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異世界ハーレムはただしイケメンに限る  作者: 日暮キルハ
四章 正義の本質

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罠にかかったのは

「お久しぶりですね。積もる話もあることとは思いますが早速死んでいただいてもよろしいですか、皇帝様?」


「……よくもまぁ儂の前にその顔を晒せたものだな。この出来損ないが」


「ハハ、お怒りのようで何よりです。あなたのような外道に再会を喜ばれるなんてゾッとしますからね」


 皇帝の寝室。

 一人で寝るにはあまりにも広すぎる部屋の中で一人が寝るにはあまりにも大きすぎるベッドに腰かける老人と男は互いに殺意を隠そうともせずに言葉を投げ合う。


「……ところで、随分と余裕がおありのようですね。今のあなたの状況ではそこまでの余裕はないと思うのですが……もしや死んでくれる気になりましたか?」


 その整った顔に笑みを貼りつけたままルトハイスはまま腰に下げた一振りの剣を抜く。

 その剣の名はモラルタ。

 それはこの世界で『神器』と呼ばれるユニーク魔法を秘めた剣の名前。


 十帝、序列一位『悪夢』のルトハイスが持つことを許されていた国宝だった。


「……そういえば貴様にはその剣を取られたままだったな。……殺すついでに返してもらおうか」


「ご冗談を。かつては『冥府』などと恐れられたあなたも今ではただの老害だ。……潔く死ね」


 ルトハイスと対照的にどこか険しい顔を浮かべ気の弱い者ならばそれだけでも死んでしまいかねないほどの殺気をルトハイスに叩き込む皇帝。

 しかし、それをまるでその風でも吹いたかのように軽く受け流すとルトハイスは相変わらず笑みを浮かべたまま目の前の老人と言ってしまうにはあまりにもな老人を小ばかにする。

 そして次の瞬間、貼り付けた笑みをフッと消すと一瞬にして皇帝の懐に潜り込み死刑を宣告した。


「……まぁ、そう簡単にはいかないか」


 しかし、その剣は皇帝には届かない。

 すんでのところで間に差し込まれた一本の剣によって遮られたのだ。


「……これでも僕は忙しい身です。ですから死んでください」


 レクスによって握られた剣はルトハイスの剣を止めるにとどまらずほんの一瞬の隙を突きその首に届こうとしていた。


「連れないな。久しぶりの再会だ。もう少し喜んでくれてもいいんじゃないか?」


 最小の動きでレクスの剣を捌き、数瞬前まで迫っていた死をまるで感じさせない様子でルトハイスはレクスにどこか物悲し気な様子でそう言葉を投げかける。


「……僕は貴方のような弱い人間にはなりません」


 しかし、それに対するレクスの答えは酷く冷めたものだった。


「ところでルトハイス。貴様はさっき儂に余裕がない、と言っていたが……どうやら余裕がないのは貴様のようだぞ?」


「……これはこれは。懐かしい顔が随分と揃ってるみたいだ。それにしてもおかしいなぁ、今日は十帝だけでルリジオンに奇襲をかけて攻め落とす、という話を聞いていたのですが……」


「ふん、間抜けが。まんまと引っかかりおって」


 気付けばルトハイスを囲むように現十帝の上位五位が立っていた。


「お久しぶりですねルトハイスさん。できればあなたを俺のコレクションに加えたいと思っているのですがどうですか? ここで嬲り殺しにされるくらいなら俺の持ってる最強の駒になる方がまだましだとおもいますよ」


「ふふっ、相変わらずのようだねレイジ。君のそういう目的のために突き進んでいくスタイルは嫌いじゃないけどそれは聞けない提案だな。実は私は君が思っているより多忙でね、さっさとそこの老害を殺してこの国を一度滅ぼさないといけないんだ。それでやっと全てが始まる……いや、元に戻ると言うべきか」


 旧知の友であるかのように気さくに、しかし酷くおぞましいことを笑顔で話すレイジ。

 そんな狂人の戯言をルトハイスは笑って流すとやはりその笑みを保ったまま更におぞましいことを口にした。


「……何、やってるんですか……! ルトハイスさん! 貴方は……そんな人じゃないでしょう!!」


「……久しぶりの再会だ。何もいきなり怒鳴ることないじゃないか、ショウリ」


 そんなルトハイスにショウリは叫んだ。

 しかし、そんな怒りの叫びもルトハイスの笑みを崩すことは無くどこか茶化すようにそう返される。


「ふざけないでください! なんで平和な世界を作ろうとしてた貴方がこんなバカなことしてるんですか!? 何が貴方を、なんで……!」


「それを聞くのかい、ショウリ? 君がそれを聞くのかい? ……分かっている癖に」


「――ッ!! ……それでも俺は……貴方のように……」


 そんなルトハイスの様子に我慢ならないといった風に勝利は言葉をぶつける。

 それがそうしたのか。それともそれは何も関係なく別の何らかの要因がそうならせたのか。

 それは分からないが、ルトハイスはショウリの言葉に浮かべていた笑みを消し殺意を伴った声でそう返した。


「……やめておけ、ショウリ。言うだけ無駄だ。ルトハイスさんにはルトハイスさんなりの考えがあってそれが俺達とは昔はともかく今は違うところにある。それだけの話だ」


「……ケンヤはあの頃より少し喋るようになったみたいだ。良いことだよ。言わないと伝わらないことは多いからね。あぁ、そう言えば……今は君が序列三位なんだっけ……?」


「……はい。俺には些か荷が重すぎる地位ですが」


「謙遜することないよ。君ならやり遂げられるはずだ。もっとも今日で守る国は一度滅ぶわけだけど」


 悲痛な表情を浮かべるショウリ。

 そんな彼の気持ちを誰よりも理解できるがゆえにケンヤはショウリがそれ以上の言葉を吐き出すのを止める。

 それを言ってしまえばおそらくこの場で幸せになれる人間は誰一人いないから。

 

 人間早々変わるものではない。

 それをケンヤはよく理解している。

 変わるべきだと思っても変わることはそんな簡単にはできないのだ。

 だからこそ、たとえそれがどれだけ誰かにとっては残酷で理解できない手段だとしても志は変わらず同じなのだとケンヤは理解できた。

 いや、できてしまった。


 そしてそれが分かってしまうからケンヤにはルトハイスの浮かべる中身のない笑みがどうしようもないほどに憐れに見えて仕方がなかった。


「相変わらず君は優しいね。その優しさついでに一つ聞きたいんだが……そこの可愛らしいお嬢さんはもしや今の序列五位、かな?」


 ケンヤは優しかった。

 それは今でも変わらない。

 それに気づいていながら、気づいているからこそルトハイスは自身の持つ情報とのすり合わせを行う。


「気安く話しかけないでくれる? 人間ってだけで目障りなのにそのうえおっさんとかほんとにあり得ないんだけど」


「アハハ、随分と正直な子みたいだね。うん、情報と全く同じだ」


 突然話を振られたのが気に入らなかったのか、そもそも人間が嫌いすぎるだけなのか。

 それは彼女のみが知ることだが、ともかく事実としてサディは初対面のルトハイスに対して嫌悪感を隠そうともせずにそう吐き捨てた。

 もっともルトハイスは全く気にした様子を見せず、それが更にサディの苛立ちを助長するのだが。


「それにしても……まさか五人とは。これは本当に想定外だったな……」


 サディから向けられる殺意をものともせず再度周りを見渡しながら失敗したとでも言いたげに、しかしにこやかにルトハイスはそうこぼす。


「外にいる三人はともかく、残りの二人は別働隊とは……ここで七人全員足止めする予定が狂ってしまったよ」


 変わらず笑みを浮かべるルトハイス。

 その直後扉を蹴破り百人ほどの精鋭がルトハイスを囲む十帝を囲むように現れた。


「とはいえ、おおむね私の計画通りだ。本当に良かったですよ、あなたが想像を絶する間抜けで。ねぇ、お父様?」


 帝国を帝国たらしめる最大戦力達と覚めない悪夢の闘いが始まろうとしていた。



 


 ロワの町が地獄と化す数分前の出来事。

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