表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

男女共同参画社会撲滅宣言

作者: hiroliteral

 気の強そうなパンツルックのスーツで身を固めた女たちが、街頭で「男女共同参画社会の実現を」というビラを配っていた。どこの市民団体か役所か知らないが気にくわない。俺は乱暴に手を振って受け取り拒否して道を急ぐ。

 何が男女共同参画だ。俺の部署は一人産休が出たおかげで、そのまま仕事が割り振られた。派遣職員とはいわない、学生アルバイトでもいいから少しは人を増やしてくれないと堪らない。昨日は後輩女が子供の熱だとか言って休みやがった。男女共同参画とか言いつつ休むのはいつも女で、旦那は普通に出勤しているらしい。

 おかげで昨日も日付が変わるまで帰れなかった。男は仕事、女は家庭。働く女性なんてこの世から全部いなくなってしまえば良いんだ。

 内心毒吐きながら歩いていたら、危ない! という声が頭上から聞こえ、植木鉢が俺の脳天を割った。


 目が覚めると俺は保健室のようなところで寝ていた。起き上がると、背中に白鳥の翼を生やした美しい女が薄ら笑いを浮かべて立っていた。

「運命の手違いで怪我をさせてしまったものだから、お詫びにプチ転生させてもらったよ。転生と言っても、働く女性がいない以外は元の世界と変わらない平行世界だけど」

 へえ、と俺は薄ら笑いを浮かべる。頭を打って少し俺もおかしくなったのだろうか。まあこんなところで油を売っている暇はない。

 偽天使みたいな奴は薄ら笑いのまま言葉を続けた。

「一応、クーリングオフを一週間つけておくよ。『お願いですから元の世界に返して下さい天使様』と言えば良いよ」

 はいはい、と俺は生返事をしてドアを開ける。外は何の変哲もなく拍子抜けした。夢でも見ていたのか。俺はとりあえず急いで帰社した。

 玄関をくぐると、いつも暇そうな女が座っている場所に若い男が座っていた。新人でも雇って人事が入れ替えたのだろうか。怪訝に思いながら営業課のドアを開け、俺は驚いた。

 いつも派遣社員の女たちとお局様が座っている電算システムの前に、男たちが座っている。俺の後輩女の席にも見知らぬ男が座っていた。

「係長、お疲れ様です」

 若い男が声をかけてくる。こりゃいい、働く女のいない世界、最高。

「係長、今日は西君の誕生日なのでみんなで飲み会やりたいんですけど、今日は大丈夫っすかね」

 酒好きの俺は当然、と答える。西は主賓でその分をと千円多く会費を取られたが気分が良い。

 俺たちは時間いっぱい働き、やっと居酒屋に向かった。プレゼントに花束を部下と買いに行ったが、そこも店員は男でもたつくことも余計なことも話さないので気分が良い。

 居酒屋に着くと、西君に花束贈呈。続けて店員の男が注文を取りに来る。好きなものを注文するよう部下たちに任せ、好きな日本酒を堪能する。こりゃクーリングオフなんてあり得ないな。

 男だけの飲み会なので、所々猥談も入ってくる。そのうち時間も進んだとき、後輩女の代わりにいる東野君が雑誌を手に寄ってきた。

「二次会は普通にバーで、三次会は久しぶりに行っちゃいますか」

 小指を立ててかわいい子がいっぱい、と書かれたページを広げる。そこには男性アイドル系の男やチャラ男風味、ひげ男の写真が並んでいた。さらに後ろにはエッチなページもあるようだが、そこも「可愛い男の子から熟男まで」と書かれており、東野はそのページをチラ見しては鼻息を荒くしている。

 待ってくれ。働く女がいないのか。俺は慌ててスマホで芸能ニュースを見た。アイドルグループは全部男。女優はおらず男女優なる女装女が男優との浮き名を流している。冗談じゃない。

 俺は一次会で飲みすぎた、と言って飲み会を離れ、自宅に駆け戻った。こわごわ家に入ると、普段通り妻が出迎えて安堵する。テレビをつけるとバラエティのひな壇は全部男だった。

「ちょっと新しいブラジャーが欲しいの。誕生日に欲しいな」

 言って妻は俺の隣に座るとタブレットを操作する。モデルさんも素敵なの、という妻の言葉に脳が警鐘を鳴らす。見ちゃいけない。だが妻は押しつけるように俺の目の前にタブレットを突きつける。

 そこにはブラジャーを付けた髭面のおっさんたちが、胸を強調しながら俺に迫っていた。俺は必死で叫んだ。

「お願いですから元の世界に返して下さい天使様!」

 途端、目の前が真っ白になった。


 目が覚めると俺は病院に寝ており、鉢植えを落とした女性店員が謝りにきたが、俺は優しく医療費だけで良いですよと言って感謝された。優しい看護婦さんのいるこの空間が天国に思えた。見舞いに来た妻が、変に女性に優しくなったと心配顔で言った。

 もう異世界への旅路はこりごりだ、と俺は呟いた。

優しく倫理的な世界を書いていたら、反動が起きたかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ