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第9話:仲間

 星がきらめいている。ああ、こんなにも空に星があったっけ――

総司は土手の上に座っていた。

京に来てからというもの、忙しすぎてそんなこと考える余裕はなかった。


―これからどうしよう・・・。

不意に歳三や近藤、新八たち仲間の顔が浮かんだ。


「別れたくない・・・。」

思わず声に出してしまっていた。


そう、別れたくない、みんなと。

そう思った瞬間。

「総司。」

上から声がした。いつものよく知った声だ。


―私を始末しに来たのか・・・。

振り返る勇気なんてない。殺るなら一思いに殺ってほしい。

そうすれば少なくともこれから先、たった一人ぽっちで生きていかなくてもいい。


「総司。」

再び声がした。すぐ隣にいるのが分かる。しかし声の質は硬く、氷のように総司の心に突き刺さった。

おそるおそる顔を声のほうへ向ける。そこにはいつもと変わらない歳三がいた。

でも今の総司には直視する勇気がなかった。

「土方さん・・・。」

心なしか声がかすれる。今さら元のように戻れるハズはない。はずみとはいえ言い合いをしたことで裏切りを答えてしまったようなものだ。

でも・・・それでも・・・。

「総司。」

再び声が聞こえる。次の言葉は何であれ、もう土方さんたちと楽しく笑いあうことはないんだ。

「土方さん。私は――。」

「悪かったな。」

「え?!」

総司はあまりにも意外な言葉に虚をつかれて、思わず歳三の顔を正面から見た。照れているのか、心なしかその目の光は優しかった。

「な、なんで土方さんが謝るんですか?悪いのは私です。一時とはいえ、組を裏切ろうと思い、あげくに組のみんなを危険にさらしてしまったんです。」

「組が危険と隣り合わせなのは当然だ。」

「しかし・・・。」

「それに、お前は好きな女を助けようとしただけだ。そうじゃないのか? それを見捨てるのは仁義にも劣ると思うが。」

「・・・・・・。」

目に熱いものがこみ上げてくる。泣いちゃだめだ。泣いちゃだめだ。

「俺が言いたいのは。」

歳三は軽く咳払いをして続ける。

「京に来てから、ロクにお前と話をしてなかったと思ってな。そこを付け込まれたんだ。不安にさせてしまって悪かった。」

「土方さん・・・。悪いのは私なんです。許してください。ごめんなさい・・・。本当にごめんなさい・・・。」

「総司、お前・・・何泣いてんだ――らしくないな。」

歳三はちょっと困った顔をした。

でも一旦流れ出た涙は止めようもなく、顔を伏せてただただ声を押し殺して泣き続けた。

歳三はその間ずっと肩を抱いていてくれた。そして何言かささやいた。それは小さく、でも力強かった。


 そして、その手はとても暖かかった。


   *   *   *


―が、その様子を見ていた人たちがいる。

「どう見てもあれは人たらしだな。」

「私もそう思います。」

途中から歳三がいないことに気づいて探し回っていた新八と平助であった。出るに出られなくなってしまったらしい。

「まあ、仲直りしたみたいだからいいけどな。しっかし、これを山崎が見たらどうなるか。」

「あの人だったら、まず理性とぶでしょうね。私たちで止められるでしょうか・・・。私ちょっと心配です。」

「右に同じ。―って、平助! 土手の脇の木の上にいるの、あれ山崎じゃねえか?!」

「えっ?! うわ〜いつの間に?! 目ぇ血走ってますよ・・・。どうしましょう。」

「どうしましょう、じゃねえ! 止めるんだよ、奴を。」

反射的に新八が投げた短刀と、山崎が総司に向かって投げた手刀が総司の上で重なり、乾いた音を鳴らした。

同時に新八と平助が飛び出す。

「うわっっ。な、なんだお前ら――。」

歳三が赤面する。よもや見られているなんて露ほども思っていなかったらしい。動きもどこかぎこちない。

「話は後です。とにかく山崎さんを止めてください。」

「山崎?!」

見ると歳三のすぐ横で赤い目をした山崎が控えていた。

ただ、その目は恨めしそうに総司を睨んでいた。

「山崎君・・・。君も見てたのか・・・。」

「私は常に土方副長と共にありたいと思っておりますゆえ。」

(すごい忠誠心だよ・・・。)

思わず顔を見合わせる新八と平助。

つくづく面白いメンバーが集まったもんだ。そして強い。総司は苦笑してしまった。

「土方さん! 今日はありがとうございました。私はもう大丈夫です。次は山崎さんに時間を分けてあげてください。では、失礼します。」

「ち、ちょっと待て・・・まだ話は・・・。」

本気で困惑する歳三を尻目に歩き出す。その足取りは軽い。

「じゃっ、俺たちも失礼するか、平助。」

「ええ。では土方さん、明日の隊務に支障がでない程度に帰ってきてくださいね。」

新八も平助も笑いをかみ殺している。

「おい、お前ら―。お前らには人の心ってもんがないのか――。」

歳三の声が夜空にこだました。

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