表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ハーレムはただしイケメンに限る  作者: 日暮キルハ
一章 手放せない日常
4/435

まぁ当然のようにトラブルに巻き込まれる

読んでくださっている方ありがとうございます。

当分明輝はボッチです。

「色々とあの天使には聞きたいことがあるけど、とりあえず……人がいる場所に出てみるか」


 気が付けば俺は見晴らしのいい丘の上にいた。

 少なくとも日本ではない。

 見下ろした先にある町と思われる場所の風景は、離れているから確証があるわけではないが西洋風といった様子だった。

 それもゲームなんかでよく見るタイプの。たぶんあの町の名前は始まりの町だ。


 とまぁ、今までの俺が狂ってなくて今までの記憶が本当にあったことだとしたら……ここが異世界なのだろう。


 この際グチグチ言ったところで仕方ない。

 できるだけ敵をつくらず目立たず俺なりに幸せに生きていけるように頑張っていかなくては。


 少なくとも暴力なんてのは厳禁だ。今日から俺は怖いのは顔だけになるのさ。

 ……どっかに優男風のイケメンになれる魔法とかないかな。


 とかなんとか考えながら道に沿って歩いていく。


 ……しかし、まぁ目的を考えると出てきた場所が誰も居ない丘の上だったのは運が良かった。


 何しろこの人相だ。うっかり町のど真ん中にでも現れたものなら「怪しい奴だ!縛り首にしてしまえ!」なんてことになるかもしれない。


 さすがに人相が悪いだけで縛り首にされることはないと思いたいけど、道歩いてるだけで喧嘩売られたり通り魔に出くわす不幸っぷりだからな。考えすぎくらいに考えておいて損はない。


 なんてことを考えながらまだまだ続きそうな町に向かう途中であろう道でふと気づく。


「なんか……体が軽いな」


 これがエールが言ってた加護ってやつの影響か?

 たしか身体能力が十倍にとか言ってたっけ?

 ちょっとだけ……ちょっとだけ試してみようかな。


 誤解を招かないように先に弁解はしておきたいのだけど、別に俺はエールに色々とやってもらったからとこれまでの自分の人生を忘れて異世界で無双したりハーレム築いたりなんてことは考えてない。

 前者は興味ないし、後者に至ってはそもそも不可能だ。

 俺とて分はわきまえている。

 

 しかし、それでも俺だって思春期の男子なのだ。

 せっかく貰った力、ちょっと試してみたいなぁなんて風に考えてしまうのも無理はないだろう。


「町まで、走ってみるか……」


 そして走った結果。


 とんでもなく速く走れた。

 どのくらい速かったか。

 速すぎて曲がれずに木にぶち当たるくらいだった。頭めっちゃ痛い。


 ……これはあれだな。今の身体能力と今までのそれに差がありすぎるんだ。慣れるまでは色々セーブしてやんないとダメだな。

 自分の身体能力に殺されそう。


★★★★★



 そんなこんなで無事(?)に町にたどり着いた。


「俺、やっぱりゲームの世界に来たんじゃ……」


 町の外観は近くで見てもやっぱり始まりの町とか言われたらピンときそうな感じだった。

 道には馬車が走り、武器屋や道具屋が並んでいて雰囲気も悪くない。


「とりあえず町に来たけどこっからどうしようか……」


 金貨十枚があるからそれが尽きる前に仕事と住むとこの確保はしとかないといけない。

 ……けど、こんなバイトの経験もないガキを雇ってくれるところなんて普通に考えてないよな。


「仕事探し……どうしようか……」


「旅のお方ですか? もし資金不足なら冒険者となって一旗挙げてみてはいかがでしょう?」


「……っ」


 これからのことを考え立ち止まる俺に気づけば前にいた女が笑顔を向けながら話しかける。

 いきなりすぎて心臓止まるかと思った。


「冒険者登録は王宮の側にギルドがありますので気が向いたらぜひ登録してくださいね」


 一方的に話しかけられて一方的に会話は終わった。

 会話って何ですか?


「冒険者、か……」


 あくまで予想だけどギルドで依頼受けて依頼を達成して報酬をもらう仕事、かな?


「俺みたいなガキ雇ってくれるとこなんてないだろうしそこが妥当か。そうと決まれば早速行動だな」


 にしても冒険者か。

 小説とかだと英雄とかになりそうな展開だな。


 いや、俺にそんなことがないことくらい分かってるよ。

 高望みしてはいけない。


 英雄になるつもりが気付いたら人類に全面戦争仕掛けられてたとかありそうだしな。

 分相応って奴だ。


「――いいからこっちこいよ!」


 そんな前向きなんだか後ろ向きなんだか分からんことを考えていると何やら大声で騒いでいるのが聞こえてきた。


「やめてください!」


「おいおい、ぶつかってきておいてそれはないだろ!? こいつなんか当たった時に足折れちまったんだぜ?」


「い、いってえ、これ完全に折れてるわ。まじでいてえわぁ!」


「これは金貨十枚は慰謝料もらわねえとダメだよな!? それをちょっと一緒に遊ぶだけで許してやるって言ってんだぜ? 俺めちゃくちゃ優しいよな?」


 控えめにいってもガラの悪い二人組が少女に絡んでいた。

 あの世紀末ファッションがこっちの流行なのかな?


 あんなのが流行なんだったら俺乗り遅れていいよ。

 生きてた時も流行から乗り遅れてたし。

 なんなら人間関係すら乗り遅れてたし。


「そっちからぶつかってきたんじゃないですか! それにそんなくらいで足が折れるなんて嘘に決まってますし骨折に金貨一枚もかかるわけありません!」


 二人組に一歩も引かずに反論、というかド正論を返す少女。

 骨折の相場に関しては知ったことじゃないけれど、少なくともぶつかったくらいで足が折れるようならそれはそれで問題なのできちんと病院に行った方がいい。


 ちなみに少女だが、まぁ簡単に言えばとんでもなく可愛い。

 パッチリとひらいた大きな黄色い瞳に少し癖のある金色に輝くロングヘアー。

 そして、何より女神なんじゃないかと疑ってしまうくらいに完璧なスタイル。

 何頭身だよあれ。


「あぁ!? てめぇ人が下手に出てやってたら調子に乗ってんじゃねぇぞっ!!」


「……っ」


 吠える男たちにさっきの威勢はどこへ?といった様子で少女はビクリと体を震わせ縮こまる。

 まぁ、こんなチンピラが職業みたいなやつに凄まれたら怖いのも当たり前か。

 むしろよく言い返したと思う。


 というかこれあれだよな。もしこれが小説だったら主人公があの女の子助けて一目ぼれって展開だよな。

 いやまぁ、所詮小説は小説な訳だが。


 人相の悪い奴は何やっても普通の奴より悪くとられる。

 ソースは俺。


 生きてるときに絡まれてる女子を横を素通りするわけにもいかないから助けたら一目ぼれどころかもれなく助けた子が蛇に睨まれた蛙みたいに身動き取れなくなってた。

 酷いときは「何でもしますから売らないで!」とか言われる始末だったからね。

 俺のこと何だと思ってるのさ。


 相手は怖がるし俺も傷つくしろくなもんじゃない。

 そのうえ次の日には報復だのなんだので襲い掛かられるし。

 ……というか今思えばほぼ毎日報復に来られてた。

 嫌な日課だなぁ。


 本当に人助けなんてろくなもんじゃない。

 だから、悪いけどここは通り過ぎさせてもらう。


「……おい! そこのお前止まれ!」


 別に見捨てることを言い訳する気はないが、この状況を見てる奴はいるけど誰一人助けに入ろうとはしない。

 ……俺が言えたことじゃないけどムカつく。


「おい! 無視してんじゃねえぞっ! てめえだよっ! そこの黒ローブ!」


 ……ん?

 黒ローブ?


 思わず周りを見渡す。


 おっかしいなぁ……そんな奴俺以外にこの近くには居ないみたいなんだけど……


「てめえだよ! てめえ!」 


 肩に置かれた手。


『あれ? 意外に細くて綺麗な指……トゥンクッ』


 なんてことは当然なく、世界を超えても愛される人相の悪さに俺は嫌気がさしていた。


「……なに?」


 相変わらず、異世界だろうが平常運転な人相の悪さに辟易しつつ振り返ると案の定ヘラヘラと笑いながら世紀末が立っていた。

 とりあえずその肩のトゲトゲの使い道教えてもらって良いかな?


「そのローブなかなかの品質なんじゃねえの?」


「……は?」  


「「は?」じゃねえよ。何お前、俺たちのこと知らねえの?」


「いや……」


「Cランク最強冒険者デコとボコの事を知らねえような田舎者なのかって聞いてんだよ!」


 んー?

 なんか、人相関係なく絡まれたっぽい?

 

 というかそんな残念な名前知らんわ。有名なのか?幼稚園から小学校まで名前でいじられそうな名前してるけど。ちなみに中学校からはそもそも相手にされない。


「……えっと、そのCランク冒険者様が俺に何か用ですか?」


 正直嫌な予感しかしない。暴力沙汰は勘弁な。


「なぁに、そんな身構えるなよ。お前に良い提案があるんだよ」


「……はぁ」


 良い提案ね。生きてた時それにつられて大変な目にあったのを思い出すな。


 男の純情を踏みにじるひどいラブレターだった。


 ……どうせ俺にラブレター送るのなんてゴリゴリの男しかいねえよ!分かったうえでつられたんだよ!別に囲まれてもちっとも泣きそうになんてならなかったよ!


 ……ぐすん。


「喜べ、そのローブ俺たちがもらってやる」


 黒歴史を紐解いてしまった俺の事など構うわけもなく目の前の世紀末共は勝手に話を進めていく。


「……?」


 ローブ?ローブってこれか?


「だーかーらー、お前みたいなガキにはもったいないから俺たちが金に換えて有効活用してやるって言ってんだよ! 分かったらさっさとよこしやがれ!」


 あー、なるほど。

 これはつまりあれだな……

 ……エールのせいじゃん。


 なんつーもん渡してくれてんのあの天使。

 いや、まぁ質はいいんだろうし『隠密』とか俺の事気遣ってくれたんだろうけどさぁ。


 ローブのせいでトラブルに巻き込まれてたら本末転倒じゃん……

 それとも何か?お前みたいなのは一生『隠密』で慎ましく暮らせってことか?


 だとしたら、次に会ったとき覚えとけよこんちくしょう。

 

 被害妄想?

 ちょっと何言ってるか分からないかな。


「おい! てめえ何さっきからちょくちょくシカト決め込んでんだ!? あぁ!?」


 先輩方がお怒りだ。

 今はこの状況をどうやって打開するかを考えるべきか。

 とりあえず案としては、


 案1 逃げる

 これが一番いいとは思うんだけどこいつら冒険者なんだよな?ここで逃げてもそのうちまた会うことになりそうだからダメか。

 いや、『隠密』で隠れておけば……さすがにずっとは精神的にきついか。


 案2 殴る

 うん、論外。


 案3 色々女の子に擦り付けて逃げる

 これは……だめだな。こんなこと思いついた時点でもう俺も人としてだめだな。


 案4 金貨を渡して満足してもらう

 これは案外ありかもしれない。さっきの会話聞いてる感じだと骨折で金貨一枚もかからないなら金貨ってのは思った以上に価値がありそうだからうまく使えば金貨一枚で引っ込んでくれるかもしれない。


 トラブルを招いたとはいえエールからの餞別の品だ。当然だが渡すという選択肢はない。俺のことを思って渡してくれたのに手放すなんてエールへの侮辱もいいところだ。


 さっき文句言ってただろって?

 記憶にございません。


 まぁ金貨も一応餞別の品だけど金は使ってなんぼだって近所のおっさんも言ってたからな。

 そういや、借金まみれで夜逃げしたって聞いたけど元気にしているだろうか……


「おい! いい加減にしろよコラッ!」


 ……うん、今は近所のおっさんのことより目の前のお兄さんを黙らせるのが先だな。

 これ以上関わりたくないしできるだけ事を荒立てないように……


 ――ギュッ


 ふと違和感を感じ後ろを振り向く。

 そして思考回路が停止する。

 少女が俯き肩を震わせながら俺のローブを掴んでいたからだ。

 

 まじですか……?




 ……いやいやいや、ちょっ、待て!おかしいおかしい!嘘だろ!?え!?なんで掴んでんの!?なんでちょっと小刻みに震えてんの!?え!?えー!?それはせこいよぉ……盾にされたよぉ。逃げたいよぉ。金だけ置いてとんずらしたいよぉ。


「おいっ!! てめえこの期に及んでなに俺の女に手出してんだこのガキ!」


「…………へ?」


 ……ん?今こいつなんて言った?俺の女?

 あと、手出されてんの俺だからね?


「えっと……失礼ですけどお付き合いなされて?」


 衝撃の連続で貧相な思考回路がショート寸前の俺に男が下衆な笑みを浮かべる。


「あ? 俺が俺の女って言ったらそれは俺の女になるしかねえんだよ」


 ……気持ち悪っ。


 どうにも俺の考えと少女の考えは同じだったらしくローブを握る手により力がはいるのを感じる。


 んー、けどどうしたものか。

 いっそこいつぶん殴った方が早い気がしてきたな。

 いやいや、当然だめだけどね。

 けど、ローブを渡さず尚且つこの子もこの危ない奴から遠ざける方法……


 ……なくね?


 いや、あきらめたらそこで俺の平和な異世界生活は終了だってどっかの先生も言ってた気がする。


 これは言ってみれば試練な訳だな。この程度も平和的に解決できない奴が平和な生活を送れると思うなよ的な。

 よし、落ち着いて考えよう。何か一つくらい何とかなる方法があるかもしれない。


「オイッ!」


 なんでもいいから平和的で痛くない解決方法を


「こっち向けやコラッ!」


 そもそも平和的ってどうやるんだ!?


 くそッ、こんなことなら生きてる間に上手く喧嘩を回避する方法考えとくんだった!

 落ち着け落ち着け!平和な異世界生活の為にもなんとしてでも暴力を使わない解決方法を……


「てめえマジでいい加減にしろやッ!あんま舐めた態度とってっとマジでぶち殺すぞっ!!」


 解決方法を……


「こっち向けや! ビビってんのかっ!?」


 解決……方法、を……


「威勢だけのガキがッ! 社会の厳しさ体に叩き込んで――」


「――うっせえっっ!!!」


「――ギャッ!?」


 ……物にあたるのは良くないなんて言うけれど。

 それでもどうしようもなくイライラしていて、なおかつそれを早急に何とかしなければならないのなら、物にあたってストレスを発散するのもありではないか。


 そんなどこか言い訳じみた持論を組みたてつつ打開策が思い浮かばないことへの苛立ちを近くで騒いでいるバカに向ける。


 人が真剣になって考えてんのに騒ぎやがって。誰のせいでこんなに慣れない頭の使い方をする羽目になってると思ってんだよ全く。


 俺は今、平和をつかみ取るためにお前らを納得させる方法を考え……………ん?……あれ?……ちょっと待って……今、俺……


 思考を中断して前を向くと、そこには座り込んで化け物を見るような目で俺を見上げる二人組の片割れが居た。


 むしろ片割れしかいなかった。


 ではもう片方のさっきまで俺に突っかかってきていた危ない方(デコだったか?)はどうなったのか。


 なんてことはない、デコは今酒場に居る。


 20メートル程先にある酒場だ。


 酒場には窓や壁なんてものはなく木製の塀で囲まれた四角形の空間の一か所が開くようになっていて、こう言ってはなんだが家畜を囲う柵、あれに似た作りだ。


 そんな作りの酒場なので中は当然丸見え。

 酒場に入ったものの彼はもしかしたら下戸なのかもしれない。

 なぜなら彼の前には一滴の酒もないからだ。


 いや、それどころか彼の前にはテーブルすらない。

 しかし、どうにもデコの奴は相当の変わり者らしい。


 普通ドアは手で開けるものだ。


 なのに何を間違えたのかデコは頭から扉に突っ込んだらしく扉は見るも無残な状態だ。


 そのまま勢い余って店内まで突っ込んだらしく店の中もぐちゃぐちゃだった。


 全く、何をやってるんだデコの奴は。

 まあそういうところもあいつの陽気でいいところさ!


 はっはっはっはっはっ!!


「あ、ありえねえ!人を殴っただけであんなにぶっ飛ばしやがった!……こ、殺される……ひ、ひぃぃいぃ」


 全速力で仲間を見捨てて逃げていくボコ。


 なんか目と鼻と股の周辺が濡れていた気がするけれどそれは言わないのが優しさだろう。


 そして、俺もそろそろ認めるべきだろう。

 デコは俺に殴られて酒屋に頭から入店する羽目になったのだろうということを。


 平和的解決なんて口では言ってみたけれど、結局どこまでいっても俺は暴力でしか物事を解決できない。

 そんな、今更と言えば今更な俺の本質を改めて突きつけられてほんの少し吐き気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ