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モンストル  作者: 髪槍夜昼
虚言と渇望の吸血鬼
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第五夜


「………」


『人間』の住む町。


その中でも比較的高価と思われる高級ホテルの最上階で、ヴェガは目を覚ました。


人間情勢に詳しくないヴェガから見ても、一級品と分かる品々が無造作に置かれている部屋。


絵画や壺、おまけに用途のよく分からない石まで。


こんな物を集めるなど、人間の趣味は理解不能だ。


いや、この部屋の主は人間被れの吸血鬼だったか。


厚いカーテン開けて窓の外を見ると、既に空には月が浮かんでいた。


人間の作った電光のせいで星は見えないことが不満だが、月は変わらず淡く光っている。


「おはよう。よく眠れたかな?」


ぼんやりと空を眺めるヴェガの背後からルーセットが声をかけた。


先程までヴェガが眠っていたベッドを一瞥し、笑みを浮かべる。


「高級ベッドの寝心地はどうだった? それとも、棺桶じゃないと安眠出来ないって口かな?」


「流石にそこまで古臭い考えは持っていません。寝心地も悪くはありませんでした」


ヴェガが素直に感想を述べるとルーセットは少し驚いたような顔をした。


「おや、意外と素直だね。下等の寝床で寝れる訳ないでしょう! とか言われると思ったのに」


「…言われたいんですか?」


苛つきながらヴェガはルーセットを睨む。


殺気さえ込めた視線を気にも留めず、ルーセットは近くにあった赤い瓶を手に取った。


慣れた手つきでグラスを二つ用意して中身を注ぐ。


色が赤い、葡萄酒だろうか?


「眠気覚ましにどうだ? 結構上等な物だぞ」


赤い液体が並々と注がれたグラスを手渡しながら、ルーセットは言う。


アルコールに慣れていないヴェガは顔を顰めた。


「…結構です」


「あー、やっぱり生まれて二十年も経ってないような生娘には早かったかなぁ?」


「飲みますよ!」


見え透いた挑発にあっさりと乗り、ヴェガはルーセットからグラスを奪い取った。


見せつけるように一気にグラスを煽る。


何故かニヤケ顔のルーセットを尻目に、赤い液体は全てヴェガの口に収まる。


「んぐ!」


直後、そのまま全部口から噴き出した。


「げっほ! げほっ! あなた、コレ…げほっ!」


「吸血鬼の乾杯って言ったら当然コレでしょ」


大きく咳き込んで声を発せないヴェガを笑いながら、ルーセットは瓶を撫でた。


瓶のラベルにはルーセットの字で『Sang(血)』と書いてあった。


「ああ、先に言っておくとコレは俺が誘惑した女性方に合法的に提供してもらった物だから、気兼ねなく飲んでもらって構わないぞ」


部屋の隅に置いてあった注射器を見ながら、ルーセットは呑気に言う。


しかし、ヴェガが気にしているのはそこではない。


咳で涙目になりながら、ヴェガはルーセットを睨んだ。


「何だ何だ、その年になって吸血は初体験ですか? そんなだから貧血になっちゃうんだよ」


「血を奪ったあなたでしょう! と言うか違いますよ! コレって女性の血でしょうが!」


「女性の血だけど?」


「普通の吸血鬼は同性の血は吸わないんですよ! そんなことも知らないのですか!」


「えー俺、男も女も子供も老人も誰でも吸うけどなぁ」


頬を掻きながら言うルーセットにヴェガは思わず眩暈がした。


貧血のせいではない、目の前の男が改めて変人であることが分かったからだ。


「異性の血しか吸わないって、それは初めて聞いたな。俺って能力のせいで男だったり、女だったりするからそのせいか?」


もう一つのグラスを傾けながら、ルーセットは不思議そうに言った。


その本人にしか分からない言葉は無視して、ヴェガは備え付けのミネラルウオーターで口直しをした。


「…血の入った瓶もそうですが、この部屋は変な物ばかりありますね」


「この部屋を年間契約で貸し切ってるから、大丈夫さ。人間は誰も入らない」


「そうではなく、こんな物置のような所でよく生活できますね」


近くにあった変な形の石を触りながら、ヴェガが言う。


「それは骨董店から買い取った賢者の石だよ」


「………」


無言で石を置き、液体の入った小瓶を取るヴェガ。


「それは海外から取り寄せたエリクシル」


「………」


小瓶を置き、密閉された何かの肉を取る。


「それは古い知人から貰った人魚の肉」


そこまで聞いて、ヴェガは深いため息をついた。


金持ちと言うのは、どうして無駄な所に金を使うのが好きなのか。


「こんな胡散臭い品々を集めてどうするのですか」


「確かに胡散臭いが、どれも不老不死を意味する品々だ。万に一つ成功すれば、それだけで報われる」


目を少年のように輝かせながら、ルーセットは集めた品々を眺める。


ヴェガを馬鹿にするようなニヤケ顔ではなく、本心から夢を語る笑みを浮かべた。


「俺は、死にたくないんだよ。人間なら誰もが諦める高み、だが吸血鬼となった俺達は老化は克服することに成功した。あと少しで手が届きそうなんだよ」


手の届く可能性がない物に人は手を伸ばさない。


その手掛かりと根拠を得て、手の届く可能性を得たからこそ吸血鬼は不死を目指す。


「最強になりたい訳じゃない。強さなんてどうでもいい。むしろ、争いを招く強さは要らない」


敵を殺したい訳じゃない。


敵を作りたくないだけ。


「どんな化物にも、どんな悲劇でも死なない。永遠の平穏。何の不安も恐怖もない、人生」


それを成し遂げた吸血鬼は、最早吸血鬼ではないだろう。


化物と言う言葉すら生温い存在の名は…


「俺は神になりたいんだよ。永遠を生きるあの月のような神に」


変わらず空に浮かぶ月を眺めながら、ルーセットは静かに言った。


吸血鬼

・吸血鬼は異性の血を好む傾向にある。


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