父と母の国5 あなたへ感謝
数年が立ち ハルラは王位を受け継ぐことになった
現国王のご令息であるハルラが継承者なのは当然のこと
しかしそれ以前にも国民の支持は多く 国民全員が次期国王に推していた
「いよいよ明日…… ですな……」
「あぁ…… 今までも そしてこれからも世話になるカリオス」
「…………」
「どうしたカリオス?」
王宮を歩く二人の内ハルラは浮かない顔をするカリオスを気にした
「ハルラ様…… 本当になさるつもりですか?」
「ん? 何をだ」
「奴隷制の廃止運動です………」
「…………」
「運動を始めようとした時点でどれだけの領界内の王国が滅んだか……
無視してきたわけではないですよね!? …………学ばないことは無いですよね?
「やるさ……… それが俺の思想だ」
「国民を巻き込んででもですか?」
「………最初だけだ その為に俺が今以上努力しないとな!」
ハルラはそう言って先に行ってしまった
ーー……………
王位を受け継ぐ儀式の前日
ハルラはあの魔蛍が集まる泉へと向かう その先には泉の前に座る女性が一人
「遅くなったな…… メルヴァ!」
「うぅん…… 仕事終わって今来たところ……」
メルヴァとはあの祭り以来 特別な関係となる
しかし一国の王子の身として現実は人一人を優先することは出来ない
だから決めた日の夜 この泉で会おうと約束した
「ごめんな…… いつもここで」
「別に大丈夫ですよ…… いつ見ても綺麗だから…」
「そうか………」
会話の内容はいつもと変わらない
他国がどうだの 自国がどうだの 職場がどうだの 葡萄がどうだの
でもそれが楽しかった
隣にメルヴァがいるだけで心地が良い そうハルラは実感する
「なぁメルヴァ……」
「ここの魔蛍ってなんでいろんな色持ってるんだろ…… 一般には五色しか知られていないのに」
「え…… あぁ何でだろうな… でだメルヴァ!」
「そうそう…… シャトーディオに合う料理を作るイベントがあってね! そこで私優勝したんだよ!」
「メルヴァ!!」
ハルラはメルヴァの両肩を抑え 強引に目を合わせる
「俺と一緒になってくれ!!」
「……………」
「お前は俺にとって特別だ…… だ…… 大好きだ!!」
「…………」
ハルラの真剣な思いはメルヴァにも伝わる しかし
その手を離して泉の方へと立ち上がり歩き出す
「駄目ですよハルラ様…… これから王になられるお方が何言ってるんですか?」
「皆には俺から説明する! だから……」
「もっと由緒正しい家柄の良い他国のご令嬢を選んでください それが国の為にもなるんですよ?」
「そんなの関係ない! この国はラウールが守る!!」
「私…… 奴隷だよ?」
「…………っ!! だからなんだ?」
ハルラはその言葉に怒りにも近い感情を覚える
「だから何なんだ…… 人間じゃないって言いたいのか!!? 身分が違うって言うのか!!?
俺達と住む世界が違うって今も本気でそう思ってるのか!!!」
息が荒く 苦しくなる だけど
「アハハハ!!」
「!!?」
「あなたの本気はわかりました でも…… 違い過ぎます
私たちがヒトから離れた存在なのは事実 だって私たちはウォー………」
メルヴァの言葉を最後まで聞く前に ハルラはその身体を抱きしめる
「醜い種族だったのか? 下劣な種族と言われたのか?」
「…………はい ヒトからも他種族からも…… 私たちは生物の頂点に君臨する方々から見下された存在」
「違う……」
「え………」
「違う違う違う…… 違う!!! だって……」
ーーこんなにも美しいじゃないか
「俺がお前を選んだこの気持ちを もう一度考えてほしい」
「………!?」
何かがわかったからなのか
強く抱きしめられるメルヴァの目からは一滴 そしてそれは集まり頬を流れる
「俺が愛したのはメルヴァ・ウォードじゃない…… メルヴァ…… お前だ」
「…………ハルラ様」
メルヴァは抱き返し 思いっきり泣く
その嬉しさはハルラ自身にも伝わり メルヴァを優しく包み込む
〝 常に前を向く危ない俺を 隣で支えてくれますか? 〟
〝 えぇ…… ずっとあなたを見ています 〟
魔蛍達が二人に近づく それは祝福か または好意か
それは考えなくてもいい ただ言えることは魔蛍は私達を認めてくれた
魔蛍達に囲まれながら泉を背景に 二人は互いに口づけを交わす
これからの人生の道程にあなたがいる そう思い描いて
これからが忙しくなる
すぐに王宮に戻り 二人は就寝する寸前の国王の前に向かう
「どうしたんだハルラ… こんな夜遅くに騒がしい」
頭を掻く国王は二人を見る
「メルヴァもいたのか…… して何用だ?」
二人は国王に事のなりゆきを話す
「…………… 付いてきなさい」
国王は自分の部屋に招き入れる
そして机の引き出しからボロボロの古い本を取り出した
「「 ?? 」」
国王はその本をめくり 朗読し出した
「ウォード族…… 今ではもう名前が残ってるだけ珍しいお主の先祖のことが書かれてある」
「!?」
「読む限りではけして印象の良い種族では無いと書かれておる」
国王の言葉に二人は焦りを抱く
「父上!」
「………………」
自分達の関係を引き裂かれるのか
そう思ったハルラは居ても経ってもいられない
しかし国王が取った行動は
「所詮は人間が作った歴史」
国王は暖炉に近づき その本を火が燃える暖炉の中に投げ捨てた
「「 ………… 」」
「辛い現実だけが待っておるだろう…… だからハルラ そしてメルヴァ
お主らがこれからの幸せを作っていくんだ その覚悟はあるか?」
「………はい!」
「もちろんです!」
ーー父親の承諾をもらった
そして次の日に王位継承の儀式が行われ そしてメルヴァと俺は結ばれた
婚礼の儀には国を上げて盛り上げてもらった
俺とメルヴァを国は認めてくれたのだろう
あとメルヴァのウエディングドレス姿は可愛かった
近くの王国の国王とその血縁者 そしてあのベルネットも招待に応じて来てくれた
「おめでとうハルラ!」
「ありがとうございます ベルネット様」
相変わらずのあどけなさ
心から祝福してくれているのは嫌でも伝わった
だけど
「ちなみに君の嫁さんさ~~」
「え?」
「いや何でも~~…… 綺麗な金髪だな~~と思っててさ」
「はぁ…… ありがとうございます」
ベルネットはニコニコと笑顔で席に戻った
何だったのかを知ることは出来なかったが
式も順調に進み 披露宴も無事盛大に幕を閉じた
この国の8代目国王となり そして隣にはメルヴァ
ハルラの王宮での生活ががらりと変わる
書き物が絶えないハルラは息抜きに王宮を出る
今となっては数少ない城下の見回りだ
町から町へと足を運び 国民と交流する もちろん隣には妃になったメルヴァがいる
「ハルラ様!!」
「おうアバルト!! いや…… 親方と呼ぶべきかな?」
「よして下さいよ! まだそんなもんじゃ」
鼻の下を指で掻き 照れるアバルト
だがその後ろにはそんなアバルトに付いてくる者達がいる
その中には最近入った奴隷達もいた
ーー世代ってやつか…… なんとも高揚するな
そんな場所にアルトラもやってくる
その後ろには国の子供たちや奴隷だった子供を引き連れて
「どう思うメルヴァ?」
「と言いますと?」
「この国は破滅へと進んでいるか?」
「いいえ…… この世界が先に終わるのではないでしょうか?」
「………シャレにならんな ………ハハハ!」
「フフフ!」
二人の笑う明るい空間に次々と人が集まる イベントでも無いのに賑やかなお祭り状態
ーーこの景色を見る為に俺は今まで努力してきた
だから
今は精一杯笑おうってそう思う
だって
この景色がすぐにでも無くなるなんて事はありえないとそう確信出来るから