表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

第1話:出会い

 時は幕末、所は京の都。

壬生の界隈に新選組なる浪士組ができた頃―。

幕末とはいえ、まだまだのんびりした雰囲気が漂っていたそんな頃。


 島原は活気があって、華やかで艶やかであった。

そのはずれに沖田総司は座っていた。何をする訳ではない。ぼーっと人の流れを見ているだけである。


 どの人たちも楽しそうに笑いながら、それぞれの店に入っていく。


 実は彼はここに来るのは初めてではない。

でも何度来てもきらびやかな一種独特の雰囲気になじめなかった。

(そろそろ帰ろうかな・・・。)

最近では他の仲間についていって、皆がそれぞれに遊びだし、彼のことを気に留めなくなるのを見計らって帰っているのであった。


 総司はやおら立ち上がると袴についた土ぼこりをはたいた。

その時―。

「!」

不意に人の気配がして振り返った。手は無意識に刀の柄にかかっている。

「あの・・・ごめんなさい。驚かせちゃった?」

(女の子?)

見ると、色白の目のくりっとした少女が少し申し訳なさそうにこちらを見ていた。

「あ、いえ・・・」

少し緊張をとく。そして、ふと気づくとあわてて手を柄から離す。

「あなた、最近よくここに来てるよね?」

見られてたのか―。動揺は隠せない。

「何してるの?」

声にかげりはない。返事をしても問題はない・・・か?

「何って別に・・・。まあ、付き合いで来ているだけです。私、どうもここの雰囲気が苦手で・・・。ははは、馬鹿みたいですね。」

言ってしまってからすごく落ち込む。あぁ、本当に何やってんだか。がっくりうなだれる。

「・・・誰も見てないと思ってました。あなたはなぜここへ?」

「私は、お母さんがここで働いているから、手伝いに。

あの・・・そこの窓からここが見えてたから・・・。」

そしてその窓を指差した。「いと屋」。看板が目に入る。

「私ね、いつか声掛けようと思ってたんだ!」

少女の声はどことなく楽しそうだ。

「そ、それは私があまりにも情けなかったからですか?」

「私、ここにいるからよく分かるんだ。いい人だって。あなたみたいな素朴な人、見たことないもん。」

「私なんて全然面白くないですよ?」

「それは、私が決めることよ。」

少女は近づいて総司の顔をじっと見た。あまりの迫力に思わずたじろぐ。


 遠くから声が聞こえてきた。少女を探している声だ。少女は声の方を振り返り、また総司の方を見た。

「ねえ。また来るんでしょ?」

「それは・・・多分。」

「来たら、またここにいてよ。約束よ。私、すずっていうの。あなたは?」

「総司。・・・沖田総司。」

「総司くんね。あ、そうそう、これ渡そうと思ってたんだ。」

胸元からなにやらごそごそと小さいものを取り出す。そして、半ば強引に総司の腕を引っ張り手の中にそれをつかませた。

「店用のなんだけど、くすねてきちゃった。結構高いらしいよ、これ。」

いたずらっぽく笑ったその顔につられて、総司も笑ってしまった。

「じゃ、またね。総司くん。」

彼女は駆け出して行ってしまった。


 総司はそれをいつまでも見つめていた。心の中に何か暖かいものが灯った気がした。

にぎられた手をおそるおそる開けてみると、そこにはピンク色の花の形をした練り菓子があった。


 彼女の香りがした様な気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ