番外編・とある少女の物語7
「ルカちゃん、パーティーは――」
「ごめんね。今日は無理だからまた今度!」
話しかけてきた冒険者に私はいつものように笑いながらそう返した。
そうしないといけないから。
レクトが望んだ私はきっとそんな私だったから。
サウロ君が助けてくれた私はきっとそんな私だったから。
二人が望んで助けたのはこんな弱いだけで何もない私じゃないはずだから。
……結局、私は間に合わなかった。
だから、サウロ君は死んでしまった。
…………違う。
私が殺したんだ。
私の弱さが。
私の偽善が。
私の鈍さが。
私は弟だけに飽き足らずその親友までをも殺した。
私は人殺しだ。
なのに私は生きてる。
あの後、ギルドが守ってくれているのか私の元に『闇ギルド』から暗殺者が送られる、というようなことはこの一週間一度もなかった。
私はどうすればよかったの?
もし、あそこで女の子を、コレットを見捨てていればサウロ君は死なずに済んだ。
でも、それは同時にコレットを奴隷にすることになる。
ならもし私があそこから離れずいたらどうなっただろう?
考えるまでもなく私もコレットも死んでいただろう。
なら私だけあの場に残る?
サウロ君でも勝てない相手を足止めするなんてできない。
どうすればよかったの?
どの道を選択しても誰かが不幸になるなんてそんなの……おかしいよ……
なんで……
なんで私はこんなにも弱いの?
なんで世界は私から大切な人を何の容赦もなく奪っていくの?
何も残らないくらいなら……また失うくらいなら……
もう……何もいらないよ。
欲しがらないよ……
「おい、嬢ちゃん」
「……なに? どうかした??」
でも……それでも……一つだけ絶対に欲しいものが、あきらめたらいけないものがある。
「俺は何があったか人伝てに聞いただけなんだけどな……その……あんまり気に病みすぎるのは良くないと思うぞ? ……言い方は悪いが冒険者が死ぬなんてのはよくある話だ。そのたびに絶望してたらこれからやっていけねえ」
「……ほっといてよ……私がどうしようと私の勝手でしょ?」
私は何が何でもSランク冒険者になってみせる。
「……まぁ……それはそうなんだけどな……」
「話はそれだけ? それなら私もう行くね」
レクトとサウロ君の夢だったから。
そこにたどり着くことで私はようやく弱さを捨てることができると思うから。
「ちょっと待った」
「……なに?」
そのためなら私はどんなことだってしてみせる。
弱い私に生きる価値なんてないから。
誰かを不幸にするだけの私に生きる価値なんてないから。
「俺はドルガだ……もし、何か困ったことがあったら遠慮なく頼れ。俺みたいなおっさんでも愚痴を聞いてやるくらいはできるから」
「……うん。ありがとね」
そのためならなんだってしてみせる。
そのためなら……
★★★★★
「そうは言っても正直最近行き詰ってるんだよね……」
誰にともなく森の中、私は呟いた。
Aランク昇格に必要なポイントは200000。
とてもじゃないけど私一人でそれを稼ぎ切ることができるとは思えない。
その後のAクラス依頼の連続達成も。
Bランクまでは何とかなった。
でも、Aランクはそれとは難易度が全くと言っていいほどに違う。
パーティーを組むべきなのは分かってる。
……それができればこんな大変な思いはしないよ。
怖いよ。
また失うかもしれない。
そんなの怖すぎる。
私は私にパーティーの勧誘をしてくれた人たちが良い人だって知っている。
だから絶対にパーティーを組むことはできない。
だからAランクに上がることができない。
私はどうしたら……
「グルルルッ……」
「――ッ!? 何かいる!?」
唸り声が聞こえた。
ほんの微かな声が。
けれどそれは間違いなく空耳なんかじゃなくてかなり近いところから聞こえてきた。
だから私は声の方に体を向け軽く後退り臨戦態勢に入る。
さすがに森の獣に後れを取るとは思っていないけれどそういう慢心が結果的に死に直結するのだ。
「慎重に……油断しないで……」
一歩ずつ唸り声の聞こえた方向に歩を進めていく。
そして、木に背中を預け唸り声のした方を覗き込んだ私が見たのは……
「――ッ!?」
一人の少年が座り込みその前によだれをたらした魔獣が居るという状況だった。
それだけならそれなりによくある話だった。
問題なのは襲われている少年だ。
まともな神経の持ち主ならこの絶望的な状況でどんな行動をとるだろうか?
怯えて動くこともままならないだろうか?それとも勇敢にこの状況を覆す策を模索するだろうか?
少年は違った。
何もしなかった。
ほんの少し、驚いたような表情を浮かべてはいるものの、その表情には一切の焦りや恐怖は見て取れずまるで……死を迎え入れているようにすら見えた。
「グルァッ!」
魔獣は叫び襲い掛かる。
目の前のご馳走めがけて。
少年は相変わらず動かない。
たとえ少年が死ぬことを望んでいるのだとしても私は助けるつもりだった。
命は失ってしまえばそれでおしまいだから。
やり直しなんてきかないから。
でも、私の手はナイフの入ったポーチから一瞬だけ動かなくなった。
理由はすぐに分かった。
少年だ。
動く様子はない。
でも、もしこの少年がその気になればきっと魔獣は一瞬にして葬られることになるだろう。
なぜか?
少年は完全に魔獣の動きを完全に見切っているのだ。
目の動きを見れば私でもわかる。
どうりで……この状況で笑っていられるわけだ……
うらやましい。
その力が欲しい。
それさえあれば私にも守れたのに。
なんで……死のうとしてる人なんかにあれだけの力があって私にはないの……!
ずるいよ……そんなの……!!
羨望の感情が、醜い嫉妬の感情が、名前も知らない少年に対して溢れんばかりに心の内から湧き出てくる。
私があの力を持っていればサウロ君を助けられたかもしれないのに……!
私があの力を持っていればもっとうまく使うのに……!
私が……持っていれば……?
……どうせ死ぬ気なら……
私の為にその力を使ってよ……
私はナイフを投げた。
ナイフは一寸の狂いもなく魔獣の頭に突き刺さり魔獣はその生涯を終えた。
私は少年に駆け寄る。
君が欲しい。
私の、レクトとサウロ君の夢の為に。
「……ちょっと君! 大丈夫!? 怪我はない!?」
一つ気になることがあるとしたら……なんでこの子こんな薄い服着てるの?




