売り子
奴隷のサツキ視点。
私、井上皐は、目の前で家族を皆殺しにされた。強盗に入られ、抵抗した父はナイフで、母は首を折られた。姉も弟も殺された。強盗は、私にナイフを向けていた。私は叫ぶ事もできないまま、刺されてしまった。十六のことだった。
だが私は死ななかった。死ぬことを許されなかった。なぜ助けたのだと医者に当たった。なぜ死なせてくれなかったのだと。
次に強盗を恨んだ。恨んで恨んで、体中の血が蒸発してしまいそうになった。強盗はもう捕まっていた。私の証言で。しかし、強盗は死刑にはならなかった。かなり軽い刑だった。弁護士が、なんだか良く分からないが、責任能力が無いとかなんとか言っていた。
恨んだ。恨んだ。弁護士を。何もかもを奪って行った男は、何年か檻に入れられては、そのうち出てきてしまう。その前になんとかしなければ。そう思い、ナイフを握りしめて、刑務所に入る寸前の強盗に向かっていったが
良くドラマや映画では、警察は無能に描かれるが、現実はそうではなかった。私は強盗にたどり着くことは無かった。向かってくる私を、警察官達は簡単に取り押さえた。
私も刑務所行きだった。罪名は聞いていなかったので良く分からない。ともかく、私は社会的に罪を犯した。罪の奴隷になってしまった。
半年もたたないうちに、刑務所から出された。異例のことだという。慈善団体の人が裏で工作したらしい。その団長とかいうひとがやってきた。
「やあ、君が皐ちゃん?実に良い目をしているねぇ」
そう言って笑った。そしていつの間にか、私も慈善団体の一員になってしまっていた。
慈善事業と称して、各国を渡り歩いた。貧困の国、戦時下の国、内戦中の国。いろんな所に行って、いろんなものを見てきた。しかしどうでも良いことだった。生きる希望なんてもの、既に失ってしまっていた。
ある時、ある国で、ジェイクという青年と出会った。子供たちにパンをあげてたら文句を言ってきたのだ。彼は、この街がどんなにひどい所かと、必死で説明してきた。この街は臭い。この街は地獄のようだ。この街では殺し合いなんて日常茶飯事だ。この街では強くなくては生き残れない。
それがどうしたというのだ。強くなくては生き残れない?そんなことは当たり前なのだ。遠い遠い国の、何の関係もない一つのちっぽけな街なんて、私にとってどうでも良いことだった。ジェイクは、私のカタコトの言葉でも、よく聞いてくれる。そしたらゆっくり、私が聞き取りやすいように話している。面白い奴だとは思った。
ジェイクと話を続けた。この面白い奴に、私は興味を持ったのだ。あの日以来、初めてのことだった。この男は、なんだかんだ言って、子供たちのことを心配しているようだ。人は信じられないだのなんだの言っているが、甘さを捨て切れていない。甘い考えでは死ぬ。そう自分で言っているのにだ。
私に何かできないかと問うた。怒られてしまった。なにもできないクセにと。確かになにもできないのかもしれない。私という存在はあまりにもちっぽけなものなのだ。しかし、人1人を救うことはできるだろう。私は身体を差し出すと言った。人間の内臓は高く売れるのだと言った。そしたら殴られた。彼は兵士に取り押さえられている。
このままでは殺されてしまうかもしれない。彼は身を挺して人々を守ろうとしたのだと分かった。異国の、こんなちっぽけな街に住む男に、私は小さく憧れを抱いた。
会話は奴隷の時に書いたしめんどくさかったしあんまり書いてない。
続き書くかもしれない。こんなことなら連載にすれば良かった。