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異世界ハーレムはただしイケメンに限る  作者: 日暮キルハ
一章 手放せない日常

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クロノス編・所詮は偽善されど偽善

ツイッターにてアドバイスをくれた方、作品を読ませて頂いた方、ありがとうございました。

そして、今から読んでくださる方ありがとうございます。

「ガァ!」


 戦闘はグラトニーベアーが棒立ちで立っている俺に襲いかかることで始まった。


「『アースウォール』!なにぼけっとしてやがる!」


 アースウォールでグラトニーベアーの動きが一瞬止まった隙にカネロは俺を押す。

 そしてその次の瞬間壁は砕けグラトニーベアーの爪が空を裂く。


「おい新人!動けねぇなら後ろに……ッ!くそがっ!」


 俺を後ろに下がらせようとしたカネロは思わず悪態をつく。


「ガルゥア……」


 現在相手にしているグラトニーベアーよりいくらか大きな、親のグラトニーベアーが現れたのだ。


「ちっ、母親まで出てきやがった……」


「……母親……あれは母親なんですか…?」


「父親の方はもう一回りはでかい!闘えないなら下がってろ!」


「いえ……大丈夫です」


 俺は一言そう答える。

 ……あのグラトニーベアーに家族がいたのか。


「……そうか、父親が出てきたらさすがにまずい。とっとと殺すか追い払うかするぞ!」


「……はい」 


 その心配はない。

 俺が殺したから。


「『無より生まれし水よ 連なりし源水よ 渦巻く水は暴威 その力荒れ狂え アクアトルネード』」


「『無より生まれし風よ 連なりし暴風よ 暴威の化身となりて 全てを押しつぶせ サイクロン』」


 ソニーとアマテが隙を見て詠唱を繰り出す。

 風の竜巻と水の竜巻。

 その二つの暴威がグラトニーベアーの命を奪おうと襲い掛かる。


 グラトニーベアーの最も恐ろしいところは鍛え上げた冒険者ですら一撃くらえば致命傷に至るその異常なまでの攻撃力だ。

 それは防御に優れた『アースウォール』をビスケットでも砕くように簡単に砕いたことからも分かるだろう。


 しかし、そんなグラトニーベアーには致命的とも言える弱点が存在する。

 防御が紙なのだ。

 いや、紙は言い過ぎにしてもその防御力はせいぜいDクラスの魔物とそう変わらないレベルなのだ。

 実際、自らの強すぎる攻撃の反動で傷を負うグラトニーベアーは多く目撃されているそうだ。


 少し話がずれたが要はグラトニーベアーは攻撃こそ驚異的なものの倒すこと自体は不可能というわけではないのだ。

 これは俺がグラトニーベアーを殺した時にも言えることだろう。

 そして今、グラトニーベアーに向かって放たれた二つの上級魔法は当然ながら俺の手刀よりも高い威力を持っている。

 命中すれば確実にグラトニーベアーは絶命するだろう。

 まぁ……


「ガルゥア!」


「ガァ!」


 あくまで『命中すれば』の話だが。


 一声叫ぶと母子は跳躍し、駆け、転がり、ほとんど無傷で攻撃を凌ぎ切った。


「もぉ~!ちょこまかぁ鬱陶しい~!!」


 地団駄を踏むソニー。


「まぁグラトニーベアーは回避能力も高いし仕方ないだろ…隙を突くか回避しきれないだけの火力で攻撃するしかないだろな」


「……だねぇ」

 

 冷静に分析するアテナに心底めんどくさそうにソニーがそう答える。

 やはりなんだかんだBランクの冒険者たちのパーティだ。

 上級魔法を躱されても焦りの一つも見せず次の行動に移ろうとしている。


「火力作戦はぁできればぁ避けたいよねぇ。となるとぉ攪乱してぇ隙を突くのがぁ一番かなぁ?」


「よし、なら俺、カネロ、新人、で攪乱するからとどめを頼むぞ」


「りょうか~い」


 作戦は決まった。

 正直作戦と呼べるほどの代物でもない気がするがそこは各々の力で補えということなのだろう。


「じゃあいくぞ!『無より生まれし――』」


「ガウルァッ!」


「ガァルアァ!」


「ぐっ!」


 グラトニーベアーが使える魔法『ウィンドスラッシュ』が母子の両方から俺達に向けて放たれカネロがその身を盾にして俺達を庇う。

 無詠唱と詠唱、どちらが早いかなんて考えるまでもない。

 この時点で作戦というものは崩壊した。


「ガアッ!」


「グルァア!」


 そして、魔法を使うことのできる魔物には少なからず知能というものが存在する。

 つまり、簡単な作戦なら立てられる。

 そして、この母子が立てた作戦は実にシンプルだった。


 壁が邪魔ならその壁を無くせばいい。

 カネロがウィンドスラッシュを受けたこの瞬間……壁がなくなった。


「――ッ!」


 まず、子供がアテナに襲い掛かる。


「……」


 そして、母は俺に襲い掛かった。


「――ッ」


 カネロは一瞬迷った様子を見せた。

 俺を助ければアテナは即死だろう。

 逆ならば…まぁ実際は回復魔法で何とかなるだろうがカネロからしてみれば死ぬことになるだろう。

 というかさすがにカネロでもグラトニーベアーの攻撃を受けたら即死とまではいかずともまず間違いなく死ぬだろう。


 まぁ一瞬カネロは迷った。

 そして、決断した。


「すまない……」


 そう小さくつぶやいてカネロは、アテナを庇いに行った。


 なんら謝る必要などない。

 これまで一緒に過ごしてきたパーティの仲間の命と今日初めて一緒に仕事をするガキの命、天秤にかけるまでもないだろう。

 むしろ平然と自分の命を捨てる選択ができるのは褒められたことではないのかもしれないが俺は凄いと思う。


「……まぁそもそも俺は死なないけどね……」


 いつの間にかまたしても世界が遅くなっていた。

 そして今回、俺は動ける。


 こうなれば後は斬り捨てるだけだ。


 腰の刀に手をかける。


 そして思い出した。


 黒檀が誰でできているか。


「……俺はお前でこいつを殺すのか……?」


 一瞬生まれた迷い。

 それは決定的な隙で……


「新人君!!」


 次の瞬間、俺は面白いくらい吹っ飛ばされて木に叩き付けられた。


 痛い……

 本当に痛い。

 たぶんこの世界に来てから一番痛い。


 ソニーに「口調はキャラづくりだったんですか?」なんてツッコむ余裕すらない。

 というかこれはこのままだと死ぬ。


 ……もうそれでいいんじゃないのか……?


 ふと心にそんな考えが浮かんだ。

 仮に俺がここで復活したとしてどうする?

 あの母子を殺すのか?

 

 殺されるべきは俺じゃないのか?


 そして思った。


 あぁバカバカしい、と。


 俺の犯した罪は死んだところで許されるものじゃない。

 それでも俺は俺のためにグラトニーベアーを殺した。

 命を奪った。

 なら今、俺はどうするべきだ?

 考えるまでもない。


 救える命は全部救え。


「『オールエンハンス』!!!」


 魔法が発動した瞬間俺の体をオーラのようなものが包み込みほんの少し体が楽になったような気がしないこともない。

 たぶん気のせいだ。

 オールエンハンスには回復効果などない。

 自己回復量は多少増えるだろうからそれが少しは関係あるのかもしれないが。


 まぁ今はそんなことどうでもいいんだけど……


「全員助ける……」


 思いきり地面を蹴って一気にソニーの近くに移動。

 そしてそのまま背後から爪を降り下ろそうとしていた子供の人間でいう鳩尾にあたる部分に渾身のグーパンチを叩き込む。


「おうちに帰りなさいっ!!!」 


 そのまま勢いは止まらず子供はどこか森の中に飛んでいった。


「ガウルァアッ!」


 唸り声をあげ跳びかかる母親。

 目の前で子供が吹っ飛ばされて動揺したのか?

 動けない時間を作るなんて……完全に愚作だ。


「お前も帰れっ!」


 母親の渾身の一撃をかわしてその隙だらけの腹に蹴りを叩き込んだ。


「ガッ」


 母親は短くそう叫ぶとそのまま無事、というか俺の計算通りさっき子供を吹っ飛ばした所辺りに吹っ飛んでいった。


「まぁ、こんなもんか……」


 目的を達成して安心したのかぐらりと体が揺れ思わず膝をつく。


 無理矢理動いたせいで出血量が尋常じゃないことになっている。


「『リザ、レクション』」


 発動した瞬間に俺の体は光に包まれ痛みが引いていくのを感じる。

 回復魔法は自分に使うと効力が半減するらしいがこれだけ回復できたら十分だな。


「し、新人君?光属性の適性があるの?」


 ……やっぱりソニーの口調はキャラ作りだったらしい。


「ん、まぁ今はそれよりあの二人を助けるのが先ですね」


 瀕死で転がっているカネロとアマテの所まで行きリザレクションをかける。

 ちなみにアマテが死にかけてるのはグラトニーベアーの攻撃がかすった結果だ。

 グラトニーベアーの攻撃が強すぎたのか、それともアマテが弱すぎたのか……

 まぁそれはともかく二人の体が光に包まれるとあっという間に二人は全快した。


「……あれ?俺は死んだはずじゃ……」


「とりあえずその紙装甲なんとかしません?」


「意味は分からんがお前バカにしてるだろ!?」


 その後、クロノスに到着するまで俺達が襲われることはなかった。

読んでいただきありがとうございます!

また、明日も更新させていただきます

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