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創設の放旅者 ‐‐ 復讐 ‐‐  作者: 滝翔
序章 悉無律の正義
4/21

父と母の国4 導粥の奏者祭


ハルラが次へと向かったのは農園だった

山を馬で走らせ 民達が作業している場所に着く


「おぉ…… 相変わらず港や商店街に負けない活気の良さだ」


ハルラが馬から下り 葡萄の木々を見て回る

王子が来たことを農家の一人が気付き 次々と集まりその場でお辞儀し始めた


「気を使うな! 作業に戻れ!!」


農家達は葡萄をもぐ作業に戻る そんな中


「ぬぎゃっ!!」


ハルラのすぐそばで 雨でぐちゃぐちゃの泥に顔から突っ込むメルヴァがいた


「…………」


「あぁついてない………」


置き上がるメルヴァの顔は泥一色に染まり それを見たハルラは思わず笑った


「……………!! ハルラ様……」


「懸命に働いておるな…… 感心感心…」


ハルラはメルヴァに近寄り その顔を自分の服の袖で拭く


「!! ……!!! っ!!!」


「じっとしてろ……」


顔から服まで泥を拭ってもらい メルヴァはただじっとその場に座る


「よし取れた!」


「…………あ ありがとうございます」


変わりにハルラの服が汚れる

しかしそんなことは気にしないハルラの人柄はその場の誰もが知っていた


「……………」


その姿を見たメルヴァは視線を逸らす


「どうしたんだメルヴァ……?」


「なんでもありません!!」


メルヴァは籠を持ってそのまま作業に戻る

ハルラは疑問を抱きつつも 葡萄の育ち具合を見に行く


農家の人達の仕事も一段落し休憩に入った


「今年も豊作だな……」


「はい この国は本当に恵まれてます」


「この分ならハルラ様の代には隣国の一つに仲間入りする日もそう遠くないだろうさ……」


「ハハハ…… そんな簡単にはいかんよ」


酒の入っていない普通の葡萄のジュースを飲み合う中 ハルラはメルヴァの方を見る

そこには休憩にも参加せず 一人葡萄をもぐ彼女の姿があった


「メルヴァは休憩しないのか?」


「休んだらって常に言ってるんですけどね~~ この国に助けて貰った恩を返したいんだとさ!」


「っ………!」


「まぁこの領界内であの扱いを受けた人等が奇跡に出会えたんだ…… 無理も無いよ」


「…………」


ハルラはメルヴァに近づこうとした その瞬間空に大きな音が鳴る


「そう言えばハルラ様! 明日は精一杯盛り上げていきますので!!」


「この国の祭りと言えば 明日ですもんね!!」


「そうだな…… 明日の〝導粥の奏者祭リタリーフェスト〟はよろしく頼むぞ!」







その晩 王宮内でも明日の祭典に向けてバタついていた

使用人や城下の民達が必死に装飾を作っている中でハルラも手伝おうとする


「ハルラ様 明日は国民の前で詠われる〝旧約伝承の詩トゥルータ〟はお覚えになられたのですか?」


王国に代々伝わる古典の一節を覚えていないハルラはその場を追い出され渋々部屋に戻ろうとした

そこへハルラの父である国王と会う


「明日は大丈夫か?」


「えぇ…… まぁ……」


目を逸らす実の息子に国王はニヤつく


「伝承に書かれたことをそのまま言えばいい 

同じことを何度も繰り返し 人は覚え そして受け継がれていく」


「………はい」


国王はハルラの肩を叩き その場を後にする


「同じ言葉を繰り返せ…… か」


ーーそれでいいのだろうか



寝室のベッドに横になりながらも 考え事は次第に強くなるが

いつの間にかハルラは眠っていた


夜が明け 人々が今日の祭りの準備に取り掛かると同時に昨日と同じ花火が打ち上がる


「さて…… 夜までもうひと踏ん張りだ!」


国民達が団結し合い行事の準備を急ぐ

その後ろをアバルトらも必死についていく


「まさか祭りに参加出来る日が来るとはな…」


「あぁ夢みてぇだ」


間接的にではなく直接関われる今に奴隷達は胸が高鳴る


「これが楽しいか…… 良いもんだ」


屋台を建てるアルトラもそう呟く





日が暮れて いつも以上に国に明りが灯る

人一人が祭りの時に使う特性のランプを持ち 城下の中央の広場に集まる


王宮で待機するハルラも 祭典用の装飾を加えた衣装を着て待機していた が

緊張のあまり衣装に似合わず身体が縮こまっていた


「そろそろですよ ハルラ様」


カリオスが迎えに来る


「も……… もう少し待ってくれ!」


「はぁ…… 妙なときに緊張されますね 相変わらず…… 」


カリオスは使用人にミルクを持って来させる

ハルラは微妙に震える手でミルクを一気に飲み干し 椅子から立ち上がる


「よし 行こう」




王宮前の門が開き

集まる国民が注目する中 ハルラが広場の壇に上がる


「今宵はお集まりいただき感謝する」


ハルラは辺りを見渡し 手前に置かれた詩書を手に持ち開いた



「第八節:汝は我を網羅し 我は汝を淘汰する 相対する異生をまじり物の価値とするならば

     その真皮が服す清水を 何と捉えるか 

     追い求めることが許された生の奇跡 迫り来る死の概念

     それでも我は汝を知ろう 相互の界の線に和解が生まれるのなら」



読み終えた後元の場所に詩書を戻す

そして再び大衆の方を向き


「今年もまたこの詩の第八節を読むことが出来た

時期国王として私は…… 後数年先何度でも読もう この国が栄える限り

その為には私だけでは無理だ 皆がいて国が成り立っている 

これからもこのフランバッカスに光をもたらしてくれ!!」


待ち望んでいたかとばかりに 国民が一斉に拍手を送る

その拍手一つ一つが国民一人のハルラへの信頼を表し

数ある中での 国が一つになる瞬間だった




その後は賑やかな 言葉通りのお祭りが開催される

人は飲み 人は食い 人は踊る

それは奴隷達にも当たり前に与えられ 自由に楽しむことができた


「おぉいいぞアバルト! 踊れ踊れ!!」


広場はフリーになり 中央で人々が踊る

アバルト含めた奴隷達も住民とペアを組み 踊り方を覚えていた


「ハルラ様もどうです?」


「あまり好きになれないんだがな…… 他国のパーティーで仕方なくダンスを……」


ハルラはチラッと奥のテーブルを見た

そこには農家の人達と共に料理を食すメルヴァがいた


「…………」


ーー妙なところに緊張が走るな…… 俺……


ハルラは深呼吸し 席を立つ

化粧しおめかしする美しい女性陣を素通りし


「踊りより食欲でしたか」


「ムゴッ!!!?」


頬一杯に食べ物を口に運ぶメルヴァの前にハルラがやってきた


「ハ…… ハルラ様……」


「…………フッ」


ーーどこにでもいる女の子 それが俺にとっての………


ハルラはメルヴァに手を差し伸べる


「俺と一緒に…… 踊ってくれないか?」


「…………………… !!?」


メルヴァは急に席を立ちそのまま後ろに下がる


「な…… な 何を……! 言ってるんですか?」


「言った通りだ」


ハルラの真剣な眼差しに メルヴァはその視線を逸らす


「わ…… 私は……」


「…………」


ハルラは慌て戸惑うメルヴァの手を取り

強引に広場の中心へ連れ出した


「さ…… 片足を後ろに!」


「待って下さい! 私はまだ!!」


ハルラはメルヴァの上半身を後ろに倒し また起き上がらせる

踊りを身体で覚えさせるかのようにハルラがリードして メルヴァを優しく引っ張る


「わっ……!」


「上手い上手い」


周りのペアの存在など無くなるかのような二人の時間

ハルラがメルヴァを見つめ メルヴァがハルラを見つめる


流れる曲が終わって初めて周りを認識出来た


「あ…… ありがとうございました……」


「………楽しかったよ」


ハルラはそう言うとメルヴァに背を向けた

そして片手でさりげなく顔を隠す


「どうかなさったのですか?」


「い…… いや……」


手で隠された顔の隙間をメルヴァは見た

暗くて見え辛い事は無いハルラの真っ赤に染まる頬が




「ア…… アバルト!!! ダンスの仕方教えてやる!!!」


「ハ……! ハルラ様!!!?」


あたふたしながら去って行くハルラ

その顔を見たメルヴァもまた その場で赤面の状態のまま棒立ちしていた







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