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・3 存在証明

 彼女と再会出来てから翌日。休みの日だ。

 また彼女に会いたい。

 洗面台に水を溜めて、覗く。


「奈々」


 呼んでも来ない。

 ペットな訳でもないし、呼んだら来るなんてことはなかった。


 来る時は彼女の気まぐれで来るんだろうか。

 確かにそうかもしれない。

 彼女はかなり気まぐれだった。


「なにやってるの?」

「あぁ、お母さん」


 お母さんが来た。

 僕を見て、すごい不思議がっている。


「奈々を呼んでたの」

「奈々ちゃんが? だって、あの子……」

「確かに死んじゃったけど、彼女は水の中にいる。まだ会えるんだ」


 お母さんにも話す。奈々と再会出来たことを。


「水の中に?」

「そう! 昨日、水たまりとか水の入ったコップの中に奈々がいたんだよ!」


 お母さんの目が変わる。


「……奈々ちゃんのことは辛かったわよね? でも死んだ人と会うなんてこと出来ないのよ?」

「会えるよ。昨日も会った」

「……? まぁいいわ。仕事に行ってくるから洗面所を使わせて」

「はーい」


 お母さんは今日も仕事。洗面所を明け渡す。

 奈々のことは信じてくれなかった。奈々と会える瞬間を見ていないから、まぁ当たり前のことか。


 それからしばらくして、お母さんは仕事へ行った。

 家に自分以外誰もいなくなった。

 お父さんは仕事の出張で帰ってこない。完全に一人の時間だ。


「奈々に会わなきゃ……お母さんにも、みんなにも信じさせないと」


 自分のスマホを持って洗面所へ向かう。

 死人に会える奇跡を共有すれば、この気持ちも理解してくれるはず。


 早速もう一度洗面台に水を溜める。

 それからスマホのカメラアプリを起動して、洗面台の水面に向ける。


「奈々、奈々……?」


 彼女に呼び掛ける。

 すると来た。

 洗面台に溜めた水の中に彼女がやってきた。


「奈々!」


 呼び掛けに応じてくれた。


「ねぇ、奈々? 写真撮ってもいい?」


 聞いてみる。

 写真を撮って彼女と再会出来ることを証明出来れば、お母さんだって認めてくれるはず。


「どう?」


 彼女が少し考えると、水の中から彼女が近付いてくる。


「わ、わぁ!」


 洗面台に溜めた水の中から、彼女の上半身が出てきた。

 学生服姿の彼女。亡くなった時と同じ姿をしている。

 しかも濡れていない。水の中から出てきているのに髪も服も一切濡れていなかった。


「奈々、撮るよ」


 彼女は首を縦に振る。

 許可を取れた。

 早速スマホのカメラアプリで彼女を撮る。


「あれ?」


 確かにスマホのカメラを彼女に向けて写真を撮った。


「いない?」


 だけど写真に彼女の姿はなかった。

 黒い影だとか、薄っすらとした姿だとか、なにもない。

 まるで最初からいなかったようだ。

 幽霊は写真に写らないのだろうか?


「奈々、もう一度──あっ」


 もう一度撮ろうとしたら、彼女が抱き付いてきた。

 彼女の形をしっかり感じる。

 とても冷たい。彼女は濡れていないのに、僕の体は水に濡れていく。


「奈々……」


 僕はスマホをズボンのポケットに入れて、彼女に抱き返す。

 手にちゃんと彼女の形が伝わってくる。

 ほんの数秒、こうしていると、彼女は僕をすり抜けて水の中へ去っていった。

 結局彼女を写真に写すことが出来なかった。

 いや、もうどうでもいいかもしれない。彼女に触れることが出来るのなら。


 今日は洗面所での出来事ことから、それきり会えなかった。

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