少女スナイパーを上機嫌にさせた木枯らしの季節
私こと和歌浦マリナ少佐は同僚や部下と協力し、米国より流入した特定外来生物の羊男を郊外まで追い詰めた。
「とうっ、はっ!」
蹴り技で怯んだ相手に御見舞いするのは、大型拳銃による銃撃だ。
だが晩秋の今は、あまり好条件とは言えなかった。
高密度で冷たい晩秋の空気は抵抗が強く、弾丸の失速も著しい。
「チッ、こんな時に木枯らしか…」
しかも今の時期特有の強い木枯らしは、弾丸が横に流され易いから厄介だ。
「総員、誤射に注意せよ!」
「承知しました、和歌浦マリナ少佐!」
下士官達に命じつつ撃ったダムダム弾は、敵の急所を僅かに外していた。
故に至近距離射撃と近接格闘に切り替えたが、深入りは禁物だ。
そこで私は羊男の顔面を蹴り上げ、その反動で一気に間合いを取りながら叫んだのだ。
「今だ!撃て、吹田千里准佐!」
「はっ!承知しました、和歌浦マリナ少佐!レーザーライフル、撃ち方始め!」
生真面目な声が耳孔に入れたイヤホンに響いた次の瞬間には、真紅のレーザー光線が敵の急所を正確に貫いていた。
穿たれた風穴から鮮血を噴き出して昏倒する羊男に、もう息はなかったんだ。
死体処理を始めとする部下達への今後の指示と、支局への作戦終了報告。
これらをこなす私の元に、一つの人影が静かに歩み寄ってきた。
「一件落着だね、マリナちゃん。」
私と同じ白い遊撃服を夕陽に照らされ、トレードマークであるツインテールに結った長い黒髪を木枯らしに弄ばれながら。
重厚なレーザーライフルを愛おしげに携えた姿には、狙撃手という役割への愛着と誇りが感じられた。
彼女こそ、吹田千里准佐。
軍籍では上官と部下になるものの、堺県立御子柴高校においては同学年の親友であり、特命遊撃士としては同期でもある。
だからこそ、作戦外ではタメ口を叩き合えるんだけどな。
「そういう事だよ、ちさ。にしても、ちさの狙撃の腕は相変わらず見事なもんだね。私なんか、木枯らしによるブレ修正に辟易させられてたってのにさ。」
「そりゃ私の個人兵装はレーザーライフルだからね。木枯らしが吹くような寒い季節は、むしろ働き時なの。」
ちさの言うには、木枯らしが発射時の熱を冷ましてくれるので光線が拡散せず遠距離まで威力を維持出来るし、乾燥した空気は透過率が良くなるので何かと好条件らしい。
「だから私、今の時期は狙撃手として暗殺任務を積極的にこなそうと思うんだ。」
そう微笑む若き狙撃手の横顔には、無邪気さと凄味が同居していたんだ。





