クロノス編・え?あれってそんなに高いの?…やば……
「何に見えますか?」
焦るな……
今きっとマギたちは俺以上に焦っている。
あれだけ捕まえようとしていた対象が消えたのだ。
焦らない方がおかしい。
「……刃こぼれしたナイフだろ?そんなことよりあの女をどこに隠した?」
「隠した……ですか」
ひきつけろ……
俺の話を聞くように仕向けるんだ。
「さっさと吐け、じゃないと殺すぞ?」
「どのみち俺の事は殺すんですよね?」
「……もしどこに隠したのか教えたらお前は見逃してやってもいい」
「俺が目くらましをしている間に逃げた、とは考えないんですか?」
「そんなことは不可能だ。お前が担いでいたらまだあり得るかもしれないが、あの短時間で俺達から見えないところまで逃げるなどできるわけがない」
確信を持ったようにマギはそう言った。
まぁ確かに普通に考えたらその通りだ。
「本当にそうですかね……?」
「……どういう意味だ!?」
俺の余裕といった態度に何か感じたのかマギが声を少し荒げそう問う。
「……このナイフ……実はただのナイフではないんですよ」
「……?……どういうことだ?」
ほんの少しまだ焦りがある様子でマギがそう問う。
食いついたか?
「人工魔器、って知ってますか?」
「…武器屋の店主が新しく作ったっていう一回だけ好きな魔法を付与できるナイフの……まさか!」
「えぇ、そうです。これはその魔器です」
かかった!
……いや、まだだ……もっと確実に誘導しろ。
一瞬の油断でこのナイフはただの刃こぼれしたナイフだってきっとばれる。
「……本当にそうか?」
ほら、まだ疑ってる。
「何か気にかかることでも?」
「あの武器屋の店主の武器へのこだわりは異常だ。名前もいかれてるようなのばっかりだしな」
それに関しては激しく同意だ。
「人工魔器ってのが販売され出したのはつい最近なんだよな?」
マギが俺の中を見透かすような力強さを持った目で俺をじっと見つめる。
変に動揺したりしないようにしないと。
「ええ、そうですよ」
よし、声も全くぶれなかったはず。
「だとしたら、あの店主の作ったナイフがそんな数日やそこらでそこまで刃こぼれしたってことか?」
……なるほど。
たしかにあのおっさんが作ったものがそう簡単にダメになるとは思えないよな……
「……マギさん達はこれを持っていますか?」
おそらく持っていない。
持っているのだとしたら初めからこれが人工魔器だなんて思わない。
こんなボロボロの刃こぼれナイフ。
「……いや、さすがに一回きりの魔法に銀貨五十枚は厳しかったから持っていない」
……え?あれって銀貨五十枚するの……?
いや、たぶん高いとは思ってたけど……
マジですか……?
「………………なら、知らなくても無理はありませんね」
「なんだ?今の間は?」
「いえ、さすがに銀貨五十枚は使いすぎたかと……」
一瞬、不審がられはしたものの自分達も同じ経験をしたためかそれ以上の追求はない。
というか、あれ銀貨五十枚か……
「……で?俺達が何を知らないって?」
いや、ダメだ。今は考えるな。
この人達を欺くことだけに集中しろ……
「付与された魔法を使ったナイフがどうなるか知っていますか?」
「どうって……まさか」
頭の回転が早くて助かる。
これは使えるかもな。
「はい、そのまさかであっていると思いますよ」
「バカな!!あの店主が作っているナイフだぞ!?そんなことあり得るわけ――」
「コストの問題ですよ」
「コスト?」
「たった一回とはいえ、付与したい魔法を付与して人工的に作り上げることに成功した魔器が本当に銀貨五十枚で買えるとでも?」
「……それは……」
……迷ってるな。
まぁ、実際あのおっさんはそれを達成したわけだからな……
けど、俺が言っていることも的をはずしているわけではないはず。
あのおっさんが興味ないだけで人工魔器の発明ってのは本来もっと称えられることだろうし。
「もし費用の出し惜しみ無しで作ればきっと金貨一枚でも足りないくらいでしょうね」
「………」
「けど、普通に考えて一度使えばただのナイフになってしまうような武器に金貨一枚以上なんてだせますか?だせませんよね?」
大丈夫。
落ち着け俺。
「だからこそ作られたのがこの人工魔器。一度魔法を使ってしまえばナイフとしての機能すら著しく低下してしまう品」
「あの店主が――」
「たしかに店主も納得はしていないでしょう。ですがこれが試作段階だとしたら?ここから完璧な人工魔器を作ろうとしているのだとしたら?」
「――ッ!」
たしかに一度使えばナイフとしての機能すら失う物であのおっさんが納得するとは思えない。
実際、あのおっさんが作ったのはナイフとしての性能もかなり高いものだった。
ただ、それはあのおっさんだからこそだ。
仮にじぶんが一度しか使えない使い捨てのしかし強力な武器を作り上げたとしたらどうする?
量産して売ってもおかしくはないだろ。
それも更に良い品を作ろうとしているなら宣伝になるからなおさらだ。
「……納得していただけましたか?」
「……仮に、仮にお前がもっているそれが人工魔器の成れ果てだとして、何の魔法を付与していた?」
声を押し殺すようにしてマギはそう問う。
きっと、もう想像はついているのだろう。
それはないと思いたいだけで。
「決まってるじゃないですか。オールエンハンスですよ」
「――ッ!今すぐ追うぞ!まだ間に――」
「間に合いませんよ。彼女には俺のローブも渡しておきましたから」
瞬間マギの顔が青褪める。
「――くそがッ!!」
そして、そう叫ぶと俺にはもう見向きもせず王都への道を駆けていった。
頭の回転の早いマギのことだ。
今の会話の流れで俺のローブが身体強化するための魔器だとでも考えたのだろう。
一人駆け出したマギを追うように他の三人も慌てて駆けていく。
ソニーは大体理解しているようだったがアマテとカネロが首を捻っているのが印象的だった。
「……ふぅ」
あとに残るのは静寂と俺とそして……
「も、もう話して大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫だと思います」
木のすぐ側で俺のローブを纏い三角座りをしているレイナさんだ。
「す、凄いんですね……てっきりバカなのかと……」
「よし、今すぐあの四人に引き渡してやる」
「ごめんなさい!」
完全に舐められている。
せっかく頑張ったってのに
「とりあえずそのローブ返して貰えますか?」
「あ、はい。はじめは何を血迷ったのかと思いましたよ。動かず喋るななんて言うから」
「ローブのことを説明するわけにはいかなかったから結構な賭けでした」
「もうどうしようもないと思ったらなんか誰も私のことが見えてないみたいだったので大人しく黙って身動きせずに待ってたんです」
「音をたてられたら魔法がとけてしまうのでほんとに良い判断でしたよ」
俺がやったことは至極単純。
ウィンドスラッシュで巻き上げた砂煙と木の葉でレイナさんから視線をはずさせる。
そこで俺が大量に魔力を流し込んだローブをレイナさんに纏わせ『隠密』を発動させる。
そして、俺がレイナさんに強化魔法を施して逃がしたというようにマギ達に誤解させる。
たったこれだけだ。
隠密を発動するには『見られていない』という状況が必要になる。
これはこの魔法の本質が『姿を消す』ことではなく『気配を極限まで薄くする』ことにあるからだ。
つまり音をたてたりはじめから見られていたりして相手に認識された時点でこの魔法は解除されてしまう。
上手くいって本当に良かった……
「とは言ってもあの人達がずっと騙されてくれるとはとてもじゃないけど思えないですからそろそろ行きますか」
「……私に行くとこなんてありませんよ。王都に行っても捕まる気しかしませんし森にいたら魔物に殺されますし……」
沈んだ声でそう呟くレイナさん。
当然そこら辺のことはしっかり考えてある。
とりあえず命の危機から救ってあとのことは知りませんというのは無責任というものだろう。
「問題ないですよ、あなたが望むなら居場所も食事も手に入れられます」
「……?どういうことですか?」
「……まぁついてきてください」
そう言って俺がレイナさんを導いた場所。
アジトだ。
なんか……体がダルいから早く休みたい……
「えっと……もしかしてここに住んでるんですか?」
依頼の報告は……明日でいいや……
「まぁそんな、ところ……です。とりあえず……詳し、い……説明は…………」
体が意図せず地面に膝をつく。
あ、れ?
な、んで……?…………なんか体、が……?
「ど、どうしたんですか!?大丈夫ですか!?」
な、んだよ………こ、れ……?
レイナさんの焦ったような声を最後に俺は何かに引きずり込まれるようにしてそのままわけも分からず地面に倒れた。
いつも読んでいただきありがとうございます!




