番外編 2年目のクリスマス 第一話
今年もやってきたクリスマス。今日はその前日のイブだ。
かくいう俺はというと、特段予定もなく、ただただ部室で放課後を過ごしていた。早くも2年の二学期終盤。一年前の今ごろは冷たい空気が頬をかする屋上の踊り場が高援部の拠点だったが、今ではちゃんとした部屋が部に与えられ、今年の冬は寒さに凍えることはない。
俺は部室の窓から下校していく生徒たちを見つめる。
その生徒たちの表情は様々だが、やはり笑顔な生徒が多い。
浮き足立っている人間たちを眺めていると、自ずと自分もそわそわしてくる。今さら何かを期待しているわけではないのだが。いや、少しは期待しているからこそ俺もクリスマスとやらに触発されているのだろう。
俺はそんな自分に少し嫌気がさし、ため息が出た。
「新田先輩、ため息やめてください。こっちまで気が滅入るので」
俺のため息に反応したのは、同じく予定もないままに部室でだらだらと時間を浪費する、一年の花井柊。
「お前のそのネチネチした指摘のせいで俺の気の方が滅入った」
「あの、普通にイライラするんで、屁理屈やめてください」
「え?お前なにピリピリしてんの?まさか彼女いない現実の苛立ちで俺に八つ当たりしてる?」
「は?そうは言ってないじゃないですか。そういう屁理屈が気に障るからやめろって言ってんですよ。分かったらささっとその口閉じてください」
俺たちが歪みあっていると部室の扉が開いた。
「おつかれー。って、あんたらまた喧嘩してんの?」
現れたのは柏木芽依。2年からは俺とクラスが別なせいで部室にくるタイミングが若干前後するようになった。
「あぁ。そこの眼鏡がネチネチうるさくてな。ってあれ、今日は鹿苑は一緒じゃないのか」
今年から鹿苑は柏木と同じクラスで、大体二人は一緒に部室へと来る。今日は違ったみたいだが。
「そのうち来るわよ。ケーキ取ってくるって」
「あー、今朝話してたやつか」
「そうそう」
鹿苑が親の知り合いの店でケーキを注文してくれたらしく、それを登校前に受け取って、家庭科室の冷蔵庫で保冷してあるとのこと。それを取りに行っているようだ。
「ケーキってホールケーキですか?」
柊が柏木に問う。
「いや、一個一個のやつ。ちゃんと人数分あるけど、味は別々らしいからジャンケンね」
そう言いながら柏木は俺の対面のソファに腰を下ろす。
「てかなんでまた喧嘩してたの?」
「さっきも言ったろ?そこの眼鏡がいちいち口うるさいんだよ。ため息ついただけでぐちぐちぐちぐち」
「先輩は自覚ないんですよ。周りのテンション下げるようなこと、結構してますからね?」
呆れた様子の柏木が俺たちに割って入る。
「おいおい…。なんであんたたちはそう仲良くできないのかしら。同族嫌悪ってやつ?」
「「誰が同族だ」」
不意に柊とハモってしまい、俺たちが同族なことが証明されてしまった。
「やっぱ同族なんじゃん」
すると、再び部室の扉が開いた。
「皆さんお待ちかねのケーキですよ!」
そういって登場したのは鹿苑茜。
「ってあれ、何ですかこの空気」
「いつものあれよ。またくだらないことで二人が喧嘩してたの」
「まぁまぁ、ケーキでも食べて仲直りしてください」
鹿苑は柏木と同じソファに座り、テーブルの上にケーキの箱を置いた。そして、その中には4種類のケーキ。チーズケーキ、チョコレートケーキ、モンブラン、ショートケーキ。
「みんなは何食べたい?」
柏木が俺たち三人に問う。
「俺はチーズケーキ」
「俺もチーズケーキです」
「私もチーズケーキが…」
「え、私もチーズケーキ…」
鹿苑なりに個人個人の好みがあるだろうと、様々な味のケーキを用意してくれていたようだが、逆にそれが仇となったらしい。
「で、どうするよ」
俺はチーズケーキを見つめながら三人に聞く。
「まぁ、ここはジャンケンでいいんじゃない?」
そう提案するのは柏木。
そこに柊が神妙な面持ちで切り出した。
「本当にジャンケンでいいんですか?俺はジャンケンなどという運が大きく絡む博打に近い遊戯でチーズケーキの所有権を決めたくはない!」
柏木は柊の異様なチーズケーキへの熱量に気圧される。
「え、急にどしたの…」
「俺も柊に賛成だ。俺は運が極力絡まない方法で自力でチーズケーキを掴み取りたい。そして、勝利の愉悦とともに極上の甘味を味わいたいんだよ…」
俺は胸に手を当て、自身の思いを吐露した。
「芽依さん、またなんか始まりましたよ」
「えぇ。全くうちの男どもは。変なところでこだわり強いのよね」
ゴホン。
俺は軽く咳払いをし、言葉を続けた。
「ということで、チーズケーキはジャンケンではなく、別の方法で決めようと思う。何か意見のあるものはいるか」
すると、柊が一番に手を挙げた。
「俺は腕相撲対決がいいかと」
「そうか。却下だな」
俺は柊の案を颯爽と切り捨てる。
「な、なんでですか!」
「いや、どう考えてもそれは男女で不公平だろ。筋肉量という点で俺たち二人と女子二人では明らかな差がある」
「新田、たまにはいいこと言うじゃん。そうよ、やるからにはちゃんと平等なゲーム性は担保してほしいわね」
「あぁ、お前ら女子二人と腕相撲なんてした日には骨が砕けかねないからな。ゴリラと人間じゃあ腕力が違いすぎる」
「「死ね」」
ボコッ!
「よし、仕切り直して他の案があるものは」
俺は頭に二つタンコブを抱えながら、改めて問う。
「えー、もう鬼ごっことかでいいんじゃない?」
「子供かよ。それに鬼ごっこだとそれも男女のスタミナ差が関係してくるだろ。身体じゃなくて頭を使う方でだな」
すると、鹿苑が何か閃いたようで、威勢よく手を挙げた。
「鬼ごっこと似ていますが、かくれんぼなんてどうでしょう!」
「だから子供かっての。まぁ、かくれんぼなら体力より頭を使いそうだな」
「はい!それに私、そういった遊びは子供のころにしてこなかったので、ぜひやってみたいです」
鹿苑は目を輝かせながら俺を見つめる。
「ま、まぁ、鹿苑がそこまでいうなら俺はいいけど。他の二人は?」
二人も鹿苑の押しに負けたのか、ゆっくりと頷いた。
「じゃあ、かくれんぼということで。ルールは…そうだな。鬼が全員見つけたら鬼がケーキを。隠れる側は最後まで鬼に見つからなかったやつがケーキをってことにしよう。場所はこの学園内。制限時間は二時間ってところにしとくか」
「でも鬼が全く隠れる側を見つけられなかったらどうするんですか?」
鹿苑が俺に食い気味に迫る。
「そうなったら鬼を除いたやつらでまた何か別のゲームで決着つければいいだろ。とりあえずかくれんぼしようぜ。なんか俺、わくわくしてきたんだけど」
もう早くかくれんぼしようよ、かくれんぼ。大人になってからやる子供の頃の遊びってなんだかんだ面白いんだよな。
「新田先輩、ガキっすね」
「こういうのに本気にならないやつの方がガキだ。遊びは本気でやってこそ楽しいんだよ」
「これに関しては私も新田派。柊くんはもうちょっと頭柔らかくした方が人生楽しいわよ」
「では早速かくれんぼしましょうか!鬼は誰がやります?」
「さすがにこれはジャンケンでいいだろ。負けたやつが鬼で」
俺の発言に三人が賛同し、鬼を決めるジャンケンを行った。そして鬼になったのは…。
「やっぱり俺かよ…」
「新田ってほんとジャンケン弱いわよね」
「お前も俺に次いで弱いじゃねぇか。まぁ、いい。逆に燃えてきた。そうだな、10分待つ。その間に校内のどこかに隠れろ。それと、場所を変えるのは禁止な。二時間隠れ通すことができる場所を各々選べよ」
「「「はーい!」」」
そして三人は部室を出ていった。
「今ならチーズケーキ食べてもバレないよなぁ」
そんなことを考えながらも実行には移さず、俺はかくれんぼの方へと意識を集中させる。
「ま、あいつらの隠れる場所なんて大体検討がつく。ふっ、チーズケーキは俺のものだな」
番外編 2年目のクリスマス 第二話へと続く




