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皆さん初めまして、こんにちは?こんばんは?それともおはようございます?

私はただのフリーターです。

皆さんは異世界、異次元、信じますか?

例えば宇宙人、例えばUMA、例えば幽霊、例えば妖怪…色々たくさん存在するとされていますよね?

その生物…と言って良いのかは分からないけど、実現するだのしないだの…偉い人達は調べているみたいだけど。

私からすれば正直どれも人間が想像する生物は存在すると思っている。

なので今読んでいる本に書いているような怖い魔物だったりが存在する世界に行ってみたい!

なんならドラゴンとかに乗って空を飛んでみたい、火の玉を出して岩とかにぶつけたい!!

…最後はやりすぎかもしれないけど、出来る事ならしてみたい…そう思っている人が一体どれだけいるんだろうか。


「…あー!もう、魔法とか使ってみたい!魔物とか手懐けて背中乗ったり悪い人達を思いっきり火の玉とかで撃退とかしたい!!

したいしたいしたしたいー!!!」


ベッドの上でごろんごろんと転がると、両隣からドンドンと壁を叩かれる。

お隣さんは「うるさい!」「何時だと思ってる!」と言って怒鳴ってるから「どうもすみませええん」といつものように適当に謝っておく。

読んでいた小説を本棚に戻して、私はため息を付いた。

その小説の表紙にはイケメンに挟まれて恥ずかしそうに俯く主人公のイラストがあって、首を傾げた。


「そりゃあ…イケメンは良いかもしれないけど…もっとファンタジー要素欲しいんだよねえ。

例えば龍とか…キツネとかー!良いなあもう、最高だよおおお!!」


再びごろんごろんと転がりながら奇声を上げるとドンドンと床と天井が叩かれる。

あ、やばい大家さんだ。


「大声で叫ぶんじゃないよ!!!」


「ごめんなさいもう寝ますー!!!」


ベランダから聞こえて来た大家さんの声に慌てて電気を消してベッドへ入る。

今日もたくさん色々な楽しい事があった。

いやあ、良い一日だったな…そう思いながら夢に沈んでいく。

真っ黒な視界の中、私は一筋の光を見付けてそちらへと意識を向ける。

かすかな声に導かれつつ、私は光の方へと向かった。


気付けば私はどこかの石垣の上に座っていて、首を巡らせる。

すると向こうの方から手を振って来る人が居た。

むむっと唸りながら眺めていると、耳の生えた人型の何かが私の前で止まった。



「はあ、あー、君かな?」


「へ?」


肩で息をしている人間の身体に何かの動物の耳を生やした男の人が、私の方へと視線を向けながら問い掛ける。

後ろを見ると髪と耳と同じ明るい金色の尻尾が見えた。

それに言われた意味の分からないままに間抜けな声を漏らすと「君でしょ?」と逆に首を傾げられた。


「なにが?」


「次のボク達の神様!」


「はあ!?」


突如出て来た「神様」と言う言葉に「いやいや」と片手を振る。


「いくら夢でもそれはさすがに恐れ多いって!

私は精々一つの国でも貰えれば表向きは平和に、中身はしっちゃかめっちゃかって具合にそれなりな国を作りたいと…」


「んー、まあ良いや!取り敢えず来て!」


「っちょ!?」


手を引かれて物凄い勢いで駆ける。

身長差がある分、向こうの方が足が長いわけで、私は転けそうになりながら耳と尻尾持ちの男の人に声を掛ける、と言うか怒鳴る。


「コンパスの長さ考えろー!転ける!転けるから!!」


「んじゃじっとしててねー」


「おお!?」


片腕を引かれふわりと体が浮く。

次の瞬間には男の人に抱き抱えられていた。

まあ、自分で歩いたり走ったりよりは良いけど…。


「酔いそう」


おえ、と呟くと「ええ!?」と大袈裟に慌てる。


「やっぱり人間の体で走ったりって言うのは不便だなー…仕方無い、戻るよ!」


「もど…る!?わあ!!」


声と共に白い煙が現れて、私はびっくりして咄嗟に男の人にしがみつく。


「………ふわ、ふわ?」


「しっかり捕まっててね」


白い煙は風に吹かれて四散して行く。

そこに現れたのは、さっきの男の人と同じ色を持つ狐さん。

ふわふわの毛に覆われた、金色の尻尾が揺れている。


「ひー、ふー、み…おおっ、九つある。

九尾の狐さん?」


「さすが神様!そう、ボクはフィオレーメって言うんだけど、動物族の族長だよ。

今は色々と混乱してるだろうから、ひとまず(やしろ)に向かうね。

ここから少し離れてるから…あっ、でもボクの背中に乗ってたら一瞬だよ!」


思った以上に人懐っこいフィオレーメとやらの声を聞いて、なんて良い夢だと心の中で呟いた。

どうやら社に連れて行ってくれるらしいので、ありがたく受ける。


「じゃあ、行くよ」


言葉のすぐ後、軽く跳躍すると空中を蹴り、進む。

景色と言う景色が後ろにどんどんと流れるのを見ながら、私は想像していた以上に早いし上下の振動半端ないと改めて認識する。


「うわあ、やっぱり背中すごい!」


それでも楽しいが先に出て来て、私はフィオレーメの背中から下に広がる村やら山やらに視線を巡らせながら声を漏らした。


10分も走ったかどうか、フィオレーメは「到着!」と言ってどこかに着地した。

最後はまさにジェットコースターだった。

何十、何百メートルからの超直下!

ちょっと心臓に悪かった。


「姫神様、ここが今日から貴女の社だよ」


「私の?そう言えば姫神様って?」


「姫神様は姫神様だよ、ボクらを従えて導く存在の事」


ぽんぽんと私の頭を撫でると、そのまま抱き上げて片腕で持ち上げる。

さっきまでの姿とは違い、初めて会った時と同じ姿の人型だ。


「多分向こうももう着いてる頃だと思うから、説明は先に広間へ行ってからにしよう」


フィオレーメはそう言うとにこりと微笑んだ。


ひんやりした空気だと感じるのは岩で囲まれた洞窟だからだろうか。

さっき落ちて来た場所は断崖絶壁に突き出たヘリポートのような場所だった。

そこから入ると岩肌そのままの通路になっている。

フィオレーメに抱き抱えられながら進むと、途中から明るくなって来た。


「おお…」


広い場所に出て、私は声と共に上を見上げる。

高い高い吹き抜けの場所は上からさんさんと太陽が照っていて、こりゃもうお昼寝に最適だ。

なんたって明るくて、広くて大きなこの場所全部に光が行き渡ってるんだから。


「姫神様、ここが広間。

これから貴女が住まう社の…執務室のようなものだよ」


「執務室か…」


仕事のする場所なんだと思うと溜め息が漏れる。



「あ!コズエさーん!!」


「えっ、誰?」


ぶんぶんと手を振るフィオレーメの視線の先には、黒い髪の男の人が居て…その人の頭からは羊のような尖った角が上向きに生えていた。

…山羊…羊?何の角だろう。


「来たのか…」


「コズエさん早いねえ、ボクはさっき彼女を迎えに行ってたから…あれ、もしかして遅れちゃった?」


「いいや、時間通りだ。

初めまして新しい神よ、オレはコズエ、龍族の族長だ」


言葉少なにそう言うと、コズエさんとやらは穏やかに微笑んで私の頭を撫でた。


「蒼い目…綺麗だねえ。フィオレーメさんの時も思ったんだけど、二人共綺麗」


素直な感想を述べると、フィオレーメは照れて、コズエはこほんと咳払いした。


「説明が必要だろう、まずはこちらへ」


「説明?ああ、うん…そっか」


説明も何も…夢にしては丁寧な事をするなと、私は敢えて何も突っ込まなかった。

フィオレーメに抱き抱えられながら広間を抜けて、廊下へとやって来た。


「すっごい和風」


「ねー、先先代の神様が作ったらしいよ。

歴代神様を並べてみると結構日本人が多いんだよね、だからここの事も社って言うみたいだし。

日本が多いだけでその他の種族がやった事が無いわけじゃないんだけど、みんな和風な建物とか結構好きだよ」


「外国人が日本の物を好むって言うのと似てるのかもね」


「かも知れないね」


にこっと笑ったフィオレーメの頭を撫でると「くすぐったいよー」と言って目を細めた。


「こちらへ」


「……わあ!和室じゃん!!」


大きな声を上げて和室へと足を踏み入れると「こう言う方が落ち着くだろう?」と言ってコズエは畳の中から何かを取り出す。

それ知ってる…家庭科の授業で習った事あるぞ。


「それ、お抹茶を点てるやつだよね…」


「ああ、覚えた」


「コズエさんってばすごー…」


ただただ感動して近くに座ると、その隣ではフィオレーメが「はい、これお菓子」と言って楊枝と共に和菓子を出して来た。

しかもよく見れば栗まんじゅうで、よく見なくても栗まんじゅうで、私の大好きな秋の味覚だった。


「……あ、でも待って、私平々凡々な生まれだから礼儀とか食べ方とか分からない」


「別に気にしなくって良いよー、これ出来るのコズエさんだけだしぃー?

好きなように食べて」


「…んじゃっ、いっただっきまーす!」


片手で持って、ぱくりとまずは一口。

もぐもぐと咀嚼しながら中に入ってる栗を見付けて噛み締める。


「おっいしー、これ、本当に美味しい栗まんじゅう」


「それは良かった」


「はい!コズエさんの点てたお抹茶だよー、すっごく美味しいよー!」


「お前が言うな」


「だって美味しいの知ってるんだも…わあ、なになに?コズエさんまさかボクの分まで点ててくれたの?

さっすがコズエさん最高気が利くイイオトコー!」


「うるさい静かにしろ!!」


コズエが拳骨をフィオレーメに叩きつけて、大人しくなった隙に本題の方へと向かうようだ。


「あー…今回は、様々な理由や選考基準に沿って貴女を新しいこの世界の神として迎えた。

今日ただいまより、貴女はこの世界の平和を守り全ての種族を従える立場となった」


「……夢にしては、あれだねえ。結構すごい事するんだねえ」


ごくりと苦いお抹茶を飲み干して、私は首を傾げた。

今考えると色々腑に落ちない事が多い。

夢の中で何時間も過ごしてる訳じゃないけど…それにしちゃあリアルだ。

目の前のコズエさんやフィオレーメの顔、耳、尻尾、服、表情。

この社の岩肌も広間も、天井も太陽の温かさも…だとすれば、そんな事あり得ないけど、質問しなくては気が済まなかった。


「これ、本気で言ってるの?」


「もちろん」


即答の二人…と言っても良いのだろうか。

二人共が揃って即答したので、私は心の中で否定し続けた言葉を大にして叫んだ。


「やったあああああ!!ついに来たあああああ!!」


その拍子にぴょんと跳ねると、慌てたコズエさんに抱き留められる。


「なんだ、どうした!?」


「へへへっ、まさか夢にも思わないじゃんそんな事になるなんて!

本当?私何すれば良い?あのねー、あっそうだ、私って魔法使えたりするの?

何を退治してくれば良いの?それとも何か…そっか、別の種族同士の仲を取り持ったり、平和的解決の糸口になるような事してこの世界を平和にして行けば良いんだね!?

オッケー任せて行って来るからー!!」


「落ち着け待てどこに行くつもりだ!?」


「…どこに行けばいいの?」


逆に聞き返すと、コズエとフィオレーメは双方ため息と共に肩を落とした。


「まず…この事に関して異論などは無いのか?

人間として元居た場所にはもう帰られないんだぞ」


真剣な表情のコズエさんに、私はにこりと微笑んで返す。


「それくらいこう言う事を待ち望んでたんだ。

あんな事したい、こんな事したい、それをするには何か代償が必要だってんなら…私は喜んで自分の人生を差し出すよ。

私が選ばれたんだったら、何に変えてもこの世界を護るよ。

それで…本当のところ私は何をしたら良いの?」


なんとなく正座する気分になって、私は目の前で苦笑する二人へと問い掛けた。


「ええと…それは、さっき姫神様が言った事なんだけど」


「他の種族同士の争いを諫め、平和的解決へと持って行く事…それがまず第一だ」


「難しそうだねえ…うん、分かった。

それで二人は、神様なの?」


あっさりと了承した私にまたも不思議そうな顔をした二人に問うと、フィオレーメが微笑んで答えた。


「ボク達は姫神様に使える姫神補佐だよ」


「手伝ってくれるの?」


「うん、姫神様はまだ任に着いたばっかりでしょう?」


「だから俺達が仕事を教える」


「安心して、僕達に頼ってね」


ぎゅうぎゅうと抱き着いて来るフィオレーメに「了解」と言って抱き着き返す。


「フィオレーメ!」


「まあまあ、コズエさんもぎゅうぎゅうしたいならおいでよ?」


「…結構です」


僅かに頬を染めたコズエさんに、私は首を傾げた。


ひょんな事からひょんな人?いや、人の姿を取った獣達の世界を護る事になったけれど、私はちっとも後悔なんてしていない。

目の前に座っている二人にはたくさん教えてもらう事があるだろう。

しかし教えてもらう事はあっても、もっともっと、私が頑張らなきゃいけない。

抱き着いて来るフィオレーメをスルーして、私は色々考えながらコズエさんに点てて貰ったお茶を飲んだ。

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