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和泉先生と五つの禁断  作者: 色葉充音
禁断の果実
7/20

第7話 可愛い教え子 Side:和泉日色

 受け持ったクラスの大人しい教え子。隣の席の久坂さんとは仲が良いらしく、お互いに、ブレーキになったりアクセルになったりし合っている。図書室へ向かうところを見かけることが多いから、きっと本が好きなのだろう。


 深町さんへの認識は、そんなものだった。


「ラスト青春デス! 暇デス! 禁断を破るのデスよ!」

「……ちょっと待って、聞き間違い?」


 5月の終わりのある昼休み、3年3組の教室で生徒からの質問に答えていた時、何やら面白そうな話が聞こえてきた。禁断とされているものを進んで破るなんて、高校生という若さがあるからこそできるもの。俺もやっていたな、なんて、数年前の自分に思いを馳せてみる。


「先生? どうかしました?」

「ああ、ごめんごめん。それで、この解釈だけど——」


 教科書より少し発展的な内容の解説をしながらも、興味本位で、騒いでいる2人に意識を向けてみた。


「安心してくだサイ! もうすでに禁断破りしてマスから!」


 元気よく楽しそうに言った久坂さんに対して、渋々オーケーしていた深町さんは絶望を滲ませた声を出す。禁断というルールを破るのはそんなに嫌だったの?


「禁断破っちゃいましたけど、どうなるんでショウね? 楽しみデスねー!」


 深町さんはもう限界だと言わんばかりに立ち上がり、図書室へと向かった。ふと、禁断のうわさには「失うもの」があったことを思い出す。「失うもの」なんて、俺が在学していた頃にはなかったはず。どうしてそんな話になっているのかは分からないが、少々、いたずら心が湧いた。


 確かあの2人は部活に入っていない。ちょうど、軽い用事を頼める生徒がほしいと思っていたところだったから、そ知らぬフリをして頼んでみようか。


 早速、次の日に行動を起こした。


 緊張と戸惑いを浮かべた深町さんと、素直に何事かと言わんばかりの久坂さんを国語準備室に呼び出して、用件を伝える。深町さんの目が本に向かって輝いたのはばっちりと確認した。


「2人には、3年3組のクラス委員をお願いしたい」


 久坂さんだけではなく、深町さんまで面倒くさそうな反応をするのは、さすがに予想していなかった。声を揃えて断ると言われてしまったけど、その反応が面白くて、つい上手いこと言い包めてしまった。我ながら大人気ないとは思う。でもしっかりと働いてもらおう。


 俺の勝手に巻き込まれてくれた迷惑料として、深町さんには国語準備室の資料閲覧の許可を出した。ぱっと思いついたのがそれだけだったから、久坂さんにはまた何か別に考えておこう。


 深町さんは、さっきまでの不機嫌な顔から一転、きらきらと目を輝かせて嬉しそうに「ありがとうございます」の言葉を投げてくる。


 感情が顔に出やすい素直な子だな。そんな認識になったのは、きっとこの時。


 6月に入ったある日の放課後、2人に雑用を頼んで、職員室へと移動していたらすれ違った生徒の会話が耳に入ってきた。


「禁断の果実って何?」

「中庭のあれだよ。うわさ、聞いたことない?」

「あー、あれのことね。さっき禁断の果実を食べるって叫んでる人いたからさ。気になっちゃって」


 思わずその生徒2人を呼び止めてしまった。嫌な予感がひしひしとする。この禁断は真面目に危ない。


「突然ごめんね、その叫んでいた子ってどんな子か分かる?」

「えーっと……金髪の人だった気がします。あと、その人を追いかけてる短めの黒髪おさげの人もいました」


 金髪の人というのは久坂さんで間違いないはず。そもそも久坂さん以外の金髪の生徒を知らない。そんな生徒を追いかける黒髪短めおさげの子、深町さんでまず間違いない。


「そっか、ありがとう!」


 教師が廊下を走るのはさすがに良くない。ぎりぎり歩いている判定をされるであろう早歩きで、中庭へと向かう。


 案の定というか、久坂さんが禁断の果実を食べていた。分かる、美味しいよね。でもそれ、れっきとした毒だよ。


 お手洗いへ駆けて行った久坂さんを、深町さんは倒れそうな表情で見ていた。だから、普通に心配になった。まさか保健室の先生に黒歴史をバラされるとは思っていなかったけど、深町さんの顔色が戻ってきたみたいだから良しとする。


 すこぶる辛そうな久坂さんが戻ってきた。……色々と、頑張ったのだろう。あの辛さは分かりたくないけどよく分かる。保健室から拝借した経口補水液を差し出したら、感動したように拝まれた。……うん、辛かったんだね。


 そんな久坂さんには仲間はずれのようで少々申し訳ないが、俺の黒歴史は伝えられない。伝えたが最後、次の日には学校中に広まっている気がする。


「深町さん、最初にしたあの話は俺たちだけの秘密ということで」


 人差し指を口元に持ってきて「よろしくね」と笑いかける。その頬がほんのり色付いたことには気づかないフリをして、職員会議へと向かった。


 深町さんへの認識に、「可愛い」が加わったのはたぶん、この時からだった。

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