第8話:激突
「土方さん!」
総司が壬生に着いた時、屯所はもう既にたくさんの浪士たちに取り囲まれていた。その数―五十人ほどか?
総司は息を呑んだ。彼自身が会ったのは四、五人。だがこれほどの人がいるとは――。いくら組の皆が屈強の手だれだとはいえ、人数に差がありすぎる。
総司は必死で駆けた。
時々、八木邸から煙が上がる。あれは山南さんお得意の爆弾攻撃―。
まてよ。総司はふと気づいた。
奴らは「焼き討ち」と言ったはずだ。ならば、どこかに油の隠し場所があるに違いない。
総司は近くの町屋の屋根に上がった。大勢の浪士たちの動きでなんだか怪しげなところがある。
――あそこか!
総司は駆けた。
* * *
浪士の動きで怪しげな場所、そこは浪士たちの本営でもあった。吉兵衛や作太もいた。
「もうじき火の手をあげる。奴ら、まさかそこまでするとは考えてもいないだろ。ふふっ、これで終わりだな。」
「そうはいかない!」
意外な声に吉兵衛が思わず振り仰ぐと、そこには返り血で真っ赤になった総司がいた。さすがに肩で息をしている。
「なんで貴様がいる?!」
驚きは隠せない。
「油のありかはあなたのお仲間から聞かせてもらいました。もう火は使わせません。」
吉兵衛はせせら笑った。
「なにを。だが今更ありかが分かったところで一人ではどうすることもできまい。」
総司はうっ、と言葉に詰まった。が――。
「それが、残念ながら一人じゃねえんだな。これが。」
急に張りのある声がした。
吉兵衛も総司も声のほうを向いた。
「新八さん!」
「私もいますよ。燃料はすべて回収させてもらいました。島原の人たち喜んでいましたよ。あそこ燃料いくらあっても足りませんからね!」
「平助・・・。じゃ、屯所の中にいるのは?」
「ああ、近藤局長と土方副長、山南副長の三人だけだ。十分だろ?」
新八が笑ってみせる。
総司も思わず笑ってしまった。
「本当ですね・・・。」
その時、浪士たちが一斉に三人に打ちかかってきた。
だが手だれの三人である。
それを冷静に流して、新八が吉兵衛に一撃を繰り出す。
総司は作太の前に立ちふさがった。
彼の手にはあの菊一文字がある。
「その刀、返してもらう。」
総司は刀を高く掲げた。
目はしっかりと相手を見ている。そこには一点の曇りもない。
作太もその刀を構え直した。
一拍の間
次の瞬間、一線が走り、愛刀は総司の手に戻った。
脇に作太が倒れている。
新八が走ってきた。
「総司、大丈夫か?」
「新八さん、こいつも屯所に連れて行ってください。」
「でも・・・こいつ。」
新八は浪士がぴくりとも動かないのを見て言葉を濁した。
総司は苦笑した。
「峰打ちですよ。こんな奴に腹を使うなんてもったいなすぎますからね。」
そして背を向けて歩き出した。
「おい、屯所はこっちじゃないぞ!」
総司は振り返った。
「新八さん・・・ありがとうございます。でも、でも私、もう屯所に帰れません。今までありがとうございました。他の皆さんにもよろしくお伝え下さい。」
「ち、ちょっと待て。俺はそんなこと認めてないぞ。お前は今でも新選組の仲間なんだからな!」
総司は困った顔をした。
「いえ、けじめはつけないと。・・・そんな風に言ってもらってありがとうございます。では。」
そして新八の制止も聞かず走り出した。