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異世界ハーレムはただしイケメンに限る  作者: 日暮キルハ
一章 手放せない日常
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何となくそうなる気はしてた

 『後悔』などというものをしたところで大概のことは既に手遅れなのである。

 それでも人という生き物は自分がやってしまったもうどうしようもない失敗を悔やまずにはいられないわけで……


 そしてそれは信道明輝にとっても例外ではなく。


 ……やってしまった。

 なんでこうなるかなぁ……


 酒場で絶賛失神中のデコを見て思わずため息をつく。


 俺は一体いつからこんな脊髄反射みたいに手が出るような人間になってしまったのだろう。条件反射ならともかく。

 ……いや、変わらんな。


 ともかく俺が反射的に手が出るようになったのは……



 ……そう、思い返すのはあの夏の日。

 その日は一学期最終日。


 まだ夏本番とは言い難いものの十分暑く周りのクラスメイトの制服も当然夏服だった。

 いくら夏服でも暑いものは暑い。

 当然俺も暑かった。


 だが、それが夏という季節によるものかそれとも机の引き出しの中で握られているものによるものかと問われると他のクラスメイトと暑さの理由が同じかは疑わしい。


 そう生まれて始めて貰ってしまったのだ。

 『ラブレター』というものを!


 信じられるだろうか?今までクラスメイトにろくに話しかけられたことがなく、連絡事項すら席を離れた少しの間に筆跡が分からないようにしたメモで知らされていた俺に春が訪れてしまったのだ!


 ラブレターにかかれたのはたった一言。

 『放課後、体育館裏まで来てください』


 なんというテンプレだろうか!


 女子にしては無骨な字な気がするがそんなことは気にすることでもない。


 込められた気持ちが大事なのだ。


 そして待ちに待った放課後喜び勇んで俺は放課後に向かった。


 そして、囲まれた。

 女子にではない。

 この間ボコった他校の男子達だ。


 無骨な字がめっちゃ似合う感じだった。

 なんでピンクの可愛い紙で果たし状書いてんだよなんてことは言わない。


 嵌められたのだろう。


 そこから先の記憶はない。


 ただ気がついた時には俺以外誰も周りには立っておらず、俺の頬には何か液体が流れたあとがあった……



 ……いや、違うなこれっ!ただの黒歴史じゃねえかっ!


 思い出したくもないことを思いだし思わず頭を抱える。


 なんで暴力の起源を遡ってて黒歴史の蓋を開けるはめになるんだ?

 いや、むしろ黒歴史しかないから他の蓋は開けようがないな。

 冷静に考えたら悲しくなってきた。

 

「あ、あの……」


 後ろからかかる声に意識が現実へと引き戻される。

 そうだった……この子がいたんだった。


「あっ、あの、その、えっと……」


 振り向くと少女は頬を赤く染めこちらを見上げては俯きまたこちらを見上げるということを繰り返していた。


 これだけ聞くといい感じに聞こえるよな?


 残念だったな。

 そこに追加条件『震えながら』が加わるんだよな。


 それだけであっという間に美少女がチンピラに詰め寄られ震えながら上目遣いで許しを請う図が完成する。


 いや、まぁ分かってはいたよ。

 あんだけ吹っ飛んだもんな。

 やった本人もちょっと引いてるもん。


 しかも、ダメ押しにこの人相の悪さだ。

 余計に質の悪いチンピラに絡まれたと思うのも無理はない。


 生きてる時も似たような反応だった。

 だから別に怒らないしつらいとも思わない。

 いい加減慣れた。


 ……ちょっとだけ、本当にちょっとだけ虚しいような気はするが。


「あ、あのですね、その」


「あのさ……」


「ひゃ、ひゃい!?」


 少女が俯いていた顔を勢いよくあげる。


「別に何かしようなんて考えてないからさっさとどっか行きなよ」


「……」


「……」


 なぜか沈黙が生まれる。

 キョトンとした顔の少女。

 そして。


「…………っっっ!」


 ただでさえ赤い顔に更に赤みがさし目が潤む。

 しまった……余計怖がらせたか?


 怖くないよぉ。アキ君案外優しさと慈愛に溢れてるよぉ。

 むしろ愛と勇気だけが友達まである。

 アンパンマンたいそうに『アンパンマンは君さ』って歌詞あるだろ?あれの『君』って実のこと言うと俺のことだからね(大嘘)


「ご」


「ご?」


 とかなんとか考えていると少女は顔を真っ赤に染め潤んだ瞳で口を開いた。

 「ご……ゴルゴ!」とか?さすがに俺もあそこまで目つき鋭くないよ?

 中学の時知らない間に影で『殺し屋』ってあだ名がつけられてたの思い出すからやめてくんない?


「ご、ごめんなさい!!」


 とかなんとか妄想を膨らませていたらなぜか謝られた。


「キャッ!」


 そして、走り去ろうとして盛大にこけた。


「……おい、大――」


「大丈夫ですか?お嬢さん?」


 さすがに目の前でこけたのを放っておくわけにもいかないので声をかけようとした俺を遮り一人の男が声をかける。


「あ、はい。大丈夫です」


「立てますか?」


 そう言って少女に手を差し出す男とその手に掴まる少女。

 すっごい絵になる。


 というか、今気づいたけどこいつかなりイケメンだな。しかも優男風の。


 ふわりとした黒髪にそれすらかすむほどの整った顔。スラリと長く伸びた手足。そしてなんといっても優しげな目元。


 ……せめて目元だけでも交換できないものか。


「それにしても……」


「ん?」


 優男がこちらを見て……いや睨みつけてる?


「こんな美しいお嬢さんを傷つけるなんてひどい男ですね。男の風上にもおけません」


 ……うぉおい!なんかすんごい誤解されてるんですけど!?


「いや、待て! 俺はだな」


「君のような外道の言葉に耳を傾ける価値などありはしません。見た目からして大方どこかの盗賊かチンピラ連中なのでしょう。全く救いようがない」


 見た目で盗賊認定されちゃったよ!

 エールの奴何が十点中八点だよ。ガッツリ悪人面じゃねえか!


 こんなことなら面倒ごとに巻き込まれる前にローブの隠密を使っておけばよかった。


「ちょ、ちょっと待ってください! この人は……この人はその、私を……」


 少女が俺の目の前で手を広げて庇うように立つ。

 おっ!ナイスだ!美少女!

 女の子に助けられる男ってのはどうかと思うがとりあえずありがたい。


 目の前に少女が立ちはだかったのを見て優男は何かを察したのか『ふっ』と軽く笑うとつかつかと少女の目の前まで足を進める。

 そして……


「いいんですよ、お嬢さん。何も言わなくても全て分かっています。だから安心して僕に任せて離れていてください」


 にこりと微笑む優男。やっぱりイケメンが微笑むとすごいな。俺が微笑んだものならたぶん周りの奴蜘蛛の子散らすように逃げてくぞ。


 とまぁそれは置いといて。少女を離れさせた優男がなぜかそのまま俺の前まで歩いてくる。

 そして……


「あんなに美しいお嬢さんを脅して庇わせるなんて本当にお前は外道以下の存在らしいな」


 そう言い放った。


 ………………………泣いていいですか?


 何?分かってるってそういうこと!?俺がこの子を脅して庇わせてるのが分かってるってこと!?俺どんだけ外道だと思われてんの!?


 ……こうなったらもう一度美少女様に説得してもらうしか……

 そう思い視線を少女に向ける……が。


 頼みの少女は呆けたようにポカーンと口を開け優男を見ていた。

 うん!ダメだ!


「この期に及んでまだ彼女を傷つけるつもりか! このクズが! 睨むなら僕を睨め!」


 俺が少女に視線を向けたのが睨んだように見えたらしい。

 もうやめて!とっくに明輝のライフはゼロよ!


 もはやどっちが外道か分かったもんじゃないだろ。いや、そもそも誤解なんだけどさ。


 はぁ……。……ん?

 げんなりして視線をおとしたところに優男の腰にさげられた剣が目に入る。


 あれ?なんかあれどっかで見たことがあるような……


「あぁ、安心していい、僕の腰にある剣は君のようなチンピラを斬るためにあるものじゃないから抜くことはない」


 そう言うと優男は拳を構える。

 なるほどなるほど、剣は使わないのか。なら安全……なわけねえだろ!


「いや、だから!」


「さぁ! いくぞ!」


 殴りかかってくる優男。 

 けどまぁ、喧嘩なんかしたこと無さそうな構えだし軽くいなして……


 ”ゾクッ”


 瞬間全身が一時機能を停止するほどの悪寒が背筋をはしった。


 『不味い』


 なんて感じる暇もなくただ本能のままに体を捻る。

 気付けば優男の拳がほんの一瞬前まで俺のいた場所を貫いていた。


 当然優男の攻撃はそれで終わることなくそのまま追撃とばかりにアッパー気味のパンチが鳩尾に向かって飛んでくる。


「~~ッ!」


 凶悪なまでのその一撃を咄嗟に腕をクロスさせて自ら後ろへと飛ぶことで何とか回避する。


 ……いや、かわしたと思っていた初撃はどうにもかすっていたらしく頬から遅れて血が流れだしもろに拳を受けた右腕は動かせないほどではないがズキズキと痛んでいる。


 ……完全に俺の落ち度だ。

 相手の実力を見誤るなんていつぶりだろうか。


 日々の生活が生活だけに構えや雰囲気なんかで相手の実力を測る能力には人一倍自信があったんだけどな。


「へぇ、僕の拳をかわすなんて凄いな。森で魔獣相手に使ったらあっさり殺せたんですけどね」


 にこやかに笑みを浮かべながらそんなことを言う優男。


 こいつ絶対危ない人だ……

 というか魔物を殺せるようなもん人間相手に使うんじゃねえよ。殺す気かよ。


「いや、かわせてないからこのざまなんだろ?それより魔物を討伐してるってことはお前冒険者か?」


 もしそうだとしたらいよいよ就職先を考え直すべきかもしれない。


「いいえ、これからなることがあるかもしれませんが少なくとも今は違いますよ。やりたいこともありますからね。魔獣を殺したのはそうですね……力試しといったところでしょうか」


 やっぱりこいつ絶対おかしいよ!

 ほんとに怖いんですけど!?


「魔物とはいえそんな理由で殺したのか……」


 俺の言葉を聞いた瞬間優男の顔に陰がさし声を潜める。


「なにか……勘違いをしているようだが、魔獣は魔物の中でも人間に害をなすだけのくせにその個体数だけは殺しても殺してもすぐに出現して一向に減らないただの害悪なので殺すことは正しいことだ。抵抗できないような女を脅すクズにどうこう言われる筋合いはない」


 ……なんか……これが素か?

 ……まぁなんでもいいや。

 今はとにかく誤解を解くことだけを優先しよう。


「あー、だからさっきも言ったけど俺はそこの女に傷一つ」


「君の言葉を聞く気はないと言ったはずだ!」


 言い終わると同時にその意思を見せるように襲い掛かってくる優男。


 ばっちり口調はもとに戻っている。

 ……キャラ作りってやつか?

 というか話してる途中で殴り掛かってこないで欲しいんだけど……


「いや、ちょっと待てって!」


「くっ! ちょこまかと!」


 優男の攻撃を防ぎながら説得を試みるが全く聞く耳を持たない。

 人の話はよく聞きなさいって親に教わらなかったのかこの野郎。


 もう関わりたくないんだけど……


「だから! ちょっと」


「ゴラァ! 貴様ら何を揉めとる! 牢屋にぶち込まれたいのか!」


 話を聞かない優男に少しイラついていると野太い声がかかる。


 声のした方を振り向くとそこには何やら紋章のようなものが刻まれた鎧を着て、剣を腰にさげた鎧越しにも分かるくらいムキムキのおっさんが立っていた。


 剣の種類は……正直生きてた時にもそういうのはあんまり興味がなかったからうろ覚えだがたしか……ロングソードとかいうやつだったか?


 まぁとりあえずこの頭のおかしいやつを止めてくれたのには感謝だな。


「えっと、あんたは……?」


「俺はここアストライア王国を守る盾にして剣! 王国騎士団長グリザム! これ以上くだらない争いを続けるつもりなら二人まとめて牢屋にぶち込むぞ! ……ッ!?」


 王国騎士団団長ってたぶん偉い人だよな?

 敬語とか使った方が良かったか?今更か。


「ルクア様っ!! やっと見つけましたっ!!」


 今更敬語を使うべきか否かで悩む俺をよそにグリザムが大声をあげ少女の元に行く。


「あっ! というか団長さん! その子に聞いてもらえればなんでこうなったか分かると思いますよ!」


 そもそもその子が全部の元凶だからな。我ながらナイスアイデア!


「貴様っ!! 一体だれをその子呼ばわりしてる! このお方がどなたか知っての愚行か!?」

 

 とか思ってたら超怒られた。

 なに!?なんで怒られてんの!?


「いいか!? ここにおられるお方は『ルクア・エルクス・アストライア』この国の第一王女にあらせられる!!」


「……………姫様!?」


 は!?え!?いや!?だって、え!?だって、外でて、一人で、な、なんで姫が一人でこんなとこ歩いてんの!?


 そういうのに詳しい訳ではないけど明らかにお付きの一人も連れずにいるなんておかしいだろ。


「ルクア様! 外出なされるときは必ず誰かを連れて行ってください! 今も城中のものがあなたを探しているのですよ!?」


「ごめんなさいグリザム。誰かに一緒に行ってもらおうとは思ったのだけど皆忙しそうだったから……」


「い、いえ、ご無事ならそれでいいのです」


 しおらしくなってしまうルクア姫。

 その様子にグリザムが慌てる。


「そ、それで姫。一体どうして外へ?」


「ええ、それがどうにも領主の悪政のせいで飢えて苦しむ民がいると聞いたものだから居ても経っても居られなくて……」


「ですから! そういった情報は私に知らせるようにしてください!! そんな危険なことあなたがすることではないのです! もし万が一なんてことがあれば一体どうするおつもりですか!!」


「……ごめんなさい」


「あ、いえ、決して姫の正義感が悪いという気はなくてですね……」


 怒ったり心配したり慌てたりと何とも忙しい団長殿だ。

 というか姫様行動力半端ないな。


 高校入りたての頃の俺くらい行動力あるよ。

 友達作ろうと思って色んな奴に話しかけたからな。

 二日で心が死んだけど。

 

 ……まぁなんだかんだあったが色々うやむやになったっぽいしこれで一件落ちゃ――


「君というやつは……この国の姫君に手を出したのか!?」


「おい! 誰かこいつ黙らせろ!」


「おい、貴様。今なんと言った?この目つきの悪い小僧がルクア様に何をしたと?」


「いや、ま――」


「この男はあろうことかこの美しい姫君に暴力をふるったのです!」


「おい! マジやめろ! お前そんなとこ見てねえだろ!」


「小僧……貴様死ぬ覚悟はできているのだろうな?」


「いや、だからお前らは人の話を――」


「即刻、このバカを牢屋にぶち込め!」


「だから話を聞けっての!」


 勘弁してくれ……

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