番外編 2年目のクリスマス 第二話
10分が経った。さて、あいつら三人を見つけに行くか。
俺は部室から出て、三人が隠れそうな場所を考えながら歩く。
昨年もそうだったが、クリスマスの放課後の校舎は閑散としており、いつもと比べて人気が少ない。冬の冷たい空気も相まって、どこか哀愁が漂っていた。
「まずは分かりやすい柊からだな」
柊は今年の5月に入部した一年の後輩。紆余曲折あって今に至るが、やつの思考の単純さはこの半年で嫌と言うほど理解しているつもりだ。
「おそらくやつの居所は特別棟だな」
俺の推理はこうだ。まず、単純なあいつは俺がいるこの校舎にとどまることはしないだろう。すると、考えられるのは特別棟か体育館、校庭のどこかだが、根性なしのあいつのことだ。身の凍える場所で隠れ続ける根気などないに決まっているから、比較的暖かい特別棟のどこかにいるだろう。
俺は特別棟へと歩みを続けた。
◇
特別棟への渡り廊下を歩いていると、こちらに向かって歩いて来ている女子生徒が一人。
「あら、新田さんじゃないですか」
「誰かと思ったら天木先輩か」
女子生徒の正体は元南米音楽研究部部長の三年の天木かのんだった。
「お久しぶりですね。新田さんは元気してましたか?」
「はい。先輩は放課後に何を?部活はもう引退したんですよね?」
「クリスマスだから部活のみんなに差し入れをと思って。あ、新田さんも食べます?高援部の皆んなにもと思ってクッキー作ってたんです」
そう言ってブレザーの内ポケットから6個のクッキーが入った袋を取り出す天木先輩。そして、俺はそれを受け取った。
「ありがとうございます!天木先輩、クッキーとか作るんですね」
中に入っていたのはプレーンのクッキーとチョコレートのクッキーが3個ずつ。焼き色がいい感じについていて、美味しそうだ。
「えぇ、結構こういうの好きなんです。どうぞ皆さんで召し上がってください。では、また」
「はい。お疲れ様です」
天木先輩と別れた俺は、もらったクッキーへと目を移す。
「少なくとも一人はこの特別棟に隠れているようだな」
クッキーの枚数はプレーンとチョコレートが3個ずつで総数が6個。対して俺たちの部員数は4人だ。となると個数が半端だ。俺たちのことをよく知っている天木先輩なら味ごとに4個ずつ焼いてきてくれるはず。おそらく特別棟で先輩と会った部員の一人がその場で一枚ずつクッキーをご馳走になったんだろう。「新田さん"も"食べます?」とか言っていたし。誰だ?天木先輩に一芝居打たせたやつは。おそらく俺とすれ違っても自分のことは黙っているように言ってあるんだろう。
「ていうかそろそろ天木先輩ともお別れかー。時間の流れは早い」
いつの間にか天木先輩はもう三年で俺は二年。しかも三年生は2月から自由登校になるから学校で会えるのも来月が最後だ。
そんなことを考えながら俺は特別棟の階段を上がる。
おそらく天木先輩に一芝居打たせた犯人は南楽研の部室にいるな。部室から特別棟までは約3分程度でこれる。そして俺が待った時間は10分。南楽研の部室から渡り廊下までの天木先輩の移動時間を加味すると、犯人が移動の最中に先輩と出くわす可能性は低い。つまり犯人は南楽研の部室で天木先輩と顔を合わせていたはずだ。
「さて、答え合わせとしようか」
俺は南楽研の部室のドアをノックする。
「はーい」
中から声がして、扉があいた。
「あら、新田先輩。一体どうしたんですか?」
対応したのは南楽研の一年 黒田未希。以前、天木先輩経由で俺たちが黒田の依頼を受けたことがあったな。
「いや、うちの部員の誰かがこっちに顔を出していないかと」
「いえ、誰も来てませんけど」
俺は部室を覗き込む。すると真ん中のテーブルに空のティーカップが一つと中身が入っているものが2つあるのが目に入る。
「黒田、お前今日は一人か?」
「そ、そうですけど」
「ならなんで、カップが3つもあるんだ」
「そ、それはさっきかのん先輩たちが遊びに来てたから」
「ふーん。でも残ったカップのうち二つはまだ中身があるようだが」
「ほ、本当です…!高援部の人なんて誰も来てませんって!」
露骨に動揺し始める黒田。
「本当か?ちなみになんだが、これ、天木先輩から貰ったクッキーなんだけど、うちの部員に向けての差し入れだとしたら丁度一人分少ない気がするんだが…」
「う、うるさいです!そんなのかのん先輩がたまたまその個数しか用意しなかっただけでしょ!」
「ははーん、やっぱ誰か来てたんだな。黒田は分かりやすくて助かる」
そう言って俺は部室へと上がり込む。
「ちょ、ちょっと!不法侵入ですよ!新田先輩。今すぐに帰ってください」
この部屋で隠れられそうな場所は掃除用具入れぐらいしかなさそうだな。
「ここ、開けるぞ」
「ちょ、新田先輩!」
俺はゆっくりと掃除用具入れを開けようとすると、逆に中から勢いよく扉が開き、俺の顔面へ扉が直撃する。
「おい未希!もっと上手くやれるだろうが!お前のせいで見つかっちゃったじゃないか」
扉から出てきたのは、俺が特別棟に隠れたと予想した花井柊だった。
「しょうがないでしょ!ていうかうちの部室なんて新田先輩なら絶対目つけるに決まってるじゃないの!私のせいにしないで」
「お、おい、柊。見つかったのを可愛い幼馴染のせいにするより先に、怪我をさせてしまった先輩に謝罪するべきなんじゃないのか」
俺は鼻から流れる血を手で受け止めながら柊へ説教をする。
「いいえ、開けようとした先輩が悪いです」
「こら!そうやってまた人のせいにして!柊は昔からそうなんだから!謝りなさい」
黒田は言い訳をして逃れようとした柊の頭を叩き、奴の頭にタンコブを作る。
「先輩、す、すみませんでした…」
「あ、いや、もういいって…」
黒田にしばかれてすっかり萎んでしまった柊を見ていると、まるで普段の自分のようで同情してしまった。
「柊よ、この学園の女は強い女が多いな」
「えぇ、全くです」
「何よ、二人でコソコソ話して」
「「いいえ、なんでもありません」」
やはり俺たちは同族なのかもしれない。
ということで開始早々、柊を見つけることに成功した俺であった。




