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世界一カッコ可愛い彼女(正真バトル編第七話)

いよいよ秋元の出番が回ってきた。


先ほど、お題である[夜の遊園地で告白を!]においての最適解のような模擬デートをしてみせた赤城慎之介。


対する秋元凛花は赤城のシナリオを上回るデートを披露できるのだろうか。


「柏木、お前なら赤城のデートをどう超えるよ」


「正直に言うと何も思いつかないわね。あんなの見せられた後じゃ、やり辛いったらありゃあしないわ」


「やっぱそうだよなぁ」


俺たちは頭を悩ませながら、初戦を託したステージ上の秋元を見つめていた。


「お、いたいた」


そう言いながら舞台袖に現れたのは、晴れて秋元凛花の彼氏になった男、吉村大輝よしむらだいき


「おぉ、吉村か。久しぶりだな」


「よっす!」


吉村は笑顔で手を振りながらこちらに歩み寄ってくる。

あまりにも呑気な登場だ。吉村は壇上に上がっている秋元への心配はないのだろうか。


「ちょっとあんた。凛ちゃんが今頑張ってるのになんでそんなに飄々としてんのよ」


柏木も同じように考えていたようで、俺と同じ感想を口にした。


対して吉村は、そのことを突きつけられても平然としていた。


「いやさ、心配ではあるんだよ?実際、凛花ちゃんは緊張しいだし。でも、彼女が負ける未来があんま浮かばなくてね」


「というと?」


俺は吉村にその訳を問う。


「だって俺の彼女、世界一カッコ可愛いいから」


爽やかな笑顔で自信満々に答える吉村。


「けっ。いつの間にか彼氏ヅラかよ。まぁ、そこまで言うなら、俺たちは黙って見守るとするか」

「ふふっ。そうね」


「ははっ。もう彼氏だからね」


俺たちは言葉通り、秋元を静かに見守ることにした。



『さて、これからチーム高援部 秋元選手による恋愛シミュレーションの始まりです!果たして、先ほどの赤城選手のデートを超えることはできるのでしょうか!』


ついに始まる。私の模擬デートが。


落ち着け私。私は素のまま戦うって決めたんだ。変に気張らなくていい。そう、凛花。私は自然体でいいの…!


「きょ、今日は楽しかったぜぇい…。さ、さぁあえちゃんはどどどどうだったぁ?」


「そ、そうだなぁ。た、楽しかったかな。あはは…」


『おぉっーと!秋元選手、なんか言葉がふにゃふにゃしています!あまりの緊張に初手から自分が心臓バクバクだぁ!!』


「おい。お前の彼女、どこら辺が世界一カッコ可愛いんだ?今にも泡吹いて倒れそうだぞ」


「え、だってこういうところがめっちゃ可愛くない?普段はツンケンしてるオーラ放ってる割に意外にポンコツなところが」


「それは俺たちが普段の秋元を知ってるからこそ生まれるギャップだろ!審査員の顔見ろ!挙動不審なボーイフレンドにめちゃくちゃ引いてんだろうが!」


秋元凛花は自然体を意識するあまり、逆に空回っていた。


やばい、何言ってんだろ私。明らかに紗英さんのテンション下がってるじゃん。赤城さんの余韻ぶっ壊されてちょっと萎えちゃってるじゃん!


そ、そうだ。私も何かのアトラクションに誘っていい感じの雰囲気になろう…!


「そ、そうだぁ。最後にあれ行っときますか?」


秋元が指差したアトラクションは苦手な人はジェットコースターよりも苦手なあのアトラクション。


「え…、あれでいいの?」


『秋元選手!なんと赤城選手に対抗して選んだアトラクションはコーヒーカップだ!確かにカップルで遊ぶことは多いアトラクションですが、回るカップの上で告白の雰囲気を作ることができるのでしょうか!』


「おい、なんだあの絵面。黙々と二人でカップを回し続けてるぞ。なんで何も喋らないんだ」


俺の問いに答えるのは坂野。


「おそらく気まずい雰囲気の中でやるべきことが与えられたせいか、二人ともそこに没頭することで気まずさを解消しようとしてるんだろ」


いや絶対気不味いだろ、あれ。


「例えるならそう…。あれは不仲な二人が偶然一緒のシフトになってしまい、淡々と仕事をこなすアルバイターと一緒ですよ。真摯に仕事に取り組むことで、会話をする余地をなくし、お互いあたかも別に気不味くないよ感を醸し出しているんです!」


得意げに解説し出す鹿苑。

そこに付随して松浦先生も解説口調で何かを語り始める。


「あぁ。キッチンの秋元は黙々と料理を完成させ、それを受け取ったホールの溝口審査員はスピーディーに料理を客へ提供する。その間で生じる会話など、「これ○○番の卓だから」ぐらいしかない!仕事上に必要な会話は逆にしっかりすることで、より気不味さは解消できる。そして、意外にも無駄話をしないこの二人の組み合わせのシフトのとき、店はいつもより回るんだ!」


いや、今回ってんの店じゃなくてコーヒーカップ!

ていうかこの解像度、明らかに不仲なバイト仲間いたよね、この人たち。


「ねぇ、新田。あーちゃんってバイト経験ないわよね?なんであんなに実情に詳しいのかしら」


「おそらくバイト以外で似たような経験があるんだろ。あまり触れてやるな」


俺は少し悲しい気持ちになりながらステージへと目線を戻した。


『黙々とカップが回っています!なんということでしょう!未だかつてないほどのコーヒーカップの回り様です!これは乗っている二人の三半規管に大きなダメージを及ぼしそうだぁ!!』


「あ、あの〜!凛花さん!私これ以上回すとちょっとやばいです。気持ち悪くなってきました」


「え?何ぃ?紗英ちゃん聞こえないんだけど?」


「だからぁ!私これ以上回すとやばいです!胃の中のもの、"ポイ"しちゃいそうです!」


「え?"恋"しちゃいそうです??」


嘘、紗英さんは恋しちゃいそうなの?この私に?これ以上回すと恋しちゃうってどういうこと?紗英さんはコーヒーカップを回しまくれるような男の子が好きなのかな。


「そんなこと言われたらもっと回すしかないじゃん!」


『秋元選手!溝口審査員の言葉を振り切り、まだ回します!止まりません!秋元選手の腕が!手が!止まることを知りません!』


「ちょっと!本当やばいですから!私やばいですから!」


もっと回せってことね!

私こう見えて女子の中では力ある方なんだから!


「いっけー!!!!」


私は限界を超えてカップを回しまくった。


その時。紗英さんの口から胃の中のありったけのものがカップの上に、私の上にポイされた。


※実際に溝口審査員は吐いていません。仮想の遊園地のように、観客にはそう見えているだけです。


『は、吐いたー!溝口審査員、思わず嘔吐です!もうこれはデートどころではない!先鋒戦、勝負ありかー!?』


どうしよう、こんなことになるなんて…。


私は汚物に塗れてしまった目の前の紗英さんを慌てふためく。


こんな時、吉村なら。いや、私なら…!


「り、凛花さん。ご、ごめんなさい…。服が…」


「いや、こんなの別にどうってことないよ。それよりも紗英ちゃんの方が汚れてるから」


そう言いながら秋元は自身のポケットに入っているハンカチに手を伸ばし、汚れてしまった溝口の顔まわりや服を拭いて綺麗にしていく。


『秋元選手、一切躊躇わない!誰しも嫌がるであろう吐瀉物の後処理を何も意に介さず、進んで行っている…!』


「こ、これは…!」


坂野が驚愕の表情で声を出す。


「秋元凛花、なんてやつだ。あえて相手に吐かせ、その汚物を処理することで、逆に好感度を爆上げさせただと…!」


いや、あえてじゃないよね。なんかもともとこういう作戦でしたみたいになってるけど、ただの聞き間違いだよね。


「やるな、凛花ちゃん。これは例えるなら、修学旅行のバス…!いつもは清楚で可愛いあの子が車酔いで吐いてしまい、その可愛いあの子から出たとは思えないグロテスクなものを誰が処理するか悩んでるところに、率先して先生と一緒に片付けるクラスメイトの男子!」


今度何かに例え出したのは吉村。


いや、お前の彼女とんでもない事件起こしてるんだけど。彼氏として反省の気持ちとかはないの?


そしてまたもやそこに付随する松浦美希。


「あぁ。溝口審査員は普段、クラスメイトである秋元から意地悪をよくされていた。だがしかし、意外にも自分の汚物を抵抗なしに掃除してくれたのは悪ガキの秋元だった…!そのいつもとのギャップで好感度の増幅は余計に跳ね上がる!それと同じことをこの模擬デートで秋元はしてみせた。まさか私の遊園地デートの体験談からヒントを得るとは。大したやつだ」


参考になるとは言ってたけど!

ていうか溝口紗英のことを労るやつはいないのかよ。めっちゃ可哀想なんだけど!


「新田さん。溝口さん、すごく可哀想ですよね…」


俺の肩に手を置いてそう語るのは鹿苑。


「鹿苑は分かってくれるか。あいつら全員鬼だぞ。女子が吐いてるっていうのに、そんなの無視で後方腕組みして解説し出してるからな」


「ははっ。新田さんは私がああなったらどうします?私のゲロ、拭いてくれますよね?ねぇ?」


鹿苑さん?目が笑ってないんだけど。なんかいつもと様子が…。


「あ!そろそろクライマックスじゃない?」


鹿苑の様子を訝しんでいるところに、柏木の声が飛んできた。俺たちは改めてステージへ向き直る。


二人はコーヒーカップを降りて、近くのベンチに場を移していた。


「凛花さん、ごめん。すごく汚かったよね。今すぐ手洗ってきて。そのハンカチも服も後で弁償するから」


「ううん、汚くなんかない。このハンカチだって服だって洗うなりすれば元にもどるよ」


「嘘だよ…。汚いに決まってるよ。だから大丈夫。そうやって私に気を遣わなくても…」


秋元は自身を卑下し続ける溝口を抱き寄せ、互いの唇を触れ合わせた。


しかし、ほんの少しの触れ合いのあと、溝口は秋元を突き放した。


「っつ!き、汚いよ!私、さっきゲ…、ポイしたばっかりだから!」


「こうでもしないと信じてくれないでしょ。俺が紗英ちゃんを好きだって気持ち」


「えっ!」


『なんと!ここで秋元選手の告白だー!あえて吐いた後の口にキスをすることで、相手への揺るぎない気持ちを証明してみせた!』


「俺は好きな人のものならなんでも受け止めてあげたい。それがいい部分でも悪い部分でも。これが俺の気持ち。紗英ちゃんの気持ち、聞いてもいいかな」


『攻める!秋元選手、ここぞというばかりに攻めます!』


「わ、私も!凛花さんのことが好きです!」


そして再び、秋元と溝口は唇を交わした。


『落ちたー!ゲロ吐いたのに落ちたー!とんでもない結末!とんでもない大どんでん返し!誰がこの結末を予想したでしょうか!想い人の汚い部分まで愛するその深い愛!観客の皆さん同様、私にも感極まるものがあります!』


「いやー、本当すごい結末だったわね。新田はこんなシナリオ予想できた?」


「こんなの予想できるわけねぇだろ」


「でも、やっぱりうちの彼女はカッコ可愛いかったでしょ?」


調子づいて偉そうに曰う吉村。


「その彼氏ヅラやめろよ。なんか腹立つ」


「だからもう彼氏なんだってば」


そんなくだらない言い合いをしていると早速、溝口審査員による勝敗のジャッジが下されるようで、赤城と秋元。そして審査員の溝口が登壇していた。


『それでは、この白熱した先鋒戦の勝者を溝口審査員に決めてもらいます!溝口審査員、よろしくお願いしまぁす!!』


溝口は左右の赤城と秋元の腕を掴み、勝者の腕を高らかに挙げた。


『先鋒戦勝者は…チーム高援部 秋元凛花ぁ!!!』


「「「うぉぉぉぉおおおおお!!!!」」」


下馬評を大きく覆す秋元の勝利に会場は湧きに湧く。


『溝口審査員。秋元選手を選んだ理由、聞かせていただいてもよろしいでしょうか』


「はい、赤城さんの王道な告白もすごく良かったんですけど、秋元さんの斬新かつ男らしい告白の方がより私の中で響きました!本当に二人ともすごくカッコよかったです!」


試合後の批評を終え、先鋒戦の幕は閉じた。


「うぉぉお!!!秋元の勝ちだ!やったなお前ら!」


柄にもなくはしゃいでしまった俺は、柏木たちにハイタッチを迫ろうとするが、それを止められる。


「その手、私たちより先に交わす相手がいるでしょ」


柏木の言葉にハッとし、俺はステージ側へと体を反す。


そこには凛とした佇まいの、俺たちの友が一人。


「新田、やってやったよ」


「さすがだな。世界一カッコ可愛い彼女さん」


俺と秋元はこれでもかという力強いハイタッチを交わし、高援部の初戦勝利の喜びを分かち合った。


「ふっ。てかなにそれ」


「いやお前の彼氏さんがな、俺の彼女は世界一カッコ可愛いから負けるはずがないってさ。わざわざ舞台袖まで駆けつけてきたんだよ」


俺は後ろの吉村の方へ指を向け、秋元に吉村の存在を伝える。


「吉村!来てくれてたんだ!」


「当たり前でしょ。凛ちゃん、めっちゃカッコ可愛いかったよ!」


吉村の言葉に秋元は照れてしまったのか、顔を赤くしながら吉村を小突く。


「て、てやんでい!」


「ぶはっ!…ほ、ほら。カッコいいと思ったらこういうとこが可愛いよね」


小突くっていうかドツくだな。


「いや、流血しながら言われても…」


困惑する柏木。


「何はともあれ、私たちは勝ちました!この調子で3勝して、ホストクラ部なんかけちょんけちょんにしてやりましょう!」


秋元の勝利が余程嬉しかったのか、普段はクールな鹿苑が感情を昂らせて意気込む。


「そうだな!次も勝つのは俺たちだ!」


「「「「「おー!!」」」」」


勝利を喜ぶ俺たちだったが、その後ろで松浦美希と坂野の二人が言葉を交わしていた。


「今回のは偶然の勝利だと僕は思いますがね」


「私はそうは思わん。あの子たちなら本当にホストクラ部に勝つかもしれんよ」


「いや僕は」


「お前はあの子たちに負けてほしいのか?」


僕の言葉を遮り、松浦美希は真剣な面持ちで言う。


「いや、お前は妬ましいんだろ。未来あるあの子たちが。いつまで過去に囚われてる」


「僕はそんなつもりじゃ」


「いやそうだ。知っているぞ?お前が裏で糸を引いて高援部とホストクラ部の正真バトルを取り付けたことくらい」


松浦美希は彼女が知るはずもない事実を僕に突きつける。しかし、僕は驚くことはしなかった。


「はぁ。先生は全部お見通しなんですね」


「ふん、先生だからな。うちのバカたちは扱いやすかったろ。なんせすぐ熱くなるからな。お前はそうなるように自身の過去をアイツらの前で話し、東雲とぶつかり合うように仕向けた。ま、お前がしたのはそれだけで、それ以降のホストクラ部との繋がりはないようだが」


本当にこの教師は何でも知っている。


「その通りですよ。本当に彼らを動かすのは簡単だった。このこと、彼らはまだ知らないんですよね?」


「安心しろ。他言はしてない。だが、いずれ話すべき時が来たら話すことを私は勧める。それがお前のためにもなるはずだ」


「来ないですよ、そんな時」


「いや来るよ」


そう言い残し、松浦美希は新田将也たちの輪の方へ入っていった。


「松浦先生、メガネ先輩と何話してたんですか?」


俺は松浦先生に言葉をかける。


「いや、別にどうでもいいことだよ」


「はぁ、何それ。ていうかメガネ先輩もこっち来なさいよ!みんなで凛ちゃん胴上げするから。あ、どさくさに紛れてお尻とか触っちゃダメだからね!ていうかやっぱ男子は胴上げ禁止。女子だけでやるわ。でも吉村くんは良いわよ。どうせ将来、尻だけじゃなくて乳とかその他イヤらしい部分に触るだろうし」


相変わらず柏木の言うことはめちゃくちゃである。

柏木の言葉を受けて、秋元は言葉を返した。


「あのサラっと爆弾発言するのやめて?」


そんなこんなで先鋒戦は俺たち高援部の勝利に終わり、ほんのひと時ではあるが、俺たちは勝利の余韻に酔いしれた。


そして、そんな輪の外で坂野は一人呟いた。


「ほんと、羨ましいよ」



正真バトル編第八話に続く。

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