『子規(ホトトギス)』
幽鬼となった琵琶法師と謎の鳥ホトトギスが、地上で遺棄された彷徨える魂たちの成仏を願う物語。
吾は琵琶湖の湖畔に
住み成す髑髏
遠い戦乱の世から
野辺に打ち捨てられし
琵琶法師
琵琶は盗まれ
着物は剥がれ
生も奪われ
胴は琵琶湖の湖底なり
すすき野原に浮かぶ月
満月を空に迎えれば
姿を現す髑髏
ひとたび平曲を語れば
正倉院の奥ノ殿
螺鈿紫檀五絃琵琶
鳴り出す音色に共鳴す
子規よ聴け
琵琶の音色を聴いたなら
吾に伝えよ
空を飛べ
野辺に遺棄されし
無念の魂
数多の屍の
在り処を告げよ
時鳥
満月が地に帰るまで
朝陽が昇るその前に
啼いて知らせよ
魂迎え鳥
成仏せよや 成仏せい
黄泉の旅路の語り草
名もなき法師の平曲と
琵琶の響きに不如帰
無念の思い
其処に残すな
成仏せよや 成仏せい
せめて語りを聴いて往け
<了>
(注)この作品はタコアシのものです。
不正な転載や盗作、並びに違法行為に
なることは固く禁じさせて頂きます。