さっき集めた武器や資材の山を蹴り飛ばす。洞窟の床に広がるガラクタは多少の時間稼ぎになるはずだ。奴らは基本的に地べたをはい回る事しか出来ない。そのまま手当たり次第に木箱や、樽、転がっている骨までひっくり返し、少しでも足止めになってくれよと祈る。
あいつらが普通に洞窟に入って来れたのは計算外だった。ドラゴンの鱗はここにはないのか?それともあの大トカゲが特別なのか?現にここまで他のモンスターは見ていない。エジャの見た事のないトカゲモンスター。新種なのか?
俺達が通って来た狭い横道を無視して奥へと走る。この判断が正解かは分からない。ただあの奥の道の一つは、俺が自分で埋めた行き止まりだ。
「ペタ、左手の法則だ。いけるか?」
引きずられるように走るペタに、出来るだけゆっくりと語りかける。ここまで来るのにやって来ただろう。ペタが前を向く。
「……できる!」
「よし。頼むぞ」
「ふねにのれー!」ペタが復活した。
俺は自由になった手でスマホを取り出し、ライトで洞窟を照らす。さっきから少し道が下り始めている。ついでに右にゆるくだが曲がっている。おかげで外の光は既に届いていない。
「ひだりだ!」
ペタの誘導に従って左に曲がる。俺はスマホのライト程度の明かりでは、走りながら周りの状況までは見えていないんだが、ペタには見えているんだろうか。やっぱり狐って事か。夜目が効くのかもしれない。
背後から俺のぶちまけた道具類の音が響く。少し離したか。今頃あの白い舌をチロチロ出して、俺達の臭いを辿ってるんだろう。だが道を見ているのはあくまで目だ。完全な暗闇で上手く追って来れるか?こっちには夜行性ペタがいるぞ。夜になったら寝る、健康優良な夜行性だ。なんだそれは。
かなり走り続け、何度かの左折や分岐を繰り返した。背後からの気配は消えている。諦めたか?それとも来ているが遅いだけか?
流石にプレッシャーで、野生児ペタの無限の体力も削られてきているようだ。隣から聞こえる息が荒くなっている。それに気温ももう一段階上がっている。
「ペタ、少しスピードを落とそう」
「まだいける!」
「ペタ。休憩は大事だよな?お前が教えてくれたんだよな」
ペタの方から、うー。という声が聞こえる。
「俺は休むぞー」立ち止まる。
少し行き過ぎたペタがトットットと戻って来てライトの明かりの中に入った。
「まだいける!」腕を引っ張って来る。頑固な子供だな。
「座れ」
逆に引っ張り返し無理やり座らせて、俺もその横に座り込む。
「休憩は、大事だ」バックパックから水筒を取り出し水を飲む。
ペタも少ししてからクプクプと水を飲み始めた。落ち着いたか?
荷物から干し肉を出してかじる。ペタにも渡してやる。
さて、とりあえずの危険と距離をとれた以上、今度は洞窟という危険に立ち向かわなくてはいけない。どこかの遊園地にある巨大迷路と同じなはずがない。
左手を壁に着けて迷路を進む、左手の法則の最大の欠陥はゴールが外周にない場合だ。そして次の欠陥は、迷路が立体だった場合だろう。あくまで平面を想定した考え方だ。ここは天然の洞窟で、既に上下にも大分移動している。
更に言うならこの暗闇の中で走りながら本当に脇道や分岐を正しく進めたか?俺は無理だと思っている。どこかで間違えているだろう。
なら、やるべきは観察する事と考える事だ。俺には洞窟探検の経験なんてない。だからこそ、初めての敵と戦う時こそ、冷静に分析しなければならない。
ベガスで散々やってきた事だ。ペタと一緒に生き残ってやる。
隣で小さい寝息が聞こえ始めた。
やはりかなり疲れていたんだろう。膝にペタの頭を誘導して軽く撫でてやった。もちろん耳もだ。
読んでくださってありがとうございます。
欠陥3.チェックポイントを回る迷路だと、左手の法則では全部は行けません。




