雷
突然な魔物である。
私の耳や、肌を無造作に触るものがあるだろうか。
でなければ、鼓膜や内臓を熱湯で痛める奴があろうか。
私は確かに善人ではないが、どんな極悪人でもこんな嫌悪は抱かない。
さて、また猛烈に暗闇を一瞬で照らす。
次は決まって、鼓膜を破かれる音がする。
内臓が持ち上がり沸騰する。脳がしびれる。
雷鳴を世界の鳴き声と評する文学もあろうが、私は其れ程、感傷的には、なれない。
なにせあの音である。
空気を割き、絶縁された空間を猛烈な勢いの電気が地上に降る。
いや、落ちる。
適当に、である。
地球の悲鳴か、それを犯す人間の耳に恐怖を与えるのだ。
また光る。瞬く間もなく、明滅を繰り返す。
轟音は、私の心まで割き始め、決まって絶縁されていない私の肉体を震わせる。
失礼な奴め。震えは収まりようがない。
私の知人などという愚かな人間は、衒いながら堂々と外を歩く。
あの悲鳴轟く世界を、我が物で歩く。私の心をを知らずして、
「大丈夫だよ」
と、口角を上げながら云うのだ。
私は、あの知人の口元が大嫌いになろうとしている。
それもこれも、雷という現象のせいなのだ。
フェノミナのせいだ。
なんどかは、無視を決める努力もしたが、丁度悪く、その時は
自宅に落雷し、無視どころの騒ぎではなかった。
給水管に落雷したと知って、その水を飲むのすら阻まれたのだ。
心が痛む。
また有る時は、音の無い雷も見た。
それは遥かに幻想的で、雲間から光の旗がはためき、本当に美しかった。
凶悪な雷鳴からこんな姿をみるとは、思う事すらなかった。
そう考えると、私がこうして恐怖する間に、
恐らくどこかの者達は、指をさしながら無邪気に美しいと形容しているのだろう。
ふと私は、知人の、あの口角を思い出す。
雷も、やはり好きになる事は無かった。
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