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【悲報】日本、もう終わりだと話題に

作者: 冬至 柚
掲載日:2026/03/11

【悲報】日本、もう終わりだと話題に


1 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:12:09.31 ID:7aKpL9eX0

起きたら空が割れてて草


2 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:12:31.04 ID:Wm2dQf3n0

は?


3 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:12:54.88 ID:7aKpL9eX0

いやマジ

東の空にでっかい黒い線入ってる

地震雲とかそういうレベルちゃう


4 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:13:10.27 ID:bS81Neaa0

画像はよ


5 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:13:42.01 ID:7aKpL9eX0

ほい

【画像】


6 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:14:01.77 ID:Wm2dQf3n0

なんやこれ

加工やろ


7 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:14:18.24 ID:1hRr3UaU0

ワイ神奈川やけど見えてる

終わったかもしれん


8 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:14:47.93 ID:Q2xjLm990

東京だけど窓の外やばい

空の端っこがめくれてるみたいになってる


9 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:15:05.54 ID:8YgTt2Qm0

またAIフェイクか

解散


10 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:15:28.11 ID:Kp44vMe90

テレビつけろ

全局これやってる


 *


そのスレッドを見つけたのは、午前五時十六分だった。


大学四年の春を中途半端に終え、就職浪人みたいな曖昧な身分のまま実家にいた俺は、エアコンの効きが悪い六畳間で、寝汗をかいたTシャツのままスマホを眺めていた。外は蝉より早く、サイレンの音が鳴っていた。


冗談みたいなスレタイだった。いつもの大げさな煽りだと思った。

だがカーテンを少し開けた瞬間、喉の奥がひゅっと鳴った。


空に、線が入っていた。


水平線でも飛行機雲でもない。もっと巨大で、もっと不気味な、世界そのものに爪で引っかいたような裂け目。東の空を端から端まで真一文字に走る黒い亀裂。その周囲だけ、朝焼けの色が遅れていた。そこだけ絵の具が乾いていないみたいに、光が滲んでいる。


一瞬、窓ガラスにヒビが入っているのかと思った。

でもヒビは空の向こうにあった。


階下で母がテレビの音量を上げた。

ニュースキャスターの声が、珍しく震えていた。


「――繰り返します。現在、関東上空をはじめ、全国各地で“帯状の空間異常”が観測されています。政府はただちに屋内退避を――」


そこで映像が乱れた。

ザーッという砂嵐の向こうに、ヘリコプターからの中継らしき画面が映る。都心上空。新宿のビル群の向こうに、あの裂け目がある。いや、裂け目というより、めくれかけた膜の裏側みたいなものだった。


黒い線の内側で、星が瞬いていた。


朝の空なのに。


 *


27 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:21:44.10 ID:Q2xjLm990

おい待て

さっきまで線だったのに広がってるぞ


28 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:21:59.13 ID:Wm2dQf3n0

NHK「空間異常」

言葉ふわっとしすぎやろ


29 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:22:16.91 ID:2JvP0s6o0

隕石?ミサイル?戦争?


30 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:22:40.33 ID:Kp44vMe90

自衛隊の戦闘機飛んでる


31 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:22:55.17 ID:1hRr3UaU0

あっ

今なんか落ちた


32 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:23:03.67 ID:1hRr3UaU0

鳥かと思ったら

人?


33 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:23:18.88 ID:bS81Neaa0

は?


34 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:23:25.41 ID:1hRr3UaU0

動画上げる


 *


動画はすぐ拡散した。


上空の亀裂のすぐ下、朝日を背にして、何かが降ってくる。最初は点だった。鳥に見えた。次に、ビニール袋みたいにひらひらした影に見えた。最後に、それが人間の形をしているとわかった。


手足をだらりと垂らした、裸の人間。

いや、正確には“人間だったもの”。


地上に落ちる寸前、その体はぶれた。

映像が圧縮ノイズを起こしたみたいに、輪郭が四角く崩れた。

頭部が三つに増え、腕が折りたたまれ、次のフレームでは完全に消えた。


動画を見た母が、食卓から小さく悲鳴をあげた。


「なにこれ……映画?」

「違う」


俺は自分でも驚くほど冷静な声でそう言った。

指先だけが冷えていた。


テレビでは、専門家と呼ばれる人たちが何も説明できないまま言葉を重ねていた。

高層大気の光学異常。

大規模な電磁攪乱。

観測機器の誤作動の可能性。

けれど画面の右上では、全国から送られてくる映像が同時に映っていた。札幌、仙台、東京、名古屋、福岡。どの街の空にも、同じような裂け目が走っていた。


そのどれもが、少しずつ開いていた。


 *


51 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:31:12.66 ID:9LkmPww40

停電した


52 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:31:18.90 ID:8YgTt2Qm0

こっちも


53 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:31:41.72 ID:Q2xjLm990

ネットはまだ生きてる


54 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:31:59.20 ID:Vn0uAs2L0

X落ちた


55 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:32:14.33 ID:Wm2dQf3n0

掲示板だけ妙に軽くて草


56 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:32:28.18 ID:Kp44vMe90

草じゃねえよ


57 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:32:57.70 ID:cAe81ss90

政府会見

「直ちに命に関わる状況ではない」

はい解散


58 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 05:33:11.02 ID:1hRr3UaU0

いや命に関わるやろどう見ても


 *


午前六時を回る頃には、街の様子がおかしくなり始めていた。


近所のコンビニに水を買いに出た父から、「信号が全部同じタイミングで点滅してる」と連絡がきた。冷蔵庫のモーター音は止まったり動いたりを繰り返し、スマホの時計は数秒単位で進んだり戻ったりした。


そして、最初の“脱落者”が出た。


うちの向かいに住む中学生の女の子だった。犬の散歩に出ようとして、門の前で立ち止まったまま動かなくなった、と母が言った。寝不足でぼんやりしているのだろうと思って見に行くと、その子は本当に止まっていた。


まばたきもしない。

呼吸もしない。

ただ、夏の朝の風に髪だけが揺れている。


「おい、大丈夫か」


父が肩に触れた瞬間、その子の体は砂みたいに崩れた。


骨も血もなかった。

人の形をした灰が、制服ごとその場に落ちた。

小型犬が鎖を引きちぎりそうな勢いで吠え続けていた。


母が吐いた。

父はその場に尻もちをつき、灰から一歩も動けなくなった。

俺は何もできず、スマホでまた掲示板を開いた。


現実味を得るには、同じものを見ている他人が必要だった。


 *


91 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 06:07:44.18 ID:2JvP0s6o0

人が灰になる動画本物なん?


92 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 06:08:01.55 ID:Kp44vMe90

うちのマンションでも起きた


93 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 06:08:20.04 ID:Q2xjLm990

条件なんだよ

外に出たやつ?


94 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 06:08:42.10 ID:x8ePaa6W0

年齢関係あるかも

老人ばっか消えてるって話ある


95 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 06:09:03.66 ID:1hRr3UaU0

違う

赤ちゃんも消えたってレス見た


96 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 06:09:16.70 ID:Wm2dQf3n0

じゃあランダムか


97 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 06:09:44.91 ID:7aKpL9eX0

おい

今空から声したんだが


98 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 06:09:52.34 ID:bS81Neaa0

は?


99 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 06:10:01.27 ID:7aKpL9eX0

日本語で「調整中」って


 *


最初は誰も信じなかった。


だが六時十四分、全国のラジオ、テレビ、街頭ビジョン、防災無線、カーナビ、スマホの緊急速報、そのすべてから同じ音声が流れた。


女とも男ともつかない声だった。

機械音声のようでいて、妙に滑らかだった。


『領域番号四。位相誤差が許容値を超過しました』

『住民の皆様は、そのまま待機してください』

『現在、調整を行っています』


数秒の沈黙。


『痛みは最小限に抑えられます』


母が泣き出した。

父がテレビに向かって「ふざけるな」と怒鳴った。

俺は、その言い方が一番怖かった。


まるで、もう決まったことを通知しているだけみたいだったからだ。


 *


昼前には、日本列島の上空すべてが、薄い膜に覆われていることがわかった。


衛星画像では、日本だけが歪んで見えた。周囲の海や大陸は正常なのに、日本の輪郭だけが水面に落とした油みたいに揺らいでいた。海外のメディアは最初、「原因不明の大気異常」と報じていたが、SNSに上がり始めた映像で態度を変えた。


東京湾に停泊していた貨物船からの中継映像。

日本へ向けた望遠カメラには、列島の向こう側に“別の夜空”が映っていた。

昼のはずの空の裂け目の奥で、見たこともない星座が瞬いていた。


日本の上だけ、空が違っていた。


午後一時。

政府中枢が地下に退避したという速報が流れた直後、首相官邸のライブ映像が唐突に切り替わった。会見場の壇上に立っていたはずの首相はいなくなり、代わりに真っ白な空間が映し出された。


床も壁も天井もなく、ただ白い。

その中央に、人影が一つ立っていた。


スーツ姿の男。

ただし顔がなかった。のっぺりとした肌色の面があるだけで、口元だけが動画の字幕みたいに動いていた。


『聞こえますか、領域番号四の皆様』


それは言った。


『この地域は、上位観測層との接触事故により、構造安定性を失っています』

『修復には住民情報の一部削除が必要です』

『皆様のご理解とご協力に感謝します』


アナウンサーの悲鳴が混じった。

映像はすぐ切れた。


だがもう、遅かった。


日本中の誰もが聞いてしまった。


“住民情報の一部削除”。


人間を、人間ではない言葉で。


 *


スレッドは午後になるほど加速した。


逃げ場のない恐怖の中で、人々は言葉だけを投げ合った。政府批判、宗教、陰謀論、海外逃亡の方法、家族への遺言、好きだったラーメン屋の話、昔のアニメの最終回、今さら謝りたい相手のこと。掲示板は、巨大な避難所になっていた。


そこに、一つの書き込みが現れた。


814 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 13:22:09.44 ID:N4mE3rJc0

これ、初めてじゃない

俺たち一回滅んでる


815 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 13:22:19.83 ID:Q2xjLm990

糖質きた


816 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 13:22:51.30 ID:N4mE3rJc0

信じなくていい

でも三重県の御浜町にある旧観測所跡

地下に行け

答えがある


817 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 13:23:04.37 ID:Wm2dQf3n0

なんでそんなピンポイントなんだよ


818 :風吹けば名無し:2036/07/18(金) 13:23:40.92 ID:N4mE3rJc0

あそこだけは前回のデータが残ってる

“外”と最初に繋がった場所だから


それきり、そのIDは消えた。


書き逃げの釣りだと思った。

普段なら、そう笑って終わる話だ。

でもその日、常識はもう役に立たなかった。


俺は父に車を出せと言った。

母は泣いて反対したが、父は黙ったままキーを取った。ここにいても灰になるだけだと、全員わかっていたからだ。


高速道路は地獄だった。

西へ向かう車で大渋滞。路肩には乗り捨てられた車。空を見上げて立ち尽くす人。突然その場で崩れる人。ガソリンスタンドで怒号を上げる人々。上空では、自衛隊機があの裂け目に近づこうとして、何機もノイズの塊になって消えた。


静岡に入る頃には、ラジオも沈黙した。

代わりに車載スピーカーから、あの声が周期的に流れ始めた。


『調整中です』

『しばらくお待ちください』

『個体差により消失時期は前後します』


母が耳を塞いだ。

父の手はハンドルの上で白くなっていた。


夕方、サービスエリアで休憩した時だった。

売店のガラスに、自分たちの姿が映っていた。

父、母、俺。


そして、俺の背後に、もう一人。


知らない少年が立っていた。


振り向いてもいない。

ガラスにしか映らない。

俺と同じくらいの年齢で、古びた学生服を着ていた。顔色が悪く、唇だけがわずかに動いた。


――また失敗する。


ぞっとして目を逸らした瞬間、少年は消えた。


「どうしたの」

母が言った。

俺は答えられなかった。


その時、やっと気づいた。

朝からずっと、既視感がある。

初めて見るはずの裂けた空も、あの無機質なアナウンスも、どこかで一度知っている気がした。


子どもの頃に見た悪夢。

あるいは、もっと前の。


 *


三重に着いたのは、日付が変わる頃だった。


旧観測所跡は山中にあった。地図アプリは途中で機能しなくなったが、掲示板にはまだ断片的な情報が残っていて、同じ場所を目指す車の列ができていた。


コンクリートの廃墟。

朽ちたフェンス。

半分埋まったパラボラアンテナ。

昭和のまま時間が止まったような施設だった。


その地下に、非常用の分厚い扉が開いていた。


中には、何十人もの人がいた。

泣いている者、武器を持っている者、ノートPCを開いている者、祈っている者。混乱の匂いと汗の匂い。その奥で、一人の老人が古いブラウン管モニターを操作していた。


「ネットの書き込みを見て来たのか」

老人はそう言った。

俺がうなずくと、彼は「遅かったな」とだけ答えた。


モニターには、古い記録映像が映っていた。


日付は、2036年ではない。

1999年8月14日。


日本各地の空に、同じ裂け目がある。


「……は?」


「前回だよ」


老人は乾いた声で言った。


「おまえたちは“初回”の人類じゃない。日本は一度、上位層の観測に失敗して削除された。だが連中は完全な再構築に失敗した。だから同じ土地に、似た人間をもう一度並べた。記憶を抜いてな」


言っていることは狂っていた。

けれど映像の中では、平成の街並みを走る人々が、今朝見たのとまったく同じように灰になっていた。


老人は続けた。


「この観測所だけが、外側と直接接続していた。だから記録が残った。日本は巨大な実験場なんだ。何度も作って、何度も壊して、安定する個体群を探している」


「なんのために」

父が掠れた声で訊いた。


老人は肩をすくめた。


「さあな。上の連中にとっては、池のメダカを選別するのと同じことかもしれん」


母が嗚咽した。

誰かが壁を殴った。

地下室の隅で、小さな子どもが「帰りたい」と泣き始めた。


その時、警報が鳴った。


観測所全体が低く震えた。

天井の蛍光灯が一斉に明滅し、ブラウン管の画面が切り替わる。


真っ白な画面の中央に、文字が表示された。


**領域番号四 再帰誤差を検出**

**前回記録媒体の残存を確認**

**管理者権限を持つ個体を捜索中**


地下にいた全員が息を止めた。


老人の顔から血の気が引いた。

「まずい」と彼は呟いた。「見つかった」


次の瞬間、地下室のあちこちで人が崩れた。


灰になるのではない。

もっとひどかった。


体が四角いブロックに分解され、音もなく宙に浮き、順番に消えていく。腕、肩、胸、顔。最後に目だけが残り、それもカーソルで消すみたいに消滅した。


悲鳴。

怒号。

逃げ惑う足音。


スピーカーもないのに、あの声が施設全体に響いた。


『残存データの自己認識個体を発見』

『管理者権限を移譲します』


視界が白く飛んだ。


頭の奥で、何かが開いた。


知らないはずの記憶が雪崩れ込んできた。

1999年の夏。裂けた空。逃げ惑う人々。観測所のモニター。警報。泣いている少女。俺自身の手。キーボード。日本列島の立体地図。画面の端に並ぶコマンド群。


**ROLLBACK**

**RECONSTRUCT**

**MEMORY PRUNE**

**PHASE STABILIZE**


俺は、知っていた。


この場所に来たことがある。

いや、俺ではない“前の俺”が。


白い画面の向こうから、無数の視線を感じた。

人間ではない何かが、顕微鏡越しにこちらを見ている。


『選択してください』


声が言う。


『完全削除』

『部分再構築』

『局所保存』


俺の前に、光のキーボードが浮かび上がった。


父が何か叫んでいる。

母が俺の腕を引いている。

でも音が遠い。世界が膜一枚隔てた向こう側にある。


選べというのだ。

この国の終わり方を。


完全削除なら、日本は今ここで消える。

苦しみも、恐怖も、一瞬で終わる。


部分再構築なら、生き残る者はいるだろう。

だが多くは削られ、別人になり、また同じような日常を始める。何も知らないまま。


局所保存。

その意味だけが、なぜかはっきりわかった。

“日本”という枠組みを壊し、少数の記憶保持者だけを別の層へ逃がす方法だ。

国は消える。

だが、人類は外へ出られる。


俺は、掲示板のスレッドを思い出した。

朝から見てきた無数の書き込み。

ふざけた煽り、罵倒、嘘、冗談、怯え、祈り、最後の言葉。

あの匿名の言葉の海だけが、今日一日、人々をつなぎ止めていた。


名前も顔も知らない他人同士が、終わる瞬間まで、確かに同じ恐怖を見ていた。


だったら。


俺は震える指で、キーに触れた。


**LOCAL SAVE : HUMAN MEMORY / OPEN NETWORK TRACE**


押した瞬間、観測所全体が白く染まった。


父と母の姿が、光の中でほどけていく。

消える、と思った。

けれど二人は灰にはならなかった。無数の細い線になって、空へ吸い上げられていく。周囲の人々も同じだった。悲鳴はやがて、遠いノイズになった。


施設の天井が消えた。

山が消えた。

夜空が消えた。

その向こうに、巨大な暗闇があった。宇宙ではない。もっと人工的で、もっと冷たい場所。無数の透明な槽が並び、その一つ一つに、海みたいに光る粒子が満ちている。


日本列島は、その一つの槽の中にあった。


培養皿みたいに。


そしてその外側で、見たこともない形の影たちが、こちらを覗き込んでいた。


世界は、本当に終わっていたのだ。

ずっと前から。


 *


翌朝。


新しい掲示板に、一つのスレッドが立った。


【速報】ここどこだよ


1 :名無し:????/??/??(?) ??:??:??.?? ID:000000000

起きたら知らん空の下にいる

日本語読めるやついるか


2 :名無し:????/??/??(?) ??:??:??.?? ID:5fA91ce20

いる

てか空が三重なんだが


3 :名無し:????/??/??(?) ??:??:??.?? ID:0dd3c3aa1

スマホの中に昨日のスレのログ残ってる

夢じゃなかった


4 :名無し:????/??/??(?) ??:??:??.?? ID:7e11ab440

これ生き延びたってことでいいのか?


5 :名無し:????/??/??(?) ??:??:??.?? ID:12dd09bf2

わからん

でも誰かいるだけで少し安心する


6 :名無し:????/??/??(?) ??:??:??.?? ID:3bcf8aa90

【悲報】日本、消滅


7 :名無し:????/??/??(?) ??:??:??.?? ID:000000000

せやな

でもまだ終わってない

たぶんここからや

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