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秘策

そして迎えた生徒総会当日。


部活動の紹介は予算案など諸々の議題が終わってから始まるみたいだ。


部活動の紹介がもうすぐ始まるので俺と柏木、そして先輩は舞台袖にて待機していた。


「つか、なんで柏木までついてきてるんだよ」


「心配なのよ。ね、本当に大丈夫なんでしょうね?秘策があるとか言ってたけどさ」


「あぁ、きっと問題ない。ちょっとズルなような気もするが、スピーチをそつなくこなし、部活動の紹介さえできればそれで良い」


俺たちの出番は先輩のあと。スピーチの順番通りに並んでいるので前には先輩がいる。様子を見るに相当緊張してるっぽいな。大丈夫だよな?話してる途中に倒れたりしないよね?少し声をかけてみるか。


「先輩、きっと大丈夫です!自信持っていきましょう!」


「ううううううう、うん。そそそそそうだよね。大丈夫だよね。だって私たちには秘策があってぇ、だからぁ、だだだだだだだ大丈夫!」


あ、これダメなやつだ。


頼むぞ先輩。スピーチ中に倒れさえしなければこの作戦は成功するはずだ。作戦は朝に先輩にも伝えておいたし、そのための準備も整ってる。


「次に部活動の紹介に移ります。南米民族楽器研究部 部長 天木かのんさん。お願いします」


え、先輩の部活ってそんなのだったの?勝手に文芸部か何かだと思ってたんですけど。屋上の練習じゃ何言ってるか分からなかったからな。ていうか先輩の名前初めて知った。


確かに名前を聞くの忘れてたな。それに自己紹介だってしてなかった。やっぱり俺たちには経験値が不足してるみたいだ。これも新しい学びだと思って次に活かせばいい。


先輩がステージに向かって歩き出す。歩き方はぎこちなく、何かのロボットみたいだった。


先輩、人の関節はもっとなめらかに動きますよ。


俺は先輩がマイクの前まで移動したことを確認してから計画していた通り、放送部員に例の合図を送った。


そしてスピーチが始まった。


「え、すごい。どうやったのさ、新田くん」


先輩のスピーチは完璧とまではいかないが、言っていることはしっかり聞き取れるし、噛むこともなくスムーズに進んでいる。


「先輩は見られてると緊張して話せなくなっちまうんだろ?なら人前で話させなければいい」


「どういうこと?だって今、全校生徒名前で話してるじゃないの」


どうやら柏木は俺がした仕掛けには気づいてないらしい。全くもって難しいことではないんだがな。


「単純なことだよ。今先輩は喋っていない。今流れているこのスピーチは録音なんだよ。今朝先輩にお願いして、スピーチを録音してもらった。で、俺がそのデータを放送委員に渡したってわけ。要するに口パクってやつだ」


「げっ、汚い。それでいいわけ?新田くんは」


「何言ってるんだよ、依頼の内容はスピーチで緊張してしまってどうにかしてくださいってことだったろ?別に先輩の人間性を矯正する必要もなければ、実際に話す必要もない。スピーチを成功させることができればよかったんだ。そりゃあ、今後緊張しないで話せるようになりたいですみたいな依頼だったら今回みたいな手法は取れなかったけどな」


柏木の言いたいことも分かる。俺もズルいことだとは分かってはいるが、これが俺が導き出した解決策だ。なにしろ時間がなかったからな。俺だって先輩が人前で堂々と話せるようになることが望ましいに決まっている。


「なるほどねぇ、確かに生徒からしてみれば口パクだなんて分からないわよね。最前列に座っている生徒とだって結構な距離があるし。新田くん、割と頭いい?」


「いいぞ、もっと褒めてくれ。晴れてこれで依頼成功だな。もうそろそろ先輩のスピーチが終わるころか。俺も先輩に続くぞ」


「ありがとうございました。続いて高校生活支援部 部長 新田将也さん。お願いします」


こちらに戻ってきた先輩にグーサインを送ると先輩は笑顔でこちらにサインを返してくれた。


高援部を作ってよかった。人の笑顔がこんなにも俺にパワーをくれるなんて。


よしやるぞ!次は俺だ!


俺はステージに出てマイクの前まで進み、礼をした。

原稿は確か左のポケットに、、ってあれ?


俺は原稿をどこかに忘れたことに気づいた。


うん、終わった。原稿なしでペラペラ喋れるほど肝座ってないぞ俺。それに昨日は柏木の股間蹴りのせいで寝たきりになってたからロクに練習もしてない。


落ち着け、俺。

俺はここぞという時に決めれる男だ。何も恐れることはない。親には将也という立派な名前をもらった。名に恥じぬ生き様を見せてやるぜ!


「え〜、ほ、本日はお日柄もよく、雲ひとつない青空で〜」




生徒総会が終わり、その日の放課後。俺は屋上に正座させられ、柏木に詰められていた。


「ねぇ、言い訳を聞こうじゃないかしら。何なのあの中身のないゴミみたいなスピーチは」


「しょうがねぇだろ、原稿家に忘れてきちまったんだよ。それに昨日は依頼で忙しかったし、お前の股間への蹴りのせいでダウンしてたんだから」


「どうすんのよ、もう!これじゃあ依頼人なんて来ないわよ!天木先輩がここに来たのだって奇跡みたいなもんなんだから」


柏木のいう通りである。天木先輩がここに来たのはおそらくレアケースだ。実際ポスターを入ってから今現在まで約1週間が経過しているが依頼人は先輩一人だけだし、高援部の噂なんて聞くとことはなかった。ぼっちなので噂は盗み聞きするしかないのだが…。


「でも高援部の存在は認知されたはずだ。あとは待つだけだ」


その時、屋上の扉が開いた。


「お、お疲れ様です」


そこに現れたのは新しい依頼人ではなく、天木先輩だった。


「あ、どうも。スピーチ、無事成功してよかったです」


「は、はい!今日はそのお礼で来ました。本当にありがとうございます。私、高援部の二人がいなかったらどうなってたか」


天木先輩の手元を見ると何か袋を持っている。お礼の品が何かなんだろうか。違ったら嫌なので黙っておこう。


「隣のこいつは何もしてなかったですけどね、って痛!お前、昨日は暴力反対だとか言ってたろ」


柏木が俺の腕を無言でつねってきた。痛いから早く離せ。


「ふふっ。本当お二人は仲良いですね」


「やめてください、俺と柏木はそんなんじゃないんで。利害関係が一致しているから一緒に行動しているだけであって断じて友情、ましてや恋心なんてものは生じないので」


俺は先輩の言葉を急いで訂正した。誰がこんなやつと。またつねってきてるし。


「素直じゃないですね。これ、お礼の品です。私たちの部室から余ってたものを持ってきました。どこかに飾ってください」


先輩は袋から謎の画面を取り出した。なんだこれ。


「これは、なんですか、、、?」


「ペルーの民族の仮面です!この前、部のメンバーと一緒に旅行しに行ってきたんです!研究って名目だったから部費から旅費が出ましたし最高でした!」


お、おう。なんだか反応に困るものをもらってしまった。まぁ、この部室兼屋上にはベンチ以外何もなくて寂しかったし、フェンスにでも引っ掛けて飾るとするか。


「あ、ありがとうございます。大切にしますね」


「わたし、これからもたまにここに遊びに来てもいいですか?ここにいるとなんか落ち着くんです。多分、新田くんと柏木さんのおかげ…。二人の暖かい人柄がそうしてると思うんです。だから、その、私とお友達になってくれませんか?」


あ、天木先輩…。女神は実在するらしい。もちろん俺に断る理由はない。握手を求める天木先輩の手を俺は握り返そうとする。


「もちろん、よろこ、」


「もちろん!喜んで!」


柏木が割り込んできた。おい、今どう考えても俺に言ってただろ。天木先輩はな、お前みたいな残念女には似合わない。早くその手をどけろ。


「お、おい。天木先輩は俺にだな、」


「はい!こちらこそお願いします!」


どうやら俺の初めての友達ゲットの機会は柏木に奪われたらしい。さようなら、俺はもう終わりです。


あ、そうだ。ここから飛び降りよう。なんて素敵な部室なんだ。こんなにすぐそこにユートピアがあったなんて。しょっちゅうフェンスによじ登っていた柏木の気持ちが今理解できた。


「ちょ、ちょっと新田くん。何やってるんですか!」


「天木先輩、放っておいてください。俺はユートピアを見つけたんです。この柵を越えればそこにユートピアが」


「柏木さん、早く新田くんをフェンスから降ろしてください!私の数少ない友達なんですから!死なれると困ります」


え、今なんて。俺のことを友達だって言ったか?


「俺、天木先輩の友達だったんですか?」


「さ、さっきお願いしたじゃないですか。私の手、握り返そうとしてくれてましたよね?つまりはオーケーしてくれたってことでしょ?」


「だ、だって、それは柏木が」


「あれは二人のどっちともお友達になりたいって意味です!」


そうだったのか。ってことは晴れてぼっち卒業ってこと!?


あぁ、高援部よ、ありがとう。俺は今猛烈に感激している。これこそが俺の夢見た未来。


冷静さを取り戻した俺は静かにフェンスから降りた。


「そうだったんですね。俺だけ仲間外れにされたのかと。ぜひ、またここにいらしてください。俺たちどうせ暇なんで」


「はい、また遊びに来ますね!私は友達は少ないですけど、できるだけ高援部のこと周りに話してみます!こんな部活があるんだぞってこと、私も他の人たちに知って欲しいので!」


そして天木先輩は屋上を去った。

俺は伸びをしてからベンチに腰をかけた。


これで一件落着か。最初の依頼にしては上出来だったんじゃないか?それに当初の目的である友達づくりだって成功したわけだし。スピーチの失敗さえなければ順調すぎるスタートだ。


「な、柏木。この後飯でもどうだ?帰り道、途中まで一緒だったろ?」


今日は記念すべき日だ。こういう日は打ち上げをするに限る。


「いいわよ、別に」


柏木もそういう気分のようだ。普段なら一緒に帰ることすら断るからな。このツンデレ野郎め。


そして俺たちも屋上をあとにした。

こうして高援部初めての依頼が幕を閉じた。

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