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異世界ハーレムはただしイケメンに限る  作者: 日暮キルハ
二章 守るためなら何をしてもいいのか?

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神隠し編・桜庭白音という少年1

ここから10話くらいハクトが主役です。(たぶん)

 物心ついたころから僕は周りに言われ続けていることがある。


白音はくとには心がない」


 両親を除いた全ての人が僕にそう言うんだからそれはあながち間違ったことでもないのだと思う。

 でも僕だって人間だ。

 当然感情くらい持ち合わせてる。

 悲しい時は悲しいって思うし楽しい時は楽しいって思う。

 

 だから両親は僕は人より少し感情表現が苦手なだけなんだっていつも言っていた。

 僕自身も自分の事をそう理解していた。


 お父さんはいつも僕に話しかけてくれた。

 どれほど疲れていても、たとえ風邪を引いていても。

 それはそれは楽しそうだった。

 僕もお父さん程表情には出せなかったけどお父さんと話すのはとても楽しかったし色んな事を教えてもらった。

 いつかお父さんとお母さんよりも大事な人ができたらその時はうまく伝えられなくてもいいから全力で愛して全力でそれを行動と言葉で示せと教えられた。


 その時はそんな人に出会うことなんてあるのかな?って思ってたと思う。


 お母さんは僕にはもったいないくらいの愛情を注いでくれた。

 自分以外にはとても気付けないくらいの些細な感情の機微にも気づいて僕を抱きしめてくれた。

 愛してくれた。

 お母さんには言葉で何かを教えてもらうことはお父さんに比べるとあまりなかったけどそれでもたくさんの事を教えてもらった。

 落ち込んだり辛い時は優しく背中をさするだけですごく楽になるんだって教えてもらった。


 僕はそんな二人が大好きだった。

 二人もたぶんだけど僕の事が好きでいてくれたと思う。

 そして互いが互いの事を間違いなく他のどの夫婦よりも愛し合っていた。

 

 僕はきっと誰よりも幸せだった。

 ……十八歳の誕生日が来るまでは。


 その日、お父さんが死んだ。


 過労死だった。

 お父さんは無理をしすぎていた。

 そう言われて僕は初めて気づいた。


 僕は何も知らなかった。

 気付けなかった。

 僕に楽しそうに話しかけるお父さんの様子がおかしいことに僕は全然気づけていなかった。


 自分が情けなかった。

 悲しくて悔しかった。

 全力で頑張り続けた結果がこれなんて酷すぎると思った。


 でも僕がいくらそんなことを思ったところで現実は変わらない。


 気が付いた時にはお父さんの葬式が始まっていた。

 悲しくて、苦しくて、辛くて、情けなくて、許せなくて、心の中がぐちゃぐちゃになるような気がした。


 でも僕の目からは涙の一粒も出てくることは無かった。


 見たことのない男の人や女の人ですらハンカチを片手に目元をぬぐっているのに。

 中には嗚咽を漏らしながら隣にいる人に体を預けている人までいるというのに。

 僕以外は皆泣いているのに。


 僕は泣けなかった。


 悲しいはずなのに。

 今ここで泣いている人たちより僕はたくさんの思い出と言葉をお父さんからもらったはずなのに。

 

 そんな僕を見てお母さんは形容しがたい複雑な笑みを浮かべていた。


 それから僕とお母さんは二人で暮らし始めた。

 僕たちに以前のような明るさはなかった。

 日に日にお母さんはやつれていくようだった。


 抱きしめてあげたかった。

 でもあの日以来お母さんはどこか僕の事を避けているような気がしてできなかった。

 気付いた時には僕とお母さんの間には埋めようのない溝ができてしまっていた。


 そして、僕がうかうかしている間にお母さんは倒れた。


 知らせを聞いた僕はすぐに病院に向かった。

 たどり着いた病室でお母さんはうつろな目をしていた。

 呼びかけようとした僕をお医者さんが呼び止めた。


 お母さんが倒れたのは精神的なものが原因だったらしい。

 そしてお母さんの精神は壊れたのだと言われた。

 誰の言葉にも反応を示さないらしい。

 何が原因か。

 そんなの考えるまでもない。


 僕だ。

 僕が支えられなかったから。

 お父さんを失って一番傷ついていたのはお母さんだったのに。

 せめてもしあの時泣くことができていれば。


 いや、そもそもお父さんが大変なことになってるって気付いて助けてあげることができたなら。

 せめて僕に話しかける時間を休む時間にしてあげられたなら。


 ……悔やんでも手遅れで、これはもう二回目で。


 お医者さんの話が終わり僕は気付けばお母さんの病室の前にいた。

 何もできなかった。

 これからも何もできないかもしれない。

 それでもここまでほとんど無意識で来てしまったのはたぶん僕が諦めきれないからで。


 せめてあの時できなかったように抱きしめてあげられたら。

 背中をさすってあげられたら。


 その想いのまま僕は病室に入った。

 

 お母さんは無反応だ。

 ベッドのそばに置いてある椅子に僕は腰掛けた。


 お母さんがうつろな目で僕を見たように見えた。

 ほんの少し優しく泣きそうな目になったように見えるのはきっと僕の妄想で願望だ。

 

 話しかけた。

 脈絡もなく。

 自分でも何を言ってるかよく分からなかった。


 お母さんは何も言わず僕を見ていた、ように感じられた。


 僕は立ち上がって抱きしめた。

 それで何が変わるわけじゃない。

 でもそうする以外何も考えられなかった。


「……あ……ぁ……うぅ…………ぉ……」


「お母さん!?」


 誰の言葉にも反応を示さないはずのお母さんが喋ったような気がした。

 そしてそれは実際その通りだった。


「あ゛……ああア゛アアァぁぁぁぁァアああああッッッ!!!い゛ァア!!イあ゛ぁあっっ!!う゛ゥゥウあァアあぁあアアっっ!!オぇえ゛ンッッ!!お゛ォエンッエェアうぅオぉッッ!!ア゛ぁイうぅいイィアオォッ!!!」


 お母さんは狂ったように叫んで泣きじゃくった。


 すぐにお医者さん達が来て僕は病室を追い出された。

 僕が病室を出てすぐに叫び声は消えた。


 おぼつかない足で病院を出ながら僕は悟った。


 あぁ……僕のせいか、と。


 ……そうだよ。

 もし僕が居なければお母さんはここまで苦しまなかったかもしれない。

 もし僕が居なければ……お父さんは死んでしまうほど頑張ることはなかったかもしれない。


 きっと僕は……居てはいけない存在だったんだ。


 やっと気づけた。

 僕の人生最大の間違いは今日まで生きたことだ。


 大事な人が死んだのに涙の一つも流せない欠陥品の僕に生きる価値はなかった。

 それどころか僕の存在そのものが僕の大事な人を追い詰めた。


 ……もっと早くにこうするべきだった。


 カンカンカンと頭に響くような音を奏でながら踏み切りが降りていく。  


 一歩、また一歩と進み、線路の上で僕は止まった。

 迫り来る電車はさながら僕という罪人を処刑する処刑器具のようだ。


 何か周りが煩いような気がするけれどどうでもいい。


 願わくは……


「これで少しは幸せになってくれるかな?お母さん」


 次の瞬間訪れた何かが物凄い音と勢いで当たるような感触に、僕の意識は真っ赤に染まって真っ黒になって溶けて消えた。


















 狂った叫びは本当に息子への拒絶だったのか。

 それを知る者は誰もいない。

次回の更新は金曜日とさせていただきます。

読んでいただきありがとうございます。

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