神隠し編・最悪の偶然
「『闇ギルド』ってなんですか?」
俺がギルドに戻って一番に聞いたことだ。
それに対するエミリさんの回答は
「……どこでそれについて聞いたのですか?」
という質問を質問で返す奴だった。
「情報収集の過程でちょっと小耳にはさんだんです。それで闇ギルドってなんですか?」
再度質問を繰り返す。
これは聞いておかないといけない。
「……深入りしてはいけません」
けど、どうにもエミリさんは教える気がないらしい。
なら……
「もしかしたらそれが『神隠し』と関わっているかもしれないんです。教えてください」
こう言えば教えてくれるだろう。
それに全く嘘って訳でもない。
ルクア曰く、どうにも『神隠し』は犯罪者を標的にしてるらしいしあいつらも標的になりうるからな。
ハクトが言ってた『人を売り物』とか『暗殺依頼』なんて物騒な言葉からも犯罪組織なんだろうなぁってのは予想がつくし。
「……では残念ですがその依頼は諦めた方がよさそうですね」
「……は?」
……何言ってんだ?
諦める?エミリさんが?
いやいや、今まで散々無茶振りしてきてた人だぞ?そんなこというわけ……
「それではそういうことでよろしいですね?」
「……え?いや、エミリさん……」
俺の言葉を無視してエミリさんは奥へと行ってしまった。
……なんで?
「……なぁドルガ……」
「闇ギルドの事なら俺は何にも言う気はないぞ」
「…………そんなにヤバい奴らなのか?」
聞けば答えてもらえると思ってたし依頼に必要な情報だと言えば絶対に大丈夫だと思っていた。
けど現実はこんな感じだ。
闇ギルドと関わることは徹底的に避けようとしているように思える。
それほどに厄介な相手ということなのだろうか?
「……ヤバいなんてもんじゃねえよ。俺は詳しくは知らねえし知りたくもねえが逆らった奴は全員事故死するらしい。ギルドも一度『闇ギルド』を何とかしようとして酷いしっぺ返しくらったらしいから二度と関わりたくないんだろ」
「ふーん……」
まぁそりゃギルドもなんとかできるならとっくにそんな迷惑な組織どうにかしてるか。
それができないほどの力が『闇ギルド』にはあると……
思った以上にめんどくさそうな組織だな。
「場所とか知ってる?」
「……それ聞いてどうするつもりだ?」
「どうもしないよ。関わらない方がいい相手の本拠地の場所くらいは知っておいた方が良いだろ?ついうっかりじゃすまないかもしれないんだし」
当然だけど極力関わりたくはないよな。
変に目つけられてレイ達まで厄介ごとに巻き込むなんて絶対嫌だし。
「……地下だよ。王都にカジノがあるのは知ってるだろ?その地下にあるらしい。絶対に行くなよ?絶対だからな?」
……フリにしか聞こえなかったけどこの世界にそんなもんあるわけないよな……
というかカジノとかあったっけ?
「おい、聞いてんのか?」
「ん、あぁ大丈夫。聞いてる」
「本当に変な気起こすなよ?お前がどのくらい強いのかはよく分からんがそれでもお前ひとりでどうにかなる相手じゃねえんだからな」
「そんな心配すんなって。俺だって関わりたくないからこそ知ろうとしてるだけなんだから」
「……ならいいけどよ」
「それじゃあ俺は帰るよ。ドルガと違って忙しいからな」
「おい!」
ドルガのツッコミを背に俺はギルドを後にした。
さて、どうしたものか。
正直関わりたくはない。
けど、どう考えてもルカ達はそのヤバい奴らに目をつけられてる。
見逃すとか言ってたけどどこまで本気か分からないしな……
気付いた時には事故死してましたなんてのは勘弁してほしい。
そこまで深い関係ってわけでもないけど、それでも知り合いが殺されるかもしれないって分かってて何もしないなんて嫌だな。
「けど、迂闊に手をだしたら俺が危ないかもしれないんだよな……」
いや、俺だけならまだいいがレイ達にまで火の粉がとんだらもう最悪だろ。
行くも地獄、行かぬも地獄ってか……
「様子見……が一番堅実か」
逃げにも思えるが今の状況じゃあ変に動いて目つけられるのは避けたいからな。
どうしてもそうせざるを得ない状況が来ないなら何もしないに越したことはない、と思う。
「カジノか……」
俺はカジノを探して日が暮れ始めた王都の町を歩き始めた。
___________
「見つけた……けどこれはちょっと予想外だな……」
カジノを見つけたのではない。
カジノはなんで今まで気づかなかったのか不思議なくらい光っているのですぐに分かった。
まぁ夜まで王都にいるってのがそこそこ珍しいことだから気付かなかったのかもしれないけど。
ともかく俺はそれよりももっと大事な物を見つけたのだ。
多分間違いないと思う。
あそこから『闇ギルド』があるとかいう地下に降りるんだ。
俺が現在眺めているのはガタイのいいサングラスかけた黒服のお兄さんが立っている前にある扉。
VIPルームって奴なのかと初めは思っていた。
けど入って行く奴は正直そんな金持ってる奴には見えないしどっちかといえば冒険者とかそんな感じの奴ばっかりなんだよな。
怪しさ全開だ。
「だから入ってみたいんだけど……」
問題は扉の中に入って行く奴が揃いも揃ってカードのようなものを黒服に見せていることだ。
当然俺はそんなもの持っていない。
こっそり入るなんてのができるレベルの警備じゃなさそうだし……
「ん~、どうしたものか……」
いっそのこと地面に穴でも掘るか?
……いや、時間かかりすぎるし掘れるかどうかも怪しいわ。
……となると……
★★★★★
「『ソイド・ラングレー』で間違いないな?」
「はい、間違いないですよ」
「豚の」
「鼻」
「……入れ」
俺はカードを借りることでなんとか地下に降りることができた。
あとで返しておこうと思う。
ロイドだったっけ?
「ひとまず降りれたけど……降りたらすぐに『闇ギルド』って訳ではないんだな」
辺りは薄暗く、想像していたようなギルドっぽい建物はなくてただ一本の道が奥へと続いていた。
「とりあえず進んでいきますか……」
辺りが薄暗いことも手伝ってこの道がどのくらいの長さでどこに続いているのか全くと言っていいほど見えない。
進む以外に選択肢はないな。
足元に気を付けながらゆっくり警戒を怠らないように先の見えない道を俺は歩き始める。
★★★★★
歩き始めて五分ほどが経った頃だっただろうか。
「…………痛ッ……行き止まり……?いや、曲がり角か?」
それまでずっと一直線にまっすぐだった道に曲がり角が現れた。
「……ん?なんかあそこ明るいような?」
そして、右に曲がると薄暗い道が続く中、一か所だけ他と比べ明るい場所がある。
俺は何となくそこまで走って行った。
ここまでの道の薄暗さに体が堪えていたのだろうか?
まぁともかく俺は走った。
そして、走った先には穴が開いていた。
それこそ大人一人くらい難なく通れそうなくらいの大穴が。
「……なんだこれ?これ見た感じ上に続いてるっぽいけど……何の穴?」
わけが分からない。
非常通路、にしてはただ穴が開いているだけだ。
こっちに『闇ギルド』があるのだとしたらそもそも何のためにカジノから地下に降りたのかが謎だ。
「……先に進むか」
考えてもさっぱりなので先に進むことにする。
聞く機会があったらなんのための穴なのか聞いてみよう。
「…………ッ………………」
「ん?」
そんなくだらない事を考え先に進む俺の耳に微かな、ほんの微かな音が届いた。
……今なんか聞こえたよな?
というか心なしか少し明るくなっているような……
この道も終わりが近いのか?
だとしたら隠れながらいかないと……
「『隠密』」
俺の姿が、といっても俺自身はよく分からないんだけどたぶん他の人から見えなくなった、と思う。
……よし、行くか……
慎重に、音をたてないように気を配りながら一歩ずつ俺は歩を進める。
そして、またしても曲がり角に遭遇しそこからその先の様子を覗き込むと……
「……次、不用意に声をあげたら上半身だけ残して『消す』よ?」
「ひっ……」
地獄絵図が広がっていた。
悪趣味な光を放つ建物、おそらくあれが『闇ギルド』なんだろうけど、それは見るも無残に半分が無くなっており、『闇ギルド』だったであろうものが照らす地面には持ち主不在の腕や足、あとは血なんかが散乱していた。
そして、おそらくこの惨状を作り上げたのであろう白いローブに身を包んだ人物、いや、『神隠し』というべきか、は片腕を無くし顔を涙と鼻水で汚したゾノアの胸倉を掴み無感情な声で何かをゾノアに問うていた。
「もう一度聞くよ?『闇ギルド』のボスはお前で間違いないんだよね?いい加減僕も我慢の限界なんだよ。消しても消しても新手が来るせいでそのたびに――」
「ち、誓います!!もう二度と関わらないと誓いますから殺さな――」
ゾノアは『神隠し』の言葉を遮り額を地面にこすりつけ何やら懇願をしようと口を開いたがそれが最後まで続くことは無かった。
「叫んだりしたら全身消すから」
下半身が無くなったのだ。
懇願どころではなくなったのだろう。
出来ることはせいぜい災いの元となった口を押さえておくことだけ。
「あんまり勝手に声をあげられると困るんだよ……ここに来るまでに地面に穴を開けてきたから地上に声が届くかもしれないし」
無感情な、そしてどこか聞き覚えのある声で『神隠し』はそう呟く。
そんなことがあるわけがない。
ありえない。
動揺と目の前の惨劇によって体は動きを止め、瞬きも忘れたようにじっとこの意味の分からない状況を見ることしかできない。
『隠密』の魔法も魔力を流し込むイメージを止めてしまったせいで解けてしまった。
けれど、今はそのことすらどうでもいい。
一瞬たりとも目を離してはいけない。
そんな気がした。
「もう一度聞くよ?お前が『闇ギルド』のボスなんだよね?」
無感情な声が尋ねる。
「……は、はい」
怯えた声が答える。
そこに今日宿屋で見せたような不気味さなどという物は皆無だ。
「そっか、それは良かったよ。これで明日からはルカが笑顔で暮らせる」
そう言って右手を前に出す『神隠し』。
「あ……ぁ……なんでこんな……」
向けられた手に絶望したような表情を見せ、うわごとのようにそう呟くゾノア。
……あれはだめだ。
何かは分からないけど絶対にダメな奴だ。
本能が危険を訴えかけてくる。
……止め、ないと……
俺は震える体を動かし曲がり角から体を出し駆けようとして……
「なんで?そんなの……ルカを泣かせたからに決まってるだろ?」
その次の瞬間、ゾノアも、建物も、地面に散らばっていた人体のパーツも、全部消えて後には球体上に抉られた地面や天井と何事もなかったかのようにこちらを振り返る『神隠し』、いや……
「……何……やってんだよっ…………ハクトッ!!」
ハクトだけがいた。




