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狼族へとお手紙を出して三日が経った。
その間社の中を案内して貰ったり別の種族達の今を聞いていたりしたらあっと言う間に日は落ちる。
そして四日目に差し掛かる夜中の十二時頃。
広間でコズエに入れて貰ったお茶を飲みながら書類を引っ掴み、欠伸を噛み殺す。
するとそれに気付いたコズエが私から書類を取り上げて、そのまま部屋に運ばれる。
「自分で歩けるから良いってばー…」
「そう言って前は別の部屋に入って、朝迎えに行ったら居なかっただろう」
「…確かにそうだけども」
そこを言われたら確かにそうだ。
でも部屋までが長いからそれは仕方が無い。
「こらまだ寝るんじゃない、ベッドまであと少しだ」
「うへえ…爬虫類族の族長は触角が生えている…」
「さっきの書類…もしかして暗記したのか?」
驚くコズエの顔を見て、私は思わず頬が緩んだ。
そして油断すると眠気がやって来る。
ベッドに横たえられて、少しだけ目が覚めた。
去って行こうとするコズエを引き留めて、私は最後の力を振り絞って呟いた。
「龍族って…尻尾あるって本当…?」
「は?」
驚く声だけが聞こえて来て、そのまま意識はフェードアウトした。
翌朝目を覚まして、廊下から声が声が掛かって起き上がる。
この声はコズエだ…寝間着のまま扉を開けると、見た事無い蒼黒い何かが引き摺られていた。
「起きたか」
「起きた…けど、それは?」
「オレの尻尾だ」
ぶんと振ると、格子の扉が音を立てて壊れて行った。
それにびっくりして目は覚めたけど…物凄く済まなさそうな顔をしたコズエに思わず吹き出す。
「す、すまん…」
「良いって…それより今までどこに隠してたの?」
「…いや、人化する時は邪魔だからいつもは消してて…」
「せっかく格好良いのに…鱗だよねこれ、つやつやしてるー」
ぺちぺち叩きながら言うと、コズエは俯いて何かぶつぶつ言ってる。
昨日寝る前に言った事をまさか朝一で実践してくれるなんて思ってなかったから余計に、嬉しくて仕方無い。
「昨日言った事だね、ありがとうコズエ」
「…別になんて事ない」
やけにほんわかしていると、後ろから「アオイー!コズエさん!!」と笑顔全開でフィオレーメが走って来ていた。
「あれ、コズエさん今日は尻尾出してるんだ?」
「なんとなくだ、深い意味は無い」
ふいとそっぽ向けて言うコズエに笑いながら、フィオレーメの方へと問い掛ける。
「どうかしたの?」
「あ、アオイおはよう!さっき狼族の族長から手紙が届いたから二人に知らせようと思って。
はい、姫神様宛だよー」
受け取った便箋に視線を落とし、入り口じゃなんなので二人を部屋へと迎えて封を切ってみる。
「………コズエ、なんて書いたの?」
むろん、狼族へと宛てた手紙の事だ。
「新しく神となり今後は色々と迷惑を掛けるだろうがよろしく頼むと」
「返事はなんて?」
「我々狼族は全ての民が姫神様を待っておりました、今後は我等狼族一挙手一投足において姫神様のお役に立てるよう精進致します。
うんぬんかんぬん」
その下は長かったのでコズエとフィオレーメへと手紙を渡した。
読んでくれれば分かるだろうが、これが陶酔、傾倒と言うのだなと心の底から納得した。
しかも就いたばっかりの神に全てを委ねるって、ギャンブルにもほどがある。
「………私、まだ神らしい事何もしてないんだけど」
「あー…うん、取り敢えず最後には待ってますって書いてあるんだから、先に狼族の領地に行ってみようよ。
山間の村なんだけど、畑とかすっごいよ!
狼族の野菜は美味しいから」
フィオレーメはどうしてこう言う村関係の事は詳しいんだろうと首を傾げつつ、それなら行ってみるかと頷いた。
特に必要な物も無いらしくそのままコズエの作った朝ご飯を広間で食べて、少し休憩してからいつものヘリポートへとやって来た。
「下がっていろ」
そう言われフィオレーメと共にトンネルまで下がって、コズエの変身の瞬間を見た。
白い煙と共にぼふっと音がして、煙を突っ切っていつも見る角が出て来た。
そして頭、首、胴体、と来て…白い煙は四散した。
フィオレーメの狐姿に戻る時とやっぱり同じだった。
「コズエすっごく大きい!!」
蒼黒い大きな胴体と銀色に光る角、大きな大きな翼に感動して私はその場で飛び跳ねた。
「早く乗れ」
響いた声に返事をすると、私を抱えたフィオレーメが軽く跳躍してコズエの背中へと乗る。
そして前に座ると私を後ろに座らせて、両手を腰に巻き付けた。
「じっとしててね、アオイ」
「オッケー、頼んだよコズエ!!」
「任せろ」
そう答える声と同時に、コズエは両の翼をはためかせる。
ゾウン…と言う空気を切る音と共に飛び立ったコズエに私のテンションは一気に上がって行く。
下を見るともう雲がうっすらと掛かっているので、相当な高さに居ると言う事だろう。
「アオイー!狼族に会う心の準備は出来てるー?」
「もうバッチリー!!何を言われても答えられるよ!!」
今日までにたくさんの書類を呼んで勉強した来たのだから、これで自信を持って答えられないとか嘘だ。
あと半日で狼族のところまで行く。
私はそっと心の中で「頑張れ」と自分に呟いて、フィオレーメにぎゅっと抱き着いた。