第5話:疑惑
「いよいよ帰ってきませんでしたね・・・。」
「総司もやるときゃやるんだって〜。」
「・・・しかし、総司も間が悪すぎる。よりによって土方さんが帰ってきた日なんて・・・。」
屯所では、藤堂平助、原田左之助、永倉新八の三人がひそひそ話しながら、朝ごはんを食べていた。
目の前にはむっつりとした土方歳三と、泣きはらした目をした近藤勇が座って黙々と朝ごはんを食べている。
(・・・気まずい・・・。)
いつもの陽気な朝はどうしたのか。皆が居心地の悪さを感じている中、突然歳三が目を閉じた。
「山崎君。」
「は、ここに。」
いつの間にか黒い影が歳三の横に控えていた。
山崎蒸。監察方でどういう訳か歳三の言うことは絶対服従なので、他の隊士から恐れられていた。こんな奴を使うのか―。
三人は目を見合わせた。
「山崎君。ご苦労だが、至急総司を探し出してくれ。見つけたら即刻連れて帰れ。手段は問わん。」
「了解しました。では。」
黒い影は風のように消えた。
再び重苦しい雰囲気が漂う。
「何もそこまでしなくても。我々も探しますし。なあに、すぐ見つかりますって。なあ。」
新八がわざと陽気に言った。
「そう、そう。」
残りの二人も大げさにうなずく。
「では、我々も出かけるとしようか。」
立ち上がりかけた三人を歳三が一喝した。
「そんな必要はない!総司には山崎で十分だ。」
「そんな言い方ってないじゃないですか。私たちだって沖田さんのこと心配なんですよ。それをそんな―。」
いつもは温和な平助が歳三に食ってかかった。
歳三は再び目を閉じた。
「―実はな。ここが狙われているという情報があってな・・・。」
声の主は近藤だった。
「他の連中が動揺してはいかんと思って黙っていたが―。
・・・しかもどうもそれに関して総司が一枚かんでいるらしい。」
「そんなバカな。」
「ありえないっすよ。」
「考えられません!」
三人が口々に言うのを制して近藤は続けた。
「わしもそう思ってたのだが・・・。最近の総司の行動、そして、昨日はとうとう帰ってこなかった。そして、これを見てくれ。」
近藤の手の上にのっていたもの・・・それは火薬。
「山南君が昨日屯所の庭で見つけたものだ。彼はこういうの得意だからな。まあ、総司の件はともかく、ここが狙われているのは間違いない。いつかは分からんが、今君たちにここを離れられては困るのだ。」
三人は目を見合わせた。
ここが狙われる―。想定外の事態である。いや、あえて考えないようにしていたのか―。
歳三は目を開けた。
「被害は最小限にしたい。他の連中にはしばらく市中見廻りの一環と称して数箇所の寺に移ってもらうことにした。ここには我々だけになる。心してくれ。」
目に覚悟が宿っていた。
部屋中に緊張が走った。