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ラッキースケベに代償はつきもの(正真バトル編 第五話)

「さて、役者が出揃ったことだし、これから作戦会議を開始する」


俺たちに3人に松浦先生と秋元凛花の2人が加わり、坂野も交えて計6人での話し合いが始まった。


俺は屋上踊り場横の物置からホワイトボードを引きずりだし、今から行うことを書き出していた。


「まず考えるべきことが先鋒から大将までの出場順だ。基本的には実力のある人間から大将副将と据えていくべきだと思われるが、実はそうではない」


俺は先鋒から大将までの、5人の名前を入れるための表を作った。今からこの表を話し合いで埋めていく。


「それはなんでなの?」


柏木は顎に手を当てて頭を傾げる。


「よく考えてみろ。相手が大将に実力のあるやつを据えていた場合、俺たちもそこに一番力のあるやつをぶつける必要はない。確実な一勝をもぎ取るためには弱いやつには強いやつをぶつけ、強いやつには弱いやつをぶつける。これが一番勝率を高める出場順だ」


俺の説明を受けて、頷く一同。しかし、うちのフィジカル担当の馬鹿だけは未だに首を傾げており、理解していないようだった。


「つまり、捨て駒を配置するということですか?」


手を挙げて発言したのは鹿苑。


「あぁ、その通りだ。俺たちは全勝する必要はない。確実に3勝をもぎ取り、勝負に勝つ」


ようやく理解したのか、納得した様子の柏木。すると柏木が手を挙げて言葉を飛ばした。


「じゃあ、新田は捨て駒ね!」


俺は持っていたペンを柏木に向かって投げつけた。

ペンは柏木のおでこにあたり、柏木はベンチから転げ落ちる。


「ちょっと!痛いじゃない!」


「うるさい。新田さんの心の方がもっと痛がってるぞ」


おでこをさすりながら体勢を戻す柏木を横目に、今度は秋元が手を挙げて発言をする。


「どうぞ、秋元くん」


「あのさ、私は初戦がいいんだけど」


「それはなんでだ?」


俺は秋元に聞き返す。


「いや、私ってプレッシャー弱いから、大事な一勝がかかった場面だと力を発揮できないような気がして…」


確かに秋元凛花という人間今まで見てきて、それはそうだなと納得がいく。個人の性格に合わせての配置も重要になってくるか。


「分かった。秋元は先鋒に決定だ。異論のあるやつは?」


特に反応がなかったので、俺は全員が了承したと受け取る。


「よし。決まりだな。実力云々は度外視で先鋒は決めたが、これからはしっかり考えて決めていくぞ」


ここは大将から決めた方が軸ができて配置を決めやすいか。


「では次に決めるのは大将だ。正直俺は大将には東雲が必ず出てくると睨んでいる」


「それまたなんでよ」


質問の主は柏木。俺はその疑問に淡々と答える。


「あの男のことだ。やつの気質からして大将を他の部員に譲るわけがない。自分が一番だと思っているし、俺たちの誰にも負けるつもりもないだろう。だから華を飾るために、やつは必ず大将で出てくる」


東雲を知らない秋元を除いて、全員が妥当な予想だろうと頷いてみせた。松浦先生はあの場にはいなかったが、あんなド派手な生徒を長年この学園に勤めている先生が知らないわけがない。


「僕もやつは必ず大将で出場すると思う」


今度の発言の主は坂野。得意げに眼鏡に手を当てながら話し出す。


「新田くんの考えでいけば、大将には捨て駒を当てるつもりということになるが…。新田くん、君は誰を捨てるつもりだ?」


「え?柏木だけど?」


俺はノータイムで答えた。すると、先ほど柏木に投げつけたはずペンが俺の顔面へと帰ってきた。


「何してくれてんだバ柏木!」


俺は柏木に向かって怒鳴る。


「ふんだ。先にやったのは新田だもん」


そう言ってそっぽを向く柏木。


「こら!お前らはそうやって喧嘩しかできんのか」


松浦先生は少し呆れた様子で話す。


「先生!あいつ、ああやっていつも私をいじめるの!悪いのはいつもあいつよ!」


「芽依だって新田のことをよく小馬鹿にしているだろう。お互い様だ」


松浦先生の言葉で少し冷静になったのか、柏木はもとの自分の席へと戻った。


「もういい。大将はじゃんけんで負けたやつにしよう。一番もってないやつが一番この中で力がないということで」


俺は論理的な話し合いをやめ、全てを各々の運に賭けることにした。そもそも捨て駒なんて嫌なものを話し合いで決めること自体が間違っていたのだ。


俺の意見に同意した一同は輪になってじゃんけんの用意をした。それを側から見守るのは坂野とすでに出場順が決まった秋元。


「よし、じゃあいくぞ!最初はグー!じゃんけん!ポン!」


俺は掛け声をかけ、これだという手を輪の中心に出した。俺が出した手はパー。他3人が出した手は…。


「やったー!勝ったー!」

「芽依さん!私も勝ちました!」

「私も勝ちだ。つまり負けたのは…」


「俺かよ」


新田将也、大将で出場が決定。


「結局、新田が捨て駒ね。べっーだ」


舌を出して俺を煽る柏木。


「上等だよ。あんな金髪もやし俺が叩き潰してやるから見とけよ」


「ぷぷー。あーちゃん、なんかもじゃもじゃがぼそぼそ言ってるわよ」


あの乳だけ女、あとでその唯一の取り柄をもぎ取ってやる。


怒る俺を他所に、秋元がこちらを向いて口を開いた。


「新田が大将か。なんだかんだ、お似合いだと思うよ?これは普通にいい意味で」


「あぁ、そうだろ?秋元も俺が後ろにいるんだから安心して戦えよ」


「ひゅっー。さすが新田。カッコいいこと言うじゃん」


「本当に思ってんのか、それ」


俺はふっと笑い、ホワイトボードの前へと戻って会議の進行を再開した。


「じゃあ、残るは真ん中3人だな」


「あのー」


今度は鹿苑が手を挙げる。


「なんだ、鹿苑」


「はい。私思ったんですけど、もう相手がどうとかどうでも良くないですか?」


「というと?」


「大将は東雲さんなのは分かりますが、他はどんな人たちが出てくるのか未知数ですし、大将以外は相手も実力順に出してくるかは分かりません。ですから、もう後の配置は適当でいいのでは?」


鹿苑が元も子もないことを言い出した。いや、確かに鹿苑の言う通りではあるのだが。


「そうだな。私もそれでいいと思う」

「よく分かんないけど、私もー」


松浦先生と柏木が鹿苑に同調する。

仕方がない。ここはもうこいつらの好きにさせるか。


「分かったよ。あとの順番は先生たち3人で決めてくれ」


「「「らじゃー」」」


俺が許可を出すと、3人はホワイトボードに集まって軽く話しあったあと、適当に自分の名前を表に記入していった。


そして、高援部の出場順が決まった。


先鋒 秋元凛花

次鋒 鹿苑茜

中堅 柏木芽依

副将 松浦美希(2○歳)

大将 新田将也


「おい、誰だ。私の名前に年齢を書いたやつ。こんなに歳はいってないぞ」


「はい、ということで俺たちのローテーションはこれで決まりだな」


「おい、無視をするな」


俺は松浦先生の言葉をガン無視した。


「それでだ、これから何をするかだが、俺たちに今不足しているものは敵側の情報だ」


確かにと頷く鹿苑。


「はい、私たちはホストクラ部については東雲さんのことしか知りません。これでは一体どんな相手が来るのか皆目見当もつきませんね」


「その通りだ。そこで一つ、俺に考えがある」


「何をするつもりだ?」


坂野が俺に言葉を急かしてきたので、俺はすばりと答えた。


「単刀直入に言おう。俺たちはこれからホストクラ部に行く」





俺たち高援部と秋元の4人はホストクラ部が活動する屋上の一つ下の階にある、多目的の前に来た。松浦先生はなんだかんだ仕事があるようで、ホストクラ部への今回の視察には不参加だ。坂野も「やつらの顔は見たくない」などと言ってどこかへ行ってしまった。


「これは…」


多目的は一年の教室から廊下を挟んで反対側にある大きな部屋だ。5クラス分の教室の広さがあるため、部屋はすごく広い。まず驚いたのが装飾だ。いつもは簡素な多目的室の入り口上部には派手なライトに照らされたホストクラ部の看板。中は窓に薄手のカーテンが貼られていて見てないが、そこから漏れ出した光で、ミラーボールがくるくると回って光を乱反射している様子が見てとれた。加えて中ではスピーカーで音楽を流しているのか、重低音が部屋の外まで響いている。これ、苦情とか来ないのか。


「見るのは初めてなの?」


話しかけてきたのは秋元。


「あぁ、こんなのが俺たちの一つ下の階で行われていたとは知らなかった」


「新田たちは休日に学校に来ることはあまりなかった?このホストクラ部は平日の放課後には活動はしてなくて、派手な装飾とか内装の準備に時間がかかるからって、土日と長期休み中しか活動しないみたいなんだよね」


なるほどな。俺たち高援部は依頼人が少なくなる傾向があるとはいえ、長く休みが続く夏休みだからこそ、休みを返上して屋上に集まっていたが、登校期間中の土日の活動はあまりなかった。こんな部活があったなんてな。


「ていうか秋元はホストクラ部のこと知ってたのか?」


「うん。ここの部活、学内じゃ結構有名だよ?入ったことはないけどね」


自分の情報網の狭さが交友関係の狭さを表しているようで少し悲しくなった。


「新田、これ入るの?私ちょっと怖いかも」


「いや、それでも行くしかないだろ。一応変装はしてきたし、堂々としてればいいんだ」


俺たちは東雲に高援部が来たとバレないように、薄いレンズが入った眼鏡をかけてみたり、カツラを被ってみたりと変装を施した。


すると、部屋から出てきたホストクラ部の1人が俺たちに声をかけてきた。


「おや、もしかして初めての子たちかな?うちの部に興味あるの?」


男は東雲同様、アクセサリーをそこらかしこに身につけており、チャラい印象を受けた。服装は制服ではなく、スーツ。パッと見だと高校生には見えない。


「えぇ、4人なんですけど入れますか?」


対応したのは鹿苑だった。たじろぐ俺たちとは反対に、何も気にしていない様子の鹿苑。この女の肝の座り方にはいつも驚かされる。


「いいよー。うちは男の子も全然大丈夫だからさ。さっ、入って入って」


俺たちは恐る恐る多目的の中へと足を踏み入れた。


すると俺たち目の前には高校の一室とは思えない空間が広がっていた。


「おい、ここ高校の中だよな?」


「え、えぇ。そのはずよ…」


柏木も俺と同様にホストクラ部の部室に気圧されていた。部屋中央の天井では大きなミラーボールがくるくると回っており、様々な色のライトが右往左往しながや部屋を照らしている。部屋では雰囲気に合わせたBGMが結構な音量で流れており、少しうるさかった。


「これがホストクラ部ですか」


鹿苑がポツリと呟く。それに先ほどの部員が反応して言葉を返す。


「そう、ここがホストクラ部。結構繁盛してるでしょ?」


男は誇らしげな様子だった。部屋にはテーブルとソファがブロックごとに配置されていて、小さなブロックには3、4人程度、大きなブロックには8人程度座れそうな感じだ。男のいうように、客付きはいいようで、空いてるブロックがあまりない。客と言っても皆んなうちの生徒だが。


「おーい、この子達案内してあげて」


男がおそらくまだ下っ端であろうホストを呼びつけ、俺たちの案内を頼んだ。これもまた、ホストと言ってもうちの生徒なんだがな。


「お待たせしました。4名様ですね。あちらのテーブルへどうぞ」


俺たちは招かれるまま、案内された席についた。「ごゆっくりどうぞ」と言い残し、下っ端ホストは下がっていった。そのうちこのテーブルには誰かしらが付くことになるのだろう。


「そういえばこれ、金取られんのか?」


俺の左横に座る柏木に小さな声量で話しかけた。


「し、知らないわよ。で、でもあくまでも高校の部活なんだから悪どい商売とかはしてないはずじゃない?」


どこか落ち着かない様子の柏木。


「お前、もしかして緊張してんのか?」


「し、してないわよ!」


「いやでも、顔赤いし」


「うっ、うっさい!バカ!」


こいつ、しっかり緊張してやがる…。

他の連中は大丈夫そうか?


「鹿苑は大丈夫そうか?」


俺は右の鹿苑に話しかける。


「えぇ、私は大丈夫なんですけど…」


そう言いながら、鹿苑の視線は隣のプルプルと震えながら冷や汗を垂れ流す秋元へと移る。


「お、おい。秋元、お前も緊張してんのか?」


「ばっきゃろい!そんなのしてないわい!」


あ、駄目だこの人。

秋元はなんというか、残念な美人だな…。


そうこうしているうちに俺たちのテーブルを担当するホストが二人到着した。


「「こんにちはー」」


一人は俺と柏木の間に。もう一人は秋元と鹿苑の間へと着席する。


俺たちの間に座ってきた男は、俺と柏木に名刺を差し出しながら自己紹介を始めた。


「初めましてだよね。俺はホストクラ部副部長の3年前園彰まえぞのあきら、よろしくね」


こいつが副部長?

前園は部長の東雲とは違い、少し落ち着いた感じの様相だ。髪は黒髪で身につけているアクセサリーもピアス程度。


「は、初めまして。一年の新田将也です」

「か、柏木芽依です」


俺が自分の名前を前園に開示すると、柏木もそれに続いて口を開いた。


「ははっ、二人ともかたいかたい!」


前園の言葉に、いまいち乗り切れない俺たちは苦し紛れの笑顔で返す。


「二人はなんでホストクラ部に来てくれたの?」


前園は俯き気味な俺の顔を軽く覗き込みながら聞いてくる。こんなノリの悪い客に対しても顔色一つ変えずに笑顔で接客するあたり、前園は相当なプロだ。加えて、副部長というポストに就いているし、おそらく前園はこのホストクラ部でも首位の実力を持つ男だろう。正真バトルには必ず参加してくるな。


「いや、最近ホストクラ部の存在を知りまして。ぜひ一度行ってみたいなと」


俺は適当に返事をする。


「そっかぁ。それにしても君もやるね?」


「え?」


「こんな可愛い子3人を引き連れてホストクラ部に来るなんてさ。君もしかしてホスト向いてるんじゃない?」


前園は微笑みながらこちらに語りかける。


俺より先に反応したのは柏木で、顔を熱らせながらもじもじしており、なんだか気持ちが悪い。


「か、可愛いだなんて…」


こいつチョロすぎんだろ。


「いやはや、将也くんが羨ましいよ。僕もこんな美女3人を侍らせてみたいなー」


「も、もう嫌だなぁ。美女だなんて〜」


バチン!


照れまじれに前園を叩いた柏木の手のひらが前園の顔面にクリーンヒットしていた。


「ぐはっ」


俺たちのテーブルから軽く吹き飛ぶ前園。対して柏木は自分のせいで前園が吹き飛んだことには気づいていない。


俺は何も見ていない。俺は何も見ていないからな。


「は、ははっ、め、芽依ちゃんって一見華奢な感じだけど、意外と力強いんだね〜」


前園は何事もなかったかのように先ほどの席へと戻る。とてつもないプロ根性だ。


「ぜ、全然強くなんかないですよ!だってほら〜」


そう言いながら柏木はまた手の平を前園へ振りかざす。


前園は即座に両腕でガードしたが、それも虚しくガードなんて意味を成さずに、また前園は吹き飛んだ。


「ぶはっ!」


何してんのこいつら。


「は、ははっー!本当だー!め、芽依ちゃんにはたかれたって全然痛くないやー!」


いや前園さん思いっきり頭から流血してますけど。


「で、でしょ?私も女の子なんだから。そ、そこらへん気をつけてよね!」


気をつけんのはお前だよ。照れ隠しのビンタ一振りで人ひとり死にかけてんだよ。


「ご、ごめんね。芽依ちゃん。次からは発言に気をつけるからさ。と、とりあえず照れ隠しで殴るのだけやめてくんない?一応僕は顔が商売道具だらさ。これ以上は流石にまずいというか」


前園は血だらけになりながらも席へと戻る。


「あ、あのー将也くん。なんとかして横の女の子を他二人の誰かに変えてくれないかな?じゃないと僕死んじゃうから」


「わ、分かりました」


適当に理由をつけて、柏木には秋元と席を変わってもらった。


仕切り直した前園は秋元へと話しかけた。


「は、初めてまして。僕は前園彰。君は?」


「て、て、…」


「え?なんだって?」


あ、まずい。


「てやんでい!」


「ぶはっ!」


前園は秋元の拳によって吹っ飛ばされて、遂にノックアウトされた。


こいつら二人はマジで何をしてんの?なんで敵情視察するはずが、いきなり力づくで相手の主戦力潰しちゃってんの?新田さんもう何も知らないからね?


「新田さん、どうするんですか、これ」


鹿苑が指差した先には俺たちとは反対側で柏木がノックアウトしたであろうホストが一人。


惨状を目の当たりにした俺は、顔から血の気が一気に引いていく。


うん、終わった。正々堂々真っ向勝負する前に正々堂々真っ向から殴り込みしちゃったよ?周りの客もホストも皆んなこっち見てるよ。もう言い逃れできないよこれ。


「ねぇ、なにあれ。やばくない?」

「え、しかも一年生じゃん。何してんのあの子たち」


ざわつく多目的室内、全ての視線が俺たちに集まっていた。


パンパン。


手を叩く音と共に現れたのはあの男。


「そこまでだよ」


ホストクラ部 部長 東雲翔。


「失礼しました。この方たちは私のお客様です。後は私が対応しますので、どうぞ皆様はごゆっくりと」


東雲が登場した途端、ざわめきが歓声へと変わった。


「きゃー!翔さまよ!」

「翔さまー!こっち見てー!」

「翔さま大好きー!」


なんだこの熱狂は。東雲が顔を見せただけで一気に場の空気が反転しやがった。


「どうも、高援部の皆さん。大分好き放題やってくれたみたいだね」


東雲は倒れ込む前園たちを見ながら話す。


「新田さん、どうするんですか!東雲さん、私たちが故意にやったと勘違いしてますよ。ていうか変装が

まるで意味を成してないみたいですし!」


珍しく狼狽える鹿苑。


「でも、昨日あんなこと言った手前今更頭下げれねぇぞ。鹿苑、お前がなんとかしろよ。高援部のブレーンはお前だろ」


「そんなこと言ったって今回ばかりは100%私たちが悪いですよ!ここは謝っておかないとさすがにまずいと思うんですが!」


「そうだな…」


鹿苑の言う通りで、今回ばかりは俺たちが100悪い。昨日の今日でかなり情けないが、さすがにここは俺が頭を下げるか。


「あのー、なんていうか、今回の件に関しては全面的に」


俺が謝罪をしようとしたその時。


「あなたたちが悪いわ!」


颯爽と俺の前に現れたのは今回の事件の発端、柏木芽依。


マジで何言ってんのこいつ。


「僕たちが悪い?一体どこをどう取ったらそうなるのかな?」


「だってあなたたち、この私を口説こうとしたじゃない。初対面なのにいきなり可愛いとか美女とかスタイル抜群とかおまけに性格もいいだーとか?これセクハラよ、セクハラ。あんまり女を舐めないでほしいわね」


後半に関しては誰もそんなこと言ってねぇだろ。


「それは間違いだよ、柏木さん。僕たちホストは姫たち皆んなに喜んでもらいたくて、思ったことを正直に口にしているだけだ。決してセクハラではない」


柏木の屁理屈に対抗する東雲。


「たとえその言葉たちがセクハラではないとしても、こっちには決定的な証拠があるのよ」


「決定的な証拠?」


「えぇ、そうよ。決定的な証拠があるの。それはね…」


柏木は自信ありげに腕を組み、一拍置いてから口を開いた。


「おっぱいよ」


「「は?」」


柏木から飛び出た予想外の一言に俺と東雲は口が大きく開いてしまった。


「ご、ごめん、柏木さん。その一言だけじゃよく分からないんだけど」


東雲が若干狼狽えながら聞き返す。


「えぇ、決定的な証拠はおっぱいよ。そこで伸びてる前田さん?だっけ。ずっと私のおっぱい見ながら話してたんだから。これってセクハラ以外の何者でもないでしょ。うちの新田だって、チラチラ見るぐらいで済ましてるのにその人はガン見してたんだから」


だから人を悪く言う時に俺を巻き添えにするのやめろよ。いや、実際チラチラ見てるときあるけどね?でもそれは一応俺も思春期の男子なわけだし、許して欲しいというか。


「そ、そうなのか前園…」


東雲は倒れ込んでいる前園に向かって問いかける。


「そ、そうでさぁ。お、俺は芽依ちゃんのおっぱいに釘付けだったんでぃ。こんちくしょう」


秋元は一体何やってんの?なんで前園使って腹話術してんの?なんでそこも江戸っ子口調なの?さすがにそれで誤魔化せるわけないだろ。この子たちは馬鹿なの?


「そ、そんな…」


前園の言葉(秋元の腹話術)にショックを受ける東雲。  


うん、馬鹿追加で。


なんであれで誤魔化せてんだ?もしかして、この場でおかしいのは俺の方だったりするのこれ。そうだ、鹿苑はこちら側のはず。俺は横の鹿苑に目を向ける。すると、鹿苑と目が合った。


「新田さん、私たちは悪くない。もうそういうことにしましょう。私は芽依さんが虚偽の被害を主張していることなんて知りませんし、秋元さんがそれに加担して、あることないことでっちあげようとしているところなんて見てません。だから私たちは悪くないんです」


冷や汗をだらだら垂らしながら語る鹿苑の様子を見て俺も何も見ていないことにした。


「ふん、これで分かったでしょ。悪いのはあなたたちの方よ。私はあのセクハラ男から身を守っただけのこと。私も乱暴したのは悪かったわ。だから、ここはおあいこにしましょ」


「わ、分かったよ。ここは大人しく引くとしようか。姫たちも見ていることだしね」


パンパン!


東雲が手を叩き、周囲の注目を自身へと集める。


「皆さん!大変お騒がせしました。申し訳ありません。今回の件は私たちの間で解決致しましたので、この後もどうぞごゆっくりとお過ごしください。お詫びと言ってはなんですが、皆さんにお好きなドリンクを一つ、サービスいたします!」


「きゃー!さすが翔さま!」

「翔さま太っ腹ー!」

「翔さまカッコイイー!」


ゴタゴタで微妙な雰囲気になっていた店内が、一気に活気を取り戻す。


「おい、お前ら、今日のところはもう帰るぞ。これ以上、ホストクラ部に迷惑をかけるわけにはいかない」


俺は3人に店を出るように催促し、3人を先に多目的室への外へと出した。鹿苑はまだしも、あの2人がまた何かしでかしそうで怖かったため、会計でまたごたつく前に追い払っておいた。


なんだかんだドリンクを注文していたので、俺は4人分の料金を精算しようとする。すると、会計をしていたところに事態の沈静化を終えた東雲が近づいてきた。


「新田くん、今日のところはお会計はいいよ」


そう言って財布から金を取り出す俺の手を抑える東雲。


「いや、さすがにそれは」


東雲は勘違いしているが、今日の事件は確実に俺たちが悪いわけで、東雲が俺たちに気を遣うようなことは何一つない。それにも関わらず、お代も必要ないとくれば、さすがの俺も気が引けた。


「いや、いいんだ。ツケということで」


ツケ?ツケということは後で返せということか?


「ツケにするくらいなら今払うんだけど」


東雲は掴んだ俺の手に目一杯の力を込めて、俺が代金を支払おうとするのを止める。


「痛い!痛いって!」


「新田将也、今日の借りは勘定とまとめてしっかりツケといてやる…!せいぜい首洗って待ってろ、ドブカス野郎が…!!」


横には東雲の面影一つない鬼の形相のホストクラ部部長がいた。どうやら俺たちは何一つ誤魔化せておらず、東雲の逆鱗に触れてしまってたらしい。


「は、ははっ。そ、それじゃあ失礼します…」


俺は鬼から逃げるように、そそくさとホストクラ部を後にした。



多目的室を出た後、廊下に3人はおらず、先に屋上へ戻っているようだったので、俺は屋上へと歩みを進める。


「はぁ、胃が痛い」


階段を登りながらポツリと呟く。

屋上入口へ着いた俺は、分厚い扉をゆっくりと開けたのだが、いつもより一層扉が重く感じられた。


「あら、遅かったじゃない」


呑気な声色で俺を迎えるのは柏木。


俺の心情など全く考えていないような目の前の女の、のほほんとした表情は俺の気を逆立てるのに十分すぎる燃料だった。


「あ、新田さん、おかえりなさい」

「お、おかえり、新田」


俺が苛立っているのが分かったのか、辟易した様子の鹿苑と秋元。対して俺のことなど全く気にも留めず、スマホをポチポチといじる柏木。


「おい、柏木」


俺はゆっくりと柏木の座るベンチへと迫る。


柏木と一緒に座っていた二人はいつの間にか席を立っており、少し離れて俺たちの様子を伺っていた。


「なによ、そんな怖い顔して」


俺が目の前に立って、ようやくこちらへ顔を向けた柏木。


「なぁ、その無駄遣いな乳、今すぐもぎ取ってやろうか?おい!」


俺は聞き手に作った拳の関節をポキポキと鳴らしながら言った。


「何よ急に!新田まで私にセクハラするの?やめてよね、キモいから」


俺がなんで怒っているのかも分かっていない柏木は、ムッとした顔で言い返す。


「うるせぇ。新田さんはお前がセクハラされなくなるように、その残念な乳を取ってやるって言ってんだよ、バ柏木」


「乳、乳うるさいわよ!このバカ新田!これだから童貞は性欲旺盛で困っちゃうわ。童貞は童貞らしくちんまりしてろってーの!」


決めた。今日という今日は絶対に懲らしめてやる。俺が普段から甘やかしすぎた故に今回のような事態になってしまったんだ。この女、今後のためにも高援部部長の恐ろしさを分からせてやる。


「いい加減にしろよバ柏木!こうなったら殴り合いだよ、このアホ!ぺちゃくちゃ小言言ってないで早くかかってこいや!」


「上等じゃないの!私が一体何したって言うのよ。殴り合いがしたいならとことん付き合ってやるわ、このバカもじゃ毛!」


俺たちが取っ組み合いの喧嘩を始めようとした瞬間、見ていた二人が俺たちを押さえつけた。


「お、落ち着いてください、新田さん…!」


「そ、そうよ。芽依も落ち着いて…!」


鹿苑と秋元は興奮する俺たちをそれぞれ拘束して宥める。


「凛ちゃん、は、離して!このもじゃ毛は一回ゲンコツ喰らわないと分からないのよ!」


「なんだとてめぇ!今すぐにその無駄乳引っ剥がして鹿苑並みの平野にしてやるからかかってこい」


途端、俺を抑える鹿苑の力が弱くなり、鹿苑は腕を解いた。


「か、鹿苑?」


何やら不穏なオーラを醸し出す鹿苑。


「新田さん」


「ん?なんだ?」


「なんですか、鹿苑並みの平野って」


「そりゃあ、お前のそのまな板みたいな胸のことだな。柏木もそれくらい薄板になれば、調子づいた思考も少しは落ち着くと思って」


「そうですか、私の胸は平野でまな板ですか」


「まぁ、そうだな。でもこうしてよくよく見てみると少しは盛り上がってるから、キラウエア火山くらいか。あ、キラウエア火山っていうのはハワイの火山なんだけど、比較的傾斜が緩やかで、」


「ふんっ!」


講釈中の俺の顔面に鹿苑渾身のストレートが命中し、俺は思い切り吹っ飛んだ。


「うん、これは新田が悪いよ。いや、本当に。今回ばかりは新田が悪い」


秋元は妥当な結果だと頷きながら話す。


「いててて。おい鹿苑、急に何すんだ。あれ?でも思ったより痛くないな。何かがクッションになって…」


俺は衝撃を緩和したであろう、後頭部を優しく包む柔らかい物体に両手を当てる。そして、それを揉んでみる。


「ふむふむ、こちらはキラウエア火山というよりは、まるで我が国が誇る世界遺産。富士山のような、、、あれ?」


振り向くと、俺の後ろにいるのは柏木で、俺の手が触れているのは再三俺が無駄遣いだと宣ったもの。


「まぁ、その、なんだ。無駄遣いとか言ったのは悪かったよ。案外使い道はあるんじゃないかこれ。ほら、今回は俺を衝撃から守ってくれたわけだしさ。だから今日のところはおあいこと言うことで、」


「ふんっ!」


本日二つ目のストレートをまたもや顔面で受け止めた俺は、無事にノックアウトされた。結局、敵情視察なんて一つもできてないじゃねぇか…。



正真バトル編 第六話に続く。

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