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友達

この世界史の試験が終われば、ようやく勉強漬けの地獄から解放される。


俺は普段から勉強をするような人間ではないし、授業でさえまともに聞いていない。そんな人間には一夜漬けを敢行する道しか残されていないのだ。中にはそれさえせずにただただ終わりを待つ強者もいるようだが。


昨日は寝ずに勉強してしまった。土日を挟んだのにも関わらず、金曜の放課後と土曜日を明日やればいいの精神でだらけてしまったせいだ。おかげで体調がすこぶる悪い。


そんな苦しかったテスト期間もあと5秒で終わる。


5、4、3、2、1、ゼロ…。


「やめ!筆記用具を置いて回答用紙が回収されるまで何もせず待機するように」


チャイムがなると同時に担当の先生が試験終了を俺たちに知らせる。


しばらくして回答用紙は回収され、もう自由にしていいと先生から声がかかった。


「お、終わったー!」

「おい!このあと何する?飯でも食い行くか!?」


「ね、今日のテストどうだった?」

「やべぇ!赤点かもー」


クラスでも元気のいい連中たちが試験終了の事実を受けて騒ぎ始める。


これから何をするか話し合う生徒にテストの手応えを確認し合う生徒。どちらにせよ何でそんなに騒ぐ元気があるんだ。俺はもう全てを出し尽くしたぞ。


俺と同じような人間もちらほらいる。疲れ果てて一言も発さずに机に項垂れてるやつら。


でもこいつらは帰りのホームルームが終われば帰れて家でぐっすり寝れるんだろうな。俺にはプール掃除が待っているというのに。


「はぁ…」


俺はこれからやらなければいけない仕事のことを考えてため息を吐く。柏木は来ると言っていたが、あのデカさのプールを二人で掃除ねぇ…。


柏木の席の方を見ると俺と同じように机にぐったりもたれかかっていた。あいつも俺と全く同じようなルートをたどってそうだな。午後から二人でプール掃除だし、少し声をかけておくか。


「お疲れ」


「ん、新田か」


柏木は顔をあげずにこちらの声に応える。


「その様子だとテストは散々だったのか」


「聞かないで、もう何も」


柏木は顔をあげないまま会話を続ける。


「そ、そうか。あのな、プール掃除なんだがお互い飯を食べた後で13時に現地集合しよう」


「分かったわ…」


相当疲弊しているみたいだな…。

これはそっとしておいた方が良さそうだ。


そして俺は自分の席に戻り、帰りのホームルームが終えてから教室をあとにした。



「あ、暑い…」


なんだこの暑さは、まだ6月の頭だぞ。とはいえ一応季節的には夏ではあるのだが。朝はそれほど暑くはなく、シャツ一枚でちょうどいいぐらいだった。


目の前には一年間放置されて汚れに汚れたプール。水で流しただけでは落ちそうにない汚れがたくさん。徹夜明けの俺に依頼を完遂することはできるのだろうか。とはいえ弱音を吐いてばかりではいられない。


俺は目の前の現実に立ち向かうべく、気合いを入れる。頭にはタオルを巻き、体操服の袖を肩まで捲って右手に持ったブラシを地面に打ち付けた。


「やるぞ!」


「ねぇ、何一人で始めようとしてんのよ」


声が聞こえた方へ顔を向けるとそこには体操服姿の柏木がいた。


「なぁ、なんでお前ビキニなんて着てんの」


俺は思わず思ったことをそのまま口にする。

柏木は体操服の下にビキニを着ているのだ。白色のシャツの下に水着が若干透けて見える。


「ちょ、そんなまじまじと見るな!キモい!」


「う、うるせぇ!見えちまうものは仕方ないだろ。で、なんでそんなの着てるんだよ」


「そりゃ濡れたら透けちゃうからでしょ。新田に下着なんて見られるわけにいかないし。欲情されて何されるか分かんないもん!」


俺を誰だと思ってるんだ?鋼の如き理性を持つ新田さんだぞ。例え欲情したとしても手を出すことは決してない!見るのはタダなので目に焼き付けるべく最大限の努力はすると思うが。現に今、俺はテストで燃え尽きたはずの脳をフル回転させ、柏木の透けビキニ姿を完全記憶しようとしている。


「安心しろ、新田さんは何もしない。鋼の心を持っているからな。というか柏木、わざわざそんな対策をしてきたお前にこんなことを言うのは大変心苦しいが一つ言わせてくれ」


「な、何よ」


「透け対策なら上着着ればいいだけじゃないか」


「あ、」



柏木の顔はみるみる赤くなっていく。どうやら自分の過ちに気づいたらしい。

適当に何か上に羽織るなり、着るなりすれば透け問題なんて解決してしまう。


なんか柏木さん、無言のままプルプルしてるんですけど。もう見てられない!


そして柏木は自分の両の腕を胸を隠すように組み、うずくまってしまった。そしてこちらを睨んできた。


「う、上着、持ってるなら貸しなさいよ」



「よーし、これで何も気にすることなく掃除できるわね。さっきはどっかの変態の視線がキモすぎてしょうがなかったし」


俺が持ってきていた体操服の上着を着た柏木は意気揚々にプールの中をブラシで擦り始めた。俺が柏木のビキニ姿(体操服越しの)を完全記憶しようとしていたことはどうやらバレていたらしい。


「はりきるのもいいが程々にしとけよ。ぶっ倒れられたら困る」


この暑さに加えて日差しをもろにくらう。倒れてもおかしくはない。少なくとも徹夜明けの俺には大ダメージだな。


「私は大丈夫よ!よくよく考えたらプール掃除とか青春イベントそのものじゃない。なんかテンション上がってきたわ!」


それは俺も思ってた。


「そうだな、学校のプール掃除なんてできる学生の方が少ないからな。とっとと終わらせるか!」


テンションの上がった俺たちはプール掃除へ取り掛かった。




そして2時間が経った。


あの時のやる気はどこに行ったんだろうか。


「おい、そんなんじゃ汚れ落ちないぞ」


柏木はブラシを前後に動かしている。動かしているのだが、そこには全く力が入っておらず、汚れが落ちる気配はない。


「うるさいわね、あんたこそ早く起きなさいよ。いつまでそこで横になってるのよ」


「一旦休憩しているだけだ。そうだ、お前も横になってみろよ。ホースから流れてくる水が気持ちいいぞ」


俺たちの謎の青春ブーストは開始1時間あたりで切れた。そこからはじりじりと体力を削られていき、現在に至る。半分は終わったが、俺たちの体力とプールサイドの掃除のことまで考えるとあと3時間近くかかるかもしれない。


「ちょっと、あれ…」


柏木がプール入り口の方に視線を送りながらそう呟く。その方向を見ればそこには成田とその一行。


「へー、結構キレイになってんじゃん」


成田がプールを見回しながら話す。


「でもまだこれじゃ泳げなくない?」


「なんかぬめぬめしてそうだしー」


他の二人が成田の言葉の後に続いた。


「ね、あいつら私たちに喧嘩売ってる?私殴っていいかしら。同姓だったらセーフじゃない?」


「いや普通にアウトだからやめろよ?」


俺が柏木を静止しているところに成田たちが近づいてきた。そしてプールサイドから俺たちを見下ろしながら口を開く。


「ねぇ、もう15時なんだけど。これじゃあ私たち今日プール入れないんじゃん。サボってないで早く手動かしてよ」


「やっぱ殴っていい?私もう限界なんですけど」


柏木は眉をピクつかせながらまた馬鹿なことを聞いてくる。


「我慢しろ柏木。この依頼を完遂しなければ廃部の危機かもしれない。それはお前もわかっているだろ?頼むから抑えてくれ」


俺たちは成田に聞こえないぐらいの声量で会話をする。それがどうやら成田の癇に障ったらしく成田はイラつき混じりにまた口を開いた。


「あのさぁ、そのヒソヒソ喋るのやめてくんない?イラつくんですけど。つか今日私たちがプール入れなかったら依頼失敗とみなすから。分かったら早く手動かしなよ」


成田の態度からして手伝う気はさらさらないらしい。やはり予想通り俺たち二人の手で掃除を終わらせるしかないようだ。


「今日中には終わると思うがおそらく時間は遅くなるぞ。このペースだと18時ってとこか。うちの完全下校時間が20時だから2時間しかお前らは遊べないがそれでもいいか」


こればかりは仕方がない。学校のルールだからな。何か特別な理由があれば学校に許可を取って夜遅くまで居残ってもいいらしいが今回のケースだと許可は下りないだろう。


「ふーん。まぁいいや。それまでには絶対終わらせてよね。それじゃあ頑張ってね~」


成田は不満そうではあったがこちらの条件を受け入れたらしい。そして成田一行はプールを後にした。


素直に手伝えば自分たちももっと遊べるというのに。まさに女王様だな。


「本当ムカつくわ、あいつら。こんな依頼さっさと終わらせて早く帰りましょ。帰ったらファミレスでテストお疲れ様会するんだから」


「なぁ、そのお疲れ様会は俺も参加するのか?」


「当り前じゃない。他に私と放課後のファミレスでそんなことをする人間がいるとでも?いるわけないわよね。少し考えれば分かることよ」


柏木はなぜか得意げにそんなことを宣う。


俺もたまに自虐風な発言をするが、こんなにも痛々しいとは。これからは自重しよう。誰も幸せにならないからな。というか今日は依頼が終わったら帰らせてほしい。テスト勉強も相まってもうくたくただ。立っているだけでも割としんどい。


「そうかよ、んじゃ早く終わらせよう」


ここで行きたくないとか反抗しても余計に体力を使うだけな気がしたので大人しくしておく。


「ええ、そうね」



そして成田がプールを去ってから1時間ほど経った。


「ねぇねぇ、見てよ新田。ブラシを両手に持ってこのまま走ってブラシ掛けすれば一瞬で終わると思わない?」


柏木がまた何かアホなことをやろうとしている。


「ねぇ、聞いてる?こっち見てっててば!」


柏木の声が頭に響く。徹夜の影響か先ほどから頭痛がして頭が重い。時間に間に合うように休まず体を動かしたせいか。


「あ、あぁ、今見てやるから。で、なんだったけ」


「こうやってね、ブラシを両手で持って走ってブラシ掛けすれば…」


まずい、立ち眩みだ。


視界に映っている柏木がぼやけ、何を言っているのか上手く聞き取れない。手に持っていたブラシを両手で掴んでなんとかバランスをとっているが、腕の力も上手く入らずにフラフラしてしまう。


「新田?大丈夫?調子悪いの?」


何言ってんだ柏木、聞こえねぇよ…。


「ね、新田!新田ってばぁ!」


柏木が駆け寄ってくるのが分かる。


「ば、ばか。走ったら危な、」


その瞬間、こちらに向かって走ってきていた柏木が足を滑らせ、バランスを崩す。


俺は急いで柏木のもとへ駆け出す。そして転びそうになった柏木を受け止め、柏木に覆い被さられるように倒れる。


「いてててててて。ごめん、新田。またやちゃった」


柏木は体を起こしながらつぶやく。

そして下敷きになっている恩人と目を合わせることなく、恥ずかし気に言葉を続ける。


「前にも屋上で助けてもらっちゃったよね。あの時もありがとう。お礼言えてなかったからさ。あの後、なんか気まずかったけどさ、今日は普通に話せてよかったかなー、なんて」


「あんたも何とか言いなさいよ。は、恥ずかしいじゃないの」


「ん?あ、新田?」


柏木は恐る恐る下敷きになっている俺の方を見る。

そして俺に意識がないことに気が付いた。


「あ、新田が死んじゃったー!!」



「んっ…」


目を開くと見覚えのある天井が広がっていた。

清涼感があり、どこか落ち着くような匂い。


どうやら俺は倒れて保健室に運び込まれたらしい。

俺のベッドの周りはカーテンで閉め切られていて、この閉め切られた空間には俺以外誰もいない。


頭が重く、体がだるい。

身体をゆっくりと起こすと外で誰かが喋っているのが聞こえてきた。


「ねぇ、どういうこと?あれじゃあ私たちプールに入れないじゃん」


「そんなこと言ったってしょうがないじゃない。新田が倒れちゃったんだから。今日はまだ時間があるし、掃除だけ終わらせておくから明日の放課後にでもプールで遊べばいいでしょ」


どうやら話していたのは柏木と成田だったようだ。おそらく時間になっても掃除が終わっていないのを見てここまで俺たちを探しに来たんだろう。


「あのさ、私たちはテスト終わりの今日遊びたかったの。そのためにテスト勉強頑張ってきたのにあんたたちのせいで台無し。たとえ明日プールに入れたとしてもなんだか興醒めだわ。依頼は失敗。顧問は松浦先生だったわよね?このこと報告しとくから」


「そ、そんなのってない!私たちはできる限りのことはやった。だから新田は倒れたの!それなのに…」


「結果は結果でしょ。あいつが倒れようがなかろうが依頼が完遂できなかったらそれはあんたたちの能力不足ってことよ」


成田の言っていることは正しい。俺たちには力がなかった。そんな力のない高援部に活動実績を作ることはできない。そして俺たちは廃部に近づく。


「うるさい!わ、わたしは」


「もういい、柏木」


「あ、新田…」


俺はベッドから立ち上がり、これ以上柏木が成田に痛ぶられる前に制止する。


「今回はすまなかった、成田。依頼は失敗で構わない。現に俺たちは依頼を完遂することはできなかったからな」


「そっ。じゃあ私はもう帰るから。せいぜい廃部しないように頑張りなよ、高援部さん」


「ま、待ちなさ」


「よせよ」


成田を追いかけようとする柏木を俺は再び止める。


「な、なんでよ!このままじゃ私たち廃部になっちゃうかもしれないのよ?それでいいわけ?」


「いいわけねーだろ!」


俺は声を荒げる。自分でも今の俺が柄でもないことを言おうとしていることが分かる。それでも感情を抑え込めずに想いが口から漏れ出していく。


「俺は高援部が好きだ。まだ始まって間もないのにこんなに気持ちを入れ込んじまうくらい。だからまだ終わりたくない。でもしょうがねぇんだ。俺にはそんな大切な場所を守る力がなかった。俺が今日倒れたりなんかしなければ依頼は終わっていたはずだ。俺が弱いばかりに、俺が高援部を終わらせちまう。全部俺が、俺さえちゃんとしていたら…」


泣いてるのか、俺。


気づけば涙が押し寄せて止まらなくなっていた。今までの人生で誰かに本音をぶちまけたことなんてなかった。いつしか他人と関わることが怖くなって、誰かの真似をしたり、勝手に自分らしい像作ってそれを自分に押し付けて武装してた。そうすれば自分の心を守れるから。怖い思いをすることがなくなるから。


それが今、自分のありのままの感情を吐き出している。それは俺の心の中のストッパーが決壊したことを表していた。


「えらい、えらい」


「えっ…」


顔を伏せて泣いていた俺の頭を柏木が撫でてきた。

思いもよらぬ柏木の行動に声が出てしまった。


「ごめんね、新田はこんなにも高援部のこと考えてくれてたのにあんなこと聞いちゃって。私はね、弱いことが完全に悪だとは思わない。だって弱いからこそ頑張ろうって気持ちが生まれると思うから。新田はそんな弱い自分を人一倍意識してたから全部自分のせいにしちゃったのかな」


あぁ、きっと柏木の言う通りなのかもしれない。


「でも、今回は俺が」


「ううん。私だって悪いよ。新田の体調が悪いのに気づかなかったし。私が早く気づいていれば新田は倒れなかったかもだし」


俺は伏せていた顔を上げ言葉を続ける柏木の方を見る。


「それにさ、そういうのを一緒に抱え込めるのが、友達、なんじゃないの?」


ハッとした。友達という言葉を聞いたとき。


俺はどこかで柏木を部活仲間としてしか見ないようにしていた。誰かと近づきすぎるのが怖かったから、こちらから近づきすぎないようにしていた。


だからあのとき、屋上で柏木に覆い被されて体も心の距離もぐっと近づいてたような気がしたあのとき、俺の心は曇った。


でも俺は今、一歩を踏み出さなければならない。目の前の女の子が俺を友達と言ってくれた。俺に歩み寄ってくれた。俺はそれに応えたいと思った。


「ね、ねぇ、何とか言ってよ…。また私だけ恥ずかしいじゃない」


目の前見ると柏木が顔を赤らめてモジモジしだしていた。


「そっか…。俺たちもう友達だったんだな。じゃあ、俺の持ってるもん全部一緒に抱え込んでくれるか、柏木」


俺は目の前の柏木をじっと見つめ、言葉を紡いだ。


柏木は俺の言葉を受け、俯いて黙り込んだ。そしてなぜかプルプルしだした。


俺の記憶が正しければ柏木のこれは柏木が羞恥に耐えようとすると起こるはずなのだが…。


俺、何か変なこと言ったか?柏木の質問にそのまま返しただけなのだが。


「なぁ、柏木。俺、何か気に触ることでも」


「ぷ、プロポーズか!このアホー!」


「ぶッフぉ!」


柏木渾身の右ストレートが俺の頬を撃ち抜いた。



「あのなぁ、人生で1日に2回も気絶したの初めてだぞ…」


というか今までの人生で意識を失ったことなんて一度もなかったのだが。それを今日で2回も経験するとは。今は身体に何の不調もないが、後々響いてきたりしないだろうな?


「ご、ごめん…」


俺は気がつけばまたベッドに横になっていた。どうやら柏木の右ストレートがクリーンヒットしてしまったらしい。


隣で座っている柏木の様子を見るに反省はしているようだ。


「まぁいい!俺も勘違いさせるようなこと言っちまったしな。というか柏木、お前高援部じゃなくてボクシング部にでも入った方がいいんじゃないか?万全の状態のではなかったが、同級生の男子を一発でKOって」


「新田が弱すぎただけでしょ、もう。で、どうするの、これから」


一悶着あったあとでどこか落ち着いた雰囲気の俺たちだが、廃部の危機であることに変わりはない。


「まだ時間はある。それまでやれることを最大限やろう。今回はダメだったが次を探せばいいさ」


「そうね、私も賛成。ここで諦めて何もしないよりずっといいわ」


残された猶予期間は残りわずか。だがまだ終わっていない。依頼を探してそれを成功させることができれば高援部の活動が今度こそ認められて今ある危機を脱することができる可能性はあるはずだ。


「ところで新田さん。いつもは悪態ついてるのにあんなになるほどこの私とする高援部の活動が好きだったとは…。お、俺はまだ終わりたくねぇ!とか言ってたし〜」


はい、またライン越えの発言しました。この女。


「おい、柏木!さすがに茶化していいことと悪いことがあるだろ!確かに今思えば臭いセリフ吐いたなって思うよ?でもさぁ、それをおちょくるのは違うだろ!大体お前だってこれでもかってくらい成田に必死食い下がってたじゃねぇか。お前の方が俺より高援部大好きだろ」


「うっ、うっさいわボケぇ!別に好きで何が悪いのよ。私が何かを好きになるのも嫌いになるのも自由でしょ?それに私はあんたみたいにこっぱすがしいセリフは吐かないから」


「好きってことは否定しないんだな、このツンデレ女め」


「な、なにを〜!」



「ぶっ」

「ぷっ」


俺たちは耐えきれずに同時に吹き出した。


「はぁ、もうやっぱ面白いなぁ、新田といると」


「あぁ、俺もだ」



どこか儚くて、それでいて優しいようなこんな時間を終わらせたくない。


それを俺たちが再認識した瞬間だった。



「んじゃ、明日からまた頑張るか」


俺はベッドから出て身支度を整える。俺の荷物は柏木がプールから運んでくれておいてくれたみたいだ。さすがに今日はもうやれることはないし、身体もボロボロだ。帰ってこの身体を癒すとしよう。


「そうね、今日のところは帰りましょうか。ん〜!これでようやくテストお疲れ様会ができるわね!」


柏木は座っていた椅子から立ち、伸びをしながらそんなことを呟く。


「よし。じゃあな、柏木。テストお疲れ様会楽しんでこいよー。俺は帰るから」


「おい」


保健室から出ようとドアに手をかけた俺の腕を柏木が掴んでくる。


「一緒に行くよね!?新田くん!」



もうこの部活辞めてやろうかな。



結局俺はこのあと柏木に付き合わされ、家に着いた瞬間、人生三度目の気絶をすることになった。














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