クロノス編・クロノスという村(後編)
それは本当に酷いものだったらしい。
圧倒的な人数の奴隷と人数こそ劣るものの実力ある冒険者と兵達の殺し合い。
そこに秩序なんてものは存在しない。
片や側に落ちていた石を握りしめ命絶えるまで一心不乱にただ相手を殺すことだけを考え手を動かし。
片やそれぞれの愛用の得物を手に洗練された技で襲いかかる狂った奴隷達を葬る。
こうなった原因は一体なんだったか。
これまでにないほどの人数が一気に奴隷になったことが原因か。
それとも溜まりにたまった不満、怒りが爆発したことが原因か。
はたまたその両方か。
それすら分からず死闘は繰り広げられる。
圧倒的な力量の差をものともせず数の暴力で一人でも多くの冒険者、兵を殺さんとする奴隷達。
そんな彼らにはもはやなぜ自分達が石を片手に無謀な闘いを繰り広げているのかなど分かりはしないだろう。
分かりたくないからこそ狂ったように殺すのだ。
それが自分達が見失った本来の目的の手段だったから。
だが、レイナさんは違った。
本来の目的を見失わなかった。
そして、逃げた。
本来の目的『自由』の為に。
レイナさん以外にも何人もの人が逃げ出したらしい。
けど、それよりも多くの人が狂った目をして殺すために殺す闘いに身を投じていった。
その人達がどうなったかは知らないそうだ。
……知る必要も考える必要もないだろう。
◆◆◆◆◆
「ひどい話ですね……」
話が終わりグレンがそう一言呟いた。
「……うん、そだね」
たしかにひどい話だ。
ほんとひどい話だ。
全くもってひどい話だ。
……ほんとにな。
「……アキ君?」
「ん?どうかした?」
「……ううん……何でもない」
……?
どうかしたのだろうか?
「それでレイナ。あなたはこれからどうするつもりなの?」
「あー、えっと、ここに住まわせて欲しいんだけど……ダメですか?」
ちらり、とこちらに視線を向けるレイナさん。
最初からそのつもりだったし別に問題ないだろ。
「別にいいですよ。その代わりきちんと仕事もしてもらいますけどね」
「良かったぁ~、もしダメって言われたらどうしようかと思ってたよ……」
心底ほっとしたというような表情で胸を撫で下ろすレイナさん。
「それでは頭、レイナは私達と家事ということで大丈夫でしょうか?」
「うん、そうして」
……とりあえず今やるべきことは全て片付けたかな?
「あの、頭!」
「ん?どしたグレン?」
あれ?なんかやり忘れてたっけ?
……あ、そういや報酬貰い忘れてたな。あとで取りに行くか。
「今の話だともしかすると森の中にまだクロノスから逃げた人達がいるんじゃ……」
「……ん?あぁ、そういやそうだな」
「……えっと……もし見つけたら保護してもいいですか?」
「別にいいよ」
「……」
「……どうかした?」
「……いえ、なんでも」
なんだ?なんかグレンの奴も様子がおかしいような……
「……気のせい、か……?」
……とりあえず、報酬貰いに行くか。
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「こちら報酬の金貨一枚になります」
「これで俺もCランクですね」
「はい、おめでとうございます。次はBランクですね」
「気が早すぎません?」
俺、過労死しちゃうよ?
「それほどアキさんには期待しているということです」
「褒めても何も出ませんよ?」
「何も望んでなんかいませんよ。この間みたいに言い寄ってくる不愉快なBランク冒険者を血祭りにあげていただければそれだけで満足ですから」
とてもいい笑顔だ。
「それだけで満足のハードル高すぎません!?」
「では譲歩して半血祭りで」
「半血祭りって何!?というかもう少し優しくしてあげて!」
あの四人組はけっこう良いとこあるよ。
カネロは実は優しい奴だし、ソニーはバカっぽいのはキャラ作りで実は根が良い奴だし、アマテは気遣いができる奴だしな。
もちろん三人とも強さも申し分ない。
え?マギの良いとこ?
仲間が死闘を繰り広げてる間に寝れるくらい肝の据わった奴だよ。
……あとはまぁ、かなり強いとことかな。
「そういえばマギさん達は昨日ここに来たんですか?」
「ええ、夕方に来ましたよ。珍しく疲れたような様子でしたけど」
夕方……あれから結構な時間探してたってことか。
これは俺もそろそろ帰った方が良いかもしれないな。
変なことに関わりたくもないし。
「そうですか……それじゃあ俺はそろそろ帰らせてもらいます」
「あれ?依頼は受けていかないんですか?」
「今日はいつもより遅いですし……また明日受けに来ます」
というか今更だけどなんでマギ達はレイナさん狙ってたんだ?
……もしかしてザンクが雇ってるBランク冒険者……?
確証はないけどあり得るな。
帰ったらレイナさんに聞いてみるか。
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「あ、レイナさん」
「んー?何ですか?」
アジトに戻ると大広間で寝転がっているレイナさんがいたので声をかける。
「ちょっとこっち良いですか?」
「はーい」
別にここでもいいのだがなんとなく外へと促す。
ヘレナさん達の邪魔になりかねないしな。
「聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「全然いいですよー」
「じゃあ遠慮なく」
さて、聞くか。
「ザンクは冒険者を自分の身辺警護に雇ってるんですよね?」
「そーですよ、自分を四人の冒険者に守らせてますね」
「……それって昨日の人ですか?」
「えっと……しっかり見たことないので分からないですけど……たぶんそうですよ」
やっぱりそうなのか。
「屋敷も?」
「えっと……身辺警護の人達に比べると弱いみたいですけど……二十人くらいに守られてたかな?」
「……そうですか」
「それがどうかしたんですか?」
「いや、別にどうでも良いことなんですけどね……」
……ん?いや、どうでもよくは……ないよな?
なんか……
「……戻りますか」
「へ?もういいんですか?」
「……うん、聞きたいことは聞けましたから」
元々そこまでたくさん聞く気はなかったからな。
「……じゃあ、私から一つ聞いても良いですか?」
「ん?」
一瞬の停滞。
そしてレイナさんの口から紡がれた言葉の意味が俺には分からなかった。
「……頭は……私のことが嫌いですよね?」
「……え?……どういう――」
「頭っ!!」
――意味ですか?
と聞こうとした俺の耳にグレンの声が届く。
「ん?グレン……その人達は?」
グレンだけではない。
戦闘を請け負っている人達がそこには全員いた。
それと見慣れない男の人と女の人も。
見慣れない……?
いや、普通に初めて会う人だとは思うんだけど……
なんか知ってるような……?
「森のなかで保護しました」
「……ってことはクロノスの人か」
こうも簡単に見つかるものか。
「はい、そうなんですけどね……」
そう言うとなぜかグレンはそこで言葉を止める。
なんだ?なにか問題でもあるのか?
「実はこの二人、レイの両親なんです」
ふたたび口を開くとグレンはそう言った。




