第16話 衝撃のうざ絡み
「えぇ!?」
「伊都先輩、声が大きいかも?」
「……あ、ごめん」
あれから早3日、うわさの元凶だった3人が抑えられたおかげか、わたしと類ちゃんのうわさはすっかりなりを潜めていた。
念の為うわさが完全に落ち着くまではやめておこうと決めた類ちゃんとの雑談会兼読書会。やっと解禁となり、図書室にて小声で話していたところ、類ちゃんがとんでもない言葉を投げてきた。改めて小さな声を意識して、楽しそうに細めている薄茶色の瞳へ問う。
「類ちゃん……いや、類くん、男の子だったの?」
「うん、いわゆる女装をしているだけの男だよ。ほら、僕って身長小さいから。試しに女装してみたらなかなか楽しいなって思って」
確かに類くんの身長は160センチメートルあるかどうかというところだ。それで試しに女装してみて、楽しいからと言う理由で実際にセーラー服を着ているというところが、さすが類くんだと思う。
「でも、そのせいで嫌われて伊都先輩を巻き込んじゃったけど……ごめんね」
それは全く問題ない。ただ、どうして……。
「どうしてすぐに教えてくれなかったの……?」
「うーん、勘違いしている伊都先輩が面白かったから?」
「……類くん?」
わたしがうわさを気にしていればすぐに分かったことなのかもしれないけど、面白がってたの?
「……というのもあるけど、勘違いしてくれてたら友達になれるかなって思った」
「……類くん!」
思わず上げてしまった声に、周りにいる数人からじろりと視線を感じた。
「伊都先輩、また声が大きいかも?」
「ご、ごめん。話もしたいし、よかったら食堂行かない?」
「そうだね」
類くんと一緒に校内カフェにもなっている食堂へとやってきた。そうしたら和泉先生と同じテーブルに着くアニエスの姿があった。かなり珍しい組み合わせだ。一体どういう状況なのだろう。アニエスは嬉々として和泉先生にスマホの画面を見せている。
「……何してるのアニエス?」
そう声をかけたら、案の定和泉先生までこちらを向いた。思わずそっと視線を逸らしてしまった。……もうこの時点で刺激が強い。目を合わせたその瞬間に赤くなる自信だってある。
そして類くんはどうして「なるほどね」と頷いているの。何もなるほど要素はないはずだ。もしもあるとしたら、わたしの片思いがバレたくらいしか思い当たらない。確かに、和泉先生に対しては最近挙動不審になっている自覚はあるけど、一瞬でバレるほどではない。断じてない。
だから、そこのアニエスもにまにまとしないでほしい。
「……それで、何してるの?」
「休憩中の和泉先生にうざ絡みしてマス! 伊都の写真を強制的に見せていマスよ」
「……え?」
今アニエスは何と言っただろうか。うざ絡みと言っただろうか。……わたしの写真を見せていると言わなかったか。…………どんな写真を見せているんだ。
「夏川クンも見マス?」
「いいの?」
「もちろんデス! そしてワタシの名前は久坂アニエスデス」
「知ってる。禁断の果実を食べた人でしょ? 伊都先輩から色々聞いた」
「オオ! そうなんデスね。ワタシ、結構人気者デスねー。夏川クンのこともうわさで知ってマス」
「そっか。よろしくね、アニエス先輩」
「ハイ、よろしくデス!」
目の前で親友と後輩が仲良くなっている……。……じゃなくて、どうして勝手に見せているのだろう? わたしの許可は……?
アニエスの肩越しに覗き込むと、スマホには、2人で浴衣を着て行った夏祭りの写真が映っていた。
「わ、先輩たち可愛い」
「ありがとうデス。確かこの後に面白いものがあったんデスよね」
一枚一枚フリックされていく写真に、ものすごく嫌な予感がした。これは去年のもののはずだから……もしかして、あの写真?
「ありまシタ!」
わたしが思い当たったのとアニエスがその写真を見つけたのは、全く同じタイミングだった。アニエスのスマホには、口を開けた状態でカメラの方を向いているわたしと、たこ焼きを差し出そうとするアニエスの手が映っている。いわゆるあーん真っ最中の写真だ。
じわじわと頬に熱が集まっていく。よりにもよって和泉先生にまで見られた……恥ずかしい。
「2人に何見せてるの……」
「何ってそんなの、伊都の可愛い写真デスよ?」
振り返りながらそう言ったアニエスは、わたしを見て、良いものを見つけたと言わんばかりに目を輝かせる。どうしてだろう。この後の行動が予測できる。
スマホのカメラを起動して、わたしの方へ向けてひとこと。
「照れてる伊都も可愛いデス……!」
そしてかしゃりとシャッターを切る。本当に予測通りになってしまった。……もう、両手で顔を覆うしかない。
「伊都先輩、耳まで真っ赤だよ」
「本当デスねー!」
類くんに指摘されて、さらに顔が熱くなる。もはや負のループだ。何これ、いつ終わるの……?
「その辺にしておこうか。深町さんがさすがに可哀想だよ?」
「えー、せっかく伊都の可愛いところを見られるのにデスか?」
「そうだよ。伊都先輩すごく可愛くない?」
アニエスも類くんも、和泉先生に向かって何を言っているんだ。そしてわたしは今、可愛いと言われると和泉先生の「俺の可愛い生徒」発言を思い出す病気にかかっている。もう4回は脳内で再生された。思わず、その場にしゃがみ込む。
「深町さん、大丈夫?」
和泉先生がわたしの前でしゃがむ気配がした。
「だいじょぶじゃないです……」
息も絶え絶えにそう答える。すると、ふわりと耳元に何かが近づく気配がした。




